第81話 継ぎ接ぎの怪物
水の国。深い森に吹き荒れる砂塵の中に、その巨大な影は突如として現れた。ワータイガーの頭を持ち、ドラゴンのような巨体でありながらも、ゴーレムのような固い鎧を纏い、相手を切り裂くための巨大な爪をも生やしていた。
ゴオォォォォォ__________________
その巨体を避けるかのように、風が通り抜け、不気味な音が響き渡る。
「みなさん、無事ですか?」
マナベル越しにラットは確認する。全員がそれに答えた。
「ラット、あれ…………」
「イオーネです」
ラットはその場にいなかったミルに詳しい状況を伝えた。少し離れたところで戦っているミルからもあれだけの巨体だ。はっきり見えているだろう。
「おい、ラット。あんなん勝てるのか?」
リオンが乾いた声を漏らす。
当然だ。視界に見えている巨大な影に対して、リオンどころか、誰も効果がありそうな武器を持ち合わせていない。攻撃を加えたとしても、あの巨体のイオーネにとっては、蚊に刺された程度のダメージにしかならないだろう。
「可能性があるとすれば……」
そのときだった。巨大な爪がある方向へと向けられる。
「狙いは僕か……!?」
ワータイガーの嗅覚を持つ頭が的確にラットを探し当てていた。
これまでラットの戦略により、イオーネを劣勢に追い込んできた。ラットをまず最初に倒しておきたいと思うのは当然であろう。
ぐにゅるるぅうううるうぅ_______
ラットへと向かっていた触手は、枝のように分かれ、ラットの元へと降り注いだ。
ドドドドドォオオオオォォォォォ______ン
ラットはバンプガンを向け、〝氷水〟を放って触手を凍らせる。動きを制限したことで、攻撃を避けることには成功した。
「ぐぅっ……」
だが、割れた地面。その破片がラットに直撃した。
ぐにゅ_______
ラットに止めを刺そうと、触手がさらなる枝分かれをして、ラットへと向かう。
がっ__
その追い打ちを防いだのは、フェンリルだった。ラットを咥えて、距離を取る。
他の仲間たちもラットの居場所を正確に把握できていなかったが、フェンリルだけは変身したイオーネと同様に鼻が効く。マナベル越しの音を聞いて、嗅覚を頼りにラットのピンチを救ってくれたようだ。
「ラットさん、大丈夫ですか?」
フェンリルの背中に乗ったポニが話しかけてくる。
「ありがとうございます。助かりました」
「ラットさんもこちらへ」
「いえ、僕は大丈夫です。相手が嗅覚で位置を補足してくるのなら、これを使います」
ラットは鞄からハイドマントを取り出して、自身に羽織った。
「ぐるるるぅうるぅぅ…………」
「ほんとですね。リルくんもわからなくなったっていってます」
「フェンリ……リルくん。こちらを…………」
ラットは強化薬を使用し、フェンリルの防御と速度を上げた。
「リルくんにやっていただきたいことがあります……」
ラットの話を聞き、フェンリルは駆け出した。
しかし……
「きゃっ……。大丈夫…………。もっとしっかり掴まるようにするね」
マナベルを通して聞こえてくるポニの声。
「ポニさん、どうかされましたか?」
「あっ、いえ、違うんです。思ったよりも速かったので……」
「そうか。リルくんの速度にポニさんが……」
ラットも考慮することができなかった。テイマーという職業は珍しくなくても、フェンリルを使役したなんてことは聞いたことがない。その背中に乗って戦うことで、どれほどの負荷がかかるかを。
(どうする? ハイドマントをポニさんにも渡すか? いや、だめだ……)
ポニは一般人だ。例えイオーネに捕捉されなかったとしても、あれだけの巨体の攻撃なら巻き込まれる可能性が高い。ラットのように攻撃を予測しながら躱すなど、到底無理に決まっている。かといって、このままフェンリルの背中に乗り続けることも……
ラットが打開策を巡らせていると……。
「俺のところに来い。俺がポニを守る…………」
マナベル越しにリオンが話しかけてきた。おそらくラットの考えていることを察したのだろう。
「リオン……。速力の水、使用したでしょ? もうところどころ身体の感覚がないんじゃない? それに怪我も……」
ラットはリオンが渡した速力の水を使ったと確信していた。遠目に見てもわかる血の跡と怪我だ。そうなる前に、副作用があったとしても使うだろうことは容易に予測できる。
「ああ、そうだな。もう大した戦力になれそうにない。だけど、守るだけならやりきってやるよ」
「リルくん、リオンさんのところへ連れていって」
話を聞いていたポニがフェンリルに頼む。
「だけど、守られるだけじゃないです。私も精霊魔法でリオンさんを守ります」
「はは、こりゃ頼もしいや……」
リオンはポニの言葉を聞いて笑った。まさか守ろうとしていた相手に〝守ります〟なんて言われるとは微塵も思わなかったのだろう。ラットからしてもその言葉に笑みが零れる。
「そういえば、ラット。さっき何か言いかけていなかったか?」
リオンが問いかけてくる。
「現時点で可能性があるとすれば、エレの精霊魔法。それも〝特級魔法〟が最も効果的だと思う」
「ならっ!!」
「残念だけど、今は使えないかな」
エレが言葉を挟んだ。ラットも同意する。
「粉塵で見えにくいけど、妖精たちがイオーネの周りに集まっているんだよ。巨大化したのを見た妖精たちが集まってきたんだと思う。エレの精霊魔法対策にね」
「くそっ、ほんとどうしろっていうんだよ」
唯一の攻撃手段も対策されている状態だ。リオンが憤りを感じていても仕方がない。
「大丈夫。もうラットくんが対策は打ってくれてるわよ」
「はい。だから、今は耐えて! 僕がみんなを支えるよ」
「わかったよ。頼んだぜ!!」
打開の一手はすでに見えている。あとは機を待つだけだ。全員の意思が重なっていく。
*
体を変質させたイオーネは、精密な魔力操作と詳細なイメージにより、力が暴走するのを抑えていた。
(なによこれ……。少しでもイメージが崩れると、それに合わせて体もすぐに崩れる。それに魔力操作を少しでも誤ると風船みたいに破裂しそうじゃない……)
イオーネは暗躍している間、王都だけではなく、ここフルーテンに至っては護衛隊のすべてを魅了によって掌握した。
それを可能にしたのが、精密な魔力操作と詳細なイメージだ。相手が心を許しやすくなるような理想像をイメージし、体を変化させ近づき〝魅了〟する。魅了した後はその精密な魔力の操作で、魅了した相手を思いのままに動かした。
長期に渡ってそれらを実施してきたことにより、イオーネは力を制御することに成功した。
(まずは……あのラットとかいうやつよ)
これまでもラットを中心に劣勢に追い込まれてきた。まず最初にラットを倒しておきたい。それに今なら臭いで追うことができる。
ぐにゅるるぅうううるうぅ_______
ラットを攻撃するが、あと一歩のところでフェンリルに妨害された。
(くっ、裏切っただけじゃなくて、とことん邪魔をするつもりね)
イオーネは身体中から触手を生やし、全員に向かって攻撃する。
フェンリルはもともとあった俊敏さが、さらに強化されたことでそれを難なく避けていく。
ぐりゅるるぅ_______
エレに対しても、イオーネの爪が伸びていく。エレを捉えそうになった瞬間にフェンリルがそれを弾く。
リオンとポニを攻撃したとしても、リオンの剣とポニの精霊魔法の連携により届かない。
(あのラットとかいうやつも臭いで追えなくなってる。なにをしてるの?)
神経を逆撫でされ続け、イオーネはさらなる牙を剥く。
(これならどう? 全員まとめて焼き払ってあげる)
今度は触手の先端をドラゴンの頭に変化させ、ブレスを使う。エレは精霊魔法を使用し、強力な防御魔法を展開した。
<我を守れ__アクアウォール>
「妖精たちを巻き込まない防御魔法なら使えるのよ~」
目立つ攻撃の裏で、イオーネは地面に触手を潜り込ませていた。地面からエレの下へと潜りこませていた触手が、エレを攻撃しようとする。
「ぐるるるぅうるぅぅ___」
しかし、臭いでフェンリルが気づき、間一髪のところでエレを咥え、躱した。
(何度も何度も邪魔をして……!)
ザッザッザッザッザッ________
フェンリルはエレを乗せ、縦横無尽に駆け回る。
複数の触手やブレスを使用しても、フェンリルを捉えることができない。追い詰めてもエレの防御魔法や祭具により防がれてしまう。
イオーネは次第に頭に血が上り、感情的になってくる。
(いつまで逃げてるつもり!? 逃げ惑っていても勝負はつかないわよ!)
視界すら充血しかけたとき、大地が輝く。
地面を覆う巨大な魔法陣が展開された______
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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