表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
92/127

第92話 泣いて、怒って、笑って

 それから数日が経過していた。

 ミルとポニ、二人は少しずつだが、学園生活に慣れ始めている。


 特にポニは、必死だった。

 授業では専門用語が飛び交い、知らない知識ばかり。

 講義についていくだけでも……いや、それすらもできていたか。

 それでも精一杯やっていた。


「それはね。こっちの教本の方がわかりやすいわよ」

「ほんとだ。図解も多くてイメージしやすいです!」


 諦めず、授業外ではアリエスやリタにも教わりながら、一つずつ理解を深めていく。


「もっとこう……こんな感じで魔法陣を構築するのよ」

「こんな感じですか?」


 そんなやり取りを繰り返しながら、ポニは少しずつ成長していった。


使役士テイマーなら従魔を呼び出せる召喚魔法を覚えておいた方が便利よ!」

「これでいつでもリルくんを呼び出せるんですね♪」


 さらにアリエスからは、使役士として便利な補助魔法も教わった。

 充実した日々だった。


 けれど……。


 ポニには、他の三人には言い出せない悩みがあった。


 授業と授業の合間。

 講義がない時間。


 アリエスたちがいない時を狙って現れた。


 長い金髪の気の強そうなエルフを中心とした、不機嫌そうな少女と、眠たげな目をした少女の三人組だ。


(ねぇ、また来てる)

(ほんと懲りないよねぇ)


 聞こえるように囁かれる悪口。

 廊下ですれ違えば、わざと肩をぶつけられる。


「きゃっ……」

「ごめ〜ん。見えてなかった〜」


 笑いながら去っていった。


 最初は偶然かと思った。

 けれど、何度も続けば嫌でもわかる。


 これは、〝嫌がらせ〟だ。


 ……と。

 ポニはできるだけ関わらないようにしていた。


 だが、嫌がらせは少しずつエスカレートしていく。


 そして、とうとう……。


 ドッ__


 突然、近くへ魔法が撃ち込まれる。

 すぐ横を火花が散った。


「つぅ…………」


 放たれた魔法が腕をかすめた。

 鋭い熱と痛み。


 ポニの腕に、小さな傷が走る。


「やだぁ、手元狂っちゃった〜」


 三人は悪びれた様子もない。


「大丈夫〜?」

「避けない方が悪いんじゃない?」


 くすくすと笑いながら、好き勝手に言い放つ。

 ポニは何も返せなかった。


 突然故郷から飛ばされて。

 知らない場所へ来て。

 慣れない授業に必死でついていって。

 その上、こうして嫌がらせまで受けている。


 胸の奥が、ぎゅっと苦しくなる。


 不安だった。

 寂しかった。

 俯きかけた、その時……。


「……ちょっと!」


 割って入った低い声。

 三人とポニの間へ、一人の少女が立つ。


 リタだった。


「避けないのが悪い? ……意味わかんないんだけど!」


 リタの目が、冷たく細められる。


「あんたたちが周り見ずに魔法使ったのが悪いんでしょ!!」


 三人の笑みがわずかに引きつった。


「笑ってないで、まず謝りなさいよ!!!!!」


 講義にいったはずのリタが目の前に立っている。

 ポニですら突然の事態に驚いた。


「リタちゃん……、どうして……?」

「なんか様子が変だったから、抜け出してきたのよ」

「……ありがとう」

「困ったことがあったらいいなさいって言ったのに……後でお説教だからね!」

「……うん」


 ポニの表情が和らいだ。


「私たちは由緒あるエルフの集落、その長の娘なの!」


 長い金髪のエルフは、


「小さい頃から期待されて育ってきたのよ? こんな子に気を遣う必要なんてないでしょ!」


 フフンと胸を張る。


 はぁ…………。


「あなた、本気で言ってるの?」


 ため息交じりに、


「あんたたちの集落じゃ、それで通用するのかもしれないけど……」


 言葉を続けた。


「ここは、生まれとか血筋とか、そんなもの関係ないのよ!!」


 声は震え、


「みんな平等。成果を出したやつが認められる。それが、この魔法都市でしょうが!!!」


 怒りに満ちていた。


「こそこそ嫌がらせしてる暇があるなら、研究成果の一つでも発表しなさいよ」


 その騒ぎに周囲にいた生徒たちが、思わず視線を向ける。


 この都市には、研究に人生を捧げるような変わり者が集まっている。

 故郷では理解されず、厄介者扱いされて流れてきた者も少なくない。


 だからこそ、この街では〝結果〟がすべてだ。


「それに……」


 ポニを横目で見て思い出す。


「あなたたち、この子がどんな思いでここにいると思ってるの?」


 授業終わりに泣いていたことを……


「何も知らないくせに、好き勝手言ってんじゃないわよ!!!」


 リタはポニの想いを知った。


 だからこそ、声を荒らげた____。


 三人が言葉に詰まる。


「なによ……特級魔法が使えるからって偉そうに…………」


 リタを睨み返す。


「知ってるわよ。あんた、特級魔法が使えるくせに……」


 口元が、にやりと歪んだ。


「初級魔法しか使えないやつに、負けまくってたんでしょ?」


 勝ち誇ったかのように言い放った。


「恥ずかし~」

「特級魔法、意味ないじゃん」


 後ろの少女たちもくすくす笑う。


「私だったら、生きてけないわ」


 その瞬間。


 ズキ____


 リタの表情が、ほんの一瞬だけ曇った。

 多少の嫌味なら気にしない。

 けれど、それだけは違った……。


 超えられなかった壁。

 胸の奥を、鋭く刺されたようだった……。


 その小さな変化を、ポニは見逃さなかった。


「ちょっと待ってください!」


 ポニが、思わず前へ出る。


「リタちゃんは、すごい人です!」


 声が震えた。

 それでも、譲れないものがある。


「訂正してください!!」

「あんた……」


 金髪のエルフは呆れたような顔をする。


「はぁ? なに言ってるの?」


 そして、肩をすくめた。


「私たち、事実を言っただけなんだけど?」


 ポニは譲らない。


「関係ありません! 訂正してください!!」


 格下に見ていたポニが噛みついてきた。

 エルフは明らかに苛立ちを見せた。


「なんなら、あなた……力尽くで黙らせてみれば?」


 挑発するように笑う。


「あなた、使役士なんでしょ?」


 手を掲げて、詠唱する。


<来なさい__サモン・アイスウルフ>


 足元に魔法陣が展開された。


 吹き荒れる冷気と共に現れた狼。

 氷の魔力を纏った魔物__〝アイスウルフ〟である。


「アイスウルフ……!」


 周囲からどよめきが起こる。


「うちの集落を襲おうとしていた群れの長よ」


 誇らしげに胸を張り、


「ブラックウルフの上位種で複合魔法だって使える! そこらの魔物じゃ歯も立たないわ」


 リタを見た。


「いくら特級魔法が使えても……その前に倒しちゃえばいいのよ!」


「ウルフ!」


 少女の命令に反応し、アイスウルフが咆哮した。

 周囲の空気が一気に冷える。


 巨大な氷塊が形成され始めた__。


「待ちなさいよ……」


 静かな声だった。


「あなた、それ冗談じゃ済まないわよ……」


 光が消えた瞳。


「もし、この子に怪我でもさせてみなさい……」


 底知れない圧が宿る声。


「あんただけじゃない……」


 表情は完全に消えていた。


「あんたの集落ごと、消し飛ばしてあげるわ……」


 リタの周囲で、膨大な魔力が渦巻き始める。


 寒い……。

 しかし、それはアイスウルフのそれじゃない。


 寒いと思わせるような、圧倒的な恐怖。

 肌が粟立つほどの魔力。


「リタちゃん……」


 ポニですら、その迫力に息を呑んだ。


「ちょっと……もうやめようよ…………」


 気圧されたのか、後ろにいた一人が止めに入る。


「なによ!!」


 だが、エルフは苛立ったように吐き捨てる。


「引っ込んでなさい!」


 アイスウルフも恐怖を感じていた。

 主人の動揺をきっかけに、形成されていた氷塊が暴発する……。


 ドオォォン____


 巨大な氷塊が建物へ直撃した。


 壁が砕ける。

 天井が軋む。


 そして……崩れ始めた。


 崩れた天井から、大量の瓦礫が降り注ぐ。


「きゃあああっ!?」

「逃げろ!!」


 悲鳴が響く。

 落下する瓦礫は、周囲の生徒たちを巻き込もうとしていた。


 それを見たポニがいち早く動き出す。

 脳裏をよぎったのは、アリエスに教わった召喚魔法。


<来て__サモン・リルくん!>


 足元に魔法陣が展開された。


 展開されたのとほぼ同時……

 それが何か認識するよりも早く現れた影が、落下する瓦礫へ飛び込んだ。


 ドオォォォ_________ン


 衝撃音。

 鋭い爪と巨体が、降り注ぐ瓦礫を次々と弾き飛ばす。


 そして……

 その場にいた生徒たちを庇うように立ち塞がった。


「……え?」

「何が起こったの……?」


 誰もが呆然と見上げる。


 ぐるるるぅうるぅぅ………………………………


 そこにいたのは……

 白銀の毛並みを持つ巨大な狼__疾滅の銀狼〝フェンリル〟だった。


「フェンリル……!? なんで……?」

「どうして、こんな場所に……」

「どこから現れたんだ!?」


 混乱が広がる。


 その中で一人……


「リルくん、ありがとう~」


 ポニが、嬉しそうにフェンリルに抱きついた。

 全員が理解する。


 このフェンリルを召喚したのは……


 ポニだ。


 誰もが、信じられない光景を目にする。

 フェンリルと契約するなんて聞いたことがない。


 しかし、彼女があのフェンリルを召喚し、

 皆を救った____。



 翌日、事態の責任として停学処分を受けた三人のエルフが、ポニたちの前に現れた。

 長い金髪の少女は、髪を短く切っていた。


「……その髪」


 リタが目を丸くする。


「けじめよ……」


 どうやら、自分たちのせいで大惨事になりかけたことを、本気で反省しているらしい。


「これ……」


 ノートを差し出す。


「授業の内容、まとめておいたわ。あんた、ついていけてなかったでしょ」

「えっ……」


 予想外のことについ声が出てしまう。


「別に、これで許されるとは思ってないわ……」


 視線を逸らした。


「ただ、その……悪かったわ」


 気まずそうな空気が流れる。


 そして突然……。


<掘れ__クリエイト>


 地面が大きく隆起する。


 ズズゥゥゥゥゥ______


 目の前に、深い穴が掘られた。


 三人はその穴へ飛び込み……土下座した。


「あなたたち……なにをやってるの?」

「これが、人族の主流の謝罪方法なんでしょ!?」


 深く頭を下げる……

 この〝深く〟というのを、〝(穴を掘って)深く〟と認識したらしい。


「ぶっ!!」


 リタ吹き出した……完全に爆笑していた。


「まさか、あなたがこんなに面白いやつだとは思わなかったわ……」


 リタはエルフに説明した。人間族ヒューマについて。

 顔が真っ赤になる。


「な、なによ! 知らなかったんだからしょうがないでしょ!!」


 どうやら彼女たちは、人間族……

 他の種族についても大した知識を持ち合わせていなかったようだ。


 今までは狭い集落の中にいた。

 理解しようとしてこなかった__。


 リタはまだ笑いを堪えきれていない。


 三人は羞恥で震えていた。


 どうやら彼女たちもまた、過度な期待を背負わされていたようだ。

 集落の長の娘として。

 結果を求められ。

 成果を出せない焦りを抱えていた。

 だから、いつしかあんな風になってしまった。


「まったくこれだから、古い考えのエルフは嫌いなのよ……」


 リタにも覚えがあるようだ。

 言葉が重く感じる。


 しかし、すぐに切り替え、満面の笑みで三人に言い寄った。


「あなたたち、運が良かったわよ?」


 リタがニヤニヤしながら言う。


「あのままだったら、フェンリルに食べられてたかもしれないんだから」


 三人の顔が青ざめた。


「た、食べないですよぉ!」


 ポニが慌てて否定する。


「……たぶん」

「たぶん!?」


 三人が同時に叫んだ。

 その反応に、今度はポニがくすっと笑った。


「っていうかポニ、なにが〝わんちゃん〟よ! わたしも驚いたのよ」


 ラットと一時的でも敵対していたロックとエレ。

 それでも最後には、笑い合っていた。


「え~、〝わんっ〟っていうじゃないですか」


 ポニは、そんな関係を少し羨ましいと思っていた。


 だから。

 彼女たちのことを、許そうと思った____。


「でも」


 ポニがにこっと笑う。


「リタちゃんのことを悪く言ったのは、許しませんよ♪」

「えぇっ!?」


 騒がしく笑い合う声が、学園の中庭へ広がっていく。



 そんな時間を、ポニは少しだけ心地よく感じた______。


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ