第72話 相対する精霊の神子
撃ち落とされた無数の矢。森の中、その残骸が木の葉のように舞っていた。男は木の影から、赤い髪を揺らしながら、ゆっくりと現れる。
勇者パーティの一人〝ロック〟だ。
「危なかったな、お嬢さんっ!」
足がふらつく。ロックは木に寄りかかり、精一杯の虚勢を張った。
「戦場での焦りは命取りだぜ。アイテムを使用するときの隙も大きいな」
対人戦に慣れていないということか?
目を見張るものは確かにあるが、素人感が時折見え隠れする。
しかしロックを追い込んだときの冷静さ。あまり焦るタイプには見えなかったが。
今回は冷静さに欠けていたように見えた。
「焦って……ない……」
強がりをいうタイプにも思えないが、焦っていたように見えたのは気のせいか?
ラットなら切り抜けられると判断して、エルフたちの相手をするように送り出したはずだ。
つまり、ラットはこの子の実力を見誤ったということだろうか?
「ただ……危険なときは自分だけ残るって…………」
……ハハ…………
ロックは理解した。
「安心させるために言ったことなんだろうけど。乙女心ってのをわかってないぜ、ラットは。まっ、その辺は未熟ってことか」
ロックは含み笑いをしながらミルを見る。
「……?」
「それにしても驚いたよ。まさかあの護衛隊を相手どって、生き残っただけじゃなく、三分の一まで削り倒すとはね!」
それだけではない。
やはりラットの予想では倒しきれると踏んでいたと思う。
ただ、一つだけ想定できていなかったことがあったのだろう。
「まっ、状況は理解したぜ。とりあえず、嬢ちゃんはラットたちの元に戻ってやりな。ここは俺が片づけておくからよ。正直なところラットたちの方が危険だから、力を貸してやってくれ」
「一人でできるの……?」
「心配してくれるのかい? でも、不要さ! この距離は俺の距離だぜ、嬢ちゃん」
相手は無数の弓使い。こちらは魔銃。さしずめ射撃対決だが、同じ遠距離を得意とするもの同士、ここは負けられない。
「怪我……。負けたらラット困る……」
「お、おぉ、そっちの心配か……。まぁいい。お嬢さんがだいぶ減らしてくれたからな。五分五分さ」
(正直、結構きついけどな……)
手は震え、身体はふらつく。目は霞み、視界がぼやける。
とはいえ……。
とんでもない借りをつくっちまったからな。
ここで少しでも返しておかないと返しきれない。
任されてやるよ、ラット!!
「安心しな嬢ちゃん。こう見えて何度も死線は乗り越えている。しっかりと任されてやるよ。ラットの仲間としてな」
「…………仲間なら……信じる」
ミルは飛び立った。
入れ替わりでエルフたちが近くの枝まで飛び移ってくる。
「逃がしたか……。正直、これだけやられて逃げられたら、面子に関わるんだが……。しょうがない…………」
目線をロックに送る。
「目の前にこんな大物がいる。これで帳尻を合わせることにする」
弓を構えるエルフたち。
「なかなかやるだろう? あの嬢ちゃん。俺も一杯食わされた口さ」
「ロック・スネイク……。大人しく病室にいればよかったものを」
「おまえたちとはどっちが上か、白黒つけたかったからな。せっかくの機会だ。勝たせてもらうぜ」
「それだけの怪我でなにを言う……」
「お互い様だな。人数をかなり減らされて、得意の物量も半減だ」
ロックも魔銃を構えた。
「放てっ!!」
合図と共に放たれる。
迫り来る無数の矢を、満身創痍のロックが迎え撃つ。
視界はボヤけ、身体は重い。満身創痍は否めないが、まだまだぬるいかな……。
こんなもんじゃなかったぜ。
四天王……。そして、魔王はなっ!!!
*
その頃、ラットとリオンの戦場では、接近戦の応酬が展開されていた。迫りくる六つの祭具を二人で捌く。
リオンは、ラットとの会話を思い出していた。
__エレとの接近戦の壁は、六つの祭具による手数の多さとその多彩さだね。
大剣が火
三又の矛が水
槌が地
サーベルが風
レイピアが光
三日月刀が闇
それぞれの武器に精霊が宿っていて、互いに連携し合って襲ってくるよ。リオンなら怖さがわかるよね。
ああ、それぞれの武器で対応の仕方が違うってんだろ? それにしても、三日月刀って……。とんだ掘り出し物だぞ。
まあ、祭具は昔から伝わる伝統的な武器だからね。そういうものもあるよ。
造ったことがあるくらいで、騎士団でも使うやつなんていなかったからな。戦ったことなんてないぞ。
造ったことはあるんだね。
ラットの言う通りだ。
手数の多さだけではない。武器ごとに対応の仕方が違うことは理解していたが、実際にやるとなると難儀だ。常に正解を求められる。
軽い武器と重い武器の速度の違いは防御のタイミングをずらされる。大剣や槌はまともに受けたら武器ごと持っていかれるし、矛は受けるのが難しい。攻撃の軌道が違うレイピアもだ。
それぞれの武器の違いを意識していなかったら、簡単にやられるところだった。
だが……。
__妖精族が使用するアクアスパイラル流は手にもたない分、速度や可動域に優れてる。
その代わり、力を込めることが難しいんだ。
つまり、力はこちらに分があるよ。
力主体で攻めていこう。
気をつけなければならないのは、やはり大剣と槌。元々魔力のないリオンでは、強化薬をつかっても受けきれない。だが、それ以外は力で十分に対処できる。まとめて弾くことができるからだ。
ギン__ギギギンッ___ヒュッ__ドッ_____
リオンは無数に迫る武器を弾きながらエレに迫ろうとする。ラットもバンプガンを使用して援護した。
エレの手に合わせ、祭具が飛び交う。
エレは自身の目の前までリオンを誘い込み、その背後、死角に祭具を回り込ませて攻撃した。エレの目線で察し、咄嗟に後ろへと跳び退き、躱す。
ドッ__ドッ__ドッ____
追撃をかけるエレの攻撃を、ステップを踏みつつ避けていく。
しかし、エレの元には三俣の矛が残されていた。
距離ができたことで、魔法を使用する隙を与えてしまった。
魔力が収束し、輝きだす。
<切り払え__アクアソード>
ザアアァァァ____
使用された初級魔法により水が集まり、形を成す。
しかし、それは初級魔法とは言い難いほどの剣だった。
「おいおいおい、なんだあれ……」
その圧倒的な大きさに、リオンは呑み込まれる。柄を握る力が、思わず抜けてしまうくらい。
「放って!!!」
エレが精霊に合図を出す。
次の瞬間、水の大剣はリオンに向かい放たれた。
「いけないっ!」
ラットの叫び。
我に返って剣を握り直す。
バシュ!
ダメージを覚悟したリオンの背後で、射出音が響いた。
ペタッ
背中に、何かが張り付いた。
冷酷な刃は既に目の前に迫り来る。
「おわっ!!」
直後、思い切り引っ張られた。
ドッオオオオオオォォォォォォォォォォン___
流れる視界の隅で、爆散する水飛沫。
ワイヤーガンにより辛うじて軌道の外に出たリオンは、尻もちをつきながら、あまりの威力に呆気にとられた。
「まじかよ……」
見慣れた初級魔法のはずだった。しかし、発生した水の剣の規模は中級魔法のそれを超え、その威力は地面を抉り、激しい爪痕を残していた。
もし、ラットに助けられていなかったら……。
ダメージどころではない。影も形も残らなかっただろう自分を想像し、震え上がる。
パラパラ___
衝撃で上空に舞った水滴は雨となり、森に降り注ぐ。
__精霊魔法の威力は初級でも危険だよ。
従来のそれとは、同じものと思わないでね。
再度、頭を過るラットの言葉……。
「こういうことだったのか………」
ロックもそうだけど……
勇者パーティは、どいつもこいつも弱点がないのか?
汗に塗れる手で、リオンは再び剣を強く握りしめる___
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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