第52話 逆境下同士の一騎討ち
上空に展開された複数の光は、一帯の影をくまなく照らした。
「なんだ? まさか俺の影対策のつもりか?」
「〝ソルミナ〟っていうアーティファクトだよ。素敵でしょ?」
「俺は〝狙撃手〟だぞ?」
ロックは鼻で笑った。
「光玉みたいに破裂して物自体がなくなるならともかく。こんなもの、破壊すればいいだけだろ」
範囲弾__
大きな閃光が上空に放たれる。が、
「!?」
今度はラットが笑う番だ。
「光に紛れて場所はわからなくても、範囲弾ならって思ったでしょ。もちろん対策済みだよ」
〝ソルミナ〟はバリアの魔法で自身を守っている。範囲弾では破壊するに至らない。
貫通弾でなら、当てさえすれば破壊することはできるだろう。だが、光に溶け込んで場所がわからない〝ソルミナ〟に、範囲を絞った貫通弾を当てることは、そもそも至難だ。
ラットは駆け出した。走りながらワイヤーロッドを巧みに操り、ロックを襲う。
ヒュンヒュン__
鞭のような動きで襲いかかるワイヤーをロックは軽やかに躱し、魔銃で応戦してくる。
同時に辺りを観察するロックに、ラットは言った。
「破壊ができないからって、障害物の影を探しても、潜れるような影はないよ」
逃げ込める影は、どんなに探してもない。
「ここは森だからね。本来なら影はできやすいけど、この無数の光の玉が物陰まで照らすんだ」
ラットは自慢げに〝ソルミナ〟の解説を続ける。
「ずいぶんと饒舌だな。おまえらしいと言えばそうだけど」
だが、とロックは語気を強める。
「影だけじゃない」
上空に不意に放たれる閃光。
破壊された捕獲弾の残骸__。
「狙いはこれだろ?」
攻撃の合間、上空に投げていた捕獲弾に気づかれていた。
見事な読みだ。ラットが足りない実力をどう補うか、熟知している。罠を張り巡らせると確信し、探っていた。ラットがロックを知っているように、ロックもまたラットを知っている。
「どうした? 防戦一方になってきているぞ」
ロックの攻撃が激しさを増す。
暴風雨のような光弾に、堪らず木の影に隠れる。
「っ!」
腕を貫く痛み。
放たれたロックの貫通弾が、隠れた木ごとラットの腕を撃ち抜いた。
「さっきの二人とは別だな。こうもあっさり喰らうとは」
足音が近づいてくる。
「やっぱりお前は、前衛に出るべきじゃなかったよ」
止まる。幹のすぐ後ろで。
「終わりだ」
撃ち殺されかけた瞬間、
リーーーーーン
ベルの音色が森を包んだ。
「そうだね。確かに前衛に出るべきではなかったかも。だったら僕の本来の役割に戻ることにするよ」
腕の痛みを堪えながら、ラットはマントを羽織る。
ザッザッザッザッザ_____
迫り来る、草木を掻き分ける音。
しかし、これはミルとリオンの二人ではない。
もっと小柄で、数も多い。
「ラット、何をした?」
大勢の殺気に気づいたのか、ロックの声が揺らぐ。
「呼んだんだよ、仲間をね。これが何だかわかる?」
木陰から出たラットは、手に持つそれを見せた。
「それは……まさか。ルアーベルか!?」
ルアーベル。
近くの魔物を誘き寄せるアイテム。本来は誘き寄せて罠に嵌めたり、隠れた魔物を炙り出したりするものだ。
ザッ___
とうとう、誘き寄せられた魔物が現れた。
「ウ〜〜!」
「グルルルルル……!」
牙を剥き、涎を垂らす四つ足の漆黒の集団。ブラックウルフ__狼の魔物だ。小型ではあるが、群れで素早く行動するため、油断はできない。
「一対一がダメなら混戦だよ!」
「グガァッ!!」
ブラックウルフが、大口を開けてロックへと襲いかかった。
*
ロックに次々と喰らい付いてくるブラックウルフ。
一体を蹴り、一体を肘打ちし、一体を投げる。体術でいなし、バランスを崩させ、魔銃で撃ち抜き、仕留める。
ラットの突飛な行動に動揺こそしたが、ブラックウルフ程度、ロックの敵ではない。一体ずつ、確実に倒していく。
と、背後からくるワイヤー。
横に跳び、躱す__。
(ワイヤーロッド? この混戦の中、あいつにそんな余裕があるのか?)
ラットの様子を窺おうとするが、見つからない。
(どこにいった?)
ラットがいない。うまくブラックウルフに紛れたのだろう。だが、ロックの目は眩ませることができても、ブラックウルフの鼻から逃れることはできないはず。しかし、ブラックウルフに嗅ぎつけられている様子はない。
(〝ハイドマント〟を使ったのか?)
ロックの推察通りラットは〝ハイドマント〟を使用していた。ハイドマントは自身の臭い、音、魔力のいずれかの発散を抑える魔具である。ブラックウルフの嗅覚の対策として、臭いの発散を制限した。
〝ハイドマント〟を利用しても完全に臭いを消すことはできないのに。思ったところで、気づく。自身の臭いに。
ロックは臭玉の影響で強烈な臭いを放っている。ブラックウルフからしてみたらかなり不快な状態となっているに違いない。ロックに攻撃が集中する訳だ。
「ちっ!」
ワイヤーの合間に、粘性玉や捕縛玉まで飛んでくる。もちろん当たりはしないが、注意を散らされ、鬱陶しいことこの上ない。
四方から迫るワイヤーとブラックウルフ。捌き切れず、削られていく。
「くっ、煩わしい……魔力を使い切っちまうがしょうがない」
掌に血液を集中させる。
<血魔法 ブラッドボム>
ドン__
炸裂する血の塊。ロックを囲んでいたブラックウルフを吹き飛ばす。
さらに__
散弾__パラージュレイ
ドドドドド_____
吹き飛んだブラックウルフを、地に着くよりも早く撃ち抜く。
転がるブラックウルフの死骸。囮をなくし、ラットがようやく目の前に現れた。
「はぁ、はぁ__」
ロックの息が切れる。
「魔力切れでつらそうだね。魔力ポーション、負けを認めるなら、ロックにあげるよ」
気づかれている。ロックが魔力ポーションを使い切っていることに。
王都を出てから、ロックはラットたちを追っていた。一人旅だ。道中、魔物との戦闘で多くのアイテムも使用した。ラインブリースで購入できればよかったが、潜伏していたため、できなかった。
戦闘開始時点で、ストックはほとんどなかった。そのストックも、魔力を大量に使用しなればならない状況に幾度も陥れられ、使わされた。ラットとの戦闘が開始してから使用していないことを考えれば、手持ちがないのは明白だ。
「確かに、魔力はもうない。ポーションもない。だけど、勝つのは俺だ」
息も絶え絶えになりながらも、ロックは笑う。
「魔力が使用できなくてもおまえ相手なら組み伏せられる。最後の一発でとどめを刺して終わりさ。あとは、おまえのポーションを奪うだけだ」
ラットとの距離を詰める__。
ラットはワイヤーロッドを使い攻撃するが、ロックはステップを踏み、容易に躱した。
「見えていれば怖くないんだよ! 諦め……ろ………!?」
ラットを見たロックは言葉を詰まらせる。ラットが、アイテムを使用して耳を覆っていた。
ロックも気づき、耳を塞ごうとするが遅かった。ワイヤーの先端に取り付けられたそれは当たりこそしなかったが、ロックの耳元で炸裂した。
ギーーーーン_____
空気を切り裂くような響く爆音。その振動は肌をビリビリとヒリつかせた。
「ぐっ、耳が……」
それでも、ロックは止まらなかった。
ラットはロックの蹴りをワイヤーロッドで防ぐ。そこから掴み、膝、投げへ繋ぐ。地面に叩きつけたラットを、ロックは踏みつけ、銃口を突きつける。
「ずいぶんと手間取らせてくれたものだよ。今度こそ終わりだ、ラット」
自分の声すら聞こえない。これから死を迎える、かつての仲間を見下ろす。
だが、ロックの目に映ったのは、ラットの死を確信した表情ではなかった。
(なぜだ? また笑ってる?)
静寂の世界の中、そっと引き金を引く__
ドッ___
森の中に音が響く。
しかし、ラットは無傷だった。
勢いよく飛んだのは、ロックだ。
(なにが起こった)
自分が元居た位置を確認する。
そこにいたのは、ミルだった。
目を眩ませる光と音による耳鳴りで、ミルの接近に気づくことができなかった。ガントレットの拳をまともに受け、吹き飛ばされてしまう。
(くそっ、まともに受けちまった。でも、まだ動く………まずは着地だ……)
吹き飛ばされながら、何とか体勢を立て直そうとする。
そのとき、もう一人の存在に気がついた。
(お前も来たのか……)
ロックの吹き飛んだ先。
そこで構えていたのは__リオン。
臆病者と見せかけて、ラットと同様に厄介な男。
だが。
(残り一発……お前がポーションを持っていることに賭けようか……お前を撃ち抜いてそれを奪う)
ロックがここから勝つためには三人を倒すための弾が必要だが、魔力が枯渇しかけている今の状態では一発撃つのが限界だった。
だからこそ、魔力ポーションが必要だ。ラットから遠く飛ばされたこの状況ではラットから奪うのは不可能。だったら、目の前のこいつを倒して奪う。いや、倒せずともバランスを崩せれば、鞄だけでも奪うことができるかもしれない。
リオンに向け、魔銃を構える。
<貫通弾__ピアスレイ>
ロックは放った__最後の一発を。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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