第97話 荒ぶる心
「ラット……?」
こいつ、今なんて言った?
ミルの知り合いなんじゃないの?
いや、名前が同じだけかも……。
「ラット・クリアノート?」
「はい……」
肯定した?
なんで?
ほんとにこいつなの?
こんな弱そうなやつがトゥーロを?
そもそもなんで生きてるのよ。
あの辺り一帯、特級魔法で消し飛ばしたじゃない。
あたしがトゥーロの無念を晴らしてやったと思ってたのに……。
昨日、連絡がきて……、
〝ラット・クリアノートを殺せ〟
……とか言われても、そいつもう死んでるし。
〝魔法都市にいる。昨日までは魔導大図書館で存在を確認されている〟
……って言われても死んでるんだからいるわけないじゃん!!
そう思っていたのに____。
なんでほんとに生きてるのよ!!
ヴィントミューレでは、遠かったから影くらいしかわからなかったし。
安否確認だってしてないけど……。
特級魔法が発動する間際まであの位置にいたんだから、
間に合うわけなんてないのに……。
どうして!?
そもそもほとんど更地になってたじゃない。
トゥーロは、ラットに負けてから、事あるごとに名前を出した。
「弱いくせに、なかなかやるやつだ。お前も見習えよ」
「自分というものを熟知している」
ボロボロにされて、相当に恨んでいたはずだ。
でも、お姉さんであるあたしが倒してあげたから、トゥーロの溜飲が下がっていたのに。
トゥーロの力になれた。
仲間の力になれた。
それが嬉しかったのに____。
森人族の集落から追い出されて、
魔法学園でもアイツに負け続けて、
みんなからバカにされ続けたあたしが。
役に立てたことが誇らしかったのに____。
あなたが生きてちゃダメなのよ。
生きてるとトゥーロが悲しむの。
仲間が悲しむのよ____!
あーもう、わかんない!
どういうことなの?
(わかった…………)
感情の昂りに合わせて、
身体中に魔力が巡るのを感じる____。
(また……殺せばいいよね…………?)
杖に魔力を込めて振り抜いた____。
なんであんたがとばされてるのよ。
邪魔しないでよ!
「リタ……、どうしたの…………?」
アリエス、どうしたの?
そんなに怖がらないで……。
あたしはただ許せないだけなの。
だって……。
「あいつは……あたしの仲間を傷つけた!!!」
なんだろう……。
体の内から湧き上がってくる感情。
いや、もともと抱いていた感情を、後押しされている気がする。
「君の仲間……?」
なに?
覚えていないの?
弱い奴なんて覚えていないとでもいいたいの?
ふざけんじゃないわよ!!!
「なに……、その顔……? 忘れたとは言わせないわよ」
リタはぎり……、と歯を食い縛る。
「〝トゥーロ・グリード〟よ!!!」
名前を発したと同時にその姿が頭を過った。
ボロボロになって帰ってきた〝トゥーロ〟の姿が____。
怒りの感情が吹き出した。
「あのとき、消しとばしてやったと思ってたのに……!」
今度こそ、
「まさか生きてるなんてね!!!!!」
絶対に、
「あの魔法からどうやって逃れたかは分からないけど……」
あたしの魔法で、
「今度こそ、死んでちょうだい!」
消しとばしてあげる!!!!!
もうわけが分かんない。
憎しみしか湧いてこないわ____。
「アリエス、ミル……、あなたたちは離れててちょうだい…………」
二人は巻き込まないようにしないと。
きっとこのあたりは、
更地になるから____
リタは杖を構えて、魔力を籠めた。
<撃ち抜け__シャドウボール>
ヴヴッ、ヴヴヴッッ、ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ____。
闇色の玉が、次々と空中へ展開されていく。
ミルがアリエスともう一人を連れて、離れていった。
(ミル……、あなた、そんなことができるのね……)
ちょうどいい。
これで周りを気にせずに戦える____。
*
こいつ、何をしているの?
(なんで、この弾幕を抜けられるの?)
いつの間にか、別の場所にいる。
姿が見えなくなったと思ったら、なんでそんなところにいるのよ。
(なんなのよ、こいつ!)
壁に張り付いて、移動している。
糸を引っ張って、跳んでいる。
まるで虫じゃない。
(いい加減食らいなさいよ)
うざったいわね。
虫なら虫らしくさっさと潰れなさいよ。
「きゃっ……!?」
何よこれ……。
足を滑らせたっていうの?
攻撃をするのでもなく?
あたしを馬鹿にしているの?
「……っ、このっ!」
もうなんなのよ。
どいつもこいつも、
あたしを馬鹿にして。
絶対に許さない。
もうこうなったらこのあたり一帯______
<暗黒の闇で押しつぶせ__ソル・シャド……>
バサッ__
「何よこれっ!」
リタの体は、網で覆われていた。
なによこれ。
また攻撃じゃなくてこんな……
まるで虫みたいに。
なんなのよ。
なんなのよ。
なんなのよ。
なんなのよ。
なんなのよ。
なんであんたが立ってるのよ。
あたしがあんたを見下ろすの。
あたしがあんたを負かすのよ。
それなのに……。
<射抜け__アイスアロー>
あいつとあたしの間に突き刺さった氷の矢。
それが吹き出した感情を凍らせた。
「おいっ、落ち着け!!」
この声は間違いない。
〝トゥーロ〟だ____
*
ラットは、氷の矢が飛んできた方向へ視線を向ける。
そこに立っていた人物を見て、目を見開いた。
「……トゥーロ・グリード」
以前、ヴィントミューレで戦った少年だ。
「久しぶりだな、ラット・クリアノート」
トゥーロは口元を吊り上げる。
「さすがだ。僕が認めた男なだけはある」
その視線が、破壊された周囲へ向いた。
「リタの魔法を、一人で捌き切るとはな」
だが次の瞬間。
トゥーロは呆れたように溜息を吐いた。
「それにしてもリタ。頭に血が上りすぎだそ」
「うっ……」
「いくら何でも、単調すぎる」
淡々と分析する。
「相手は魔王を倒した勇者パーティの一人だぞ?」
「僕みたいな能力がなくても、あれだけ単調なら予測される」
リタは悔しそうに顔を歪めた。
「だ、だってトゥーロ……!」
声を荒げる。
「前にズタボロにされて、恨んでるんだと思ってたし……!」
リタは杖を強く握りながら言葉を発した。
「絶対、仇を討ってやるって思ってたのよ!」
しかし。
トゥーロはきっぱりと言い切った。
「いや、恨んでなどいない」
「……え?」
「むしろ、好敵手の登場に喜んでいたくらいだ」
さらりと告げられた言葉に、リタが固まる。
「つまり、リタの早とちりだ」
「…………」
「おまえはすぐ頭に血が上る……。もう少し冷静になれ……」
リタは冷静になっていく。
あたりでざわついていた魔力も鎮静化されていった。
先ほどまでの怒りが嘘のようだ。
その温度差に、ラットは逆に困惑する。
「どうしてここへ?」
ラットは警戒を解かないまま尋ねた。
「風の国からこいつを回収しに来ていたんだ」
トゥーロはリタへ視線を向ける。
「そこへ、おまえがいると聞いてな」
口元が愉快そうに歪む。
「これから大事が起きる」
そして、ゆっくり剣を抜いた。
「その前に、お前と再戦できるのが嬉しくてな」
トゥーロは笑う。
「この前の借り、返させてもらうぞ。ラット」
そう言って、剣を構える。
その時だった。
「……ラット」
ミルが再び姿を現す。
どうやらアリエスとリオンを安全な場所へ運び終えたらしい。
「リオンは?」
ラットが確認する。
「回復ポーション……、飲ませてきた」
「よかった……、無事なんだね」
「……ん」
ラットが安堵した瞬間。
トゥーロが楽しそうに目を細める。
「お前もいたのか」
視線はミルへ。
「なら、二人まとめてかかってこい」
その挑発に反応したのは、リタだった。
「……ミル」
リタが驚いたように呟く。
「あなた、ラットの仲間だったのね……」
落胆したような、寂しげな表情を見せる。
そして、杖を強く握り直した。
「相手が二人なら、あたしも戦うわ……」
再び周囲へ魔力が満ちていく。
しかし、それは先ほどまでの荒々しさはない。
静かに、重い。
それぞれが武器を構える中。
ラットは静かに、カメレオンマントを羽織った____。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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