表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
93/127

第93話 あなたに見せたい景色

 ミルは、理解できずにいた____。


 ブルンネンに来て、かつての自分の故郷へと足を踏み入れた。

 父のいた世界最高峰の魔法研究機関。

 そして、魔法学園。


 リヴェルナ博士と出会い、

 過去の父の姿や自分についても聞くことができた。


「ナレッジ博士はね。魔道科学の基礎を固めた方でもあるんだよ」


「〝生きたい〟と願っていたんだと思う」


 自分の記憶が保存されている記憶媒体に、

 接続すれば思い出せはする……。


 しかし、この場所にいて、

 それをしたとしても、

 新たな感情は何も湧いてこなかった____。



「……だからこそ、ナレッジ博士は……そんな娘の願いを叶えたかったんだろうね」


 父の想いについて聞いたときは、

 少しだけ胸の奥が温かくなった____。

 

 同じように温かくなったのは……

 いつだっただろう____。


 この魔法学園にきて、

 たくさんの人が自分に興味を持ち、話しかけてきた。


「ミルさんは魔導機械ギアノイドなんだよね?」

「……ん」

「眠ったりはするの?」

「……する」

「ご飯って必要?」

「必要……エネルギーになる」

「好きなものあるの?」

「……ミルク」


 囲まれ。

 注目されている。

 それ自体は、嫌ではなかった。

 でも胸の奥は変わらなかった。


 何が違うのか、理解できなかった____。



 講義を受けながら考えた。


「より効率的に魔法文字ルーンを付与するためには……」


「科学の機構を組み込むには……」



 アリエスやリヴェルナ博士の研究を手伝いながらも考えた。


「次は戦闘時の出力の測定をしよう……」


「エネルギーへの変換効率は……」



 ずっと頭の片隅に引っかかっていたから___。


 風車の街では、魔導機械の依頼を受けてから整備が終わるまで、

 彼は毎日のように店へと来てくれた。


 王都では彼のかつての仲間と戦った。

 共に窮地を乗り越えた。


 風語りの村ではミルクを持ってきてくれたし、

 その気づかいが嬉しかった。

 はじめてだったから。


 日々の冒険で、一緒にいくつもの魔導機械アーティファクトを造った。


 様々な記憶を辿る中で、胸の奥が温かくなったときにはいつも彼がいた。


 ふと思い出す……。


 精霊の街で彼が妖精たちに囲まれていた時。


 __嫌な気がした。


 そのあと、彼が好きな景色を見せてもらった時。


 __いつも以上に胸が温かくなった



「……?」


 そこでミルは気づく。


 自分が、マナベルを気にしていたことに。


 なぜ……?


 なぜ、自分は気にしているのだろう。


 誰かからの連絡を待っていた……?


 答えは出ない____。





 そんなある日。


 研究の最中、古い記録を辿っていたミルは、一つの場所を思い出す。


 昔、自分が好きだった場所。

 なぜ好きだったのか?

 街を一望できた。


 昼は空が近く感じられ、

 夜になれば街中の魔力灯が星のように輝いて見えた。


 病室にいることも多かった自分は、

 その景色を眺めている時間が好きだった。

 そう記憶には残っている。


 感情を得られるかもしれない。

 はじめは一人で行こうとした。


 だが……。


 何かが足りない気がした。

 ミルは胸元へそっと手を当てる。


 そして。


「……ラット?」


 自然と、顔が浮かんだ。


 ミルは、マナベルを手に取り、魔力をこめる。


「どうしたの? ミル……」


 静かな声だった。

 ミルは、古い記憶に残っていた場所のことを伝えた______。



 二人は、魔法都市の一画で合流する。


 そこは、浮遊都市研究の一般にも公開されている実験区域だ。

 まだ都市そのものを浮かせるには至っていない。


 だが、空中へ浮かび上がっている一部の区画が存在する。

 公園のように整備されたその場所は、〝浮遊園〟と呼ばれていた。


 指定された場所へ向かうと、魔力で形成された淡い光の階段が続いている。

 二人はその階段を上っていった。


 辿り着いた先。


 そこからは、魔法都市を見渡せる景色が広がっていた。

 夜の街は、昼間とはまるで別世界だ。


 建物の窓や街灯から溢れる魔力灯の光。

 闇の中で静かに瞬いている。


 青、緑、金、紫…………。


 色とりどりの光は星空のように街中へ散らばり、

 幻想的な輝きで魔法都市を包み込んでいた。


 吹き抜ける夜風は心地よく、

 まるで空へ浮かんでいるかのような錯覚さえ覚える。


 静かな夜景だけが、二人の前にどこまでも広がっていた。


「すごい……こんなところがあったんだ」


 ラットは目を輝かせる。


「ラットは、はじめて……きた?」

「うん。こんな場所があるなんて知らなかったよ」


 ラットは、夜景へ目を向けたまま笑った。


「すごく綺麗だね……」


 その姿を見て、不思議に思った。


 自分が好きだったはずの景色。

 けれど、ラットの笑顔を見るまで何も感じなかった。


 なのに。


 今は違う____。


 ラットが笑っている。


 その姿を見ていると。


 胸の奥が、また少しだけ温かくなった。


 ようやく理解した。


 ここにくるまでは、自分に関心を持つ者はいなかった。


 学園の人たちは、〝魔導機械人形〟としてのミルを見ていた。


 けれどラットは違った。


 ラットは、〝ミル自身〟を見ていた。


 そして、ラットをきっかけに、自分自身を見てくれる人が増えていった。


「きて……よかった…………」

「ん?」


 ミルは、小さく首を振る。


「……また一緒にきて」


 その言葉に、ラットは少しだけ目を見開いた


「もちろん!」


 ……そう言って笑った。



 それからミルは、


 この街で父の友人であるリヴェルナ博士と出会ったこと。


 リヴェルナ博士から聞いた父の想い。


 魔導機械人形について。


 そして、過去の自分について、ラットに伝えた。


 普段よりも多く語る自分の話を、

 つたない自分の言葉を、

 ラットは真剣に聞いてくれた____。


 話をしながら思い出す。


 自分の代わりに、いつも笑ってくれた。


 自分が困っているときは、いつも寄り添ってくれた。




 そして、今、ラットと来たこの場所は……


 またミルにとって大切な場所になった________。



【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ