第73話 霊意の収束
パラパラパラ___
エレの精霊魔法による衝撃で上空に舞い上がった水滴が、雨となって降り注ぐ。
「ラット、感覚も強化してくれないか」
「多重使用しすぎると身体にかなり負担かかるよ。戦闘後に動けなくなるかも」
すでにリオンには、力と防御の強化を施している。一般的なアイテムとはいえ、あまりに多重に使用しすぎると身体への負担が大きくなってしまう。だからこそ、各能力ごとに分かれているのが強化薬だ。
「かまわないさ。さっきはたまたま気づけたけど、ありゃ、何度もできるもんじゃないからな。命の方が大事だ」
「わかったよ」
リオンも多重使用の負担は理解している。それでも、そうしなければならないということだ。実際に接近し刃を交え、そう感じたのだろう。
「あと、〝速力の水〟も貰えないか?」
「リオン!?」
「大丈夫。使わないで済むようなら使わないからさ。念の為だ」
〝速力の水〟を渡されたリオンは鞄にしまった。そのまま武器を構えなおす。
「リオン、僕も攻め方を変えるよ。感覚を強化されているなら、これを使っても邪魔にはならないと思うしね」
鞄から取り出したのは、紐で繋がる複数の玉。
「その玉なんだ? なんか、めっちゃあるな」
ラットは笑みを浮かべる。
「これはね。__だよ」
「おいおい、意味あるのか? それ……」
「あくまでもエレの気を逸らす程度だけど、効果はあると思うよ」
パラ__
降り注いでいた雨は止み、土煙が晴れていく。
「あら、避けられちゃってたのね……」
ヒュンヒュンヒュン___
エレが再度、祭具を構える。
「いくよ!」
「おうっ!!」
再び、リオンはエレの元に突き進んだ。
ギギンッ___ギン__ヒュッ__ギン__
迫りくる祭具をリオンは弾く。感覚を上げたことにより、死角からの攻撃にも迅速に対応できている。
「さっきのは威嚇のつもりだったんだけど……、いいの? 今度こそ死んじゃうわよ?」
「いや、あれ。威嚇って威力じゃないだろ……」
クスクス__
リオンの反応が面白いのか、エレは笑っている。
「くそ……、随分と余裕だな。だったら、ラット!」
ラットは手に持っていた玉をバンプガンに装填し、エレやリオンとは別の方向へと放つ。
エレは、リオンを正面に捉えながらも、横目でラットの動きを窺った。
「あら、ラットくん、どこに撃ってるのかしら。ちゃんと狙わないとダメよ?」
ラットはにやりと笑った。
「エレの方こそ、ちゃんと前を見なくていいんですか?」
「!?」
エレの目の前に突如として迫る玉__。
咄嗟に祭具を用い、切り伏せる。
一瞬の隙。
リオンが飛び込むように剣を突きつける。
ギーーーーーーーーン
受けられた。
だが、リオンはさらに力を込め、一気に押し込む。
エレはギリギリのところでそれを躱した。
「エレさん、笑顔が消えてるぜ」
リオンに言われ、笑う。
しかし、余裕に満ちた笑顔は、苦笑へと変わっていた。
「今、何をしたの? ……!? しまった。ラットくんはどこ?」
今までエレはラットを警戒しながら、リオンの相手をしていた。
祭具を操り、攻撃を躱しながらも、必ずラットを視界に収めていた。
だが、今、リオンの攻撃で見失った。
追撃のように四方から迫りくる玉。
エレは避け、祭具を操り、それを破壊した。
「なんでこんな四方から?」
エレは戸惑っているようだ。ラットがそれほどの速さを出せないことは知られている。だからこそ、なぜ四方から攻撃されているのか、エレは理解できないはずだ。
ラットが使用しているのは、ただの〝ゴム弾〟だ。木を利用して跳ね返させる。時には直接狙う。そうして四方からの攻撃を可能にした。
当たってもダメージにはならない。だが、今までラットは、捕獲弾や粘着弾を利用して攻撃していた。だからこそ、エレには攻撃を阻止するべきだと思わせることに成功していた。
ラットの姿は見つからない。
ゴム弾による四方からの攻撃。
そして、リオンの強化された一撃。
エレの思考は散漫になり、とうとう……。
ギィーーーーーーーーン
ドッ
「きゃっ」
防御こそされたが、祭具ごと押し切り、エレを弾く。
はじめて、エレにダメージを与えた。
「やってくれたわね。ラットくんも見つからないし。こうなったら……」
リオンに手を掲げ、叫ぶ。
「護衛隊! 〝ライト〟よ」
エレの掛け声のもと、眠玉の範囲外から二人が逃げられないように囲んでいた護衛隊が一斉に魔法を使用した。
<輝き照らせ__ライト>
「ラットくんは目眩しをよく使うでしょ。でもね。それってラットくんの専用ってわけじゃないのよ」
必ず近くにいるはずだと確信しているらしいエレは、ラットにそう呼び掛けた。
一帯は光に呑み込まれていく。
ラットとリオンは目を細め、追撃を警戒する。
しかし、一向にその気配はない。
やがて光が収まるが、エレの姿はなかった。
「ラット、上だっ!!」
真っ先に気づいたのは、感覚を強化したリオンだった。
ラットは頭上を見上げる。
(いたっ!)
上空にエレはいた。
集められた巨大な水球とともに……。
(ラット、おいあれ……)
(うん、中級魔法だね)
(初級であれだけの威力なのに!?)
(きっと僕の居場所がわからないから、一帯を押しつぶすつもりなんだと思う)
(早く逃げないと……!)
(いや、大丈夫だよ)
当たることはない。
(だよね?)
問いかける。
(……任せて)
ミルに!
<水塊の力によって押しつぶせ__ソル・アクアフォ……>
ドッ___
割り込んできたミルの拳が、エレを捉えた。
魔力が乱れ、水球が崩れ落ちる。
「なん……で。護衛隊は?」
落ちるエレの顔色は、とうとう青ざめていた。
余裕も失うはずだ。エレは戦闘に参加できずとも、包囲させ、二人を逃走させないようにしていた。しかし、役割はそれだけではない。戦闘の邪魔をされないように、外へも警戒をさせていた。にもかかわらず、ミルを侵入させ、あまつさえ攻撃を許してしまったのだから。
エレは墜落しながら護衛隊を見る。
「あれは……」
自慢の護衛隊は、動けない。白い塊が纏わりついており、武器の操作を不可能にしていた。
〝魔力粉〟__。それが、ラットがミルに渡していたもう一つのアイテムだ。
__魔力粉
魔力に反応して集まり、硬くなる粉だ。
身体に流れる程度の魔力ならば、ほとんど効果はない。
だが、魔力で武器を操作したりなど、
魔力を集めたところに、これを振りかけるとそのまま固まる代物だ。
主な用途としては、拘束や臨時の武器の作成なのだが、
用途により合った適切なアイテムはそれぞれ存在する。
そのため、使っている者はほとんどいない。
ミルはこの魔力粉をすれ違いざまに護衛隊にぶつけ、行動不能にさせていた。護衛隊が利用するアクアスパイラル流派は、魔力によって武器を操作する流派である。ぶつけられただけで魔力に反応して固まってしまうため、天敵ともいえるアイテムだ。
エレは身を翻して落下を阻止する。
上空から追い打ちをかけてくるミルを、操った祭具で攻撃する。
そのときだった。
ぐにゃ~~~~~~~~~~~~~~
エレの身体が、ふらついた。
上か下か。方向感覚を見失ったように、揺れ動く。
「なに……これ…………」
何とかその場を維持しようとするが、一度狂ったバランスは直らない。
「どっちが上なの……?」
あえなく落下していくエレ。
その身体を、ラットは優しく受け止めた。
包み込んだ。
「大事ないですか?」
掌の上で。
「話……聞いていただけませんか?」
状況を理解しただろう彼女に、伝える。
度重なる願いを。
「もう……。しょうがないわね…………」
ようやく、聞き入れてもらうことができたんだ___。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
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引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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