第53話 樹海の先に見えたもの
空中で、ロックは引き金を引く。
放たれた閃光がリオンへ向かう。バランスを崩しながらも放ったその一発は、確実にリオンを捉えていた。
空気を鋭く切り裂く閃光。
その閃光へ__
リオンは踏み込んだ。
ロックは信じられない光景を目にした。
踏み込んだリオンは、常と違い、貫通弾を弾かなかった。閃光の直進する力に逆らわず、外に逃がし、受け流したのである。
さらに、貫通弾を敷かれた道に沿うように、刃が迫る。
目ではかろうじて追うことができた。だが間に合わない。こちらは攻撃した直後、引き金から指を離してすらいない。これは攻撃に対するカウンターだ。そして、何よりも驚いたのは__この技を見たことがあったからだった。
いや、見たことがある、どころではない。
知っている。
よく、知っている。
この技は、あいつの、
ヒーロの、
〝勇者〟の__技だ。
<流し>
ギーーーーーーーーーギンッ!!
貫通弾を沿う音の終わり。
ロックは斬られた。
*
声が聞こえる。
「大丈夫だよなラット! 生きてるよな!?」
「…………リオン、人工呼吸」
「じっ!? どうなんだ? 必要なのか?」
「大丈夫。必要ないよ。なんとか……ギリギリだったけどね」
薄れる意識の中、三人の声が聞こえてくる。どうやら、ロックの治療をしているようだ。
ロックは薄目を開け、言った。
「な、ぜ……」
「喋った! よ、よかったぁ〜」
大袈裟に溜め息を吐くリオン。度胸があるのか、やはり小心なのか、わからない。いや、そんなことよりも。
「なぜ……おまえが、その技を使える?」
「ん? ああ、あの技か? 勇者さんが門で追われているときに使ってたんだよ」
「使ってた……? 一目見て真似たとか言うんじゃないだろうな?」
「まさかぁ! 魔物との戦闘でもちろん練習はしたぜ!」
そうじゃない__。
あれは、少し見たり、練習したりした程度で真似できる代物ではない。もちろんそれらしい動作をすることは可能だろうが、あそこまで正確に技の特性を理解し、再現することは不可能ということだ。
しかし、こいつはそれをやって見せた。これは紛れもなく〝天才〟だ。
だが皮肉なものだ。これだけの剣の才能を与えておきながら、魔力の才能は一切与えない。
せめてこいつが一般人程度……いや一般の子供程度の魔力でもあれば、騎士団の団長に昇り詰められただろうに。そのせいでB級冒険者程度の実力に留まっている。神は酷なことをするものだ。
(ま、この国の神はアレだったか……)
ククク___
ロックは笑った。
ラットに向き直る。
「で、こいつらは、なんでここがわかった?」
「〝ソルミナ〟は単にロックの影対策だけではなかったんだよ」
その言葉を聞き、気づいた。
「目印か……」
「あたり」
「またも一杯食わされたって訳か」
「二人が合流するまで、僕が何とか持ち堪えられるかの勝負だったんだ」
「それに、お前は勝ったと……」
ハハハハハ____ハハ………。
笑った。
今度こそ、声を出して。
「おま……じんこ………………ぜった……するな……よ」
久しぶりに大声で笑い、そのまま、何かを伝えようとして意識を失った。
*
気絶したロックを見ながら、リオンが言う。
「なあ、ラット。今、少し……」
「うん。戻ってたね」
気絶する直前のロックの表情は、敵対していたときのそれとは違う。ラットのよく知る、仲間としての表情だった。
「魅了は大きなダメージを追うことで解けるからね」
「てっきり解除の魔法が必要なんだと思ってたぜ」
「いや、必要だよ。ダメージで正気を取り戻すなんて最終手段だから」
「まあ、そりゃそうか。こんな瀕死の重症を負わせるくらいしないとダメなんだもんな」
「……ラット?」
押し黙るラットに気づいたミルが訊いてくる。
視線に応えるように、ラットは口を開く。
「本来なら、もっと軽傷でも大丈夫なはずなんだよ。いずれにしても傷は負うから魔法の方がいいんだけど。だけど、今回はこれほどまでダメージを負わないと戻らなかった……」
「つまり?」
答えを促してくるリオン。
「つまり、ただの〝魅了〟じゃない……可能性があるとしか、言えないかな」
得体の知れない症状だ。ラットはロックを念のために拘束し、マジックバックに入れた。
*
ぴぃ__
すべてが終わった頃、チリリがどこからともなくやってきた。
「やあ。戦闘中、隠れてたんだね」
ロックとの戦闘の直前、殺気を察したのか、チリリはラットの元を離れて飛び立っていた。
(賢い小鳥だなぁ)
ラットは思う。そして、気づいた。
「ポニさん……は?」
ラットたちと共に大蛇に呑み込まれた彼女が、まだ見つかっていないことに。
「ポニさん? いや、言われてみれば、声を聞いたような……あれってまさか」
頷く。
すると、待っていたと言わんばかりに、チリリがラットの裾を引っ張った。
「チリリ……? もしかして、居場所を知っているの?」
ぴぃぴぃ!
先行するチリリの後を、三人でついていく。
チリリの案内に従って歩いていくと、そこには気絶したポニがいた。翠の目は伏せられ、栗毛も葉に塗れてしまっている。ラットはすぐに容体を確認する。
「大丈夫。どこも怪我をしてないよ。気絶しているだけみたいだ」
問題ないことを伝えると、リオンはもちろん、ミルもほっとしたように見えた。ロックと同様に、ポニもマジックバックに入れた。
「それで、これからどうするんだ? そもそもここはどこなんだ? って話だよな」
そうだ。応急処置をしたとは言え、ロックはかなりの重症だ。もっとちゃんとした場所に連れていきたい。それに、一般人のポニがいる。いつまでも魔物のいる危険な森の中を連れ回すことはできない。早く町や村に運んであげたい。しかし……。
わかっていることは、場所が変わっているだろうということだけだ。それ以外は見当もつかない。そのときだった。
「さっき……大きな木、見た」
ミルが言葉を発した。
「大きな木なら俺だって見たぜ。これだけ生い茂ってたら嫌でも目につくぜ」
「違う。もっと大きい。すごく……」
「大きい木……?」
ラットは考え込む。
「ミル、僕をその木が見える位置に連れてってもらえる?」
「うん……」
ミルはラットを掴み、飛び上がった。
生い茂る木々の上、空の色がはっきりとわかる地点まで飛翔し、気づく。樹海の先、離れたところに、他の木が苗木に見えるほどの木がそびえ立っていることに。
「世界樹……」
大樹に、ラットは呟いた。
*
リオンの元に戻り、方針を口にした。
「場所がわかったよ。予定を変更しよう」
「それは構わないけど、結局ここはどこなんだ?」
「落ち着いて聞いてね。ここは風の国じゃない」
時を止めたリオンに、ラットは告げる。
「水の国だよ」
「……は?」
「ここは世界樹の麓__聖樹の街フルーテンだ」
「フルーテ………………………んっっっっ!?」
動転するのも無理はない。ラットたちは先ほどまで風の国のラインブリースにいたのだ。それが今は、何ヶ月も旅をしてようやく行き着く先にいる。つまり、転移したということだ。
「フルーテン……ちょっと待てよ。ってことは!」
思い至ったらしい。ラットは頷いた。
『そう。勇者パーティの一人、〝エレ〟に会いにいくよ!!』
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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