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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第五章 産業革命編

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第46話 「規格」という名の共通言語

現代日本での数ヶ月に及ぶ「教育と設計」を終え、サトシたちは再びオルドリンドの地を踏みしめていた。


転移の眩暈が収まった執務室で、サトシはまずデスクに積み上がった不在中の未処理案件ではなく、ともに異世界に帰還したエレナとカイルに視線を向けた。


「エレナ、カイル。俺たちが不在にしていた数ヶ月の間、商会と銀行の業務に支障はなかったかを確認する。まずは各部門の幹部を招集し、現状の確認が必要だ」


サトシの指示は迅速だった。


可能な限り完璧な形で「技術」を持ち帰ってきたサトシであったが、どれほど素晴らしい設計図を持ち帰ろうとも、足元の既存事業が揺らいでいては砂上の楼閣に過ぎない。


そう指示を出し、まずこの場で処理できる案件に取り掛かるのだった。



数日後、会議室には、サージョ・バンコの各支店長やサージョ・コメルツォの出納責任者ら幹部たちが一同に顔を揃えた。


彼らは全員、サトシとの間に「魔法契約」を結んでいる。 契約の拘束により裏切りや汚職は物理的に不可能であり、サトシの不在中も機械のように正確に業務を遂行している。


エレナとカイルは現代で学んできた進捗管理とリスクマネジメントの手法を応用して不在中の幹部たちの行動を精査した。


「……致命的な問題は皆無ですわ、サトシ様。既存の仕組みは、もはや最小限の我々の関与さえあれば自律して富を産み続ける段階に入っています。魔法契約による統制も、揺らぎ一つありません」


エレナの報告を聞き、サトシは静かに頷いた。


「そうか。既存事業がこれほど安定していれば、リソースの大部分を新規事業に投入できる。……始めるぞ。この世界の『背骨』を作り替える」



一ヶ月の後、サトシは王都、港湾都市、自由都市に拠点を置く各職人ギルドの長たちを招集した。


鍛冶、木工、建築――この国のインフラを支える熟練の職人たちが、サトシの前に居並ぶ。


「我々サージョはこれから国内で空前の大規模開発事業を行う。とてつもない量の仕事が発生するだろう。そして、その仕事を受けるための条件は一つだけだ」


サトシは彼らの目の前に、現代日本で特注した「マスターブロック(基準治具)」を置いた。 鏡面のように磨き抜かれた、寸分狂わぬ鋼の立方体だ。


「これを見てもらいたい。このブロックを今後すべての作業基準として採用する。この『基準』に基づき、あらゆる設計、あらゆる部品を製造してもらう。できなければ、仕事を任せることはない」


職人たちの間に、爆発的な反発が起きた。


「冗談じゃねえ! 俺たちは親方の代から、自分の目と手で測って仕事をしてきたんだ!」 「そんな鉄の塊を基準にしろだと? 職人のプライドをなんだと思っている!」


怒号が飛び交う中、サトシは冷ややかに言い放った。


「あなた方のプライドはわかる、歴史の重みもあるだろう。だが考えてみてほしい、複数の工房に任せる大規模な仕事では、それぞれの工房が独自の尺度で作った部品は現場での調整が欠かせない。無駄な時間が発生し、調整の利かない部品はただのゴミになる」


デスクに置いた精密なマスターブロックを指差す。 一瞬、工房主たちは言葉に詰まった。


杉山教授から教わった「規格」という概念。 それが、彼らが長年守ってきた『一子相伝の技術』を、残酷なまでに効率という名の刃で削ぎ落そうとしている。


サトシは静まり返った室内を見渡し、今度は諭すように声を和らげた。


「だが、全員がこの『基準』を守れば、たとえ王都の工房で作った巨大な水車でも、この港湾都市に築いた土台へと寸分たがわず収まるようになる。職人は製造に集中することができるようになり、生産性は大きく上がるだろう。部品には互換性が生まれ、修理は容易になる。俺が言っているのは、職人としての感性の否定ではない。あなたたちには産業という名の『共通言語』を持ってほしいんだ」


論理的な説得と、サトシが提示した破格の契約金、そして何より目の前のマスターブロックが放つ絶対的な精確さの輝きに、職人たちは沈黙するしかなかった。


「納得したなら、ついて来てほしい。あなたたちの新しい『相棒』を用意した」



サトシは職人たちを、現代の設計図をもとに現地の資材で組み上げさせた「水車式旋盤」が並ぶ工房へと案内した。 サトシがお抱えの現地の職人たちが図面通りに完成させたこの世界初の工作機械群だ。


「これは……でかいな。あの連結している水車の力で刃物を回しているのか?」


「そうだ。それもただ回るだけではなく、送り機構により、いままでは数日かけて削る金属をたった数分で、しかもすべて同じ寸法に仕上げることができる」


周囲の職人たちは冷ややかな薄笑いを浮かべ、鼻で笑った。


自分たちが何代もかけて研ぎ澄ましてきたヤスリの技術を、魔法具でもないただの機械が数分で超えるなど、彼らの常識からすれば到底信じがたい大ボラにしか聞こえなかったのだ。


その反応を気にすることなく、サトシは現代で技術者たちが作り上げた操作マニュアルを現地語に翻訳したものをギルド長たちに配布した。 そこには、誰が操作しても同じ品質を保つためのノウハウが、緻密な図解とともに記されている。


「信じられないか?試してみるといい、これが『近代』だ」


半信半疑の様子だった鍛冶ギルド長が、恐る恐る旋盤の前に立つ。 マニュアルを片手にレバーを引き、刃を鋼材に当てる。


激しい金属音が鳴り響き、鋼が鮮やかに削られていく。 ギルド長は驚愕しつつ続けざまに新しい鋼材を削り出した。


仕上がった二本のシャフトを並べると、それは双子のように精確に一致する。


「……こりゃあ、すげえ。俺たちの腕以上の精密さが、こんなに速く……」


「まじかよ……。旦那、これがあれば、今まで作れなかったような複雑な注文だって、いくらでもこなせるぞ!」


職人たちの目は、反発から驚愕へ、そして未知の創造への熱狂へと変わっていた。


彼らはまだ知らない。 自分たちが削り出したこの精密な部品が、やがて巨大な鉄の塊を動かす心臓部となり、この世界の距離の概念を破壊することになるのを。


サトシはその様子を、エレナとカイルの隣で静かに見守っていた。


この日、オルドリンドの一角で産声を上げた金属の回転音。 それは、不条理な中世の静寂を切り裂き、この世界に「産業革命」の到来を告げる、最初の号砲となったのである。


【第46話進捗概況】


獲得リソース: 職人ギルドによる「規格統一」の合意


生産基盤: 水車式旋盤工房の稼働開始

最後までお読みいただきありがとうございます。


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