第51話 森を覆う巨大な蛇
森中を覆う圧倒的な威圧感に、ラットを含めた全員が動きを止める。
『なんだ!? この威圧感は!!』
おそらく、全員が一様にそう考えた。
そして、気配に気づき、同じ方向に目を向ける。
「いったいどこから!?」
そこにいたのは、森を覆うような巨大な蛇だった。これほどの魔物が森にいたら気づかない訳がない__そんな考えとは裏腹に、確かに、確実に、その蛇はいた。
全員が硬直する中で、ロックが動いた。同時に、ラットも駆ける。
ロックはもちろん、ラットも数々の強敵と対峙し、死戦を潜り抜けた勇者パーティの一人。歴戦の経験が、足を強張らせず、躍動させた。
「みんな逃げて!!」
走りながらラットは叫んだ。ロックは影へと潜り、ラットは聞こえた声の元に疾走する。
「なっ!?」
声はロックのものだった。
影に隠れたはずのロックだったが、影はただの影に戻り、いつの間にか外に出されていた。光もないのに__。
『吸血鬼か……。その程度の力じゃ、私の前では無意味だな』
響いた声にロックが瞠目したのは一瞬。すぐに森の外へ向かうロックだったが、
「おいおい、何の冗談__!」
蛇はいつの間にか回り込んでおり、彼を呑み込んだ。
既に逃走を始めていたミルとリオン。二人もまた、同様に回り込まれる。
(この動きは、まさか……)
〝空間転移〟
「ちょ、待て待てまっ__!」
最初に呑み込まれたのは、リオンだった。
「ミル、上へ!」
蛇は飛んでいる訳ではない。
上空なら。ミルだけでも。そう思い、叫んだ。
「……!!」
しかし、飛んだミルも呑み込まれる。
「二人とも……」
あまりの光景に崩れ落ちそうになるが、走った。せめて、さっきの女性だけでも。そう思いながら。
茂みの先。
そこにいたのは__
「ポニ、さん……!?」
ポニ__
次の瞬間、目の前が暗くなる。
蛇に呑み込まれた。
*
蛇に呑み込まれた。
まさか、こんな唐突に死ぬとは思わなかったな__。
落ちる思考を繋ぎ止めたのは、微かな違和感。
なんだ?
なんか、顔が、くすぐったい__
グサッ__
「いたっ!?」
飛び起きた。
目の前にいたのは……
「チリリ……?」
ぴぃ、と返事をするかのごとくチリリが鳴く。どうやら、チリリが嘴でつついたようだ。
なかなか起きないのに苛立って思い切りつついたのか、割と痛い。
いや、それよりも……
「ここはどこだろう?」
森の中であることは間違いない。
だが、別の場所であることを確信させる。
群生している植物が先ほどと比べて一変しているし、木の背が揃って高い。肌に感じる温度や湿度にも差異がある。魔素も別物だ。ラットは魔素に敏感な訳ではないが、それでもわかる。温度や湿度を含め、空気が明らかに違うのだ。
変わり果てた空気を、大きく吸い込む。
鼻が反応した__。
マジックバッグからアイテムを取り出し、口にする。
ラットはしばらく歩き、木々が密集する森の中でも少しだけ開けた場所に出た。
ワイヤーロッドを構え、叫ぶ。
「ロック、出てきたらどう!?」
強烈な臭いの主へ。
「安心して! 今度こそ、僕一人だよ!」
すると、現れる。
「〝覚力の水〟で嗅覚を強化して追ってきたのか。隠れても無駄……か」
ロックが、目の前に。
「一度撤退して、この臭いをどうにかしておきたかったんだけど、参っちゃうよ。ここはどこだ?」
「僕もさっき目が覚めたばかりだから、わからないよ」
素直に言えば、ロックはまあいい、と肩をすくめた。
「それにしても……酷いじゃないか。こんな悪臭と虫を纏わりつかせるなんて。俺の美学とは真逆だよ〜。女の子が近寄らなくなったらどうしてくれるんだ?」
心底嫌そうに呟く。
「ミルに追いかけられていたでしょ?」
「何度も殴られたけどね!」
思わず、笑いそうになった。
こういうやりとりをすると、共に旅をしていたときのことを思い出す。
魅了さえなければ、本当にロックのままだ。
だが、懐かしい空気を消すように、ロックが表情を変える。
「ラット、なぜ追ってきた? 一人では戦えないお前が。まさか俺に勝つ気じゃないだろうな」
ラットもまた、切り替える。
「危険は承知の上だよ。だけどそれ以上にロックに逃げられたくないからだ」
ロックと再会するまでの間に、マナベルでミルとリオンの安否は確認した。しかし、二人とも自分がどこにいるのか、わからないようだった。
同じ場所にいるとは限らない。合流のために大声で叫んだり、合図となるものを打ち上げたりした場合、ロックは警戒し、全力で逃げに徹するだろう。そうなれば、逃げ切られてしまうかもしれない。一度逃げ切られてしまったら。次に会ったときは、当然マーキングもなくなっている。また振り出しに戻ってしまう。
今回も含めて二度、ロックを追い詰めている。だが、三度目は? そう何度も勝ち越せるほど、ロックは甘くない。次は誰かが大怪我をするかもしれない。常に奇襲されることを想定する必要もある。
それに、ロックの標的はラットだ。ラットは仲間と一緒だからこそ、その真価を発揮できる。その標的が仲間も連れずに、一人で目の前に現れたとしたら。万全の状態ではなかったとしても、戦う価値は十分ある。つまりは格好の標的という訳だ。
__僕はロックを助けたい
今のロックはそうして欲しいと望んでいないかもしれないけど。見ていられない。早く解放してあげたい。
今は伝わらないかもしれないけど……
『僕がキミを支えます』
……これは、絶対に助けてみせるという、僕の覚悟の言葉だ。
「俺を支える? 何を言っているんだ?」
ラットは鞄からアーティファクトを取り出す。
「ロック、僕を甘く見過ぎじゃないかな。僕だって勇者パーティの一人だよ。キミは狙撃手だ。近接での戦闘の上に、怪我、魔力も底を尽きかけている」
「舐めているのはそっちさ。その程度のハンデで俺がおまえに負けると思っているのか?」
ラットはアーティファクトを起動する。
「だったら白黒つけようよ。ロック、負けないよ!!」
「あぁ、望むところさ!!!」
起動したアーティファクト〝ソルミナ〟は、上空に飛び上がる。
そして、いくつもの強い光を放った__
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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