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第74話 魅惑の支配者

 少しだけ時間が経ち、エレの状態も回復してくる。時間は黄昏時。陽はすでに傾き、世界は半分だけ夜に触れている。しかし、この地は完全な闇を知らない。落ちていく陽の代わりに、溢れた魔力が神秘的にそこにいる者たちを浮き彫りにさせていた。


「もう大丈夫よ。それで、私は結局何をされたのかしら?」


 エレはふらついている間に、合図を送り、護衛隊をその場に留めていた。エレを守る護衛隊だ。いざとなれば、ラットたちに逃げられたとしても、魔法を使い突入していただろう。


「目回し玉です」


 目回し玉__

 平衡感覚を阻害する薬品がこめられている玉。

 空中にいるものほど効果が高く、当てると平衡感覚を失い落下する。鳥など空を飛ぶ生き物を捕まえる際によく使用される狩猟用のアイテムだ。

 魔力による作用ではなく、神経に直接作用するため、加護を持つ者にも有効となる。


「目回し玉……。なるほどね。人族ヒューマにはそんなアイテムもあるんだっけ」


 妖精族やエルフ族は肉を食さない。だから、獣を狩るためのアイテムはここには存在しない。例え見たことがあったとしても、不要な知識として記憶の片隅に送られるのが常だ。


「少なくとも私をどうこうしようってことじゃないのはわかったわ。その機会があったわけだしね」


 エレに危害を加えようというのなら、目を回しているこの機会を放っておくわけがない。そうでなくても、敵対するなら地面に落ちたエレを放っておけばいい。

 ラットの行動は真逆だ。落下を防ぎ、看病も進んで行う。旅をしていた時と何も変わらない。敵意がないことがわかり、エレも話を聞く気になったのだろう。


「それで話ってのは何かしら?」

「正直なところエレが見た僕というのは、未だにわかりません。ですが、精霊魔法使いたちが行方を眩ませている現状を考えると、やはり魔族の〝魅了〟が関わっているのだと思います」


 先刻エレが話していた、自分が〝魅了〟されていないという証明は、他の精霊魔法使いにだって当てはまる。存在が明るみに出てしまう以上、それをする訳にはいかない。〝魅了〟できない以上、思惑の邪魔になると踏んで先に対処したと考えられる。


「なるほどね。精霊魔法使い以外はその必要がない。〝魅了〟することができるから……」

「はい。放っておいても問題ないという判断かと」

「それならすでに、〝魅了〟されてる者もいるかも……ということね。それであれな訳だ……」


 エレは眠らされた護衛隊の方へ視線を送った。

 リオンとミルは眠った護衛隊を拘束し、ラットの鞄へと匿っていた。


「誰が〝魅了〟されているのか、わかりませんからね。問題ないとわかれば、解放して問題ないかと」


 そのときだった。


「エレ様、ご無事でしょうか?」


 護衛隊の隊長、ベルゼルがやってきた。


「眠玉の影響が薄まったのね。ちょうどよかった。あなたも聞いてちょうだい!」


(あれ? 風が吹いてたのかな? 思ったよりも早かったな……)


 ラットは何気なしに鞄からマジックモノクルを取り出して覗く。


 __マジックモノクル

 映るものの魔力量や魔力濃度を確認することができる魔具ルーリックだ。


(やっぱりこのあたりは魔力が溢れてるな〜)


 ラットはどの程度眠玉が薄まったのかを確認するため、辺り一帯を見回した。


 それを見たラットの額から、汗が滴る。


「エレ!! ダメです!!!」


 エレに迫る凶刃。


「あら、どうしたの……?」


 エレは気づいていない。

 ラットは跳び、エレを突き飛ばした。


 ズッ___

 凶刃はラットを貫いた……


 ……かように思われたが、

 ギリギリのところで、閃光がそれを弾いた。


 地面に叩きつけられるラット。

 凶刃は弾かれたが、ラットの腕を掠めていた。

 滴り落ちる血が物語る。

 

「危なかった……」


 急な事態に、ミルとリオンが駆け寄ってくる。


「おまえ、よくも邪魔してくれたな……」


 ベルゼルがラットを睨みつける。


 ラットがマジックモノクルを通して見たもの。

 それは眠玉の影響はまだ充分に残り続けているということだった。

 にも関わらず、ベルゼルは平然と近づいてきた。

 眠玉の影響を受けずにだ。

 もしこんなことを最初からできるなら、エレとともに戦っていたはずだ。

 しかし、それをしなかった。

 なぜか?

 なにかを窺っていたのではないか?

 例えば、エレが隙を見せる瞬間を___


「一応確認しますが、なぜエレを攻撃したのですか? あなたの護衛対象ですよね?」

「人の国では勇者が国を裏切ったそうだな。おまえはその勇者の仲間だそうじゃないか」


 ベルゼルはエレを襲った凶刃を操り、ゆっくりと、再び手元に戻す。


「エレもお前も疑わしい。そのままラットとかいうやつを殺していれば、疑いが晴れたものを」


 見下すように顔を上げ、次第に声を荒らげる。


「決定だ! 裏切り者め!!」


 怒りを露わにするかのように、憎悪に満ちた声で叫んだ。


「これから我々は、別の信頼をおける者に仕えることにする」

「別の……?」


 妖精やエルフは精霊の信仰が強い。

 特にこの街はその総本山となる場所だ。

 その中でも神子と呼ばれ、大精霊からも認められているエレは絶対的な存在となる。

 そのエレを超える者など、ここにはいない。

 考えられるとすれば、

 この魅了を振りまいている者。

 もしくは、

 その者にとって都合がいい者だ。


「まさか〝魅了〟されてるのはあなただったのね……。あなたほどの精神力の強い人が…………」


 ヒュンヒュンヒュン___


 エレもすぐさま事態を理解し、臨戦態勢をとる。


「ハァハァ……、ラット…………」


 ロックが影から姿を現す。


「怪我は……大丈夫か?」


 腕を押さえるラット。


「おかげ様で……。ロックの方こそ大丈夫なの?」

「ここまで来るのだって……やっとだよ」


 当然だ。まだ絶対安静のはずだ。それにミルからロックに助けられたとも聞いた。怪我と戦闘の疲れで、満身創痍なはず。こんなところにいていい状態ではない。


「ラットに……伝えておかないとまずそうだったからな…………。あいつらやばいぞ……」


 ロックの話では、遠目だがこちらの戦況はわかっていたようだ。お互いに遠距離を得意とするものたちだ。遠くの戦場を把握する術を持っている。


 エルフたちは、エレが倒れた後も急いで助けに向かうでもなく。ロックを殺すために戦闘を続けていたということだ。護衛対象が危険かもしれないというときにだ。


「エルフたち、全員ってことだよね?」

「ああ、全員だ。誰一人気にする素振りすらしなかった」

「確かにいるとは思ってたけど……」

「王都に続いてとはな」


 ベルゼルだけではない。エルフたちも落ちていた。となれば他の者たちは? ということになる。

 おそらくその予想は当たっているだろう。


 護衛隊は敵だ___



「せっかくのチャンスだったのに、まさかエレを殺し損なうなんて……。つくづく幸運に恵まれてるわね、精霊の神子ってやつは」


 普段おっとりしている風なのに、必ず二体は精霊が周囲を警戒しているから、抜け目がない。

 今回の戦闘でエレは多少なりとも消耗した。

 精霊たちは相対していた者たちがエレに危害を加えないかを警戒し、

 エレ自身は仲間が裏切ってないという安堵感から付け入る隙も生じていた。

 それなのに……


 __なんで、気づかれるのよ!


 エレに護衛隊が敵として認識された。

 エルフたちもあの子とロックにより、無効化された。

 魅了した妖精たちもその多くが捕えられた。

 残りの護衛隊は全体の三分の一程度。

 隊長のベルゼルがいるのだけが幸いというくらいだ。


 __ロックの魅了が解けて、フルーテンにきたのも予想外だったけど。あれほどこっちの計画通りに進んでいたのに、なんでこんなことになってるのよ!?


 これ以上、戦力が減る前に一気に押し切るしかない。



 ラットたちがベルゼルを警戒する中、ロックは真っ先に気がついた。

 あまい香りが漂ってきたことに。


(この香りは間違いない。〝イオナ〟のものだ)


 ロックは辺りを見回すが、姿は見えない。


「イオナ!! 近くにいるんだろっ? 姿を見せてくれないか?」


 ス___


 ラットたちの目の前に、一人の妖精族がやってくる。


「あなたはさっきラットくんに捕まったはずじゃ……」


 エレが答える。


「おっと、じゃあ、こっちならいいかい?」


 妖精は姿を変える。


「こっちならどうかな? エレ様っ!!」

「このエルフ弓隊の分隊長は?」

「女の子の方がいいですか?」


 その者は次々と声を変え、口調を変え、姿を変えていった。


「あなた、いったい……」


 やがて、一人の女性に変わる。

 くらりとするような香りの向こうで、薄紫の長髪がたなびく。額から生える小さな角に、腰のくびれを強調する魔性の羽。そして誘うように踊る尻尾が、極めつきだった。

 __サキュバス。


 見開かれた桃色の瞳が、エレに笑いかける。


「はじめまして、エレ様! 〝イオーネ・ラスト〟と申します」


 エレに対して、イオナ__否、イオーネは丁寧に挨拶を交わす。

 しかしそれは、勇者パーティの一人、精霊の神子という肩書きの相手と敵対することを恐れてのものではない。


 イオーネがロックに向き直る。

 

「ロック、ごめんなさい。〝イオナ〟はあなたに近づくために変化させていた姿なの。あなたに近づいて……殺すためにね」


 イオーネは不敵に笑い、ロックを挑発する。


「恋人の姿になれば、簡単に心を許して、すぐに殺せると思ったんだけど、ほんと苦労させられたわ。まさか逆に距離をとられるなんて思ってなかったから」


 指先で髪をかき上げ、わずかに首を傾けて見上げ。あざとく、ロックに語りかける。


「まっ、加護を持つあなたを魅了できたことは私も予想外だったけど、その後はいろいろ手伝ってもらえたから助かっちゃったけどね」

 イオーネは一瞬ロックに顔を近づけ、すぐさま距離を取った。


「イオーネさん、投降してはどうですか? ここにはエレや先ほどまで護衛隊と互角以上に戦っていたものが揃っています。ロックが怪我で戦えないとしても、あなたとベルゼルさんだけでは勝てないと思いますよ」


 ロックが何も言えない間に、ラットが説得を試みる。


「ふふっ、確かに二人だけでは厳しいかもね」


 だが、イオーネの表情に追いつめられている色はない。


「この眠玉だったかしら、なんでこのベルゼルちゃんがこの中で動けると思う?」


 そう言って、イオーネは振り向いた。


「護衛隊の皆さ~ん。愛の力があれば、〝睡眠〟なんて乗り越えられるわよ。戦って~~~」


 森に響く声、周囲を囲っていた妖精たちが眠玉の効果範囲内に入ってくる。


「ベルゼルだけじゃなく他の妖精たちまで!?」


「さあ、どうするの? 大人しくエレを明け渡してくれれば、あなたたちの命は助けてあげるわよ。〝魅了〟はするけどね♪」


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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