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第71話 迫り来る群衆の豪

 辺りではエルフや妖精たちが今にも攻撃を始めようと開始の合図を待っている。目の前では、エレがベルゼルへ何かを伝えている状況だ。滴る汗。日が暮れ始めた冷たい空気。ラットは周囲を警戒したまま、マナベルに手を当て、魔力を込めた。


(ミル、リオン、……聞こえる?)

(おい、どうすんだよ……これっ)


 暗躍している者がいる以上、仲間同士で消耗したくない。だが……。


(エレを説得したいかな……。だけど、おとなしく投降は危険だと思う)

(じゃあ……)

(なんとかエレだけでも無力化しよう)

(こんなに囲まれた状態でできるのか?)

(正直なところ、かなり危険な橋を渡ることになると思う)

(おいおい、マジかよ……)

(大丈夫だよ。本当に危険なときは奥の手がある。みんなは絶対に逃すから、安心して!)

(みんなは、ってなんだ……?)

(エレの身に危険が迫ってる。そのときは、僕だけ残って説得してみるよ)

(おっと、これは気を引き締めないといけないな。ミル!)

(ん、そんなことさせない……)


 頼もしい。戦いに臆病な筈のリオンからも、その声色から熱い意志を感じる。しかし、危険な状況なのは変わらない。


 エレの能力。妖精たちの流派。エルフの弓。

 何よりも、圧倒的な戦力差。

 対してこちらがとれる行動は……。


 ラットはマナベルに向かい、言葉を告げた__。



「はっ!」


 ベルゼルが同意の声と同時に、隊士たちの元へと飛び立つ。顔はエレを捉えたまま、横目でそれを確認する。どうやら何かの伝達だろうか? この行動に殺気は感じられない。

 目の前のエレは、祭具を旋回させ、臨戦態勢に入った。


 ヒュンヒュンヒュン___

 エレが片手を上げる。


 一瞬の間___。

 目を閉じ、そして開かれたその目は〝精霊の神子〟が敵と相対したときのそれだった。


 ヒュンヒュンヒュッ……

 エレが手を振り下ろしたと同時に、旋回していた祭具はラットたちの元へと放たれた。


 ギギギンッ!

 弾ける金属の音。リオンが三つの祭具を弾いた。


 スッ___

 抑えきれなかった祭具が、リオンを通り過ぎ、ラットの元へと向かう。


「そっち行ったぞ!」


 リオンの掛け声に反応し、ラットは横へ飛び退いた。転がりながら鞄から薬品を取り出し、着地と同時に投げる。


 パシャ___

 リオンには力と防御を。ミルには防御と速度を。それぞれ高めるために、強化水を使用した。そして、もう一つの薬品も。自身にも使用した。


 続けて、ラットは二つのアイテムを取り出す。一つはミルに投げ渡し、もう一つはそのままに。使用の機を窺った。


「では、手筈通りに!」


 タタタ___

 ミルは走り………


 ドッ___

 飛び立つ。


「あら、一人行っちゃったわよ。逃がすつもりかしら? ただでさえ人数差があるのに、さらに減らしちゃってよかったの?」


 ラットたちへと手をかざし___


「護衛隊っ!!!!!」


 合図を送る。


 ザザザ___

 重なる羽根の音。それはもう神秘さなど、微塵も感じさせない。傍から見ているだけでも悍ましさを感じるそれは、これから襲われようとする者たちからすれば、恐怖しか感じないだろう。


 ザザザザザザ______

 圧倒的な手数。本来一人に対して、取り囲み一度に相対できるのはどんなに多くても三、四人が限界だ。だが、目の前のこれらは何人いるかもわからない。妖精と、操る武器の群衆が四方からラットとリオンに襲いかかる。


 ザ________ッ

 迫り来る妖精たち。しかし、ラットは冷や汗を流しながらも笑みを浮かべていた。


(来い。来い。もう少し……。今だっ!!)


 ボッ!

 ラットは持っていたアイテムを地面に叩きつけた。広がる煙。しかし、姿を隠す類のものではない。


「リオンっ!」

「あぁっ!!」


 ラットの合図とともに、リオンはエレに向かい、直進する。妖精たちの一部もそれに呼応して旋回し、エレの横を通り過ぎ、リオンを正面から迎え撃つ。


 リオンは構わずにその群衆へと突っ込んだ。強化水で防御力を上げ、急所を剣で守りながら突っ込んだとはいえ、そんなことをすれば、本来なら妖精たちの剣技でズタズタにされる。ところが、突っ込んだ勢いのままに、リオンの身体に武器が当たるだけだった。


 何が起きてるの? エレの顔は、そう言いたげだ。

 群衆を抜けたリオンには、武器が当たった擦り傷こそあれ、ダメージはない。


 ギッギン___

 エレがリオンを迎え撃つ。


「みんな、何をしているの!?」


 エレの呼びかけに群衆は沈黙している。いや、リオンを通り過ぎたあと、その群衆は次第に失速し、地面へと霧散した。それだけではない。ラットを襲っていた筈の群衆もだ。


「いったい何が……?」


 リオンを相手取りながら、エレは目を凝らす。妖精たちは皆、眠りに落ちていた。


「まさか、この煙!?」

「エレは加護で守られてますからね。気づかなかったでしょ? 眠玉です」


 ____眠玉。

 状態異常〝睡眠〟がこめられているアイテム。

 叩きつけることで、魔力がこめられた煙が一定範囲に広がっていく。

 その煙を体内に取り込むことで、状態異常〝睡眠〟となる。


 ____状態異常〝睡眠〟。

 魔力により思考を停止させて眠ったような状態にする。

 実際に眠っているわけではないため、本来の睡眠の効果はない。


「つまり、あなたたちが無事なのって」

「もちろん耐眠の水を使ってます」


__耐眠の水

状態異常〝睡眠〟への耐性を付与する。


「やられたわね。護衛隊が一気に……」

「話を聞いていただけるでしょうか?」

「なにを言ってるの? まだ弓が…………。!?」


 エレの言葉が途切れる。


「そういうこと……」


 気付いたようだ。


「いいわ。乗ってあげる。そもそも私一人で十分だもの」


詠唱のためにエレが引き寄せた祭具を、


 ____ギンッ。

 リオンの刃が、弾いた。


「負けませんよ。必ず話を聞いてもらいます!」



 ゴォォォォォ________

 風を抉り、空中を突き進むミル。


「逃げるつもりか?」

「させないぞ!」


 妖精たちが行手を阻むが。


 ドッ____


「な!? まだ速くっ!」

「避けきれんっ」


 ヒュッ……


「通り過ぎた……?」


妖精たちを追い抜いたミルは、一直線に目指した。


「……いた」


 弓使いの元を。


 飛び出す前、ミルはラットから伝えられていた。


 ____ミルには、眠玉の範囲外から攻撃ができる弓使いを止めてほしい。


 ……と。


木々の上から、枝葉の障害物をものともせずに放たれる無数の矢。

エルフたちの殺意がミルに降り注ぐ。


エルフの弓は数ある種族の中でも圧倒的だ。

数百メートル先の的さえ撃ち抜く芸当を、当たり前のようにやってのけると聞いている。

 命中力だけではない。風を読み、相手の動きまで予測し捉えてくる。

 浴びせられる。隙のない、矢の豪雨を。


だが。


 ____大丈夫。


 蘇る、ラットの声。


 ____確かにエルフたちの弓はすごいけど、ロックの弾幕を避け切ったミルならそう簡単には当たらないよ。


 ミルは避け切った。

 魔銃から繰り出される、弓よりも射速が速い、勇者パーティが誇る弾幕を。


 キィィィィーーーーーーーーーーン


 空気を切り裂く音が響き渡る。

 ミルの残像に突き刺さる矢。


「速い!?」


 弓使いたちの想定。

 その遥か上を行く速度。

 一瞬で弓使いの元に辿り着く。


「ぐぁっ!」

「ぐぅ……!」


鉄鋼ガントレットで、一人、また一人と無力化していく。


「妖精たちには目もくれない? 狙いは私たち(弓使い)か!?」


 そう、妖精たちには目もくれない。

 速度で置き去りにされる妖精たち。

 狙うは、弓使い。エルフのみ。


「落ち着けっ! 相当速いが直線的だ。予測しろ。挟み込め。範囲を広げろ!!」


 しかし、相手は精霊の神子を護る熟練の軍団。ミルの動きにも、すぐに対処してきた。


 包囲され、逃げ道が徐々に塞がれていく。

 いよいよ逃げられない。

 追い詰められたそのとき。

 ミルはラットに渡されたものを鞄から取り出した。


 ____もし対処され出したら、これを使って。


 ラットの言葉に従い、舞い上がらせる。

 瞬間、ミルを喰わんとする影が消し飛ぶ。

 青空に咲き誇った、真っ白な大輪に。


「ソルミナ……」


ミルは光の中を疾駆した____


「くそっ、見えない!」


 潰される視界。エルフたちは辛うじて薄目を開け、弓を構え標的を探す。


「どこにいる!?」


 フッ……

 突如として現れるミルの姿に……。咄嗟に腰のナイフを振り回すが、狙いの定まらない闇雲な軌道など、ミルの敵ではない。


 弓使いたちを次々と気絶させていく。


「舐められてたまるか。我らは誇り高き護衛隊シルヴァンガードだ。こうなれば……」


 ミルの前に一人のエルフが現れる。

 否、待ち構えていた。

 だからこそ、取り押さえられた。


「捕まえた! お前たち、私ごと撃ち抜け!!」


 ミルにしがみついたエルフは、自身を矢の雨にさらそうとしたが。


 ぐっ___


「なんだ!? この力は! お前みたいな少女に出せる力じゃ……ぐあっ」


ミルは拘束を無理矢理引き剥がし、木へと叩きつけた。


 駆ける、また駆ける___

 光の世界を、ミルは自由に駆け抜けた_______。


 ___やがて魔力は尽き、ソルミナは枯れていく。


 ミルを隠すものはなくなった。そして、


 ガクッ


 ミルもまた、先を急ぐ無理な魔力の消費で、尽きかけていた。

 鞄から魔力ポーションを取り出し、飲もうとするが___


 一矢が小瓶を貫き、割れた。


「やっと追い詰めた……。まさか少女一人に、これほどやられるとは……」


 弓使いたちが構え、一斉に放つ。

 豪雨が、今度こそミルを沈めようと迫り来る。

 が。


 ドッ_____


 殴り込んできた閃光が、吹き飛ばす。


「おいおい。よってたかって一人の女の子をいじめるなんて、どういう了見だい?」


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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