第50話 ワイヤーロッド
ラットが二人と別れたときに、鞄から取り出したもの。
ワイヤーロッド__。
釣竿のような形状のそれは、魔力を流すことで先端から魔力でできたワイヤーが作られる。ワイヤーにアイテムを近づけることで、中身のみが取り出され、魔力で包み込まれて球状になり、ワイヤーの先端と連結する。
釣竿の要領で、ロッドのしなりを利用し、アイテムを飛ばす。魔力で作られたワイヤーは、ある程度まで自由に伸ばすことができる。そこに、組み合わせる。ロッドの動きによる物理的な操作。魔力自体を動かす魔力的な操作。二つの操作の合体は、それぞれでの操作よりも、より複雑な動きや軌道を再現することができる。
複雑な機構のため、バンプガンよりも瞬間的な最高速度は出ず、対応範囲も中距離程度になる。だがその分、不規則な軌道で対象にアイテムを当てることが可能となる。
ラットは潜伏しながら、ロックの位置を探った。狙撃位置を誤認させる移動砲台。ロック自身の狙撃も、移動砲台に紛れるために、血魔法によって作られた血液弾__ブラッドレイに切り替えられていた。
弾質や狙撃の方向からでは辿れない。しかし、ロックの戦闘スタイルをよく知るラットは導き出した。囮として使われた移動砲台の位置。囮に釣られた獲物を狙撃するための、効果的な狙撃位置。これらを元に居場所を絞り込んでいき、遂には特定した。
「いた! ロックだ」
魔銃を構え、ミルとリオンの隙を窺うロック。
ラットはワイヤーロッドを構え、ロックに向けて放った。
どんどん伸びていくワイヤー。ロッドの操作により、アイテムが取り付けられた先端部は木々の隙間を縫うように対象へ向かい、飛んでいく。
ロックの死角。
先端部に木々から落ちた葉が当たる。それにより気づいたのか、ロックは先端部を魔銃で撃ち抜いた。
瞬間、破壊された先端部から液体が弾ける。
勢いのまま飛散した液体は、ロックに降りかかった。
*
(なんだ? この強烈な臭いは……)
ロックを取り巻くのは、腐敗した植物を何倍も強くしたような、強烈な臭い。痛みにも似た刺激が鼻腔を通り抜ける。込み上げてくる吐き気。頭を殴られたような激しい頭痛。視界が揺らぐ__。
常人であれば、卒倒してもおかしくないような臭い。しかし、数々の戦場を潜り抜けたロックは意識を保ち、さらには攻撃に転じようと、ラットを探す。
(やってくれたな、ラット。イカした俺にこんなものをぶつけるなんて……どんな嫌がらせだ?)
攻撃も兼ねた嫌がらせ。
最初こそ、そう思ったが、すぐに改める。気づく。
(あのラットが嫌がらせ程度で済ます訳がないよな。本命はこれか!)
ロックの位置がわからず、ミルとリオンは二人がかりで全方位を警戒していた。その二人が真っ直ぐにロックの元に向かってきている。ラットの狙い。それは__
『〝マーキング〟か!!』
この臭い。そう簡単には取れないだろう。影に潜って距離を取ろうとも、すぐに気づかれる。潜伏するために入った森は、今やロックを隠さない。ただただ、ロックの攻撃を妨害するための障害物になるだけだ。
__もう隠れることはできない。
スマートに。
ロックはそういう戦いをしてきた。しかし、居場所がバレ、隠れることもできない。生い茂る木々のせいで、効果的な攻撃方法は限られる。攻撃の方向がわかるからこそ、避けられる。ロックの強みは奪われていた。
<移動砲台__タレットレイ>
<貫通弾__ピアスレイ>
放出する。
いくつも展開した移動砲台で弾幕を張り、追う二人の移動を制限しつつの、木々ごと撃ち抜く貫通弾。
魔力消費を考えない。
射撃の精度を考えない。
普段のロックからは考えられないような――がむしゃらな攻撃。
目の前を覆うような弾幕と障害物をものともしない貫通弾。追ってくるミルとリオンも隠れ、避けるのが精一杯ではあったが、それも長くは続かない。すぐに魔力が尽きる。
ロックはバックステップをしながら、森の外を目指した。
不本意だが、一旦退却する。
そう考えていた。
だが、時折くるラットの攻撃。前の二人だけに集中できない。とは言え、四方に集中しすぎれば、二人は距離を詰めてくる。意識も攻撃の手数も散らされた。
薄暗い森の中。
生い茂る木々の先。
光が漏れている。
とうとう森の出口が見えてきた。
〝間に合う〟という言葉が頭を過る。
そのときだった__。
何度目だろう?
ラットの死角からの攻撃。同じようにロックは撃ち落とそうと、魔銃を放つ。しかし、今回は違った。放たれた魔銃が当たる前。液体を覆っていた魔力が消え、液体が大きく広がった。空を切る魔銃の光。
――パシャ!
ロックは再び、液体を浴びた。
「くそ、今度はなんだ?」
臭いはない__いや、既に鼻が麻痺している。わからない。だが、触ってみても身体に異変はない。一見目立った効果はないように思えた。
だが__。
(なんだ?)
服に張り付く小さな存在。
(この森、やたら虫が多いな……)
纏わりつく――虫。
(まさか……、この液体のせいか!?)
森の中だ。数匹程度なら身体に止まるのも不思議ではないが、明らかに多い。
誘虫の水__。
ラットが使用したのは、虫たちを誘い出すための液体だった。その用途は……。
「ただの子供用のおもちゃじゃないか!」
子供たちが木々にかけ、誘われた虫たちを採取して遊ぶための……〝おもちゃ〟である。
(気が散る……)
ロックは火の国出身だ。人くらいの大きさの虫型の魔物とて珍しくない。スマートさを謳ってはいるが、だからと言って虫が苦手な訳ではない。
だとしても、限度はある。いや、集中したロックならば問題はなかっただろう__。
今、ロックは、意識を散らされ、嗅覚を奪われ、がむしゃらに行った攻撃のせいで魔力も尽きかけている。
そこへの纏わりつく虫。
ただただ〝うざったい〝。これに尽きる。
ミルとリオンへの攻撃。ラットの攻撃に対する周囲への警戒。絶妙な配分で行っていたこれらが、集中力が散らされたことで、とうとう崩れた。
前方への攻撃が緩んでしまった__。
森からの脱出。もう少しというところで、二人に追いつかれた。
*
「もう逃さないぞ!」
虫だらけのロックを前に、リオンは叫ぶ。臭いだけではない。これだけ虫が纏わりついていれば、視覚的にも目立つ。
森の中だろうが、見逃さない。
よかった。
ラットを信じて――
「決める……」
「うおおおおおお!!」
ミルと二人で一気に飛び込む。
叩き込む。剣とガントレットでの総攻撃。だがしかし、ロックは倒れない。臭いと虫の大群に邪魔されながらも、魔銃で刃を弾き、体術で拳を流す。
それでも、避け切ることはできない。
刃が裂く。
ロックの肩を。
拳が抉る。
ロックの脇腹を。
一撃ごとにロックの血が飛び、増える。
脚がぐらつく。
〝決着〟
その二文字が頭を過り、トドメを刺そうとしたとき。
「ダメ!!」
甲高い声が、止めた。
「森を荒らしちゃダメ!! この森は……」
森の出口の方から響く、聞き覚えのある、女性の声。
瞬間。
ズン__。
圧倒的な威圧感が森の中を包んだ___
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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