第61話 奇妙な出会い
朝の森は静かだった。
湿った土の匂いと、葉が擦れる音がゆっくりと重なる。フルーテンの外れ、街と外界を分断する広大な森の中。箒を握って立つポニを、エレは見守る。
「お願いアーくん!」
<守れ__エアバリア>
ヒュオオオ___
風の防壁は、ポニの詠唱から一呼吸遅れ、発動した。
「もう一回」
エレは手を叩いた。
「まだ発動までにラグがあるわ。もっとアーくんとの繋がりを意識してやってみて」
__契約から、数日が経っていた。
その間、ポニはエレの元で精霊魔法を中心に、旅をする際に必要となる知識や技術を学んでいる。冒険者としてはまだまだ至らないことは多いが、元々牧場の仕事を手伝っていたのもあって、最低限の基礎はあった。何よりも、広大な牧場で走り回っていたこともあり、走ることに関しては目を瞠るものがある。
それでも訓練は過酷らしい。練習が終わり、夕食を済ませた後は、部屋に戻るとすぐ倒れるように眠ってしまうようだ。そんな状態だが音を上げず、よく食らいついてきている。
「もう一回」
もう一度、手を叩いた。
「なかなか変化がないわね〜。次は試しに言葉を変えてみましょうか。イメージしやすい言葉でいいわ。やってみて~」
ポニは頷く。目を閉じ、呼吸を整える。
思考する__。
少しの間。
箒の先に、淡い光が集まる。
<私を守って__風の卵>
風が頭上に集まり、葉が揺れた。
集まった風が形を持ち、ポニの周りを薄い膜のように包む。エレは笑った。
「やったわね。ラグがほとんどなかったわよ。いい感じだわ♪」
ようやく、変化が起きた。
「ポニちゃんの場合、元々冒険に縁がなかったからか、慣れ親しんだ詠唱はないし。ポニちゃん自身の言葉の方が、アーくんもわかりやすいのかもね」
精霊魔法は魔法の詳細なイメージこそする必要はないが、どんな魔法を使用してほしいかを精霊に伝える必要はある。今はポニと精霊が媒介により繋がっている状態だ。ポニの感覚が精霊にも影響する。
一般の冒険者が慣れ親しんでいる詠唱は、ポニの場合、理解するのに一瞬の間が生じてしまう。ポニが慣れていない言葉を使うよりも、ポニが理解しやすい言葉の方が精霊にも伝わりやすいということなのだろう。
「これでやっていきましょう」
詠唱を再開しようとするポニ。
そのとき、森の中を突風が吹き抜けた。
サァァァ_______
「……ウゥゥ………………………………」
風の音に混ざり。聞こえた………。
「エレさん、向こうから何か……」
「うめき声のような声が聞こえた気がしたわね」
低い、呻くような、痛々しい声。
「実は最近、護衛隊の精霊魔法使いの多くが行方不明になっているのよ」
「じゃあ……」
エレは頷いた。
「もしかしたら、その中の誰かかもしれないわ。見に行きましょう。ここには魔物も出るから一人じゃ危ないし、ポニちゃんもついてきて」
「はい」
エレは、ポニと共に声の方角へと向かった。
*
だが、耳を澄ませても、あの声は拾えなかった。
「いないわね。それほど大きな声じゃなかったから遠くないと思ったんだけど……」
エレは鞄から祭具を取り出し、その一つを手前にかざす。
「探索する魔法を使うわよ!」
<彼者を探せ__サーチ>
祭具から発せられた光は周囲一帯へと広がっていく。一定の範囲まで広がった光は、次第に消えていった。
サーチ__
魔力の反応を探すことのできる魔法だ。
エレはサーチを利用し、周囲数百メートルの魔力の反応を探した。そして……。
「見つけたっ。けど、これは人じゃないわね……」
森の奥を見据える。
「ポニちゃん、私の後ろに隠れて!」
二人は少しずつ、反応のあった場所へと近づいていった。足音を消し、木々の間をすり抜ける。
「ここ……ね」
「何も見えませんが……」
「隠されているのよ」
ヒュッ___
エレは祭具を操り、ある一点を突き刺した。弾かれる装飾品。
「ハイドを刻んだ魔具……。これで隠していたのね」
ハイド__
姿を眩ませたり、何かを隠したりする魔法だ。発動中しか効果がないため、今回のように、しばらくの間、隠し続けたい場合は魔具に付与して利用する。
「現れるわよ……」
ス_____。
霧が晴れるように、それを覆っていた膜は消えていく。
姿を現したのは、エレの読み通り、行方不明の兵士ではなかった。
ポニの背丈の倍以上あるほどの大きな狼の魔物。
その中でも最上位に位置する存在__フェンリルだった。
巨大な体が地面に伏せている。呼吸は荒く、体中には無数の傷があり、その中の一つは深く痛々しい。血が乾き、毛が固まっていた。
グルルルル_____
それでも近づこうとすると威嚇してくる。頭を持ち上げ、牙を見せ、低く唸る。
「無駄よ」
だが、エレは動じない。
「数日前、護衛兵団が倒しそびれた魔物みたいね。その傷、つらいでしょうに。一思いに止めを刺してあげる」
エレは片手を上げ、祭具を振りかざす。
フェンリルは魔物の中でも頭がいい。目の前に相対するする者の力の大きさ。どうにもならない状況を理解している感じがする。それにフェンリルは誇り高い種族だ。覚悟を決めたようで、頭を下げ、目を閉じた。
エレが振り上げた手を下ろし、止めを刺そうとしたそのときだった。
「ダメです!!」
ポニが、エレの前に立ち塞がった__。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
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改訂版
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