告白
異世界に帰還してほどなくのこと。
港湾都市の喧騒から少し離れた場所に建てられた、高級住宅街にあるサトシの私邸。高台から港を一望するそのテラスで、サトシは夜風に吹かれていた。
「サトシ様、お誕生日おめでとうございます」
そういって現れたエレナが差し出したのは、繊細な銀細工が施された羽根ペンと、デカルト商会が限定生産した最高級のポートワインだった。
「ありがとう。だが、わざわざ祝うような年齢でもない。もう四十四だぞ。人生の折り返し地点を過ぎ、あとはいかに軟着陸させるかを考えるべき年齢になった」
サトシは自嘲気味に笑い、受け取ったボトルの栓を抜いた。
「せっかくだ。エレナ、一杯付き合わないか?」
立ち上る芳醇な香りが彼の神経を優しく解きほぐしていく。
「あら、サトシ様から誘っていただけるなんて。もちろん、喜んで」
二人は月明かりの下、甘く重厚なワインを味わう。夜の静寂の中で二人のグラスが重なる音だけが響く。
少しずつ酔いが回り、心地よい沈黙が訪れた頃、エレナが意を決した表情でサトシを見つめた。
「サトシ様……。貴方は私のことを、本当はどう思ってらっしゃるのですか?」
それは直球の問いだった。今までのサトシであれば、経済用語や煙に巻くような理屈で、この核心的な質問を回避していただろう。
だが、今の彼の脳裏には、日本で再会した松田先輩の言葉が焼き付いていた。
『世間体なんて気にするな。最後に隣にいてくれる人間がいるかどうか、それだけが大事なんだからな』
覚悟を決めたサトシは深く息を吐き、エレナと正面から向き合った。
「……いつまでも曖昧にしていて済まなかった、エレナ。俺の世界では、二十も年が離れた男女が交際するのは一般的ではなく、あまり褒められたことではないんだ。それに、俺といることで君の将来の選択肢を奪いたくなかった」
そこまで言い切ると一息つき、サトシは彼女の瞳を真っ直ぐに射抜いた。
「……だけど、俺は君が好きだ。エレナ、俺と付き合ってくれないか?」
その瞬間、エレナの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「……はいっ、はい!」
彼女は弾かれたようにサトシの胸に飛び込み、その服を強く掴んだ。そして、泣き笑いのような顔で彼を見上げた。
「サトシ様は、そんなことで迷っていらしたのですか? この世界では、五十歳の公爵閣下が十六歳の令嬢を迎えるのは『円満な縁談』ですわ。豪商が二十歳以上年下の妻をもらうのも珍しくありません。四十四歳の貴方と、もうすぐ二十歳になる私……この差を『異常』だなんて、どなたもおっしゃいませんわ」
「……そうか。そうだったな。俺が今生きているのは、この世界なんだ。現代の枷に囚われすぎていたよ」
サトシは苦笑し、腕の中の愛おしい存在を抱きしめ直した。
「エレナ。俺は不器用な男だ。お前の若さに追いつくことはできないが、お前のこれからの人生、一秒も飽きさせないことを約束しよう。この契約、受けてくれるか?」
その言葉に、エレナは再び声を上げて泣き出した。
「もう! いったい一晩に何度泣かせる気ですか!」
四十四歳と十九歳。この大陸においては、それは一つの完成された、そしてごくありふれた愛の形だった。
サトシは彼女の温もりを感じながら、窓の外に広がる、自分が作り上げた夜の街を見つめた。金、権益、そして確かな絆。
すべてを手に入れたサトシは、明日から始まる「新しい時代」へ向けて、静かに決意を新たにした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
「続きが気になる!」「サトシの経済侵略を応援したい!」と思っていただけましたら、下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけると執筆の大きな励みになります!
ブックマークもぜひ、よろしくお願いします!




