第67話 恋人の面影
エレと護衛隊が森の探索を始めた頃、ラットたちはロックが目覚めたという報告を聞き、病室へとやってきていた。
ロックはベッドで体を起こし、治療をしてくれていたエルフや妖精たちと会話をしていた。
「ねえねえ、そこの妖精のお嬢さん。ずっと看病してくれたの知ってるよ。お礼したいからさ、俺とデートでもどう?」
起きてからずっとこんな感じなのだろうか?
ただただ、ロックは無視されている。
「エルフのお姉さん! 俺、お腹減っちゃったな〜。お姉さんに食べさせて、ほ・し・い・なっ!!」
ラットはロックの横にスーッと移動する。
「僕が食べさせてあげようか?」
「おわっっっっ!?」
ロックは叫び声を上げた。
「なんだ。ラットか。ビックリさせるなよ。傷に響くだろ?」
「いや、自業自得だよ!? なにやってんのさ」
「目が覚めたら、天使たちがいっぱいいたんだ。そりゃ〜、話しかけずにはいられないだろ?」
「そう……」
くいっ__
ラットの眼鏡が怪しげに輝く。
「ミル……。ロックが天国をご所望みたいだよ。連れていってあげられるかな?」
「なんだラット。わかってるじゃないか。あの胸に包まれたら、そりゃ……」
ロックに影が落ちる。
ロックが見上げると、ガントレットを拳にはめたミルが大きく拳を振りかぶっていた。
「うぉおおおお、ちょちょちょ、ストップストップ。俺が悪かったって……」
ミルは拳を下ろし、ラットの後方へと下がっていった__。
「悪ふざけが過ぎるよ、ロック。目が覚めたばかりなのに……」
「悪かったよ! ……ほんと……悪かった…………」
「まあ、元に戻ってよかったよ」
「お前たちのおかげだよ……。感謝してる…………」
ロックは深々と頭を下げた。
「ほんとに、お前を殺すことにならなくてよかった……」
ポタ_____
シーツに水滴が落ちる。
ロックの拳は強く握られていた。
少しの間、時が過ぎる。
そして、ゆっくりと頭を上げた。
「正気に戻ったのは、やっぱり最後の攻撃で?」
「ああ、そこの坊主にやられたときに、頭の中に掛かっていたモヤが晴れたように感じたよ」
「もう大丈夫なの?」
「魅了はな……。だけど頭の中は……結構ぐにゃぐにゃしてる…………」
長期間、魅了されていた影響もあり、精神的にも疲弊しているようだ。無理をしているのが見て取れる。座っているだけなのに安定しない。
「そんな状態でナンパしてたの……? ほんと無理はしないでよ」
「つい……な…………」
ロックの目が泳いでいる。
「傷の方は?」
「もう回復魔法で塞がってるな。だけど、〝完全に〟ではないらしいし、体力や魔力も戻ってないな……。正直、座ってるだけでもキツい」
「そう……。だったら早く休んだ方がいいよね。様子を見れたし、僕たちはこの辺で…………」
ラットが病室を出ようとした、その時だった。
「待て、ラット」
ロックが呼び止めた。
「俺が魅了されるまでの経緯…………。知りたいだろ?」
ロックは、魅了されるまでの成り行きを話し始めた__。
*
魔王を倒し、ヒーロたちと別れたロックは、もともと住んでいた吸血鬼やサキュバスが集まる〝焔影の街イールリヒト〟へと戻っていた。イールリヒトは火の国でも異質で、いわゆる夜の街だ。
ロックは自分が経営するレストランで、自らもウェイターとして働いていた。
「おい、ロック。お前、風の国の奴らと組んで、魔王さんを倒しちまったんだろ? お前が次の魔王にならなきゃダメじゃないか」
レストランに客として来ていた吸血鬼がロックへと話しかけた。
火の国では、国で最も強い者が魔王となる。倒された魔王も、その前の魔王を倒し、力を示したことでその地位についた。本来なら魔王を倒したパーティの一人であるロックがその座に着くべきだった。
「本来はな……。だけど、倒したのは勇者だ。俺じゃない。誰も言うことなんて、聞こうとしなかったよ」
「軍の奴らは血気盛んだからな〜」
「それでも頭のいい奴らは、早々に戦線を離脱したんだけどな。問題はオーガとか頭の悪い連中だよ。次の魔王になるために、勇者を殺すとか息巻いて突っ込んでったよ」
「あー、やだやだ。これだから連中とは相容れないんだ。もっと俺たちみたいに柔軟にならないと……なっ!!」
ロックに話しかけていた吸血鬼は、サキュバスのウェイトレスに抱きついた。サキュバスも〝キャー〟と言いつつも満更でもない。
「おい、やめろ。うちの従業員に手を出すな。みんな、俺の女だ。盛るならちゃんとそういう店に行け!!」
「お前に言われたくないぞ……」
吸血鬼は呆れている。
「俺が夜の店じゃなく、レストランを経営してる理由がわかるか? 独り占めするためだよ!!!!!」
ロックは店の真ん中で叫んだ。
しかし、その叫びは虚しく響くだけだった___。
*
それから数ヶ月が過ぎ、国全体で戦闘の騒ぎも落ち着き出した頃、一人の吸血鬼の女が店に通い出した。
「おい、あれ……」
「言うなっ。あいつのわけないだろ。別人だよ」
ロックの語尾は強い。
その女は戦争に巻き込まれ、亡くなったロックの恋人に似ていた。だからこそ、内心では本当に驚いた。もしかしたら生きていたんじゃないかと……。だけど、そんなわけはない。恋人はロックの腕の中で亡くなったんだ。理解していたからこそ、それを振り払うために声に力が籠ってしまった。
女のことは鮮明に覚えている。ロックと同じ赤い髪の女。香水の香りだろうか、いつも甘い香りを漂わせていた。だが、似ているだけだ。違うのだ。ロックはその女を避けていた。変に恋人に重ねたくなかったし、意識もしたくもなかった。相手にも悪いからと、女と距離を置いていたし、対応も他の従業員に任せていた。
そんな中、距離を詰め出したのは女からだった。彼女に話しかけられるときに限って、他の従業員は手が空いていない。そのまま客を放置できないと、泣く泣くロックが対応した。
そんなことがしばらく続いたあるとき、女は名乗った。
〝イオナ〟と___。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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