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第113話 抗う氷刃

 魔法の衝撃で巻き上がった土煙が周囲を覆う。

 その煙の中、少年剣士が静かに佇んでいた。


 鋭い視線。

 迷いなく構えられた剣。


 倒れた少女はすでに意識を失っている。

 サキュバスはその傍へ膝をつき、不安そうな表情を浮かべていた。


 そして、それらを守るように。

 少年はシールの前へと立ちはだかる。

 静かに剣先を向けた。



「ぼーっとするな! 強化だ!」


 少年が叫ぶ。

 殺気に呑まれ、委縮していたサキュバスがハッとする。

 慌てるように歌い始めた。


 妖しく響く旋律。

 その魔力が少年の身体へ流れ込んでいく。


 そして、少年が踏み込んだ。


 ザッ____


 シールは即座に盾を振るう。

 だが、少年はそれを紙一重で躱した。


 さらに低い姿勢から斬撃を繋げる。


 シールの防御の隙間を縫うように。

 盾の死角へ滑り込むように。


 少年の動きには無駄がない。

 次第にシールは押され始めていた。


 ガギッ____


 刃がシールの腕を裂く。


「ほう……」


 感心したようにシールが呟く。


「おぬし、やるな」


 少年の剣はシールの防御を正面から突破したわけではない。


 鎧の隙間。

 盾の死角。


 僅かな綻びに刃を織り交ぜた。


「ワシの防御をここまで見事に掻い潜る奴ははじめてじゃ」


 だが、浅い。


 腹部へ差し込まれた刃でさえも、魔力で強化された肉体を深くは貫けない。

 かすり傷程度で止まっていた。


「ところで兵たちはどうした?」


 シールが問う。


「どうした? まさかあれで包囲したつもりだったのか?」


 軍の動きを予測した。

 包囲網を突破してきたのだ。


<斬り裂け__アイスソード>


 少年のサーベルが氷魔法を纏う。

 氷に覆われた刃から冷気が白く立ち上っていた。


「私も戦うわ」


 サキュバスも槍を構える。


 恐怖は残っている。

 それでも退かなかった。


「俺が斬り込む。お前は距離を取りつつ隙を作れ」


 再び、少年が地面を蹴った。


 同時に__


 アァァァ__________


 サキュバスの歌声が変質した。


 音波にも似た衝撃が空気を揺らす。


「音か……」


 ダメージこそ大きくない。

 だが、耳の奥を揺さぶられるような不快感。

 それと共にわずかに平衡感覚が乱された。


 その一瞬、少年が盾の隙間へと滑り込み、

 サーベルを構えて大きく踏み込んだ。


 ガギィッ____


 氷を纏った刃がシールを斬り裂く。


「どうだ? 魔法を纏った剣の切れ味は?」


 少年が息を荒げながら笑う。

 斬られた部位から血が滴り落ちる。


 本来なら守りを突破され、焦るところなのかもしれない。

 だが、シールもまた笑みを浮かべた。


「ほう……、お主も魔力を纏えるんじゃな」


 その技は勇者パーティの仲間、ヒーロを思わせた。


 修練によって磨き上げられた技術で守りを崩し、

 魔法を纏った刃で確実に傷を刻んでいく。


 派手な一撃はない。

 真っすぐで愚直な、勇者らしい剣だった。


 そして、それは仲間との旅を。

 共に戦った死闘を思い起こさせた。

 思いを馳せる。

 

 二人の連携は続く。


 音で隙をつくり。

 そこへ少年が斬り込む。


 少しずつ。

 確実に。


 シールへ傷を増やしていった。


 だが。


「そろそろ終わりじゃ……」


 楽しかった時間を惜しむようにシールは呟いた。


 ヴゥン____


 シールが加護を発動する。


「っ!?」


 二人の身体が強引に引き寄せられた。

 空間そのものが歪む。


 そして、巨大な盾が叩き込まれた。


 ドオオオォォォォォ______ォン


 二人まとめて地面へ叩きつけられる。

 大地が割れた。


 ギリ__


 さらに、圧し潰そうと、両腕に力を籠めていく。


<切り……刻め……__アイ……ス……カッター…………>


 力では抗えない。

 少年はギリギリのところで耐えながらに詠唱した。


 無数の氷刃が放たれ、シールへと襲いかかる。

 それを防ごうと盾を構えなおして、それらを弾く。


 その一瞬、盾が離れた隙を突き、少年はサキュバスを抱えて距離を取った。


 しかし、サキュバスはすでに意識を失い。

 少年もまた体中の骨が砕け満身創痍だった。


 銃撃の傷。

 圧し潰された衝撃。


 足元はふらつき、呼吸も荒い。

 もう限界なのは明らかだった。


「なんだ……?」


 少年が息を切らしながら呟く。


「空間が縮んだ……のか……?」


「あれだけで気がついたのか」


 少年は見ていた。

 加護の発動された瞬間、周囲の砂埃が舞う空間が湾曲したように動いていたことを。


 そこから能力を推測したのだ。


「そうか……、指揮をとっていたのはお前だな?」


 今の戦闘での的確な指示。

 状況判断。

 一度見ただけで能力を分析する観察眼。

 そして、シールの動きへ対応してくる洞察力。


 高い水準で持ち合わせている者はそう多くはないだろう。


「お前たちの連携は見事じゃ」


 シールは認める。


「だが、まだ甘い」


 女オーガを吹き飛ばされた時点で戦線は歪み始めていた。

 壁で立て直そうとした判断自体は悪くない。


 だが、甲冑兵が単独で止めに来た。

 そこが決定的だった。


「他を捨ててでも、三人でワシを潰しに来るべきじゃったな」


 もしシールを落とせていれば。

 多少犠牲が出ようとも、ここまで戦線が崩れることはなかっただろう。


 もう遅い。

 七人いた仲間は、すでに四人が倒れている。



 この状況から立て直すのは不可能だ____。



【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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