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第68話 偽りの居場所

 ロックは、何度も接客し、何度も会話を重ねていくうちに、少しずつ惹かれていくのを感じた。

 イオナも戦争で大切な人を亡くしたようだ。今はその人が守ってきたものを、今度は自分が守っていこうと思っている。惹かれたのはそういう健気なところだ。決して、声や仕草だけではない。


 イオナはどうやら勇者パーティに属していたロックに一言、文句を言うつもりで、ここへとやってきたらしい。

 吸血鬼たちは軽い性格と見る者も多い。だから、気まぐれのお遊びで勇者パーティに与したのなら、寝首をかいてでも殺してやろうと思っていたようだ。


 だけど、それもバカらしくなったと話していた。本心を話してくれたように感じた__。


「俺はな、こう……、サキュバスの姉さんのような色気のある女が好きなんだよ」

「なによ……。吸血鬼の私には色気が足りないっていいたいわけ?」


 ハハハハハ___

 二人は次第に打ち解け始めた。


「最近のあいつ……」

「ああ、よく笑うようになったぜ」

「これも姉さんのおかげだな」


 イオナは従業員や他の客からは、面倒見の良さから〝姉さん〟と呼ばれるようになっていた。


「ここに帰ってきたときは酷い顔をしてたもんな。強がってはいたけど」

「無理もねえさ。魔王になれば軍も退かせられたし、勇者と協力して、風と火の国で和解もできたんだ」

「実際は、軍はロックを魔王と認めず、退いた頭のいい連中以外は全滅した……からな…………」

「それから、魔王が倒されたのをいいことに、風の国が火の国に侵攻して、〝国境の村フリンメル〟が滅んだらしいしな」

「聞いたぜ。そうとう酷いらしくてな。女も子供も残らずだって。今じゃ死霊系の魔物の巣窟で〝屍火の村フリンメル〟なんて呼ばれてるみたいだぜ」

「全滅はロックを魔王と認めなかった四天王の側近連中のせいだし、自分をそこまで責めなくてもいいのにな」

「ああ、あいつはよくやったよ。魔王を倒した後もしばらくは勇者たちと仲裁にまわってたみたいだぜ」

「かといって誰も奴には感謝しない。悲惨な状況も見てきたし、罵声を浴びせられたとかってのも聞いたな」

「それが今じゃ、声を上げて笑ってる……か」

「ああ、よかったよ」


 フッ

 来ていた客たちも笑った。


「おい、ロック!」

「イチャついてないで、注文頼むぜ!」

「酒だ、酒!!」

「おい、お前ら……。酔って店を壊すんじゃねえぞ!」


 店の中は笑い声で包まれていた。



 しかし、その日常はいっときのものだった__。

 ロックはイオナから距離をとるようになっていた。


「ねえ、ロック。あなた、私のこと避けてるわよね」

「そんなことないさ」


 なんの興味もない。そんな空返事をして、ロックはその場を立ち去ろうとする。

 だが……。


「あるわよ! ほら、今だって!!」


 そういってイオナはロックの行方を阻んだ。


「やることがあるんだ……。忙しいんだよ」


 ロックはイオナの目を見ようともしない。ただただ、うざったそうに、イオナを避けようとする。


「やることって何よ!!」

「店の帳簿をつけたり……とかな」

「そう……。頼めるかしら?」


 イオナが叫ぶ。


「はい! イオナさん、任せてください! 店長、やっておきますね。ごゆっくり〜」


 物陰からレストランの従業員。ウェイトレスが飛び出してきて、了承し颯爽と去っていった。

 ロックは一瞬のできごとに、口を開け、驚きを隠せない。


「他には何かあるかしら?」

「おまえ……、囲い込みやがったな」

「あら、みんな喜んで協力してくれたわよ」


 このときにはすでに無愛想に沈んだ顔は、動揺の表情に変わっていた。


 ハ〜〜〜〜

 そして、大きく息を吸い込み、ため息を吐いた。


「わかった! なにをやってもダメそうだ。話してやるよ」


 ロックは了承した。


「まだいるんだろ? イオナとはちゃんと話すからお前らは仕事に戻れ!」


 ロックの話に安堵したのか、物陰から従業員たちが出てくる。


 ぞろぞろ__

 休みだった者たちもだ。


「おい、やり過ぎだろ……。店に誰もいないだろ……これ………………」

「あら、大丈夫よ。囲ったのはお客さんもだから。今はゆっくりとくつろいでくれてるわ」


 ロックは呆気にとられていた。


 ク__ハハハ____


「負けたよ。完敗だ!」


 ロックは笑う。

 しかし、すぐに沈んだ表情になった。


「……面白い話じゃないと思うぜ?」

「わかってるわ」


 イオナもうすうす勘づいていたのか、真剣な表情になった。



 ロックの口から話されたのは、前の戦争で亡くなった恋人。〝ミアンダ〟の、死ぬ間際の話だった__。


「ロック・・・私はもうダメみたい」

「おい、まだ諦めるな。鬼族の体力なら・・・」

「無理よ。内臓だって潰れてる。これだけの怪我、いくら鬼族でも助からないわ」

「くそ、ふざけるなよ……俺はお前が!」

「ロック、聞いて! ……お願いがあるの?」

「なんだ!?」


 ロックは動揺しながら聞き返した。


「私たち鬼族の一生は長い……。うぅ……」


 痛む怪我を押し殺し、言葉を続ける。


「あなたを……独り占めしたい気持ちはあるけど…………、私はあなたに……幸せになってほしいの…………」

「おい、もうよせ。死んじまう…………」

「気持ちの整理がついたらでかまわないし……私を忘れてもかまわない……。素敵な人を探して……幸せに…………なってね…………」


 言い終わると同時に腕は垂れ下がり、力は抜け、崩れ落ちた。


「あああああぁぁぁぁぁ、ミアンダ! ミアンダあああああぁぁぁぁぁーーーーー」



 __ってことがあったんだ。

「……やなこと思い出させちゃって悪かったわね」

「いまさらだよ」

「だけど、なんでそれが私を避ける理由になるわけ?」

「似てるんだよ」

「……」

「赤い髪やその顔……。見た目だけなら、最初こそ驚いたが、気にはしなかった…………」


 ロックは後ろを向き、空を見上げる。


「だけど、性格じゃない、もっと根っこのところ…………。自分のことは横において、他人のために尽くすところが似てるんだよ」


 片手で目尻を強く掴む。


「どうしても、おまえと話してるとミアンダのことが頭をよぎっちまう」


 下を向き、続けた。


「だから……おまえじゃダメなんだ」


 昔の恋人のことを重ねて接するなんてできない。ロックはそう考えていた。


 は〜〜〜

 イオナはため息を漏らした。


「なるほどね。あんたの言い分はわかったわ。私のことを考えてくれていることも」

「なら、もう俺に近づくな……」

「かまわないわよ」

「あ?」


 理解できなかった。目を合わせないようにしていたのに、咄嗟に見てしまった。


「いいじゃない。ミアンダさんのことを好きなだけ考えたら。それと一緒に、私のことを見てくれれば、私は構わないわよ」


 ロックの顔に、イオナは自分の顔を寄せる。


「世界中の女性を幸せにするんだっけ?」


 ニシシ___。

 イオナは笑う。


「だったら、ミアンダさんの想いを持ちながらでも、私一人を幸せにするくらい……わけないでしょ!」


 その言葉を聞き、ロックは心の楔が解けたような感覚になった。




 ザザ__

 だが、その感覚とは逆に。



 ザザザザザ_____

 ロックは意識が侵食されるような……そんな感覚を覚えた。



 ザザザザザザザザザザザザザ________

 ……思えば、このときからだろう。魅了にかかったのは。





 次第にイオナへの認識に靄がかかり、彼女の言うことはとにかく正しい。どんなことでも疑うことなく、真に受けるようになっていた__。


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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