第79話 陽動攪乱の鼠
決着___。
ポニがバリアを解除し、ベルゼルを治療する。
バリアを解除したにも関わらず、リオンたちは未だに攻撃されることはなかった。
はぁはぁ___
リオンは満身創痍、それでも警戒は怠らない。
「今のうちだ。向こうも戦闘が激しそうだし、こっちまで意識できてないみたいだ」
ベルゼルは、二度、深く斬られた。
その傷がポニの精霊魔法によって次第に塞がっていく。
「すごいな。魔法を覚えたのって最近だろ? こんな回復するものなんだな」
「んーん、精霊魔法だから……。これはアーくんがやってくれてるの。私はお願いしてるだけ」
「俺はどっちもできないからな。やっぱすごいよ」
「私はリオンさんがすごかったと思います。戦いはよくわからないけど、空気がぴんとしていて、お互いに気持ちをぶつけているようで、見ているだけでどきどきしました。かっこよかったです」
ポニが優しく笑う。
「うぅぅぅ…………」
ベルゼルが意識を取り戻す。
「すまない。敵対していたのに回復なんて……」
「いいんですよ。ご本人の意思に反して行動させられていたって聞いています」
「そうだぜ。戻ったんならエレさんも一安心だな」
「まさか、負けるなんて微塵も思わなかった。本当に強かったよ……」
「いや、ほんとギリギリだったぜ。仲間がいたから……踏ん張れた」
リオンは笑う。
「まっ、全員で掴んだ勝利ってことさ!!」
フッ___
ベルゼルはそれを笑い、再び意識を失った。
「ベルゼルは?」
「気を失っただけみたいです」
しばらくして、回復が終わる。
「これでもう大丈夫だと思います」
激しい戦闘の疲労もあったのだろう。
回復が終わり、リオンの意識が一瞬だけ逸れた。
そのときだった___。
「まさかベルゼルが倒されるなんてね」
イオーネの声が響いた。
*
少し前、リオンの戦闘が佳境に入った頃___
ラットたちの戦況もまた、変わりつつあった。
エレがイオーネの注意を引き、ミルが護衛隊を翻弄している間、ラットはエレが展開した壁の影に潜み行動していた。相手は自身の肉体を完全に変えるだけでなく、その質量でさえも変えてしまう能力を持っている。なにが効果的か探る必要があった。
あのエレでさえも接近戦では押されている。本来ならば手数で優位をとる祭具の攻撃。それを受けても自在に変形する肉体は、攻撃をものともせずにエレを襲った。エレは攻撃においても防御においても、劣勢を強いられている。
(魔法を封じたということは、魔法は効果的なのかな?)
魔法が効果的だったとしても、護衛隊を巻き込んでしまう。ミルも全員を無力化するにはまだまだ苦戦を強いられるだろう。せめてもっと人数がいれば……。
(いや、そのための僕だ)
ラットはバンプガンを構える____。
*
いくつもの攻撃を当てた。状態異常は〝睡眠〟だけではなく、他のものも効果がなかった。
だが、魔力を介さない__肉体に直接作用する薬品などは、多少なりとも効果はあるようだ。とはいえ、少し焼いたり、溶かしたりする程度では、剣で斬りつけたりするのと同様にすぐ戻ってしまう。
(次はこれだ……)
ラットは次の玉をバンプガンに装填する。
そのときだ。
エレが斬り落とした触手に捕らわれた。
(まずい、効いてくれっ!!)
ラットは装填した玉を放った。
ガキッ__
それはエレを捕えていた触手を凍り付かせ、動きを封じた。
凍り付いた触手は再び動き出すことはなかった。
(これだっ!!)
この〝氷水〟なら効果がある。
ラットはそう確信した。
どうやらイオーネと護衛隊もこれに気がついたらしい。
ラットを探す素振りを見せる。
エレは〝ブレイズ〟を展開し、その視界を奪う。
それに対して、護衛隊は〝サーチ〟を使用した。
(どうやら、これの出番のようだね)
ラットは潜みながら放っていた〝ダミーラット〟を起動した。
__ダミーラット
ラットがこめた魔力を纏い、指定の範囲内を動き回るネズミのおもちゃ型の魔導機械だ。
潜伏するラットが探索魔法などで見つけられないようにするために、ミルに依頼して開発してもらったものである。
機構が単純で大量に造ることが可能。
使用時は大量に動くダミーラットにより、相手を惑わせる。
〝ダミーラット〟に紛れ、ラットは〝氷水〟を放つ。
エレを攻撃しようとすれば、ラットが〝氷水〟で触手を凍らせ、動きを制限する。
エレが触手を斬り落とせば、それを凍らせた。
イオーネの腕から伸びる触手は、次第に氷に覆われていく。
凍っていない箇所から、さらに触手を伸ばして広げていくが、それにも限界がある。
次第にイオーネを追い詰めていった。
しかし、斬り落とされ、凍らされた触手が動く。
覆っていた氷がヒビ割れたのだ。
それにいち早くラットが気づく。
ラットは攻撃しながらも全体の観察を続けていた。
(なるほど、そういうことか……)
ラットはマナベルに魔力をこめる。
「エレ、向かって右側の触手が動きます。気をつけて。下級魔法で構いません。いけますか?」
「だいぶ触手も、護衛隊も、減ってきたからね~。いけるわよ!」
「では、火属性の魔法でお願いします」
「いいの? 氷、とけちゃうんじゃない?」
「切り離した部位が動く仕組みがわかったんです」
「しくみ?」
「あの部位には多くの魔力がこめられているんです」
「魔力……。なるほど、そういうこと」
ラットは〝マジックモノクル〟でできた特注の眼鏡にかけ替えていた。
だからこそ、違いに気づくことができた。
より強く動く触手には多くの魔力がこめられていた。
つまり、それぞれの触手が意思を持って動いているわけではない。
触手は魔力を媒介に動いている。
妖精たちが武器を操るのと仕組みは一緒だったのだ。
「つまり、燃やして部位を散らして、力を弱めるってことね」
エレは大剣を目の前に構え、魔力をこめる。
<焼き払え__ファイアソード>
ごおぉぉぉおおお______
炎が集まり、形を成していく。
「放って!!!」
ドオォォォォォン______ゴオォォォォォ______
焼かれていく触手。そして、完全に燃え尽きる。
「あら、散らすだけのつもりだったのに消えちゃったわね」
「ハハ……、さすがですね……」
ラットは改めて、その威力の凄さを実感した。
*
(いったいなんなのよ、こいつら……)
イオーネは喚き散らしたい思いだった。
この隠していた触手まで気づかれた。
凍らせ油断させておいて、死角から一気に殺す算段だったのに……。
(そもそもあれほど優位に進んでいたのに、どうなってるのよ!?)
あのラットとかいうのを起点に、全てがひっくり返ろうとしている。
どうする?
護衛隊ももう少なくなってきている。
ここから巻き返せるか?
それとも逃げる?
いや、それはできない……。
そのとき、イオーネは気づいた。
先ほどまで展開されていたバリアが消えていることに……。
(ベルゼルがいればっ!)
イオーネは凍らされた触手を切り離し、元の腕に戻す。
代わりに足を蛇のように変え、高速で移動した。
スルルルゥゥゥ______
祭具を操り、捕らえようとするエレ。
しかし、イオーネは蛇行し、それを躱した。
「逃げるつもりね!」
「いえ、あっちは……」
ラットも気がついたようだ。
「二人が危ない!!」
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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