第83話 遠ざかる世界樹
イオーネとの戦闘から数日が経過していた。
ベルゼルとの戦闘で、特に消耗していたリオンもラットたちとともに、訓練ができるほどになっていた。ラット、ミル、リオンはフルーテンにきてから、日課となっていた訓練を今日も実施していた。
今日は、その様子を病室から抜け出してきたベルゼルが見ている。
「ムラはあるが、お前はもう風の国の冒険者でいうところの〝A級〟を名乗っても申し分ないと思うぞ」
ベルゼルの見立てでは、分析力、集中力は目を見張るものがあるということだった。
「魔力を使わず、ここまでの実力を持つやつは、はじめてだ。もともと〝B級〟くらいっていってたよな。何がきっかけで、ここまで強くなった?」
「強くなったっていうんなら、やっぱ旅に出たことかな〜。色んなやつと戦って、勉強になったし。俺の訓練の相手って騎士団だったんだけど、結構、偏るんだよ。みんな同じ流派だから……。強いのは強いんだけどな」
「贅沢な悩みだな。国のトップの連中と訓練なんて、そう簡単にできることじゃないと思うぞ」
「それはそうなんだけど、めっちゃきつかったぜ。練習のときは子供でも容赦ないからな」
「愛されてたんだよ。将来期待されてたろ」
「ま〜、でも裏切っちまったからな」
「魔力の有無はしょうがない。ないものはない。ないなら本来は諦めた方がいい。基本的にはそういうもんだ。命にも関わるからな。それを聞いて突き放したやつはお前を思ってのことだろ。責めてやるなよ?」
「わかってるよ。それにやりたいことやれて、今は幸せだし、ぜんぜん気にしてないからな」
死闘を繰り広げたからだろうか。リオンはベルゼルと打ち解け、仲良く話をするほどになっていた。
「それにしても旅か……。あいつとの旅は確かに勉強になりそうだな。あいつ自身がお前と似てる」
「ラットな。そろそろ覚えろよ。お前の主の仲間でもあるんだぞ」
「違いない。人の出入りが少ない街だから、慣れてないんだ。名前を覚えるのが苦手なんだよ」
リオンは意外なベルゼルの弱点に笑った。
「旅の間、しっかりと学ばせてもらえよ。そうすれば、俺のクラスまでくるのもそう遠くないぞ」
「俺は鍛治師だからそこまで強くならなくてもよかったんだけどな。でもま、今は仲間のためにもほしいから、肝に銘じとくよ」
「俺もこのまま追い抜かれるつもりはないからな。怪我が治ったら再戦だ! ……おいっ。そこはもっと流れを意識しろ。渦のように巻き込んでいく感じだ」
ベルゼルがリオンの剣を指導する。
「……っていうか、あんたもかなりの重症だったろ。いいのか? 病室を抜け出したりして」
「あぁ、それに護衛隊には指揮するものが必要だろう。いつまでも寝てはいられない」
「何言ってるの!」
気合いを入れるベルゼルに、冷や水が浴びせられた。
「エレ様!?」
見ると、エレが早足で歩いてきている。ベルゼルを睨みながら。
「ベルゼル、ダメよ。絶対に安静なんだから。医者のみんなに迷惑をかけないでちょうだい。私にまでクレームがきてるわよ!」
「あ、いや、お待ちを……」
「護衛隊はしばらく私が指揮するから、あなたは寝てなさい!!」
従者たちに、ベルゼルは連れていかれた。やはりエレには頭が上がらないらしい。
「エレ! 見回りから戻って来られたんですね」
直後、エレを見つけたラットがやってきた。
*
イオーネとの決着がついてからというもの、エレは連日忙しかった。話をした回数は片手分しかない。そんな多忙な彼女に会えるとはタイミングがいい。ラットはここぞとばかりに訊いた。
「護衛隊の様子はどうですか?」
「あまりいいとは言えないわね……」
護衛隊は戦闘で大きなダメージを受けたものは、魅了が解除されていた。身動きを封じただけのような、そうでないものは、まだ魅了の効果が続いたままだった。
「エレ、どうするつもりですか?」
「イオーネちゃんの言葉がなければ、今のところ無害みたいなのよ」
どうやら魅了されただけなら、通常の状態と変わらないらしい。先日はイオーネの命令がトリガーとなり、敵対していたようだ。
イオーネが倒され、今は有効な命令がなくなったということなのだろう。大人しいらしい。
「だけど、彼女の動向がわからないから油断はできないわね~」
命令があれば、敵対される。だからこそ、イオーネの動向には細心の注意が必要だ。
接触されないように、見回りは彼らにはさせていないようだ。怪我が比較的浅いもの、それに精霊たちに、彼らを見張らせている。
「精霊魔法使いのみんなだけじゃね〜」
エレは腕を組み、困っていた。
行方を眩ませていた精霊魔法使いたちは、フルーテンの牢屋に幽閉されていた。
牢屋ならすぐに見つかりそうだが、フルーテンの牢屋は、そもそもほとんど使われることはない。密猟のためにきたものを一時的に捕らえる程度だ。
だからこそ、盲点だった。
探索を行うときは、魅了されたものが行けばいい。全ての場所をエレが探すわけにはいかないからだ。
魅了もされておらず、怪我もない彼らは、護衛隊としてすぐに活動できた。だか、彼らは後衛だ。前衛がいないのだ。今は前衛としてもある程度戦える、エレがそれを務めている。
「また少ししたら、見回りよ〜」
エレが愚痴っている。だが、それもしょうがない。慣れない前衛、護衛隊の指揮に加え、今まで分担してやっていた見回りを少ないパーティでやっている。しかも、その半分にエレは入るため、酷使され続けているのだ。
「これは流石に、勇者パーティとして集まれませんね……」
「大変なときなのに、ごめんね〜」
ロックは怪我、エレは街の護衛。これで二人、勇者パーティのメンバーが集まれないことが決定した。
「しょうがないですよ。それにイオーネもすぐには行動に移せないかと」
どうやらイオーネは一か月ほど前から暗躍していたらしい。
はじめは護衛隊が一人になったタイミングを見計らって魅了する。魅了には時間がかかることもあるが、時間をかけることで確実に魅了したようだ。
つまり、いくら強い力とはいえ、この規模で魅了するには時間がかかるということになる。
これほど警戒されているフルーテンに戻るとも思えないし、他の町を標的に考えてたとしてもフルーテンからは遠い。すぐにどうこうされることはないだろう。
「エレさん、そろそろ」
「もうなの〜」
ポニが呼びにきた。
あれからポニはフェンリルに乗り、エレや護衛隊とともに、見回りに参加していた。今は貴重な前衛だ。臨時でポニが入ることになったのだ。元魔獣兵器であるフェンリルが前衛なら、申し分ないだろう。
フェンリルはもともと神の使いとも言われる種類の魔物だ。俊敏で戦闘能力も高く、狼なだけあって鼻も効く。
「それにしてもほんと驚いたわよね〜。まさかフェンリルを使役するなんて」
ポニ本人は戦うのは好きではない。家に帰るまでの力だが、それには十分すぎるくらいの戦力だ。
それに、旅に出たときの訓練も兼ねていた。
最初こそ、エレと一緒に見回りを行っていたが、今はポニが一人で前衛を担当している。見回りのもう半分をポニが請け負っていた。
「お願い、ポニちゃん! 護衛隊のみんなが回復するまでここにいない? ポニちゃんがいなくなったら、私、過労で倒れちゃうわよ」
切実だ。エレのあんな姿見たことがない。
「エレ、ご両親だって心配してるんです。早く帰してあげましょうよ。それにもう見回りですよね」
「もうラットくんのばか〜」
エレはふくれながら去っていった。
「あれ、もしかして旅のメンバーで、今一番弱いの俺?」
エレとのやりとりを聞いていたリオンが口を開いた。
「大丈夫、僕の方が弱いよ」
とラットはフォローする。
「いや、ラットの強さはそういう強さじゃないじゃん」
リオンは落ち込んだ。
「リオンさんは強かったですよ。あのときは助けてくれて、ありがとうございました」
ポニの笑顔が励ます。
「おっ、おう」
リオンは少し照れながら言った。元気を取り戻す。
「そういえば、いつここを出るんだ?」
そのまま、赤面を紛らわせるように訊いてくる。
ラットは訓練をしていたミルを呼んだ。
集まったパーティへ告げる。
「実は明日には出ようと思ってる」
マナベル越しのヒーロを含め、ロック、エレ、ラットで、今後のことを話していた。
やはり早急に仲間と合流した方がいいと。
イオーネはしばらくは問題ないとしても、依然魔族の脅威がなくなったわけではない。トゥーロを含め、他にも仲間がいる可能性が高いからだ。
そうなれば、やはり気になるのは、連絡が取れないメンバー。安否だけでも、できる限り早く確認しておきたいとなったのである。
リオンが回復した以上、ここに留まる理由は、もうない。
*
戦闘から数日が経った頃、逃げたイオーネがマナベルに魔力をこめた。
「悪かったわね。エレを仕留め損なったわ」
「エレをフルーテンに足止めできただけで、よしとするしかないな……」
「それにこんな消耗させられるなんて」
「おい、大丈夫なのか!?」
「傷はね……。肉体を変化させて塞いだから。だけど、魔力は空だし、精神も限界よ」
「無事ならいいんだが……」
「ここへ来るまで、あと、どれくらいかかるのかしら?」
「まだ数日はかかるぞ」
「もう女性を待たせるなんて、モテないわよ」
「しょうがないだろっ! こっちは勇者たちみたいに転移門で移動できるわけじゃないんだ。時間はかかる」
「そういうところは、不便なのよね」
「文句いうなよ。国を跨いでるんだ。これでもかなり早いぞ」
「まあ、いいわ。ゆっくり待たせてもらうわよ」
「今の内に休んでおくんだな」
「それにしても、フルーテンを落とすのに、フェンリル一匹。あとは現地調達って、殴ってやろうと思ったけど……、あれは正解ね」
降り注いだ水の槍を思い出す。
「どんなに数集めても、一掃されるだけだもの。さすが、世界最高火力の精霊魔法ね」
もしも、まともに喰らっていたら。さしものイオーネも、笑ってはいられなかっただろう。
「フェンリルも裏切るし、あのラットとかいうのが来てから散々よ」
「おまえもあいつに一杯食わされたのか? やるもんだろう」
「なんでうれしそうなのよ……」
「まさかそんなところにいるとはな。また戦ってみたい」
「そういうわけにはいかないでしょ。あの子も待ってるだろうし、こっちに着いたら、またすぐに出立しないと」
「そうだったな……」
そんな会話をして、イオーネはマナベルを切断した。
*
フルーテンを出発する朝、エレとベルゼルはラットたちを出迎えにきていた。
「またね」
「お世話になりました」
「ポニちゃんも機会があればまた来てね! っていいたいところだけど、なかなか厳しいわよね」
ポニの故郷であるラインブリースは、かなり遠い上に険しい。これが今生の別れになってもおかしくはない。
「加護が使えるようになれば、また来れますよ!」
「そうね。そのためにも、ラットくん。頑張ってね!!」
また一つ託されてしまった。
「それにしても考えたわね。フェンリルの首に鞄をくくりつけるなんて」
ラットは考えた。フェンリルの首につけることで、移動速度を格段に上げることができると。これにより、かなり早く目的地に着けると。
「頑張れよ!」
「ああ、しっかり修行してくるぜ!」
リオンとベルゼルも会話をしている。
エレはミルのところへと向かう。
「ミルちゃん! ラットくんのことよろしくね」
「……ん……任せて…………」
エレはミルに仲間を託した。
「そろそろいくよ」
挨拶を済ませ、フェンリルの首にかかった鞄に入る。
「頑張ってね〜〜〜」
鞄の外でエレの声が響く。
そして、フェンリルが走り出す。
次に向かうのは、ポニを送るための場所。
叡智の都ブルンネン__。
そこであるものと再会を果たすことになることを、ラットたちはまだ知らない。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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