第49話 信じた言葉
ロックを追いかけ、ラットたちは遅れて森へ入った。
(よし、うまく森へ誘い込むことができた)
そう。ラットたちの目的は森へ戦場を移すことだった。今回の戦闘ではロックが逃げ込む形となったが、そのためであれば、ラットたちが逃げ込んでもよかった。そのためのプランはいくつも用意していた。
ここからが、本番だ。
ミルとリオンへ振り向く。
「二人とも気をつけて」
「ラットこそ、頼んだぜ」
「ラット……よろしく」
頷いたラットは、マジックバッグから取り出したものを構えながら、森の奥へと一人進んでいった。
*
「さすがだな。もうどこにいるのか、わからなくなっちまった」
リオンの視界には、平地と違い、生い茂った木々のみが映されている。
どこかにいるのは間違いないが、目で追ったとしても、ラットがいるのかすらわからない。それどころか、〝いるはずだ〟という思い込みは、ただの木ですらラットに見せてくる。
「ミル、背中は預けたぜ」
「リオンも……」
互いの死角をカバーするように、森の奥へと進む。
瞬間。
風が、割れた。
__ギンッ!
撃ち放たれた赤い閃光を、剣で斬る。
「そっちか!」
踏み込んで走り出そうと構える。
「だめ……」
……が、ミルに止められる。
冷静な一言に、思い出した。
「移動砲台か……」
ロックの血魔法による移動砲台。弾道を追った先に見えるのは、ロックではなく、その砲台かもしれない。とすれば、罠の可能性がある。闇雲に突っ込めない。
立ち止まる隙に、今度は反対側から、くる。
「うおっ」
ガントレットで無理やり頭を下げさせられる。瞬間、通り過ぎる閃光。
「あっぶねー。もう少し止まるのが遅かったら撃ち抜かれてたぜ。サンキューな」
「くる……」
ドッドドドドド______。
「うおおおおぉぉぉぉ、めっちゃ撃ってくる」
一つ防いだからこそ、気が抜けた。しかし、ロックはそれを許さない。息つく暇も与えない。無数の赤い閃光が四方から放たれる。
弾く、跳ぶ、転げ回る。
なりふり構っていられない。
ミルも同様に立ち回っていた。
しかし、無数に放たれる赤い閃光の中に紛れる細い光__貫通弾。
ミルを狙った一筋の光。
それに気づいたリオンがミルとの間に割って入る。
ギンッ!!
弾く。
だが、踏ん張りが効かない。足が浮く。
「やばっ」
四方から放たれた赤い閃光がリオンに向かう。
ガシッ!
今度はミルがガントレットでリオンを掴み、引き込んだ。
遅れて交差する光。
間一髪だ。
「思ったよりも激しいな。このままじゃ……」
「リオン、木……」
「そうか!」
二人で咄嗟に木陰に飛び、やり過ごす。
隠れた木が壁になる。
移動砲台の中に時折紛れる貫通弾。それは魔銃から放たれるもの。その方向の先にロックはいる。
「さっきあっちの方から撃ってきたよな?」
ドッ__
「うぉ、っぶな」
様子を窺おうと顔を出せば、放たれた閃光が牙を剥いた。髪を揺らされ、息が止まりそうになる。おちおち覗けもしない。
「リオン、前……」
「ひっ」
__かと言って、隠れ続けてもいられない。
移動砲台は位置を変え、角度を変え、攻撃してくる。その上、ロックの貫通弾は、隠れた木ごと撃ち抜くことができる。木を背にしているからと言って、一瞬でも気を抜こうものなら、撃ち抜かれてしまうだろう。
移動砲台が幹を穿つ。赤い雨は止まない。じりじりと削られる樹皮。次にこうなるのは自分かもしれないと、唾を呑む。
撃たれるのは時間の問題だ。
貫通弾は撃たれる度に方向が変わる。ロックも移動しているのだろう。居場所がわからない。もし場所がわかれば、こちらから仕掛けられるのに……。
__そのときだった。
放たれる無数の閃光の奥。
見えた人影__。
「あいつだ! 近いっ!!」
リオンは飛び出そうとした。
だが、ミルが道を塞ぐ。
「ダメ……」
「なんでだ!? あそこにいるんだぞ。もう我慢できねぇよ!」
叫んだ。
「ラットを……信じる」
はっとした。
そうだ。ラットは言っていた。
『どんなに撃たれても、僕を信じて。__耐えて』
と__。
「……悪い。頭冷えたよ」
「今は待つ……」
頷いた。
銃声は続く。
毟られる葉。
壊れゆく幹の盾。
近付く死。
それでも、耐える。
ラットを信じて。
*
草葉の陰から覗かせる銃口__。
木陰に隠れながら、ロックはミルとリオンへ魔銃を放つ。
(いい的だな。これならどちらかに攻撃が当たるのも時間の問題だね)
一方的に攻撃する状況で、ロックは淡々と、狙撃を繰り返していた。もちろん、ラットへの警戒は緩めない。
(なかなか誘いに乗ってこないな。ラットの入れ知恵か?)
ロックはただ隠れながらに狙撃をしていた訳ではない。ラットを見つけられない状況で、少しでも早く戦力を削っておきたかった。そのための〝誘い〟だ。
タレットレイ__。
移動砲台による手数の追加。設置による攻撃位置の誤認。など、様々場面で利用することができるロックの血魔法の一つである。
ロックは移動砲台により位置を誤認させようとしており、近づこうとした瞬間__正面に意識が向いた瞬間に、別の方向から、つまりは意識外からの攻撃によって標的を撃ち抜こうとしていた。
だが、これでは足りない__。
きっとラットの〝言葉〟を必死で守っているのだろう。
「これならどうだ」
<血魔法 ブラッドマン>
移動砲台だけではない。血でロックを象った血液人形を作り出した。近くで見れば偽物とわかるが、薄暗く距離があればその限りではない。見分けることはできない。
走れば届く距離。
見える人影。
つけ込める隙。
食いつかずにはいられないだろう?
(誘いに乗って、走り寄れ!)
そうすれば、そのガラ空きになった背中を撃ち抜くことができる。
__しかし、二人は誘いに乗らない。
なぜだ?
これだけ一方的に攻撃されている状況。このままでは、突破され瓦解するのも、そう遠くないと分かっているはずだ。
そんな状況だ。目の前に用意された突破口はそうとうに蜜の味だろう。
それなのに、仲間を信じきれるのか?
少なくとも今まで対峙してきた奴らは飛びついてきたのに。
信じきれるのか?
ほんの少し手を伸ばせば、抜け出せる可能性を捨ててまで……。
……いや………信じていたな。
俺も………。
あいつの〝言葉〟を……。
カサッ!
木から落ちた葉に何かが当たる音。
「!?」
次の瞬間、死角からくる物体に咄嗟に反応した。即座に撃ち抜く。しかし……。
パシャ__。
「くっ」
何かが当たった。
(これは? ……いや、考えるまでもない)
『ラットか!!』
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
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