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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第四章 現代編

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第41話 近代という名のソフトウエア

サトシが法人名義で購入した元保養所「サージョ・トレーディング育成研修センター」は、静謐な森の中にあった。


そこに集まった家庭教師陣は、当然その道のプロ中のプロだ。


エレナの前には、かつて大手ゼネコンで数々の国家プロジェクトを指揮した引退済みの施工管理技士と数々の企業を再生させた経験を持ち知的財産にも通じる辣腕の弁護士、そして退官したばかりの経済学者、現役物理学教授の四名が並んでいる。


対してカイルの前には、国内最大手警備保障会社で長年に渡って教育担当を務めあげた元幹部、海外の紛争地で数多の実戦経験を持つ民間軍事会社の現役教官が立っている。


外界から遮断されたこの深い森の中で、エレナとカイルの「脱皮」が始まった。



「……なるほど。この世界の秩序は、契約という名の『呪文』で縛られていますのね」


エレナの学習速度には、専門家たちといえども驚愕を禁じえなかった。


細い銀縁の眼鏡を指先で押し上げたスーツ姿の弁護士は、冷徹な視線を書類から一度も外さずにこう言った。


「会社法とは『誰が財布の紐を握り、誰がその中身を奪い合うか』を巡る、合法的な殺し合いのルールブックです。株主、経営者、債権者……。善意など期待してはいけない。条文の行間から、どこからなら相手を刺すことができるか。それを見極めなさい」


その声には抑揚がなく、まるで当然の事実を述めるかのようだった。


対照的に、長年教壇に立ってきた老経済学者は、柔和な微笑みを浮かべ温厚そうな顔で諭すように言った。 しかし、その瞳の奥には学問への深い畏怖が宿っている。


「数式に目を奪われてはいけません。金融工学の真髄とは、富を築く魔法ではないのです。それは未来という名の不確実な事象を、冷徹な数字によって可能な限り予測可能にすることにあります。金融工学とは神の領域である『未来』を、強引に人間の計算尺に引きずり下ろすための、傲慢な技術なのです」


彼は窓の外の揺れる木々を見やり、支配しきれぬ世界の大きさをエレナに示すのだった。


彼女はわずか数週間という期間で現代の「会社法」、「金融システム」、「金融工学」、そして「現代に通じる科学の基礎」を吸収していった。


「いいですか、エレナさん。どんなに優れた法と資金があっても、現場が動かなければプロジェクトは一歩も進むことはありません。工期(タイム)原価(コスト)品質(クオリティ)、そして安全(セーフティ)。大規模プロジェクトを運用するにあたって、最も重要なことはこの四つを同時に最適化する管理能力なのです」


エレナは、数理的な金融理論を学ぶ一方で、泥臭い「工程表(ガントチャート)」の引き方や、資材の歩留まり計算、現場の労働者の動線管理といった実務に没頭していた。


「数式の美しさ以上に、この『工程管理』の緻密さには驚かされますわ。何千ものばらばらな工程が、まるで一つの生き物のように連動している……」


彼女のノートは、魔法のごとくガントチャートと会社法の条文で埋め尽くされていった。


彼女は、異世界に持ち帰るべきは、この「大規模な事象を管理・統制する概念」であると確信していた。



一方、元保養所に併設されたグラウンドでは、カイルが「近代的な組織論」と向き合っていた。


カイルは決して超人ではないが、長年の戦場経験からくる強靭な肉体と元斥候兵としての高い状況判断力を備えている。


カイルはPMCの教官から、現代の「近接格闘術(CQC)」、「戦術」、および「指揮官技能」を叩き込まれることになる。


「技術はお前が生き残って任務を完遂するための『道具』に過ぎない。心を研ぎ澄ませ。一瞬の躊躇が、お前をただの死体に変えると思え」


「戦場に『正解』など存在しない。あるのは『マシな失敗』と『取り返しの利かない失敗』だけだ。お前が下す一秒の遅れが、前線で泥を這う部下の心臓を止めると思え。」


「カイル、兵の個々の武勇に頼りすぎるな。『戦力の均質化』が組織を強くする。英雄の一撃ではなく、凡庸な百人が一糸乱れぬ歯車として機能する仕組みを作れ」


教官の言葉の数々に、カイルは深く納得していた。


元斥候兵として、彼は兵站の重要性を肌感覚では知っていた。 だが、体系的な学問としていかに緻密な計算の上に軍隊が維持されているかを突きつけられ、改めてその重みに感銘を受けていた。


「一人で百人を斬る武勇よりも、百人を飢えさせずに目的地へ届ける仕組みの方が強い。……それを俺は、感覚でしか理解していなかった」


カイルは慣れないペンを握り、物資輸送の数式に食らいついた。


そして、綜合警備保障の元幹部からは「要人警護」や「群衆管理」を学んだ。


「カイル、真の警護とは敵を倒すことではない。『危機を未然に消し去り、平穏という名の空白を維持し続けること』だ」


彼は冷徹な眼差しでこう続けた。


「群衆管理も同じだ。力で押さえつけるのは二流の仕事。真の一流は、人々の意識を誘導し、暴動の『火種』さえ生まれない流れを作る。警護対象に自分が守られていることを意識すらさせるな。お前がその場にいても、誰の記憶にも残らない『空気』になった時、警護は完成するのだ」


さらにサトシは、カイルを重機の教習所へも通わせた。


重機を異世界で操作することは無いが、土木工事をより効率的にするためには、重機の概念を理解している監督官が必要だと考えたからだ。


カイルは油圧システムの出力とアームの軌道を、実際に操作することで感覚として掴んでいった。



四ヶ月に及ぶ集中講義を終え、研修室の簡素なパイプ椅子からエレナが立ち上がった。


「サトシ様。金融から施工管理まで、私の中の価値観は一度壊れ、再構築されましたわ。これなら……私たちの世界でも、現場を譜面のように操れます」


そう語るエレナの瞳には、あらゆる事象を掌握しようとする支配者の知性が宿っていた。四ヶ月前とは明らかに違う、確固たる自信に満ちたその佇まいに、サトシは満足げに頷いた。


彼は窓の外に広がる深い森の向こうを見つめ、異世界の地平を見据えるようにして言葉を返した。


「よくやった。だが、ここからが本番だ。ここで学んだ知識をオルドリンドで実証してもらうぞ」


その声は静かだったが、これから始まる巨大な変革を予感させる重みを含んでいた。


サトシは現代が生んだ「生きた叡智」を二人の腹心に注ぎ込み、異世界を変革するための最強のソフトウエアを完成させた。


【第41話 概況】

獲得スキル(エレナ): 現代実務法、金融工学、特許戦略、施工管理技術(四大管理)、基礎科学理論

獲得スキル(カイル): 近代戦術、組織兵站、群衆管理、重機操作感覚

最後までお読みいただきありがとうございます。


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