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第80話 鎖断つ疾滅の銀狼

 イオーネは足を蛇のように変化させ、リオンたちの元へと向かっていた。


 見えてきたそこでは、辺りを警戒するリオンと、倒れたベルゼルを治すポニの姿があった。


 まさかベルゼルが負けるとは思わなかった。

 しかも、あんな若い剣士に。

 

 剣士の身体を見れば、壮絶な戦いがあったことは想像に難くない。いつ倒れてもおかしくないほどの血が、剣士の服には付着していた。


(今なら……)


 イオーネはすぐさま突入しようと考えたが、辺りをくまなく見渡す剣士の鋭い視線が止めた。


 相手はベルゼルを倒すほどだ。

 安易にいけば、手痛い反撃を受けるかもしれない。

 だからといって、いつまでもここにいれば、エレたちが追いついてくる。


 攻めあぐねていると、リオンが警戒を緩め、ポニへと意識を向けた。


 スルゥゥゥ_______


 意識の隙間を縫うように近寄る。


「まさかベルゼルが倒されるなんてね」


 スル____


「きゃっ」


 イオーネは、腕を再度触手のように変化させ、ポニを巻きつけるように捕らえた。


「イオーネ!? ポニを返せっ!」


 ヒュッ__

 剣を即座に振るい、ポニを取り返そうとするリオン。しかし、イオーネは蛇の体を操って後ろ向きに移動し、すぐさま距離を取った。


「待てっ!」


 ガクッ

 接近を試みようとするリオンの膝が折れる。剣は使えても、走れるだけの力は残っていないようだ。


 そこへエレがやってきた。


「ポニちゃんをどうしようっていうの?」

「わかっているでしょ。人質よ。動かないでね」

「むぐ……むぅうううぐぅぅぅ……………………」


 イオーネは追いつめられていた。

 護衛隊は、エルフたちが倒され、妖精たちも大半を失った。

 能力も攻略されつつあり、ベルゼルでさえも倒されてしまった。

 人質をとったところで、大人しくエレを差し出すのか?

 この少女にどれほどの価値がある?

 相手はあのエレ。

 精霊の神子……精霊信仰のトップであり、勇者パーティの一人でもある。


 やむを得ない。

 こいつを人質にいったん退却する。


 イオーネは懐から笛を取り出した。


(怪我をしていても人質がいれば……)


「あれは……サモナーホイッスル?」



 __サモナーホイッスル

 主従関係のある魔物や使役している魔物を呼び寄せるための笛。



 ピイイイィィィィィィ__________


 笛の音が森全体へと響き渡る。


 …………ザッ…………ザッ……ザッ……ザッ……ザッザッザッザザザ_________


 遠くから木々の隙間を高速で移動する音が近づいてくる。

 そして、


 ザッ____


 現れた白銀の影。〝疾滅の銀狼フェンリル〟だ。


「あらっ、あなた、怪我が治っているのね……護衛隊の誰かかしら?」


 脅威となるフェンリルを治療するものなど、魅了していた護衛隊しか考えられない。


「なら好都合だわ。エレを殺しなさい!」


 だが。


「ぐるるるぅぅぅ______」


 フェンリルは、動く気配を見せない。


「なにをしているの?」


 フェンリルは、エレの様子を窺う。


「ぐるるるぅぅぅ______」


 そして、イオーネが抱えるポニを見た。


「人質で攻撃をためらっている内に早く殺りなさい」


 ドッ__

 動いた。


 フェンリルの前足に潰されているのは、〝イオーネ〟だった。


「……!?」


 イオーネは目を見開いていた。


(いったい何が起こったの?)


 なぜ、エレではなく、主人たる自分を?

 イオーネは何が起こったのか、まるで見当がつかなかった____。


(……体が……………?)


 イオーネも一見ダメージがないようにも思えたが、力の酷使による消耗が確実に体力を蝕んでいた。それがフェンリルの一撃で、限界に足を踏み入れていた。



 フェンリルの裏切り。イオーネの反応は当然だった。


 本来、フェンリルは主従関係を重んじる魔物だ。

 主人に反するなど、よっぽどのことがない限りありえない。

 しかし、フェンリルにとって、その〝よっぽどのこと〟が起きていた。


 怪我をしたフェンリルは、発見された時点で一度命を諦めた。

 それを救ったのが、なんの力も持たない少女だった。

 少女に庇われ、傷の手当をされ、さらには命を諦めるなと諭された。

 最後まで命を諦めないこと、野生の筆頭たる自分は理解しているはずだった。


 自分を倒したものと主従契約をし、〝魔獣兵器〟として、さらなる強さを得た。

 その反面、飼いならされたことにより、潔さが美徳と思うようになっていた。


 しかし、少女の言葉を聞き、自分が野性を失っていることに気がつかされたのだ。

 どちらが正しいのかは、よくわからない。

 だけど、次は野性を失わず、誇り高く生きようと考えた。


 一方的に主従関係を破棄したことで、命を奪われるかもしれない。

 だけど、これは諦めではない。

 気づかせてくれたこの少女を助けて、最後まで誇り高く生き抜く。

 そう決めた。


 フェンリルは、ポニを口で咥え、イオーネから引き離した。


「ぷはっ、あなた、あのときの…………」


 ポニを咥えたまま、エレの元へと移動する。


「ポニ!」


 リオンもそこへ駆けつけ、イオーネから守るように立ちふさがった。


 ポニを送り届けたフェンリルはその場を去ろうと歩き出し、


「待って!!」


 ポニの声に、止まった。



 あのフェンリルが人間族を助けただけでも目を疑うのに、声にさえ、立ち止まった。

 信じられずに凝視するエレへ、当のポニが口を開く。


「あの……、エレさん。主人に刃向かったこの子はこれからどうなると思いますか?」


 訊かれ、ようやく頭が回った。


「この子は〝魔獣兵器〟……。戦争のために強化された魔物だから。捕まったら、まず間違いなく殺されるでしょうね」


 ポニはフェンリルを見た。


「きみはこれからどうするつもりなの?」

「ぐぅうるるる______」

「そう……一匹で…………」


 ポニは理解しているようだった。

 そして、考える。


「ねぇ、よかったら一緒にこない?」


 ポニはフェンリルに尋ねた。


「ぐぅうるるる__ぐるぅ____」

「もう縛られたくないのね……」


 ポニはフェンリルといくつかの言葉を交わした。


「……………」

「ぐるるぅるるるぅ」

「かまわないよ。お友達になろっ!!」


 話は終わった。


「決まったようね」


 フェンリルは承諾したかのようにポニヘと向き直り、白銀の頭を下ろした。


「私の見込み違いだったみたい。ポニちゃんは〝精霊魔法使い(エレメンタラー)〟の才能があると思っていたけど、どうやら〝使役士テイマー〟としての才能の方が上回っていたようね」


 フェンリルは人間族には絶対に懐かないと言われていた。そんな凶暴なはずのフェンリルにポニは助けられ、会話をし、あろうことか契約を結ぼうというのだ。エレやラットですら、聞いたことがない事態だった。


「契約を始めるわよ。でもこれは、使役士の主従契約じゃない。お互いが協力関係にある精霊との契約方法になるわよ。それでいいのね?」


 ポニとフェンリルは承諾した。


「時間がないから、簡易的な契約をするわよ」


 ヒュヒュヒュン____


 エレは祭具を集めた。


「二人とも意識をお互いに同調させて」


 互いに目を閉じる。

 ポニの手が、フェンリルに置かれた。


 __ここに集まりし、火、水、風、地、光、闇の精霊たちよ!


 我らの誓いを聞き届けよ__。


 炎の煌めき、水の静寂、風の囁き、土の安定、光の導き、闇の守りを契約の証とします。


<コントラクト__フェンリル>


 辺りから魔素が集まり、ポニとフェンリルが淡く光り出した。そして、次第に消えていく。


「これで契約完了よ」



 ぐにゅ____


「あなた、なにをしているの?」


 主人に手をあげただけじゃない。人間族との契約という最大の裏切りが、倒れる寸前だったイオーネの身体をゆっくりと起き上がらせた。


「こんなことをして、生きていられると思わないことね…………」


 ぐにゅぐにゅ____


 ぐにゅるるぅうううるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ________________________________________________________________________________________________________


 イオーネの身体は肥大化していった。


 フェンリルが裏切った以上、もう正攻法では逃げることすらできない。


 本来、ここまで力を行使するつもりなどなかった。

 イオーネ自身、どうなるか見当もつかなかったからだ。


 ぐにゅるるぅうううるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ__________________________________________________________________________________________________________________________________________________


 しばらく肥大化したところで、それは止まった。

 まるでドラゴンほどの巨体。


 ぐにゅるるぅうううるぅぅぅ______


 さらに、姿を変えていく。


(力の制御を…………。イメージを…………)


 変化は止まった__。


 頭は、このエレが起こしている砂塵の中でも敵の位置がわかるようにワータイガーのものを。

 体は、敵の攻撃を弾くようにゴーレムの固い鎧を。

 ドラゴンに引けを取らない巨大な爪を生やし、攻撃力も強化した。


 イオーネはイメージする。

 イメージに従い、砂塵の中で複数の敵と効果的に戦うための姿となった。


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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