第59話 知らない一面
母親の声を聞いたポニは、思わずといった様子で叫んだ。
「ポニ!? そこにいるのかい?」
「うん、ここにいるよ」
「無事でよかったよ。急にいなくなったから心配したさね。今、お父さんが村の何人か集めて探し回っているよ」
「うん、ごめんね……」
「それで今はどこにいるんだい? この魔道具に出たってことは、ラットさんという方と一緒なんだろ?」
「一緒なんだけど……それがね………」
どう伝えればいいか、説明に困っているようだ。無理もない。あまりにも突拍子もない事態だ。それを納得いくように説明するなど、できるわけがない。
「僕の方から説明します」
ラットは事の経緯について説明した。
信じられない事態だろうが、勇者パーティや大精霊が関わっていることを知ると、〝フルーテン〟にいる状況にも多少なりとも納得がいったようだ。一般人から見ても、超常の力を持っている存在という認識なのだろう。
「ポニさんを巻き込んでしまい……申し訳ありませんでした」
「いえ……、あの子にも落ち度はありますから。それに助けていただいてありがとうございます」
複雑な心境らしい。宿屋の食堂で響いていた声と違い、弱々しい印象だ。
「ところで……、〝フルーテン〟といったら、他の町や村とも交流がないと聞きます。戻る方法はあるのでしょうか?」
安否は確認できたが、やはり親として気になるところだろう。
「はい。安全に帰れる往来があるところまで、僕たちが送り届けることになっております。ただ、そのための準備もあり、〝ラインブリース〟に戻れるのはおそらく数カ月から半年先になってしまうかもしれません」
「あの……もう少し早く………なんとかなったりしないでしょうか?」
声を聞けたとはいえ、無事な姿を早く見たい。そんな親心が滲み出ている。
だが、それは現実的に不可能だ。それでも、その願いを切り捨てるのは簡単ではない。
そのときだった。マナベルの向こうでもう一つの声がした。
「大精霊様の力に触れ、戻ってこなかったものもいると聞く。半年先でも無事な姿を見れるならいいじゃないか。無事を祈って待とう……」
宿屋の店主だ。声が少し震えていた。
騒いでもどうにもならないとわかっているからこそ、無理にでも気持ちを抑え、妻をなだめた。
「どうか、娘をよろしくお願いします……」
その言葉の重さに、軽く息を呑む。
ただの同行ではない。預けられたのだと、はっきりと理解した。
「………必ず、無事に連れて帰ります」
そう伝え、ラットはポニへと代わった。
その後、ポニはしばらく両親と会話を続けていた。
ここに来てまだ間もないはずなのに、長く離れていたかのように、途切れることなく言葉を重ねていた。
「必ず戻るからね……」
最後に両親に伝え、ポニは名残惜しそうにしながらもマナベルを切った。
「これ……ありがとうございました」
「このマナベルは差し上げます。これからもご両親に無事な声を聞かせてあげてください」
返そうとしてくる彼女へそう断り、ラットはマナベルを贈った。
*
それからまた時間が経ち、とうとう準備を整えたミルとエレがやってきた。
「みんな、お待たせ~。お着替え終わったわよ~~~~」
がばっ__
「ミルちゃん、可愛い~~~~~」
少し落ち込んでいた空気の中、勢いよく立ち上がり、最初に声を上げたのはポニだった。
気持ちを切り替えようとしているのだろうか。普段とはどこか違う。少しぎこちなさを感じる。
「おいおい、別人じゃねえか!」
リオンが続いた。
ラットはゆっくりと立ち上がって振り向いた。もともとミルの衣装が気になっていなかったわけではない。だけど、ポニのこともあり、罪悪感の方が勝っていて素直に感動するような気持ちにはなれなかったのだ。
「ミル……、似合っ…………」
口から出る言葉には感情が乗らない。感情がついてこない。
「……てるよ………………」
直視するまでは……。
視線を奪われた。思わず言葉を失った。
神子服に身を包んだ、彼女の姿に。
青と白を基調にした同じ神子服。ポニの話していた通り、胸元あたりを仕立て直したのか、胸を強調したようなデザインに変わっている。艶やかな黒髪と、笑みを知らない神秘的な表情が調和していた__
「ラット、どうしたの……?」
ミルが不思議そうにこちらを見てくる。
「似合って……なかった………?」
そして、近寄ってくる。次第に鼓動が速くなる。
「いや、……、想像していたよりも似合っていたから………驚いた」
「ん、よかった……」
ミルが安心したように、少し微笑んだ。その笑みに、鼓動が跳ねる。
「なんだラット、見惚れちまったのか?」
「そうよね。今の反応はよかったわよ」
二人がやってきた。
(まっ、気持ちはわかるぜ。普段オシャレに無頓着な奴が急にオシャレしたらドキッてするよな)
(へ~、ラットくん、もしかしてそうなの? そういうことなの?)
(二人ともからかわないでください)
いや、この状況、もう一人が放っておくわけがなかった。
(ラットさん、ミルちゃんなんですか? ミルちゃんなんですね!)
ポニまでもが加わり、三人の圧が凄い。ミルはよくわかっておらず、こちらを凝視している。
こうなってはもう手が付けられない。なりふり構っていられない。
「もういい加減にしてください。契約を始めましょう!」
ラットは、無理やりに切り上げた。
待合室を飛び出し、隣の儀式場へと向かう。
後ろから浴びる視線が気まずかった。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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