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第66話 内通者の正体

 フェンリルと接触した後、エレは近づこうとする者がいないか、その場所を張り込んだ。


 エレと契約している精霊は六体。エレを含めれば、七人分の手数となる。エレはヴェイルスキンを解除すれば小さく、精霊たちも自然に溶け込むことができる。諜報活動は、ラット程ではないが得意だ。

 しかし、一日中張り込み、さらには調査もしてみたが、収穫はなかった。不審な者は現れず、手掛かりさえ見つけることはできなかった。


 隠している以上、大怪我をしたとはいえフェンリルを見捨てたとは考えにくい。フェンリルは特に強い魔物だ。体力はあるが、それにも限度がある。ここまで放置している以上、必ず何かあるはずなのだ。

 だったら、確認に来やすいように場を整えてみてはどうだろうか。内通者を炙り出すために、エレは見張りのための待合室に護衛隊シルヴァンガードの全員を集めた。


「先日のフェンリルの件。その痕跡が見つかったわよ」

「流石です、エレ様」


 最初に口を開いたのは、妖精族にして護衛隊シルヴァンガードの隊長〝ベルゼル・ピード〟だ。


 ベルゼルは、アクアスパイラル流を護衛隊の誰よりも極めている。風の国の騎士団長と比べても遜色ない実力だと、身内の贔屓目抜きに断言できる。

 ベルゼルの強みは剣術だけではない。妖精族が持つ多くの魔力から放たれる魔法は例に漏れず強力だ。近距離、中距離の魔法を得意とし、剣術と絡めた戦い方をする。

 そのため、前衛のベルゼルと後衛のエレのコンビは各国でも名前を知られるほどだ。


「エレ様よりも早く調査に出ておいて、何も発見に至らなかった護衛隊シルヴァンガードをお許しください」

「見つからなかったのはしょうがないわよ。人数も少なかったしね~」


 以前の調査は、フェンリルを探すための捜索だった。しかも、そのときは素早いフェンリルを捜索するということもあり、日々の警備のために元々集まっていた六人を一つの小隊とする、三つの小隊での探索だったのだ。


「何より隠されていたから。いくらあなたでも無理だったでしょう」

「隠されていた!?」


 ベルゼルが珍しく大声を出した。


 だが、咎めはしない。無理からぬ反応だからだ。

 周辺を探したがフェンリルは見つからず、隙をついて遠くへ逃げて行ったのだろうと思われていた。フェンリルの最高速度は妖精族の飛ぶ速度より速い。複数人で追ってどこかに追い込もうにも、最初の時点で姿を見失い出遅れたことで、今更範囲を広げて追ったとしても見つからないだろうと判断され、打ち切られた。


 それが実は隠されていたなどと明かされれば、大きな声も出るというものだろう。


「見つかった痕跡というのがこれよ~」


 コトッ____

 ハイドの魔法が刻まれた魔具ルーリック、つまりポニと共に見つけた魔具を、エレは机の上へと置いた。


「これは?」

「姿を隠すための魔具ルーリックよ。そして、ここに血痕がついている。魔法で解析した結果、魔物の血だったわ」

「つまりフェンリルと?」

「間違いないでしょうね~。この件には魔族が関わっているのは明らかだし。魔獣兵器であり、怪我をしているなんて、フェンリルしか考えられないわよ」

「ならば……これが設置されていたところに行けば、さらなる手掛かりがあるかもしれないですね」

「そうね。だけど、これは設置されていたのではなく、落ちていたのよ。何かの拍子に外れ、そして飛ばされたのか__、たまたま見つけただけなの」

「では……」

「もちろん周辺は私と精霊たちで探したけど、それ以上は見つからなかった。でも、まだ見つけられてない痕跡がある可能性は十分あるわ。だから、今日は全員で森全体を探してもらうために集まってもらったの」


 そう言いながら、エレは地図を広げる。


「見つかったのはここよ」


 エレは指を指した__。


「ここを中心に全員で街の周辺の森全域を探してもらうわ。全体の指揮は私とベルゼルで行う。探索は、いつもの各小隊に分かれて、小隊長の指揮のもと行ってちょうだい。ベルゼルの隊は代わりに副隊長が指揮してね」


 __フェンリルを見つけた場所とは、別のところを。


 全ては、内通者を炙り出すためだ。見当違いの場所に護衛隊シルヴァンガードの多くを投入し、さらに森全体に分散させることで、本命の場所が手薄になるようにした。


 フェンリルを見つけた本命の場所に配置したのは、ベルゼルの隊。エレは考えたのだ。なぜフェンリルの様子を見にいかなかったのかと……。


 おそらく、〝ベルゼル〟がいたからだと推測した。ベルゼルはアクアスパイラル流の使い手ということもあり、些細な変化にも敏感だ。なんとか隠せても、不審な動きをすれば気づかれる可能性は高い。

 それに隊長の隊ということもあり、フェンリルが出てからは出ずっぱりだった。今まで動けなかったことにも説明がつく。だからこそ、もっとも疑わしいとして当たりをつけた。フェンリルが消えたときにいた他の隊も、念の為、目を盗めば十分に様子を確認できる場所へと配置した。


 これでベルゼルが離れれば、行動に出るはずだ。


 そう考え、探索を開始した__。



 森に到着した護衛隊は、ベルゼルの指示のもと、散開した。


「いいな。今回はフェンリルのような大きなものではない。見落とすんじゃないぞ。護衛隊シルヴァンガードの名に懸けて、草の根を分けてでも痕跡を見つけ出せ!」


 エルフたちの足音と、妖精たちの穏やかに羽ばたく音が森の中へと消えていく。


 その裏で、エレは精霊たちに、手筈通りに見張りを依頼する。

 小さな光が散り、森へ消えていった。


 とうとう探索がはじまったのだ___。



 探索が開始され、どれくらいの時間が経っただろう。

 朝早くからの探索は進み、次第に日が沈み始める。

 しかし、一向に怪しい動きをする者が現れない。エレは精霊たちの報告をひたすらに待っていた。


 予想を外したかと思い、探索を打ち切ろうとしたときだった。一体の精霊がエレの元にやってきた。


「とうとう現れたのね!」


 エレは全体の指揮をベルゼルに任せ、気づかれないように、その場所へと向かう。

 やがて、到着した。見張っていた他の精霊たちに案内され、その者の行動している姿を遠目に確認する。


 その者はフェンリルが去ったことを知らない。証拠を消すだけでなく、フェンリルはどうなったのか、その痕跡がないかを探しているようだ。


 少しずつ近づき、その者の姿が見えてくる。

 そして、その者を認識したエレは言葉を失った。


「ラットくん……?」


 それは__かつての仲間だった。


(いや、ラットくん自身も何かに感づいて、手がかりを探しにきているだけかもしれないわね)


 疑うにはまだ早い。

 姿を見ただけだ。

 裏切ったとは限らない。


 話を聞くために、ラットの元に向かう。

 しかし、ラットは何かを察したのか、草木の影へと姿を眩ました。


 エレは、急いで消えた先を探すが、ラットの姿は忽然と消えていた___。


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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