一.衛姫のお願い 2
衛姫
「( …………それじゃあ、仮によ?
仮の話よ?
玄武が実体化して、私以外の人にも姿が見える様になったとしてよ?
…………その人達に見える姿は、私が見ている玄武の姿で見えたりするの? )」
玄武
『 それはない 』
衛姫
「( な、い?
私が見ている姿で見えないの?? )」
玄武
『 そうだ。
ワタシが実体化したならば、ワタシを見る者達の〝 先入知識や意識 〟というものを〈 神佛 〉が利用される。
それを使われる為、ワタシの姿は 一人一人に違って見える事になる 』
衛姫
「( ……ええと〜〜〜……つまり?? )」
玄武
『 先程、衛姫が言った様に、亀と蛇が合わさった姿で見える者も居る──という事だ。
人の姿で見える者も居るだろう。
だからと言って、衛姫に見えている姿で見えているわけではない。
性別も違って見える者も居るだろう 』
衛姫
「( そ…それは……、一大事だわ!!
それは駄目よ!!
そんなの駄目!! )」
玄武
『 そう言われてもな… 』
衛姫
「( 方法は?
方法は無いの?
ある筈よね??
あるでしょう? )」
玄武
『 あるにはあるが… 』
衛姫
「( 教えて!
どうしたら、実体化した玄武の姿を──。
私に見えている玄武の姿を私以外の人達にも見せる事が出来るの?
大事な事なのよ!!)」
玄武
『 …………膨大な〈 霊能力 〉が必要になる 』
衛姫
「( 〈 霊能力 〉……また?! )」
玄武
『 そうだな。
更に持続させる為には、やはり尽きない〈 霊能力 〉が必要となる 』
衛姫
「( ええっ?! )」
玄武
『 ワタシを実体化させる為に必要な膨大な〈 霊能力 〉。
ワタシの実体化を継続させる為に必要な尽きない〈 霊能力 〉。
衛姫に見えているワタシの姿を他の人間に見せる為に必要な膨大な〈 霊能力 〉。
他の人間にも同じ姿を見せ続ける為に必要な尽きない〈 霊能力 〉。
これ等の〈 霊能力 〉を 一体 何処から調達するのか──。
最大の問題だな 』
衛姫
「( ……そんなぁ………… )」
玄武
『 諦めるか? 』
衛姫
「( …………諦めるしかないの?? )」
玄武
『 諦めてもいいぞ 』
衛姫
「( …………そう言われると諦めたくないわ…。
──その…膨大な〈 霊能力 〉と、尽きない〈 霊能力 〉をどうにかする方法はないの?
何か方法はないの?
無い訳ないわよね??)」
玄武
『 …………………………はぁ… 』
衛姫
「( ??? )」
玄武
『 …………………………はぁ… 』
衛姫
「( ………… )」
玄武
『 …………………………はぁ… 』
衛姫
「( 一寸… )」
玄武
『 …………………………はぁ… 』
衛姫
「( 玄武!!
私を見る度に溜め息を吐くの止めて! )」
玄武
『 …………………………はぁ… 』
衛姫
「( 玄武!!
五回目!! )」
玄武
『 …………………………はぁ… 』
衛姫
「( 六回目よ!
何なの??
言いたい事があるなら言って! )」
玄武
『 …………それだけ〝 教えたくない 〟という事だ。
察して欲しかった… 』
衛姫
「( 溜め息を吐かれたって分からないわよ!! )」
玄武
『 …………そんなに知りたいか? 』
衛姫
「( あるのね、方法が!
知りたいに決まってるわ。
勿体振らないで教えて! )」
玄武
『 …………………………はぁ… 』
衛姫
「( 溜め息を吐くの禁止するわよ )」
玄武
『 …………〝 活きのいい(活発に脈打つ)新鮮な心臓 〟と〝 穢れのない清廉な魂 〟があれば…膨大な〈 霊能力 〉と、尽きない〈 霊能力 〉を補える事が可能だ 』
衛姫
「( …………は? )」
玄武
『 聞こえなかったのか?
膨大な〈 霊能力 〉を補うならば〝 活きのいい(活発に脈打つ)新鮮な心臓 〟があればいい。
尽きない〈 霊能力 〉を補うならば〝 穢れのない清廉な魂 〟があればいい──と言った 』
衛姫
「( …………心臓…と、魂… )」
玄武
『 そうだ 』
衛姫
「( ……………………それって、動いてる心臓って事?? )」
玄武
『 そうだ 』
衛姫
「( …………動物の心臓でもいいの? )」
玄武
『 はあ?
心臓と言えば〝 人間の心臓 〟に決まっている。
魂も同様に〝 人間の魂 〟でなければ意味はない 』
衛姫
「( …………冗談でしょう??
人間の心臓…とか、人間の魂が必要…って……いくらなんでも………… )」
玄武
『 ワタシは〝 教えたくない 〟と言ったぞ 』
衛姫
「( ………………………… )」
玄武
『 諦めるか? 』
衛姫
「( …………玄武は、心臓と魂を手に入れて…ど、どうするつもりなの? )」
玄武
『 喰らう 』
衛姫
「( ………………は?
く、喰らうって?? )」
玄武
『 食事と同じだ。
〈 式神 〉にとって、心臓と魂は御馳走だからな 』
衛姫
「( ご、御馳走?!
……心臓と魂が??
食べるって、どういう事よ!! )」
玄武
『 力を増幅させる為に必要な食事と言えば解るか? 』
衛姫
「( ぞ、増幅…??)」
玄武
『 膨大な〈 霊能力 〉と、尽きない〈 霊能力 〉を調達するのは困難だ 』
衛姫
「( どうしてなの? )」
玄武
『 〈 式神 〉は万能ではない。
〈 式神 〉が〈 霊能力 〉を使うには〈 霊能力 〉へ変換しなければならない。
〈 霊能力 〉を〈 霊能力 〉へ変換する為には、佛性(〈 神佛 〉の霊を観受する識性)のある人間を間に入れなければならないからだ 』
衛姫
「( …………えと…難しくて解らないのだけど…… )」
玄武
『 ああ…衛姫には難しいな 』
衛姫
「( 可哀想な子を見る様な目で私を見ないで!!
……私は術者じゃないの。
解る訳ないでしょう?)」
玄武
『 ………………はぁ… 』
衛姫
「( も〜う〜!!
溜め息、禁止っ!!
絶っ対、禁止よ! )」
玄武
『 ……人間は誰でも、超力の〈 神佛 〉のお力を観受し、観応して、至善の方途を求め得る能力、天性の、生まれながらの能力を備えている。
簡単に言えば、人間は皆、誰でもが〈神佛〉の霊能を観受、観応する性能を生まれながらにして持っている。
……解るか?』
衛姫
「( 解るわけないでしょ… )」
玄武
『 目には見えない超自然的 能力の〈 神佛 〉の霊波が、空間に遊在している………… と言っても解らないか…』
衛姫
「( …………解らないわよ )」
玄武
『 この世の中には、目には見えない不思議な力が存在している。
〈 霊能力 〉の事だぞ 』
衛姫
「( そうね…。
確かに〈 霊能力 〉は、目には見えないわね… )」
玄武
『 〈 霊能力 〉は〝 人知を超えた大きな存在 〟と言われたり〝 人間の力を超えたもの 〟とも言われている〈 神佛 〉のお力の事だ 』
衛姫
「( ……そう言えば、玄武は よく〈 神佛 〉って言うわね?
〈神佛 〉って何なの?? )」
玄武
『 〈 霊能力 〉〈 超能力 〉〈 霊 〉〈 霊気 〉〈 霊波 〉〈 霊妙 〉〈 霊妙な力 〉〈 霊妙な能き 〉〈 不可思議な力 〉〈 不可思議な能き 〉〈 自然力 〉〈 超自然力 〉等と言われている〝 目には見えない力の根元 〟だ。
一般には〈 神〉 と尊称され〈 佛 〉と呼称されている。
他にも〈 天 〉〈 天主 〉〈 主宰者 〉〈 お天道様 〉等とも呼ばれているな。
〈 神 〉と呼び〈 佛 〉と呼ばれる〈 超自然力 〉をワタシは〈 神佛 〉と呼んでいる 』
衛姫
「( ……色々な呼ばれ方があるのね )」
玄武
『 他にもある。
人間は 一つのものに複数の呼び名を付けたがるからな。
方言と似ている 』
衛姫
「( ふふっ…確かにそうかも )」
玄武
『 一般的な〈 式神 〉という存在は〈 霊能力 〉が無ければ唯の紙切れだ。
術者が紙切れに〈 霊能力 〉を注ぐ事で、様々な姿を与えられる。
〈 式神 〉は術者から与えられた己の姿を保つ為に、無意識に術者の〈 霊能力 〉を〈 霊能力 〉へ変換している。
〈 霊能力 〉をそのまま使う事の出来ない不便な存在だ 』
衛姫
「( …そう、なのね…… )」
玄武
『 その為、一般的な〈 式神 〉は術者には逆らえない。
術者には絶対服従であり、どんな命令も必死で果たそうとする 』
衛姫
「( 〝 一般的な〈 式神 〉 〟は??
……〈 式神 〉の中には、術者に逆らったり服従しない〈 式神 〉も居るって事??)」
玄武
『 ワタシとかな 』
衛姫
「( 玄武が?
玄武は私に絶対服従してないの?
私に逆らったりするの?)」
玄武
『 衛姫とワタシは主従関係では無いからな。
ワタシは衛姫の〈 式神 〉でもあるが〈 守護り手 〉でもある。
一般的な術者と〈 式神 〉の関係とは異なる。
──術者は自己の力を過信する者が稀に居る。
欲を出して制御の出来ない〈 式神 〉を作り出し、暴走させる術者も居る。
暴走した〈 式神 〉は、術者の身体や意識を乗っ取り〈 霊能力 〉を悪用し、悪行を作したりする場合もある 』
衛姫
「( …………恐いわね… )」




