第86話 魔法学園へいこう
魔導大図書館__。
それはブルンネンが誇る、世界最大の知識の保管庫である。
館内には、ブルンネンで積み重ねられてきた膨大な研究資料が保管されている。魔法理論、魔法薬、精霊研究__。数百年にも及ぶ叡智が、果ての見えない書架へ収められているのだ。それだけではない。歴史、魔物、生態系、他種族文化に至るまで、ありとあらゆる世界中の知識が集められていると言われている。
天井へ届くほど高い書棚。
迷宮のように続く通路。
一日では到底回り切れないほど広大な空間。
そこは図書館というより、〝知識の泉〟と呼ぶべき場所だった。
*
ラットは、その多くの情報が集まる魔導大図書館にいきたいと告げる。
「調べたいことってなんだよ?」
ラットはアリエスを見る。
「ちょっとこの先の冒険で必要になりそうなことがあるんだ」
「そうなのか? じゃあ、みんなでいってみるか!」
「それが膨大な情報の中から探すことになるし、言語も違うだろうから調べるのに魔具が必要になるんだよ。だけど、その魔具が結構貴重で一つしかなくて……」
言い淀む。つまりは一人で探すしかないということだ。
「調べものするのに魔具が必要なのか? 言語が違うってだけなら時間はかかるだろうけどできるだろ?」
「その時間が問題なんだよ。魔導大図書館って情報量がものすごくて。おそらく魔具を使わないと数カ月単位でかかると思うんだ」
「まじかよ。それが魔具があれば変わるってのか?」
ラットは鞄に手を入れ、魔具を取り出す。
「これは〝リディアスレンズ〟っていう魔具だよ」
__リディアスレンズ
文献などを数十倍以上の速度で読解できるようになる魔具。
魔具に込められた身体能力強化や感覚強化で、
視覚や思考能力、集中力などを活性化させている。
この魔具による強化は、最適化されているため、
一日中使用しても強化薬とは違い肉体への悪影響はほとんど存在しない。
また文献に記載されている言語においてもある程度翻訳してくれるため、
調査する際にかなり重宝されている。
「へぇ~、そんなものがあるのか」
「……どれくらいかかるの?」
魔具を使ったとして、どれくらいの時間を要するのかミルも気になるようだ。
「膨大な情報の中から探すことになるから、探す量を絞ったとしても、だいたい一週間くらいになる思う」
ラットは伝える。
「それじゃあ、あと一週間はみんなといられるんですね!」
ポニが笑っている間、アリエスも腕を組み、何かを考えている。
そして、提案した。
「ねぇ、もしラットが調べている間、手が空くっていうんだったら……。魔法学園で講義を受けてみない? ミルは魔機師なんでしょ? 最新の技術とかも学べるから、きっとこれからの魔導機械の開発にも役に立つはずよ」
「講義受けるって……そんなことできるのか? 完全に部外者だろ?」
「私、元学生で魔法学園へのツテもあるのよ。なんなら今、その人の元でお世話になってるからね。いくつかの講義を受けるだけなら体験ってことで都合つけてもらえるわよ」
「そうなのか! ま~、できるのはわかったけど、なんでそんなことしてくれるんだよ? まだ知り合ったばかりだろ?」
「それはちょっと下心があるからよ!」
アリエスははっきりと言い放った。
「魔導機械人形って魔導科学の到達点の一つなの。だから、ミルのことをちゃんと調べさせてほしいのよ。そうすれば、研究も一気に進むだろうし、学園としてはメリットが大きいわけ」
狙いはミルというわけだ。
「なんだったら。ラットは調べものがあるって話だけど、他の全員を一時的な学生として迎えることもできると思うわよ」
「……わたしは何をすればいいの?」
「能力テストだったり、解析魔法による解析とかかな。分解したりとかはしないから安心して」
「つまりは最新技術の情報交換って感じだね」
「どちらにとってもメリットはあるってことか」
「……」
アリエスの言葉を聞いたミルは、黙ったままだった。
「ミル、迷ってるの?」
「私……ラットの手伝いできる…………。だけど、講義も……」
ミルは魔導機械人形だ。魔導大図書館で調べるために、〝リディアスレンズ
〟と同等の機能を身に着けているということらしい。だが、講義を受け、魔導科学の技術を得るのも、この先の冒険では役に立つだろう。
「ミルの目的は〝感情を手に入れること〟だから、ミルの目的を優先していいんだよ。冒険のために知識を深めてくれるのは嬉しいけど、それよりもミルの目的を考えたら学園での生活は刺激になると思う」
「ラット……」
ミルはさらに少し考える。そして……
「……いく」
アリエスへと向き直り宣言し、魔法学園へいくことを決めた。
「決まりね!!」
それから五人は会話をし、これからの方針を検討する。
ミルに加えて、ポニも魔法学園へいくことになった。
リオンは、魔法学園へいき魔法についての理解を深めるよりも、魔導大図書館へいって、少しでも鍛冶について学びたいということで、ラットについていくこととなった。
*
それから魔導大図書館へとたどり着いたラットとリオンは話していた。
「すごいな……」
天井へ届くほど高い書棚にリオンは絶句している。
「確かにこれだけの量があるなら、数カ月単位で時間がかかるってのも納得だぜ。っていうか一週間でいけるのか……これ…………」
魔具を利用したとしても数十倍の早さだ。これだけの量があるなら、数十倍でも足りないだろう。
「ま~、魔具だけなら一週間じゃ厳しいと思う。だから、これを使う……」
「強化薬か……つまり、魔具を使用した上でさらに強化しようってことか。それかなり負担がかかるんじゃないのか?」
リオンはフルーテンでかなり無茶な強化薬の使い方をした。その影響はわかっている。
「まあね……。実はみんなに心配かけたくなかったから、一人で調べようって思ったのもあったんだよ」
「しょうがないな。みんなには黙っててやるよ。それが必要なんだろ?」
リオンは理解しているからこそ、ラットを止めなかった。
「俺にも強化薬くれよ」
「強化薬を使用しても、魔具ないと厳しいよ」
「わかってるよ。それができるなら、全員でやればいいもんな」
「だったら……」
「資料を探すくらいならできるだろ? ラットは読むことに集中しろよ。そうすれば、少しくらいは負担が減るだろ?」
「リオン……」
リオンは笑った。
「助かるよ!」
リオンが資料を探し、ラットがそれを読むことになる。
「それで。何について調べるつもりなんだ? アリエスを見て言葉を濁していたってことは、勇者さん関係……フルーテンで起こったことや魔族絡みなんだろ」
「そこまで気がついてたんだね」
「なんだかんだ付き合い長くなってきてるからな」
リオンは鼻を擦り、照れている。
「調べておきたかったのはイオーネが使っていた力についてだよ」
ラットは考えていた。
その力がどういったものなのかと。
その力は二つの国の王都を支配しかけていた。
しかも、それだけではない。
肉体を自在に変化させ、エレすらも追い込むほどの力を示してみせた。
これは勇者パーティの持つ〝加護〟や、魔族でいうのならば魔王と同等以上の力ということになる。
それほどの力、大精霊や神様の力しか知らない。
しかし、それはありえないだろう。
イオーネは魔族と協力関係にあるだろうことは判明している。
であれば、イオーネ自身も魔族である可能性が高い。
魔族であるなら、その力はどういうものなのか?
種族として持ち得る力なのか?
外部から与えられた力なのか?
そもそも自在に姿を変えられる以上、魔族でない可能性も考慮する必要がある。
力の所在によっては、さらなる対策が必要となるため、その力の正体をラットは把握しておきたかった。
それほどの大きな力なら、伝承や歴史にでている可能性が高いだろう。
他にも手がかりを掴めるかもしれない。
「ラットが調べたいことはわかったぜ。俺はそれについて資料を探してくればいいんだな!」
「そうだね」
「じゃあ、手始めになにからいく?」
「まずは一番有力な魔族固有の力について調べていこうか? イオーネ自身が特別に強い力をもってるだけっていうのがわかれば、それで終わりだしね」
「わかった。じゃあ、いってくるぜ!!」
「最初は僕も行くよ。まだ手元に資料ないしね」
こうして二人の調査ははじまった。
*
一方で、アリエス、ミル、ポニの三人は魔法学園へと足を運んでいた。
街の中央にそびえる巨大な建造物__。
「大きいですね」
ポニは圧倒されていた。
「最初は驚くわよね。私もそうだったもの」
遠目に見えていたそれはほんの一部だったと理解する。
周囲に並ぶ校舎は一つの町と見間違えるほどに広がっていた。
「ここに私たちが通うことになるんですね……」
そして、門の前に立っただけで、そこが特別な場所なのだと理解できる。
「魔導大図書館だけじゃないのよ」
隣でアリエスがどこか誇らしげに胸を張る。
「この街は魔法学園だって世界一なんだから」
先陣を切り、歩き出す。
「二人とも入るわよ!」
ここが世界最高峰の学び舎、魔法学園である。
三人はその門をくぐっていった____
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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