第47話 偽りの愛
「愛に生きることにしたんだ」
ロックは、確かに、そう言った。
「…………は?」
意味が、わからなかった。
真意を理解するために、ラットは思考を巡らせる。
「ロックがパーティに入ったのは、世界中の女性を救うため、戦争の早期終結のためだよね」
ロックの目的は……
「戦争とは言え、魔族が人族の女性を襲っていたのを憂いて、力を貸してくれた」
変わっていない。
「実際、魔王を倒すことで、戦争を早期に終結させた」
信じたかった。
「被害だって、僕たちは一般の魔族や逃走する魔族に手を出していない。最小限に留めたはずだ」
しかし、ロックは首を横に振った。
「戦争が終わってみて、俺は思ったんだ」
語られる。
「確かに戦争は終結した__だが、それにより、火の国は他の三国から圧力をかけられ、気の休まらない日々」
ロックの想い。
「どころか、手柄欲しさに軍を率いて侵攻し、小さな集落を滅ぼそうとする奴らまで現れた」
ロックの悲嘆。
「争いの噂を聞くたび、軍の侵攻の情報を聞くたび、駆けつけては鎮静化させた。けれど、火種はすぐ生まれる。何度も、何度も、何度も」
ロックの絶望__。
「こんな状態が、俺が望んだことなのか?」
ラットは思う。
「そんなときに気づいたんだ。魔王が死んで、火の国にはもう大した力はない。次は風の国だと」
なぜ、そこまで追い詰められるまで……
「一方的に力があるから調子づく」
言ってくれなかったんだ。
「今度は他の国が同様に力を放棄する番だと」
ヒーロなら。
「そうすることによって、世界は均衡状態になる」
僕たち、勇者パーティなら。
「風の国にとっての力が、ヒーロだ」
力になったのに__。
「それならヒーロを裏切るのではなく、協力してもらうのではダメなの?」
「ダメだね。勇者という存在がダメだ。その存在が後ろにあるだけで、調子づく。いざとなれば被害者面して、泣きつけばいいと思ってる」
説得は……
「滅ぼすまで止まらない。人族は迫害する」
無理なのか。
『自分たちと違う異端には、どこまでも残酷になれる醜い種族だ!!』
ロックの、血を吐くような叫び。それに、
(なんだ。今の言葉、どこかで……)
聞き覚えが、あった。
「ロック……」
思い出した。
ミルから、聞いたのだ。
「背後にいるのは__」
彼女が仲間に誘われたときの……
「魔族だね」
〝トゥーロ・グリード〟の言葉だ__。
「言っていることがめちゃくちゃだよ、ロック」
途中までは、もしかしたら本心なのかもしれない。だが、行動に致命的な矛盾がある。
「ロックの主張はわかる。僕だって思うところはある。だったらなぜ、王都なのさ」
人族が憎いなら、その統括である王都側に着くのは明らかにおかしい。元々、王都側の行動も強引だった。戦争の予兆。もしかしたら、王都側も既に魔族の手に落ちているのかもしれない。
「それに今の言葉。ロックに吹き込んだのは、紫髪の〝少年〟じゃない?」
「少年? 確かに、そういう奴もいたかも……な。だが、そんな奴はどうだっていい。俺は……愛に生きる。彼女のために生きる。そう決めたんだ……」
(様子がおかしい)
「愛……彼女のため………愛……愛愛愛………」
ぶつぶつと壊れたように呟くロックは、どう見ても普通ではない。
(それに彼女? 女性が関わっているのか?)
女性の名前はわからないが、これだけは言える。
「ロック、その女性は敵だよ。このままだと、また戦争が起きるかもしれないよ。またたくさんの女性が巻き込まれるよ」
「いいや……やはりヒーロが悪い……俺の愛を否定するな」
確信に迫っているのか?
魔族……と言うより、その女性を思い出そうとすると、明らかに様子がおかしくなる。
感じていた違和感。
時折見せる認識の混濁。
愛という言葉。
だが、これは__洗脳ではない。
これは……。
「ロック、〝魅了〟……にかかってるの?」
ロックの乱れていた呼吸が、一瞬止まった__。
洗脳、傀儡、魅了。
相手を操るのにも、いくつかの種類がある。
もっとも強力なのが、対象者の思考を停止させ、完全に思考を使い手の思い通りにする洗脳。
次に、決まった行動パターンを自動で行うようにさせる傀儡。
そして、もっとも効果が弱いのが魅了だ。この魅了は部分的に認識をずらしたり、行動のブレーキをなくしたり、効果がかなり限定される。
洗脳や傀儡と違い、行動の遂行度も対象者の性格に依存する。真面目な者を魅了すれば従順に動いてくれる。反対に、不真面目な者、ルールに縛られない者だと、だらけたり、従わずに想定外の行動をしたりする。良くも悪くも、対象者次第の能力だ。
この魅了の特徴として見られるのが、認識の混濁。魅了により認識をずらされたことで、矛盾が生じる。混乱する。
ロックに感じていた感覚に__当てはまる。
「ふざけるな。俺の愛は本物だ!」
誰かが誘導している。
裏切った自覚がなかったから、あのとき、理解が遅れたのだ。
「……ラット、なんで笑っているんだ?」
ラットは笑みを浮かべていた。
魅了されている。
加護に干渉できる力が関わっている。
王都が魔族の手に落ちているかもしれない。
悪いことは多い。
だけど、今は……。
裏切っていなかった。
それがどうしても頭をよぎる。
笑みが溢れてしまう。
「……もういい」
ロックが魔銃を構える。
「話は終わりだ」
ロックの身体が影に沈む。
次の瞬間、一帯が光で包まれた__。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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