第58話 隠した不安
「準備、終わったんですね」
「待ってました!」
二人でポニを出迎える。
「なんの話をされていたんですか? まさか〝コイバ……〟」
「違います」
「してないぞ」
声を合わせて遮った。
(くると思った__)
この話題は食堂に続き二度目だが、すでにラットたちはその兆しを感じるようになっていた。
「そっか、残念です………」
一瞬見せた目の輝きは、すぐさま曇り。それはそれはとても残念そうに……ポニは不貞腐れた。
『ちぇ~~~~~~~っ』
声にこそ出ていないが、口を尖らせ、そんな言葉が出ているような錯覚を感じるほど、表情が物語っていた。今は店の給仕という立場ではないからだろうが、ポニの接し方が違っているように感じる。
「それよりなんで顔しか出してないんだよ! こっち来いって」
それはそう。このやり取りの間、ポニはずっと顔だけしか見せていない。身体はずっと扉の影に隠れている。
理由は__大体察しがつく。
「ポニさん、衣装はどうですか? よかったら見せていただけませんか?」
「おっ、確かに気になるなっ!」
ポニは照れくさそうに、扉の影から出てくる。普段の宿屋の給仕服とは異なり、どこか伝統を思わせるような服装になっていた。
青と白を基調とした神子服は、派手さのない最低限の装飾としながらも、神聖さを感じさせる。長く流れる布地と整えられた意匠が、身にまとう者を静かに際立たせていた。
「どうでしょうか?」
ポニはもじもじしながら、感想を求めてくる。
「似合ってますよ」
「可愛いじゃん!」
揃って絶賛する。
「ほんとですか? どこも変じゃありません?」
ゆっくりと一回転するポニ。
「普段、こんな格好したことないから、落ち着かなくて……。なんだか照れくさいですね」
ポニは照れ笑いをして誤魔化している。
「それにしても衣装が変わるとこうも印象が変わるのな」
リオンの言う通りだ。
普段のポニは髪を縛り、元気に愛想を振りまいてまさに看板娘という印象だ。
しかし、髪を下ろして衣装を変えれば、年上の女性のようなお淑やかさを感じさせる。清らかな神子服が彼女を厳かに輝かせ、命令されれば跪いてしまいそうだ。元から、彼女目当てに客がやってくるほどの容姿である。知らない者が見たら、聖女と勘違いするかもしれない。
「いいじゃんいいじゃん。髪を下ろした姿はまるで女神様のようだぜ。給仕をすれば看板娘。神子服に着替えたら女神様って反則かよ~~~。顔を隠しても無駄だぜ。照れてるのバレているんだからなっ」
それにしても、リオンがやたら褒めている。これは………。
「リオンさん……、ちょっとからかってませんか?」
最初こそ、その言葉に照れていたポニだったが気づいたようだ。
「え!? あ……、そんなこと……ないよ?」
どうやら図星らしい。照れるポニの反応がおもしろくて、調子に乗って続けていたみたいだ。指摘され、明らかに挙動不審になっている。
「もう……リオンさん。からかわないでください!」
ハハハ__
頬を膨らませ、両手でポカポカとリオンを叩く。リオンは笑いながら逃げ回っていた。
そんなやりとりをしていると疲れたのか、ポニが椅子に座った。
「大丈夫ですか?」
「はい……。いろいろあったので少しだけめまいが……」
無理もない。ポニはラットたちと違い、突然巻き込まれ、心の準備など何もしていなかった。フルーテンに来てからも、落ち着く暇はなかった。肉体の疲労以上に心労が溜まっていてもおかしくない。
「からかって悪かったよ……」
謝ったリオンは、この部屋にきて出されていた飲み物をコップに注ぎ、ポニへと渡した。
「いえ……実はちょっと気が紛れました」
「ならよかった!」
リオンは笑った。
ただからかっていただけかと思ったが、リオンも緊張することが多々あるタイプだ。ポニの心情をいち早く察していたのかもしれない。後で謝らなければならないかな……ラットはそう思った。
*
「そういえば、ミルがこないですね」
ミルはポニと共に準備のため連れていかれた。ポニだけが先に来たので、少しだけ遅れてくるのかと思っていたが、一向にくる気配がない。
「実は衣装のサイズが合わなくて……」
「サイズが合わない?」
それはおかしい。
ミルよりも身長が高いポニのサイズはあるのに、ミルのサイズはない? ポニが着ているのは元々エルフ用に仕立てられた衣装だろう。ポニでさえ、平均的なエルフよりも身長は低い。大人用の衣装がないなら子供用だっていいのに、なぜ……。
「あ、身長じゃなくて、胸の部分の話です。今、衣装を調整しているので、もう少しだけ待ってということでした」
理由はすぐにわかった。そういうことならしょうがない。待つしかないだろう。
少しの間、静まり返る__。
「ミルちゃん……、おっぱい大きいですよね………」
ポニがおもむろに、言葉を発した。言葉にラットとリオンは呼吸を忘れかける。
下手に同意してしまえば、それを見ていることを認めることになるからだ。いや、普通にしていても否が応にも目には入るだろう。別におかしなことはないのだが、認めてはいけない気がする。それが二人の共通認識だった。
ラットとリオンは、顔を正面に向けたまま、横目で目を合わせた。
(おい、どうすんだ? 何か答えてやれよ)
(嫌だよ。リオンこそ、さっきまで楽しそうに話してたじゃないか)
(いや、これ絶対罠だろ)
(もしかしたら、ポニさんはそういうことに寛容なのかもしれないよ)
(そう思うなら、ラットがいけよ)
(僕はオタクだし流石にまずいよ。ここはリオンの出番でしょ)
(俺だって、そういうキャラじゃないって)
(参ったね。こういうときにヒーロがいてくれたら……)
(それは確かに……。勇者さんならイケメンムーブでなんとかしてくれそうだ)
二人はヒーロが解決するイメージを想像した。
(いやだな〜、ポニさん。女性の魅力は胸の大きさじゃないよ)
しかし、これは現実逃避だ。
自分たちでなんとかしなければ……。
ラットはいい打開策はないかと、ふと窓の外を見上げた。
太陽はもう正午を超え、昼時もだいぶ過ぎている。
そのとき、あることを思い出した__。
ラットは鞄に手を入れ、ポニの前に立つ。そして、真剣な表情であるものを差し出す。
「……マナベルだな」
「はい、これでご両親に連絡をとってみてください」
ポニにとっては初めての代物だ。マナベルを見つめる彼女の顔は、よく状況が飲み込めていない。
「これは遠距離にある他のマナベルと連絡をとるためのものです。今なら宿屋とも連絡がとれるかもしれません」
ポニは困惑している。
「あの、両親はこのマナベル? というものを持っていないので……。お気持ちだけいただきますね」
「すみません、言葉足らずでした。実はこれと同じものと書き置きを宿屋の部屋に置いてきてまして。僕たちやポニさんがいなくなって、手がかりを探しに部屋に入り、もしそれを見つけていれば連絡が通じるかもしれない。……ということです」
「随分と準備がいいんだな」
「ポニさんまで来ちゃったのは想定外だったけど、僕たちはロックとの戦闘を想定してたでしょ。場合によってはそのまま村を出なきゃならないかもと思って。一応準備はしておいたんだよ」
本当に準備はしておくものだ。
このマナベルは、急に村を出ることなった場合、つまり、受付をせずに行方をくらますことになった場合を想定していた。迷惑をかけまいと配慮した結果だった。何も起こらなければ、そのまま回収すればいい。それがまさかポニの安否の連絡に使用することになろうとは、ラットにも予想できなかった。
そして、この時間帯__。
ラットたちがロックと戦闘を開始したのが日の出の直後で、終わったのが朝食時くらい。その頃にポニが戻ってきていないことを把握しても、その程度ならちょっとしたトラブルにあったかな? で済まされるかもしれない。ポニももう大人だ。忙しい時間帯にすぐに探そうとはならないだろう。
そして時間が経過し、忙しい昼時になっても帰ってこないとなれば、さすがにおかしいと思い始める。昼の仕事が一段落したタイミングで、本格的に探し出す。
そう。それが今だ__。
そこで本来受付をしているはずのラットたちも現れないとなれば、部屋を確認しにくるかもしれない。確認すれば気がつくはずだ。マナベルと一緒に置いた、書き置きに。
ラットはポニの手にあるマナベルに魔力を込めた。しばらくの静寂……。
繋がる音がする。
「あの、ラット様……でしょうか?」
「お母さんっ!!」
真っ先に声を出したのはポニだった。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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