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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第四章 現代編

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第44話 敗者の記録に眠る黄金

この日、三人が訪れたのは都内にある国立大学の科学史研究室だった。


サトシは事前に架空の十五、六世紀の技術で再現した十九世紀相当の世界を舞台にした、徹底的にリアリティを追求するテーマパーク建設を計画するにあたっての実現性調査という名目で、科学史の教授にアポイントをとっていた。


「……なるほど。単なる見せかけではなく、当時の技術で実際に稼働する『産業の村』を作りたい、と。面白い試みだ」


がっしりした体格の初老の教授は杉山という。 杉山はサトシが提示した「研究寄付金一千万円」という実利と、そのマニアックな依頼に興味を惹かれたようだった。


サトシはあえて自分から多くを語らず、教授に「当時の技術的ボトルネック数世紀前の技術でどう突破すべきか」を問いかけた。 教授はホワイトボードに板書をし、図解しながら熱心にレクチャーを始める。


「まず、19世紀の技術を成立させるのは『規格』です。部品一つ一つを互換可能にするため、寸法の基準を揃えなければならない。そのための検査治具、つまりマスターブロックこそが近代工業の出発点と言えます」


そこから教授の口からは、産業革命を支えた技術の連鎖が次々と提示された。


水車を動力として金属を精密に削り出す「水車式旋盤」。 蒸気の圧力を回転に変える「クランク機構」や、出力を安定させるための「調速機(ガバナー)」。 さらに石炭消費を劇的に減らす「復水器」、そして過酷な環境に耐える「水管ボイラー」の設計思想。


「そして忘れてはならないのが『潤滑油』です。これがなければ、どれほど精巧な機械も数日で焼き付き、ただの鉄屑になる」


「潤滑油、か。それは牛や馬の脂では代用できないのか?」


カイルが、かつての斥候兵としての実地経験から問いかけた。 教授は一瞬驚いたように目を見開き、そして愉快そうに笑った。


「鋭いね。現代の人間で獣の油を使おうという発想はなかなかでてこない。確かに十八世紀までは鯨油や菜種油が主役だった。だが、高圧・高温になる蒸気機関の世界では、それでは炭化して焼き付いてしまう。そこで必要になるのが鉱物油と蒸留の知恵だ。寿命は若干短くはなるが植物油に石灰などの添加物を加えてグリス状にするという手もある」


杉山教授はホワイトボードの隅に、当時の技術者が直面した「失敗の記録」を書き連ねていく。それは、成功した輝かしい発明の影に埋もれた、無数の技術的挫折の歴史だった。


「私がこれら『敗者の記録』を集めるのは、成功の影にこそ真のボトルネックが隠れているからです。嘆かわしいことに、いまの学生は検索すれば出てくる答えにしか興味がない。だが、君たちはなぜそれでは駄目なのかという過程を順序だてて考えている。……研究費もありがたいが、この年齢になって、私の埃をかぶった歴史をこれほど熱心に欲しがる人間に会えるとは思わなかったよ」


杉山は、自嘲気味に、しかしどこか誇らしげに肩をすくめた。


彼は、自らの研究分野がこれほど真剣に、かつ実利的な質問を受けることに喜びを感じているようだった。 最先端の技術を追いかける現代社会において、過去の技術の変遷を辿る彼らの研究は実学としての価値を認められているとは言い難い。


それゆえに巨額の予算がつくこともなければ、世間から喝采を浴びることもない。 効率と新しさを至上命題とするアカデミアの潮流の中で、彼らは最も冷遇されている人種といっても過言ではなかった。


だがサトシは、その道楽の中にこそ試行錯誤の記録という黄金が眠っていることを確信していた。


そして傍らで熱心にメモを取るエレナとカイルは、教授の言葉一つ一つが自分たちの世界の未来を変える鍵であることを理解していた。


「教授、その『調速機』があれば、出力の不安定な動力源でも一定の速度を保てるということでしょうか?」


「その通りだ―――」


杉山の話はこの後も二時間ほど続いた。


彼はサトシにこのテーマパークの構想を、より現実的に落とし込める人材として引退した技術者や大手メーカーのOB、大学の元教授陣といった、理論と実務の双方を兼ね備えた重鎮たちのネットワークを紹介することを約束してくれたのだった。



帰路の新幹線、グリーン車の静かな空間で三人は静かに語り合った。


「……おおよその準備は整ったな。あとは教授に紹介された人材を招聘し、最後の詰めに入る」


「サトシ様……。産業革命の歴史を学んだ時、私たちの世界では到底実現できないような、はるか遠い物語のように思えました。ですが今、私たちの世界を現実のものにしようしている。歓喜の震えが止まりませんわ」


エレナは感動に瞳を潤ませていたが、サトシは車窓を見つめ冷静にその先を見据えていた。


「技術のみですぐに全てを実現するのは難しい。当面、ボイラーの熱量安定化などはあの合成宝石と魔法使いを組み合わせて行う。燃料の質に左右されない魔法は、初期の産業化においてはこの世界の石炭以上に強力な武器になるからな」


魔法を未知の奇跡から制御された熱源へと落とし込む。 そして技術の向上と共に徐々に魔法使いの手を離し、最終的には純粋な技術のみで再現して見せる。 それがサトシの描いた、戦略的な社会構造の変革図だった。


「エレナ、最高純度の合成ルビーを用いた宮廷魔導師は一撃で山を消し飛ばすんだろう?なら、そこらの木っ端魔法使いでも山間部の掘削も、うちの結晶を貸与した魔法工作隊を組織すれば数日で完工できるはずだ。現代の重機を使うよりよほど早い。工期管理(クリティカルパス)を劇的に短縮できるな」


異世界では英雄の武勇伝として語られる強大な魔法の力を、彼は単なる建設資材やエネルギー源として再定義しようとしている。 町工場から供給される無機質な石の山。 それが現場に投入された瞬間、属人的な奇跡は作業へと成り下がるのだ。


サトシの言葉に、エレナは深く、そして確信に満ちた頷きを返した。


「ええ。現代で学んだ管理技術と、私たちの世界の力を掛け合わせれば……不可能なことなどありませんわ」


夜の闇を切り裂いて進む新幹線。 だが、現代日本での彼らの視察と準備は、まだこれですべて終わったわけではなかった。


【第44話 概況】


現代投資(研究寄付): 10,000,000円


獲得概念: 19世紀型工業技術の連鎖(規格、旋盤、調速機、潤滑油など)


戦略的判断: 魔法と機械の「ハイブリッド産業化」の基本ロードマップ策定

最後までお読みいただきありがとうございます。


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