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第85話 魔導の探求者

 声に呼ばれた方を見ると、一人の女性が〝ここ空いてるよ〟という合図を送っている。リオンが合図を返し、それに応えた。

 ラットたちは、食事処の長蛇の列に並び、注文を終えると彼女の元へと向かった。


 短い青い髪に水色の瞳。小さい三角帽子に、羊の耳飾りをつけた、ラットよりも少しだけ年上の女性が、落ち着いた表情で手を振りながら座っていた。


「あなたたち、やっぱり人間族ヒューマね! 相席になっちゃうけど、よかったら使って!!」


 女性は歯を見せ、ニッコリと微笑む。


「三席……」


 ミルが呟いた。彼女の前には三人分の席があった。


「あ〜…………」


 そう漏らしながら、リオンがラットを見る。


「やっぱり僕だよね…………」


 リオンの影から出たラット。自分の席はないのだとすぐに把握した。頭を掻いて苦笑いをする。


「あっ、あなたたち四人だったの!? ごめんね。見落としちゃってたわ」


 四人目の存在に彼女は声を上げた。


「すぐに席空けるから少しだけ待って!」


 残っていた食事を、掻っ込むように食べようとする。


「大丈夫ですよ!」


 ラットはそういって、彼女を静止した。鞄から小型の椅子を取り出し、机の端の正面席へと置く。


「いつものことなので」


 彼女に笑いかけ、椅子へと座った。


「いや〜、助かったぜ」

「ご飯……、食べられないかと思った…………」

「ありがとうございます」


 他の三人もそれぞれ座る。


「どうした……の……?」


 ミルが呟く。

 ミルの視線の先。彼女は目を丸くし、固まっていた。


「どうしたも、こうしたも……。それ……もしかして魔法鞄マジックバック?」


 彼女は質問する。


「はい。知ってるんですね」

「噂には聞いたことがあったんだけど、はじめて見たわ……」


 彼女の硬直具合に、全員が様子を窺っていた。


「あ、ごめんね。手、止めちゃってたわね」


 彼女の言葉と共に、全員が食事を始める。


「わたしは〝アリエス〟よ。よろしくね!」

「家名は名乗らないのか?」

「あ、リオン、ここでは家名は名乗らないのが一般的だよ」


 ラットが〝ブルンネン〟の風習を知らなかったリオンにそれを伝えた。


「あなた、知らないってことはこの街に来たばかり?」

「私も知りませんでした……」

「この街に来たの、二人は初めてなんですよ」


 この街は実力主義。魔法研究の実績のみがモノをいう街だ。


 魔法の技術に長けている者や研究が認められた者。何かしらの実績を出しさえすれば、魔人族を含め仲の悪い種族だろうと、魔力の総量が少なく本人自体は魔法が使えなかろうと、どんな種族でも尊重される。


 もともと魔法にのめり込む者は変わり者が多く、部族や種族、町に馴染めなかった者は多い。そのため、差別するものはほとんどいない。差別しようとする者は逆に苦笑され、それに手を貸す者などいないのだ。


 こういう根底があるからこそ、家名は名乗らないというのが、この街特有の風習となる。〝あの家は何人も優秀な者を輩出している家だ〟や〝あの家は罪を犯した家だ〟など、こういう家系に関する情報は雑念にしかならず、だからこそ家名を名乗らないのだ。


 とはいえ、間違って名乗るものはいる。抜けた者も多い街だ。そういう者は、温かい目で見られる。だが、力を誇示しようと家名を名乗る者は、家名がなければ何も出来ない者として扱われ、敬遠されるのがこの街だ。


「そうだったのね。私は所用でここに来てて、今は学生じゃないから。同じ種族で同い歳くらいの人ってなかなかいなくて。たまたま見かけたから声をかけたの」


 初めてにも関わらず、アリエスは慣れたようにすらすらと話す。


「今日は連れもいなかったしね」


 彼女の話相手として、ラットたちは選ばれたということだった。


「俺はリオンだ。よろしくな」

「私はポニといいます」

「ピィ」

「こちらはチリリです!」

「僕はラットです」

「ミル……私は人間族ヒューマじゃない…………」


 アリエスの同じ種族、つまりは〝人間族〟という言葉を訂正するようにミルはつけ加えた。


「あら、そうなの? でも、人間族にしか見えないけど……」

「わたし……、〝魔導機械人形ギアノイド〟…………」

「…………」


 一瞬、時が止まったような沈黙が続いた。


「えっ!? ちょちょちょ、ちょっと待って、魔導機械人形ってあの!?」

「……ん」


 ミルは同意する。


「そんなに珍しいのですか?」


 席を立ちかねないアリエスの姿に、ポニが疑問を持った。


「珍しいってもんじゃないわよ。実在しているのが驚きなくらいよ」

「そうなんですね。私はてっきり森であまり姿を見せない動物さんくらいのものかと思ってました」

「それで例えるなら、〝不死鳥フェニックス〟とか、いるかどうかもわからないような存在よ」

「そうだったんですね~。ミルちゃん、すごいです!!」

「ん……」


 ミルはちょっと誇らしげだ。


「それにしても魔法鞄に、魔導機械人形か……。どちらも魔法を研究する者としては興味深い対象ね」


 アリエスは、魔法鞄とミルを交互に見て、魔法鞄に狙いを定める。


「ね~、ラットくん、それ見せてもらえないかな?」


 調べ易そうということだろうか?

 先に選ばれたのは魔法鞄だった。

 両手を合わせ、アリエスはラットに頼み込んだ。


「いいですよ」


 ラットはそれを了承する。

 魔法鞄をアリエスに渡し、アリエスは自身の鞄から魔具ルーリックを取り出した。

「それは〝スペリシスレンズ〟ですね」

「やっぱり解析にはこれよ。研究者の必需品ね」



 __スペリシスレンズ

 付与されている魔法を解析する魔具。

 付与されている魔法を解析する〝スペリシス〟という魔法が付与されている。



 魔法鞄を手に持ちながら、レンズを通して解析していく。


「私、普段は魔法屋をやっていて、付与士エンチャンターなの」


 アリエスは手際よく、鞄の向きを変えたり、のぞき込んだりしながら、話している。


「だから、どんな風に付与されてるのか見てみたくて。知見を得るためよ」

「どうりで、話しやすくて、手際がいいと思いました。それに勉強熱心なんですね」

「あはは、半分は趣味だけどね。知り合いがね。私の付与魔法を気に入ってくれてるから」

「わかるぜ~、自分がつくったのを褒められるのは嬉しいよなっ」

「そうですね」

「あら、あなたたちも何かつくってるの?」

「俺は鍛冶屋の弟子。装備をつくってるんだ!!」

「私は宿屋の娘で、料理関係を。まだ練習中ですが」

「あと、ミルは魔導機械屋ですね」


 夢中になってミルクリゾットを食べるミルの代わりに、ラットは答えた。


「魔導機械屋!? すごいじゃない!! まさか魔導機械人形が魔導機械をつくってるなんてね。リヴェルナ博士だって驚くわよ」


 アリエスは続けた。


「ちなみに、あなたは何かつくってるの?」

「あ、僕はアイテム屋なので、使うの専門なんです」

「ラットはハードユーザーだぜ」


 笑いながらリオンが説明する。


「なんか凄い集まりね……。まるで開拓団……町でもつくろうって感じなのかしら…………」

「いえ、たまたまです」


 ラットは苦笑した。


「それにしても、魔法鞄の実物なんてあの勇者パーティくらいしかもってないと思ってたから、驚いたわよ。これどこで手に入れたの?」

「あぁ、ラットは勇者パーティの一人なんだよ」


 リオンが言った。


「それは嘘ね! 私だって勇者パーティについては知ってるわよ。人間族は勇者の一人だけ。他はみんな別の種族よ」

 アリエスは少しだけ怪訝そうな顔をした。


「勇者は聖騎士パラディンで、雰囲気もあるし、遠目だけど顔だって見たことあるわよ。どうしたって彼とは間違わないわよ。なんでそんなすぐバレる嘘をつくのかしら?」


 ジトっとした目でリオンを見つめる。


「やっぱそうなるか」


 リオンは笑った。


「もう一人、勇者パーティには人間族がいるんだよ。勇者パーティの〝七人目〟……〝アイテム係〟だ。それがラットだよ」

「私の宿屋はよく勇者様方が利用されていたのですが、ラットくんもその中にいて、みなさん仲よさげでしたよ」

「ラットの伝手でパーティの何人かにも会ったことがあるんだけど、みんなラットを信頼してたし、こんなだけど実際に戦闘での実力は本物だぜ」


 説明してもやはり、アリエスは納得できていないらしい。表情がそれを物語っている。魔法鞄をある程度調べたアリエスはラットに手渡した。


「この鞄に付与されている魔法……。相当すごいわね。複雑すぎて解析しきれないわ」

「解析魔法に解析できないなんてことがあるのか?」

「もちろんあるわよ。そんな魔法一つでなんでも解析できたら苦労しないわ。そのための魔法研究よ」


 レンズを鞄にしまう。


「解析するとしたら、この鞄に至っては解析魔法を組み直しながら……、数ヶ月はかかると思うわね」


 アリエスの見立てでは、付与されている魔法も高度だが、付与している魔法もかなり高度だということらしい。


 下手に付与すると付与している力が強すぎて、すぐに剥がれたり、力を発揮できなかったり、最悪暴走したりもするというのだ。


「こんな魔具見たことがない」


 彼女は呟いた。


「正直、まだ半信半疑ではあるけど、あなたが勇者パーティっていうのは本当でしょうね」

「どうしたんだよ。急に」

「盗品ならさっさと売ってしまって、お金にした方が足もつかないし、大金が手に入るからよ。持ってるだけで危険だわ」

「これそんな高いもんなのか?」

「あなた何をいってるの? 売れば家くらい簡単に建つわよ」

「まじかよ……」


 リオンは唾を飲んだ。


「そうだっ! ミルちゃんの方も解析していいかしら」


 すぐさま、再び鞄からレンズを取り出し、ミルに迫った。

 ミルは気にせず、食事を続ける。

 アリエスは淡々と解析を続けていった。


 すごい! 高度な魔法が幾層にも重なっている。

 科学の部分については専門外だけど、

 魔法を上手いこと科学の機構にあてがっているのね。

 魔法と科学それぞれのメリットを組み合わせて、高度なレベルで昇華しているんだと思う。


 アリエスは呟きながら、理解を深めていった。


「二人ともありがとっ! いいもの見せてもらえたわ」


 ものの数分解析しただけで、技術の高さを知ったアリエスは、大満足といった表情だ。


「そういえば、あなたたちは研究者じゃないわよね? 冒険者? 何しにこの街へ来たの?」


 ラットは事の経緯を説明した。


「そういうことなら、私が面倒見ようか?」


 成り行きを聞き終わったアリエスの第一声は、そんな提案。


「私も次の定期便で風の国へ帰るから、一緒に帰れるしね。旅は道連れよ!」


 正直なところ、願ってもない提案だった。

 知り合ったばかりとはいえ、同じ種族、同じ年頃、同じ女性同士だ。

 アリエスは話した感じ、面倒見もよさそうである。

 ポニにとっても、それほど気を使う相手ではないだろう。

 それに魔法都市にも慣れており、風の国から来ているため、旅の経験もある。

 これほどの適任はいない。


 それに、ポニのラットたちには目的を優先させてほしい、という想いも尊重することができる。


 ラットはポニを見た。


「わたしは大丈夫ですよ」


 表情も明るい。無理をしている様子もなさそうだ。


「わかりました。では、アリエスさん。お願いできますか?」

「もちろんいいわよ! あと、私のことはアリエスでいいわよ。固いのはあまり得意じゃないの」


 こうして、思わぬところで問題が解決した。


「それで、あなたたちはすぐに街を出るの?」

「そうだな。目的もあるし、早い方がいいしな」


 リオンはそういうが。


「実はちょっと調べたいことがあって……」


 ラットがそれを止める。


「魔導大図書館にいきたいんだ」


 ラットは告げた____


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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