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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第四章 現代編

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第43話 森下人工結晶製作所

異世界において、宝石は単なる装飾品ではない。 それは魔力を通し現実の事象を改変させ、指向性を与える増幅器である。


だが、天然の宝石は供給が不安定な上に不純物も多く、それが魔法の産業における利用低迷と魔導具の超高価格化による特権階級の独占を招く最大の要因となっていた。


サトシは、この産業革命におけるボトルネックを現代の工業力で強引に突破することを決めた。 もちろん並行して研究開発をおこない、将来的には異世界で自給可能にする計画もあるが、それは長期的目標の一つだ。


今までは、これほどまでに異質な「規格外の物資」を大量投入すれば、既存の宝石商や貴族階級などの権力側から激しい介入を受ける恐れがあった。


しかし、コメルツォ、バンコの二社を通じて国内経済を掌握し、政治的にも無視できない発言力を得た今なら、もはや誰も彼の動きを止めることはできない。



彼が訪れたのは、日本の地方にある、古びた町工場だった。


そこは人工結晶――合成ルビーやサファイアを製造する高度な技術を持ちながらも、安価な海外製品に押され、かろうじて息をつなぐ「森下人工結晶製作所」だった。 かつての栄光はなく、いまや年商一億円に満たず採算ラインを割りかけている零細企業だ。


「九条さん、でしたか。せっかく来ていただいたところ申し訳ないのですが……正直なところ、このまま設備を維持するより、廃業して精算すべきか悩んでいましてな。他社のような先端レーザー技術に使われるような結晶はうちでは作れませんからね」


対応してくれた社長の森下はすり減った作業机を前に力なく笑った。サトシの後ろではエレナとカイルが興味深そうに工場内を見渡している。


「森下さん。私は、あなたが作っているごく一般的な合成ルビーとサファイアが欲しいのです。ただし、私の指定する納期、サイズ、純度、そして完璧なカットを安定して供給していただければいい」


そうサトシがいうと、横からエレナが装飾用や工業用のレーザー素子に使われる程度の、ごくありふれた品質の仕様書を提示した。


「実は海外で前衛的な空間芸術を手がけるアーティストの支援をしていましてね。光の屈折を利用した巨大なオブジェを作るために、特定の規格の結晶が大量に、かつ長期的に必要なんです。月額五百万円の売上を五年間保証します。もちろん、もし五百万を超える発注の際はその分は追加しますよ」


サトシは、出された茶を一口啜り、穏やかな微笑みを森下へ向けた。 その物腰はどこまでも丁寧で、相手を威圧するような気配は微塵もない。


しかし、提示された五年間の保証は経営難に喘ぐ町工場の主にとって、凍えそうな夜に差し出された毛布のような救いだった。


「五百万……? 注文の数に関係なく、最低でも毎月それだけ入ると考えてよいのですか? それなら、機械のローンも返せるし、従業員も切らずに済むが……」


社長は、耳を疑ったようにサトシを見つめた。


月五百万、年間にして六千万円という確約された売り上げ。この小さな工場にとっては、社員の雇用を守り、老朽化した機械を最新型へ更新してもなお余りある救済の提案だった。


「最初の五ヶ月は1.0ctを一万粒、0.1ctを三万粒用意していただき、その後の発注量は相談ということでいかがでしょう」


サトシはまるで日常の世間話でもするかのように、さらりと莫大な数字を口にした。森下は目の前の奇特な実業家が何を考えているのかを推し量るようにサトシを見つめた。


「……本気ですか? 作品に、これほどまでの量が必要だと?」


「ええ、それも継続的に。その代わり、可能な限り最高純度の結晶を、常に安定して供給し続けること。それが私が求めているものです。海外のメーカーではそうはいきませんからね」


社長は震える手でペンを握り、契約書にサインした。この工場の将来を悲観していた森下の顔に希望が戻った瞬間だった。


「ありがとうございます。安定した売り上げが入ればうちも延命だけじゃない、生き抜くための研究開発に取り組むことができます」


森下はこの安定した資金を背景に、今までの窮状では手がだせなかった「特定周波数の波長を出す高機能結晶」の開発に再挑戦する決意を語った。


サトシは、静かに笑みを浮かべた。 工場の隅で、エレナがサトシにそっと耳打ちした。


「サトシ様……十分ですわ。ここで作られるこの『平均的で均質な石』なら、魔導具の設計を完全に規格化できます」


増幅器に必要なのは、伝説の宝石ではなく計算可能なサイズと純度なのだ。 ここで量産される人工結晶こそが、異世界の魔法文化の「標準パーツ」となる。


森下は、サトシの手を力強く握った。


「サトシさん、あんたはうちの救世主だ。アーティストさんに笑われないよう最高のカットで納品させてもらいますよ」


今回の契約は、単なる買い付けではなかった。 サトシが真に見据えているのは、異世界の現地技術のみを用いた「合成宝石の自国生産」である。


精密な現代の製造装置をそのまま持ち込めば、部品一つ壊れただけで産業が止まる。 彼が狙うのは、原料を溶融して種結晶の上に滴下し、結晶を成長させる「ベルヌーイ法(火炎溶融法)」を異世界の現地技術で再現することだ。


今回の五年に及ぶ契約は、その現地生産体制が確立するまでの文字通り「つなぎ」に過ぎない。


工場は資金を得て、五年後の自立に向けた研究開発という名の「心の余裕」を手に入れ、サトシは異世界の魔法技術の中心となる素材を安定して手に入れるルートを完成させた。



帰宅したサトシは、手元に届く予定の大量の合成宝石の目録を眺めながら、次の戦略を練っていた。


異世界では、一握りの貴族とエリート魔法使いだけが高価な天然宝石の魔導具を独占している。 だが、これからは毎月一万粒に及ぶ魔法使いの増幅器と三万粒という魔導具の原料が流れ込ことになる。


およそ一万から二万人だといわれるオルドリンド国内に存在する魔法使いの総数を瞬く間に上回るのだ。


「不純物のない人工宝石を増幅器として転用すれば、魔導具の品質は安定し、価格は暴落する。魔法を一部の特権から、誰もが享受できる『一般インフラ』へと引きずり下ろすんだ」


サトシが目指すのは、突出した英雄が剣を振るうファンタジーな世界ではない。魔法というエネルギーが、鉄道や工場の動力として誰にでも安価に供給される近代社会だ。


現代の消えかけていた町工場の技術が、異世界の「動力革命」を加速させる決定的な歯車となった。


【第43話 概況】


現代投資(固定費): 毎月 5,000,000円(5年間継続契約)


獲得リソース: 高純度人工宝石の安定供給ルート(月間1.0ct結晶10,000粒、0.1ct30,000粒)


技術的野心: 現地技術による「ベルヌーイ法」の再現と内製化

最後までお読みいただきありがとうございます。


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