第3話 崩れる自信
先輩も、仲間でさえ、剣士が悪いと否定する……。
今まで、苦労せず手に入れてきた。
訓練生時代、同期の誰よりも強かった剣士。一目置かれた。上はパトロンになり、下は使用人になった。望んでなくとも与えられる。武具も、酒も、飯も、すべて。王様。それが剣士である。
晴れてC級となり、冒険者となった。これからは、命をかけてクエストを遂行しなければならない。なら、その対価として、報酬をもらうのは当然だ。
タダ酒、タダ飯、何でも許されるはず。
いや、許されなければおかしい。
(好き勝手して何が悪い?)
悪くない。
(オレは間違ってなんかいない)
そう、通常のクエストだけではない。
魔物が攻め込んできたら。危機が訪れたら。
命をかけて、守ってやるのだから――
__ズン。
「うおっ!?」
衝撃音がした。伝わってきた地響きに、ひっくり返りそうになる。
「なっ、なになに、今の!?」
「すっごい衝撃!」
「ちょうど村の入り口の方からよ! 行きましょう!」
「あっ、おい、待て!」
どうにも嫌な予感がする。しかし仲間たちは、林を無鉄砲に突っ切っていってしまった。
こうなれば、追いかけない訳にはいかない。林を抜け、村の中心部へ飛び出す。なくなっている人気に胸騒ぎを強められながら走る。入り口に辿り着いた時、嫌な予感は現実のものとなった。
「グオォオオオオオオオオ!!」
咆哮を上げる巨大な熊型の魔物。そして、
「――ッ先輩!!」
凹んだ地面に倒れ伏す、先輩と、その仲間の姿。
「おい、まだいたぞ!」
集まる村の男衆の一人が、剣士たちに気づいた。振り返った村長を先頭に、総出で駆け寄ってくる。
「こ、こりゃ一体――」
「魔物が襲ってきたんだ!」
「魔物が!?」
(ねぇ聞いた!? 近くの森で出た大きな魔物だけど、)
(A級が来てくれたんでしょ? も〜、一安心よ。これで村が襲われる心配はないわ)
耳にした村人たちの会話を思い出す。先輩の討伐対象である大型の魔物。不意打ちで、襲撃してきたのか。
「A級が戦ってくれたんだが、見ての通り、やられてしまった……! 代わりに戦ってくれ!」
「あいつは弱ってる! 手負いなら、C級でも何とかなるだろ!」
「このままじゃ村は壊滅だ!」
「あんたらだけが頼りなんだよ!」
村長を筆頭に、代わる代わる助けを求めてくる村人たち。その全てを、
「む、無理だ」
切り捨てる。
「なっ……」
村長が青ざめる。
「散々好き勝手しといて、逃げようって言うのか!?」
「ゴブリンだろうが何だろうが倒してやるって笑ってたじゃねぇかよ! 倒せよ! 命がけで!」
「戦え!」
「倒せ!」
怒号が剣士を取り囲む。
「ね、ねぇリーダー。戦おうよ」
弓使いが言う。
「怖いけど、倒してやるって言ったんだから」
槍使いも言う。
「……無理だ」
切り捨てる。
刹那。
パシッ、と乾いた音が頬で鳴った。
「しっかりしなさいよ!」
剣士を引っ叩いたのは、魔法使い。
「村のみんなを傷つけてきたのよ! 助けないでどうするの!?」
濡れそうな目尻をつり上げ、剣士を睨む。
「アンタ、これまでも魔物と戦って勝ってきたんでしょ!? みんなでかかれば、」
「無理だ!!」
切り捨てる。
「ッお前、この期に及んでまだ――」
頭に血を昇らせる村長の前で、剣士は地べたに這いつくばった。
あまりに突然だったからか、村長たちも、仲間たちさえも言葉を忘れたように黙る。その隙に、言った。震えて。
「すまねぇ。無理だ。無理なんだ」
謝る。
「ないんだ。戦ったこと」
「……え!?」
仲間の一人の声。ピシリ。音がする。
「見栄張った。訓練生時代トップだったオレなら、魔物も楽勝だろうって思って、つい嘘吐いちまったんだ。本当は、ねぇ。ド新人なんだよ。村長、お前と同じ」
リーダーの仮面が、壊れる音がする。
「手負いだからって、あんな凶暴化した、それもA級の先輩がやられちまうような奴に、勝てる訳がねぇんだ。許してくれ。頼む。この通りだ!」
地べたに額を押しつけ、謝罪する。仲間たちに。村人たちに。
「そ、そんな、じゃあもう……」
「どうにも、ならないのか……?」
村人たちの悲嘆を、凄惨な攻撃音がかき消す。入り口で暴れ回る魔物が彼らに狙いを変えるのも、時間の問題だろう。だが、どうしてやることもできない。立ち向かったところで、死ぬだけだ。
「待てよ……そう言えば、聞いたことある」
ふと、村人の一人が呟いた。
「この村に勇者パーティの一人が住んでるって」
――希望を。
「勇者パーティ!?」
「で、でも、勇者パーティって言ったら、あの六人だろ? 見たことないぞ!?」
「変装してる可能性は!?」
「そうか、正体を隠して生活してるってことも……!」
「宿屋のあんちゃんか!?」
「酒場の雇われ店主は!?」
「いや武器屋のおっちゃんじゃないか!?」
「アイテム屋です」
「あの店はおやっさん一人だ、違ぇ!」
「いえ、もう一軒の方の」
「ねーよ! あの薄気味悪いアイテム屋には幽霊しか――ってうおお!?」
「おわっ!?」
「幽霊……いや、人間か?」
「いつからそこに!?」
覚えのある反応につられ、顔を上げる。
「……イ、インチキ、店主?」
いた。
あの、少年店主が。ひっそりと。
「はい」
丸眼鏡の向こうの碧眼を細め、店主は笑った。
「勇者パーティの、七人目です!」
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