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第75話 黄昏時の決戦

 イオーネの呼びかけとともに、〝睡眠〟を無効化して、護衛隊が集まってくる。


「あんな掛け声で無効化できるものなのか……?」


 ラットの目は見開かれ、言葉が漏れた。

 ラットは思考を巡らせる。〝睡眠〟と〝魅了〟どちらも脳へ作用する状態異常だ。加護すらも凌駕する〝魅了〟であれば、〝睡眠〟の状態異常が作用しないほどに、強固に付与することが可能なのか?


 いずれにしても、無効化されていることに違いはない。理由は後回しだ。今はどう切り抜けるかに集中する。


「イオナ……イオーネ! もうやめないか? お前だってこんなこと……」

「うるさいわねっ」


 ぐにゅっ、るるるルルぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜

 イオーネの腕が形を変え、蛇のように伸びていく。


 それはラットたちの間を通り過ぎ、ロックへ向かう。

 リオンが剣を刺して止めようとするが、それは切り裂かれながらも構わずロックを掴み、木へと叩きつけた。


「がはっ」

「ロック!」

「イオ……ネ…………」


 ロックは元からのダメージもあり、意識を失った。


「ロック、しっかりして……」


 ラットは急ぎ近寄り、応急処置を施す。そして、鞄へと匿った。


「トドメは後でゆっくり刺してあげるから、今は寝ていなさい」


 ロックを叩きつけた触手のような腕は、リオンに斬られなかったかのように、通常の腕へと戻っていった。


「おい、どうなってんだよ、あれっ。魔族ってのは、こんなこともできるのか?」

「いや、完全に変化するどころか、元の大きさを無視して、あれほど自由自在に変えられるなんて、聞いたことがないよ」


 〝魅了〟だけの話ではない。この〝肉体変化〟も異常だ。

 どれほどの力を保持している?

 底の知れない力に、ラットは唾を飲んだ。


「リオンくんだったかしら。次はあなたの番よ。元に戻せると言ってもちょっとは痛いんだから。私、少し怒っちゃった」


 イオーネは挑発するかのように笑う。


「エレ……、この戦況どう見ますか?」

「正直なところ、まずいわね。ロックが戦えるなら、まだ勝算はあったけど……」

「なんとか意識が戻ったとして、ポーションを使っても厳しいかと。もう気力でどうこうというレベルを超えています」

「そうよね……。相手は能力の底が知れない魔族に、ベルゼル、そして数十人もの護衛隊」

「対してこちらは、エレ、リオン、ミルに僕の四人……ですか」

「相手が彼女だけならよかったんだけど。魅了された護衛隊を一掃するわけにもいかないし、参っちゃうわ……」


 そうだ。護衛隊を壊滅などさせてしまったら、ここを切り抜けたとしても、今後街を守る者がいなくなってしまう。

 魔物の群勢ならば先の大戦と同様に一気に焼き払ったりすることができるかもしれないが、ただ操られているだけの護衛隊を相手に高威力の魔法で一掃するわけにはいかない。エレ対策としては、これ以上ない方法だ。


「魔法を封じられている以上、私じゃラットくんのサポートがあったとしても、彼女とベルゼル、二人の相手は厳しいわよ」

「俺とミルでどっちか引き受けるのはダメなのか?」

「数が多いから、機動力のあるミルちゃんには私やラットくんと一緒に護衛隊をお願いしたいのよ。となると、リオンくん一人になっちゃうけど」

「相手にするなら、ベルゼルさんですね。彼女が相手となると、〝魅了〟が怖い」

「とは言ったって武器での接近戦だけなら、彼は私よりも強いわよ。私でも苦戦してたのに、この乱戦の中ベルゼルを倒せるかしら」


 二人は考え込む。


 ジッ___

 視線を感じた。


「どうしたの?」


 視線の主はミルだった。


「投降はダメ……」

「しないよっ! なんでそう思ったの!?」

「綺麗な人だから……」


 リオンが笑う。


「なんだよ、ミル。ラットが盗られるんじゃないかって心配してるのか?」

「違う……」

「大丈夫だろ。ラットはそういうので釣られたりしないさ」

「リオンは……釣られる?」


 ミルは首を傾げた。


「お、俺だって……、大丈夫だよ…………」


 答えるリオンは少し目が泳ぎ、歯切れが悪い。

 __そういえば、リオンはお姉さんに興味があるようなこと言ってたな…………。


 とはいえ。


「二人ともここで釣られたりしないから安心して」


 クスクス___

 今度はエレが笑った。


「あなたたち、ほんといいパーティね。こんなときに冗談が言い合えるなんて。おかげで肩の力が少し抜けたわ」

「ラット。実際の話、投降はしないまでも逃げるってのはダメなのか? ロックやエレさんも今はいるし、このまま逃げちまえば、二人を助けるっていうこっちの目的は達成できるだろ?」

「エレの立場としては厳しいと思うよ。今逃げたらそれこそエレが街を捨てたことになっちゃうからね」

「そうなのよ〜」


 良い打開策もないまま、沈黙が走る。

 そのときだ。


「あの~、お話は伺っていたのですが、私になにかできないでしょうか?」


 ポニが話しかけてきた。ポニは今ラットの鞄の中に匿われている。心配で話を聞いていたのだろう。


 気持ちは有難いが、ポニは戦闘訓練すら受けていない。魔法をいくつか習っただけだ。できることなんて……


(いや……、あるかもしれない…………)


「リオン、ベルゼルさんと一騎打ちなら勝てる可能性はないかな?」

「一騎打ちだってベルゼルは強いわよ」

「リオンは入り込むタイプなんだよ。鍛治のときの集中力がもの凄くて、それは戦闘でもね」

「あんまり買い被られても困るけど……。まあ、乱戦よりも目の前の相手に集中できた方がやり易くはあるかな」


 リオンは辺りを見回す。


「なあ、流石にこの人数……。一騎打ちなんて無理じゃないか? 向こうがこっちの都合を聞いてくれるわけなんてないし、何人かはこっちにもくるだろ」

「実は考えがあって……」


 ラットの話を全員が聞く。


「私……やります!」


 ポニが覚悟を決めたように言った。


「いいのか? そっちに向かっていく可能性だってあるんだぞ」

「大丈夫です。エレさんにはずっとよくしてもらいましたし、皆さんにも。私だって、困っているときには手助けしたいです」


 そうこうしているうちに、ラットたちは囲まれる。


「迷っている暇はなさそうね……」

「相手は格上。リオンはかなり厳しい戦いになっちゃうけど、いけそう?」

「まだ強化薬の効果も残ってるし、やってみるさ」

「じゃあ、手筈通りに!」



 護衛隊が配置につく。指揮を執るベルゼルの傍で、イオーネが不敵に笑う。激しい戦闘の前の静寂が辺りを包んでいた。


 ラットはエレの速度と感覚を上げた。


「いけっ!!」


 ザザ__

 ベルゼルの合図とともに、護衛隊が一斉に襲いかかってきた。


 ザザザザザザザザ_______

 群衆が再びラットたちの元へと向かう。


「その攻め方の対策はできてますよ」


 バンプガンで迎え撃つ。群衆の中に放り込んだのは、彼らの天敵。


「さっき使っていたのはこれかっ! くそっ、動けん」


 魔力粉で動きを封じられた妖精が叫ぶ。


「固まるな。分かれて攻撃していけ! 四方から囲め!」


 ベルゼルが即座に指示を出し、護衛隊が散開した。


「ミルっ!」

「んっ!」


 散らばった護衛隊を、鉄鋼が一人、また一人と気絶させていく。


「少し厄介だな。囲んで殺すか? いや、面倒だ。俺がやる!」


 ベルゼルがミルを襲う。


 キンッキキン___

 レイピアと鉄鋼がぶつかり、火花が散る。


 最高速度こそミルが上だが、小回りが利くベルゼルが次第に押していく。


 魔力粉を投げるミル。

 しかしベルゼルは一気に後ろに下がり、距離を作る。


<守れ___アクアバリア>


 魔法を展開し、魔力粉を防いだ。


「そんな遅い投擲じゃ、俺は捕えられないぞ!」



 キキキキキンッ___

 エレは襲いくる妖精たちを祭具で弾き、リオンとラットもまた周囲を囲む妖精たちと交戦していた。


「私もいるわよ!」


 触手のように伸びるイオーネの両腕。感覚を強化されたエレがいち早く気がつく。

 祭具で串刺しにされ、両腕の動きが止まる。

 だが。


「その程度じゃ、止まらないわよ」


 貫かれたまま、さらに伸びる。


「いいのよ。少しでも止まれば」


 エレの前の槌が光る。

 護衛隊は阻止しようとするが、別の祭具がそれを弾いた。


<彼のものを阻む壁となれ__ソル・グランドウォール>


 ドドドドド_____

 勢いよく展開される無数の壁。

 それらはイオーネの攻撃を防ぎ、護衛隊の動きを制限した。

 逃げ場を失った護衛隊は次々に倒されていく。



 キンッ__ガキン____


 空中でミルとベルゼルはぶつかり合う。


 ドドドドド_____


 エレの防壁を見たミルは急降下し、壁の隙間を駆け抜けた。


「隠れられると思ったか? こちらの方が小回りが利く。逃げられないぞ!」


 ベルゼルが距離を詰めてくる。


 ガッ!

 壁を追い抜く一瞬、ミルは壁を掴み、身体を翻した。


 ザザザザザ____

 地面に着地し、勢いで滑りながら拳を振りかぶり、カウンターを試みる。


「ハッ、このアクアスパイラル流にカウンター?」


 笑い飛ばすベルゼル。


「そんなとろいカウンター、誰も喰らわんぞ。軽く躱して首をもらう」


 しかし、ベルゼルが通り過ぎた壁の影。

 そこから滑り出るように現れた刃が、ベルゼルに忍び寄る。


「なっ!?」


 咄嗟に刃を受けるベルゼルだが……


「しまっ……」


 大きく隙を見せてしまった。

 振りかぶったミルの拳は、防げない。

 弾かれるベルゼル。

 影から出てきたのはリオンだった。

 ミルはリオンを掴み、ベルゼルへ向かって投げた。

 ベルゼルが飛んだ先で待ち構えるのは、ポニ。


<私を守って__風の卵>


 作り出された風の膜は、ベルゼルと、彼の後を追うリオンごと、ポニを包み込んだ。


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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