第112話 起死回生の黒剣
甲冑兵がその場に崩れ落ちる。
先ほどまで重装兵を容易く斬り裂いていた脅威が消えた。
この一手によって戦況を大きく動かした。
「重装兵! 前へ出ろ!!」
シールの怒号が飛ぶ。
重装兵が前へ出られなかった最大の理由。
それが、あの甲冑兵の存在だった。
本来、重装兵は圧倒的な防御力を盾に前線を押し上げる部隊だ。
並の攻撃では突破されない。
だが、甲冑兵の前では、その重装甲すら紙のように斬り裂かれていた。
前へ出れば、即座に両断される。
だからこそ、重装兵たちは思うように動けなかったのだ。
しかし、その脅威は消えた。
今なら、気兼ねなく前へ出られるというものだ。
最初ほど人数は残っていない。
それでも十分だった。
相手は七人。
そもそも十分すぎるほどの人数差だ。
それが減って残り六人となった。
土人族の軍も人数が減ったとはいえ、制圧するには十分だ。
そして、分厚い盾と重装甲。
それらが壁となるだけで、後衛の損耗は大きく減らすことができる。
重装兵たちは包囲するように隊列を組み直し、少しずつ包囲網を狭めていった。
<撃ち抜け__シャドウボール>
ヴヴヴヴヴ__________
今なお、途切れず響く詠唱。
黒球が兵士たちを撃ち抜いていく。
さらに、視界を塞ぐ闇の壁。
これが銃士や砲手の射線を遮った。
本来なら距離で圧倒できるはずの戦力差。
だが、その優位は完全に潰されていた。
敵前衛が暴れ回れている最大の理由。
あの森人族の黒魔法使いが、場を戦いやすいように整えているからだ。
「……決まりじゃな」
シールは少女の声が聞こえる方へと視線を向ける。
「まずはお前からじゃ」
シールは加護を発動する。
ヴゥン______
シールの前方の空間が歪んだ。
圧縮された空間に引っ張られるように、
シールの巨体が一気に上空へ跳び上がる。
空中から戦場を見下ろす。
敵の位置。
兵士の配置。
崩れかけている戦線。
全てを一瞬で把握する。
「少年剣士は右前方じゃ! 回り込んで逃げ道を塞げ!!」
シールの声が戦場へ響く。
「剣士は左側面へ抜けとる! 重装隊、急いで援護じゃ!!」
兵士たちが即座に動き始めた。
指示を出すのと同時に、シールはさらに加護を重ねる。
ヴゥン______
圧縮された空間がシールを引き寄せる。
その勢いのまま、シールは森人族の少女の前へ降り立った。
ドオォォォ______ォン
着地の衝撃で、地面が砕ける。
「お前みたいな嬢ちゃんを殺すのは気が引けるが……」
シールは巨大な盾を構える。
「ここは戦場じゃ。悪く思うなよ」
少女は即座に後退しようとした。
「逃がさん」
シールが加護により空間を圧縮する。
空間ごと少女の身体を引き寄せた。
シールの攻撃範囲。
それに届くその瞬間。
一瞬早く、魔法が放たれた。
<貫け__シャドウランス>
ドドドドドォ__________
地面から無数の闇槍が突き出した。
逃げ場のない迎撃。
「甘いわ!!」
シールは全身へ魔力を纏う。
そのまま身体ごと回転した。
ゴガガガガガァァァァ________
闇槍を地面ごと抉り飛ばす。
凄まじい破壊音。
粉砕された大地が宙へ舞った。
そして、その勢いのままに。
シールは盾を前へ構え直した。
「ぬぅぅぅぅん!!」
ドォォォォ________
それはもはや雪崩のような衝撃だった。
少女の身体が吹き飛ばされる。
激しい土埃を上げながら地面を転がり、そのまま動かなくなった。
シールは追撃へ向かう。
しかし、シールよりも早く、倒れた少女の傍へ影が降り立つ。
サキュバスだった。
「強化するから……強い魔法を……!」
歌が響く。
甘く妖しい旋律。
その魔力が倒れた少女へと流れ込んでいく。
意識が朦朧としているはずの少女が、それでも詠唱を始めた。
<漆黒の……剣で……斬り裂け……__ソル・シャドウソード>
闇が集束する。
本来それは中級魔法だ。
だが、サキュバスの強化によって、その規模は上級魔法級へ膨れ上がっていた。
巨大な黒剣が形成された。
そして、放たれた。
ズアァァァ__________
黒剣が大地を裂きながら迫る。
だが、シールは退かない。
巨大な盾を両手で構え、さらに魔力を注ぎ込む。
そして、黒剣へと向かって突き進んだ。
ゴガガガガガァァァ________
双方の力が正面からぶつかり合う。
轟音と共に周囲の地面が抉れ、衝撃で空気そのものが震えた。
黒剣が盾を押し込んでいく。
それでもシールは一歩も退かなかった。
やがて。
黒剣の勢いが徐々に弱まり始める。
そして。
完全に押し切った。
勢いを無くした黒剣は徐々に消えていく。
「うそ……」
サキュバスが絶望の声を漏らす。
「勇者パーティの盾を甘く見るでないわ」
上級魔法すら受け止める。
それがシールだった。
「お前さんまで出てきてくれたのは好都合じゃ」
二人まとめて仕留める。
シールが踏み込もうとした、その時だった。
ザッ__
背後から微かに踏み込む音が響く。
同時に、陽光を反射した鋭い刃が迫った。
シールは振り返らずに腕を払う。
空を切る。
さらに、体当たりで押し潰そうとした。
だが、相手はそれすらを躱す。
後方へ跳び退いたその姿。
少年剣士だった。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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