第96話 黒き猛攻
ドオォォォ______ォォォン
「がはぁっ!」
「リオンッ!!」
ラットはリタを正面に見据え、壁に叩きつけられたリオンを横目で確認する。
「うぅぅ…………」
(大丈夫……生きている……。容体は……?)
アリエスは急な出来事にかなり動揺しているようだ。
無理もない。自分の友人が、もう一人の友人の仲間を突然襲ったのだ。冷静でいられる方がおかしい。
「リタ……、どうしたの…………?」
アリエスがたじろぎながら尋ねる。
「あいつは……あたしの仲間を傷つけた!!!」
怒りに呼応するように、周囲の魔力がざわついている。
空気そのものが震えているようだった。
相手は森人族__。
元々、魔力との結び付きが強い種族だ。
だが、それだけでは説明がつかない。
感情の昂ぶりで周囲一帯の魔力が呼応するなんて。
ラットが知る限り、魔王や四天王と対峙した時くらいしか覚えがない。
「君の仲間……?」
警戒したままに問いかける。
勇者パーティ時代から今まで、森人族と敵対した記憶はほとんどない。
あるとすれば、森人族と土人族の争いを仲裁した時くらいだ。
それだって、その後の関係は問題なかったはずだ。
少なくとも、命を狙われる理由に心当たりはない。
「なに……、その顔……? 忘れたとは言わせないわよ」
リタはぎり……、と歯を食い縛る。
「〝トゥーロ・グリード〟よ!!!」
その名が発せられた瞬間。
リタの魔力がさらに膨れ上がった。
黒く濁るような感覚が、周囲へ滲み出していく。
ラットの表情が強張る。
「……トゥーロ・グリード? いや、この声、たしかあの時の……!」
姿は見えなかった。
「あのとき、消しとばしてやったと思ってたのに……!」
でも確かに聞こえた。
「まさか生きてるなんてね!!!!!」
あのおどろおどろしい叫び声だ!!
「あの魔法からどうやって逃れたかは分からないけど……」
その声は、怒りだけではない。
「今度こそ、死んでちょうだい!」
深い憎悪に満ちていた。
しかし、
「アリエス、ミル……、あなたたちは離れててちょうだい…………」
激しく渦巻く感情の中にも、まだ友人への理性は残っているらしい。
標的はあくまでラット一人のようだ。
次の瞬間__。
<撃ち抜け__シャドウボール>
ヴヴッ、ヴヴヴッッ、ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ____。
闇色の玉が、次々と空中へ展開されていく。
「なんだ……この量……?」
上級冒険者ですら、一度の詠唱で同時展開できる魔法は多くて三、四つ程度。
だが……。
目の前に浮かぶ魔力玉は、そんな次元ではない。
二十……。
三十……。
いや____。
多すぎて、もはや数えられなかった。
ただ一つ分かる。
常軌を逸している。
「こんなことが……可能なのか?」
魔法には、一度に扱う魔力量の平均的な基準値がある。
その基準となるのが、初級、中級、上級、特級と存在する魔法の階級だ。
まず階級ごとに一度の魔法で使用する魔力量が決め、
その上で、威力、速度、射程へ振り分けていく。
これが魔法の基礎だ。
だが、この階級に平均的な魔力量の基準はない。
総魔力量に対する割合がこの階級で使用する魔力量となる。
例えば初級魔法。
一般的には、総魔力量の五〜十%ほどを使用する。
この異常なまでの物量……。
しかも本来これだけ分割してしまえば、一つ一つの威力は小石程度になるはずだ。
だが、それぞれの魔力玉の大きさは基準程度を保っている。
しかも詠唱から察するに、これは初級魔法のはずだ。
それなのに、この初級魔法には十倍以上の魔力量が使用されている。
つまりそれは、リタという少女は、常人の十倍以上の魔力量を保持していることになる。
この状況は危険だ。
だけど、相手の標的はラットのみ。
まずは怪我を負ったリオンの治療と動揺しているアリエスの非難を優先させる。
「ミル!」
ラットが叫ぶ。
「リオンとアリエスを安全なところへ!」
「……うん」
ミルは即座に反応した。
突然の事態に戸惑っていたアリエスと、気絶したままのリオンを抱え上げる。
そして、その場から一気に飛び退いた。
横目でミルを見送るラット。
「この物量は、確かに脅威だけど……!」
展開された魔力玉に対して、ラットは即座に煙玉を叩きつけた。
白煙が一気に周囲を覆い隠す。
「そんなもの、この数なら!!」
リタは躊躇なく魔法を撃ち込んだ。
無数のシャドウボールが煙幕へ集中砲火される。
轟音__。
煙幕ごと地面が抉られていく。
だが、その頃には……。
ラットはすでにその場から離脱していた。
煙幕が展開された瞬間。
即座に鞄から取り出したワイヤーガンを射出。
そして、ワイヤーを巻き上げる力で滑るように移動していた。
さらに……。
壁へ着地すると同時に、スティックブーツを起動。
重力を無視するように壁面を駆け上がった。
「……っ!?」
リタが振り向く。
だが、ラットは止まらない。
姿を隠し……。
時にはあえて目立つ動きを見せる。
広域に展開されていた魔法を意図的に誘導していく。
それにより回避する余地が生まれる。
ラットは戦いながら考えていた。
確かに、物量は異常。
だが。
一つ一つの細かな制御までは行えないのではないかと……。
ロックですら、補助で使用していた移動砲台の制御は、
主で使用していた魔銃の制御よりも遥かに落ちていた。
なら。
これほどの数を同時操作するならなおさらだ。
操作している思考は一つ。
ならば、散らして誘導できるはず。
そう考えた。
「逃げ回ってばかりで……、攻撃したらどうなのよ!」
リタの魔法が次々と放たれる。
<切り裂け__シャドウカッター>
闇の刃。
<打ち砕け__シャドウハンマー>
影の槌。
<貫け__シャドウランス>
リタは使用する魔法を変えていく。
中距離のボール系を大量展開しつつ、地面から突き出す槍での追撃。
だが、ラットは、ワイヤーガンで木へ飛び移りそれを躱す。
そして、壁を走り、次の攻撃へ備えた。
<斬れ__シャドウソード>
爆ぜる影の剣。
<なぎ倒せ__シャドウストーム>
渦巻く闇。
リタの攻撃はさらに激しさを増していく。
さらに広範囲攻撃用のストームまで重ねてきた。
どれも物量が多く、威力も高い。
ラットは一箇所にとどまらず、的を絞らせないように常に移動する。
普通の相手なら、とっくに押し潰されていてもおかしくはない。
だが……。
ラットはその培われた経験で捌いていた。
威力の高い一点突破の魔法は、
ワイヤーガンやスティックブーツを駆使して回避に専念する。
回避できない範囲攻撃は、
空気銃による爆破を使用して魔法を相殺。
弱くなった部分を闇耐性を付与した盾を構えて突破した。
攻撃の合間の僅かな隙。
リタの足元へ滑水で撃ち込んだ。
足を滑らせ転倒する。
「きゃっ……!?」
体勢を崩したリタが苛立ちを露わにする。
「……っ、このっ!」
怒りに呼応するように魔力が膨れ上がる。
「これでどうよ!!」
<即座に撃ち抜け__リ・シャドウボール>
速度を上げる。
弾速が一気に跳ね上がった。
だが、それでも。
魔法を誘導し、ラットは避けた。
リタの魔法は凄まじい。
物量。
速度。
威力。
どれも常識外れだった。
種類も豊富だ。
しかし……。
すべてが攻撃魔法。
しかも、ラットめがけて放つだけ。
単調だ。
だからこそ、読める。
次はどうくるか、どう避けるべきかを、
ラットは経験から先読みし、行動していた。
「なんなのよ、あんたは!!」
リタが叫ぶ。
「そこにじっとしてなさいよ!!」
怒りと共に隙も大きくなっていく。
「もうぉぉぉ! あたり一帯吹き飛ばす!!!」
<暗黒の闇で押しつぶせ__ソル・シャド……>
「っ!?」
ラットは即座に空気銃を構えた。
魔法が発動する直前、放たれた捕縛玉がリタへ直撃する。
絡まる網が、一瞬でリタの身体を絡め取った。
ラットは一気に距離を詰める。
取り押さえるために。
だが__。
<射抜け__アイスアロー>
鋭い氷の矢が、ラットの目の前へ突き刺さった____。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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