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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第四章 現代編

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煙の縁と、その先の答え

現代日本での活動が本格化する中、サトシには解決すべき現実的な課題があった。


サージョ・トレーディングを通して莫大な資金を動かす以上、法の網を完璧に潜り抜け、かつ税務署に付け入る隙を与えない「有能で口の堅い税理士」が必要だった。


サトシには一人思い当たる人物がいた。 ブラック企業時代、過酷な労働環境の中で唯一人間らしい呼吸を教えてくれた先輩、松田だ。


彼は退職後、独学で資格を取り、現在は個人で税理士事務所を構えていた。彼の誠実な人柄とどんな業務にでも真摯に取り組む姿勢を見てきたサトシは彼を頼ることに決めた。


三日後、最寄り駅に近い落ち着いた喫茶店で二人は落ち合った。


「四年ぶりくらいになるか、随分久しぶりだな、九条。……お前、あそこを辞めたとは聞いていたが、今は何をやってるんだ?」


現れた松田は、白髪こそ混じっていたが、当時のように穏やかな眼差しをしていた。サトシは無言で一枚の名刺を差し出した。


「起業したんです。サージョ・トレーディングといいます」


「ほう、独立したのか。それで俺のところに……。営業か?」


サトシは苦笑いしながら軽く手を横に振る。 ブラック企業時代、地獄のような数字に追われていた自分をよく知る相手だ。気兼ねのない間柄だからこそ、サトシは柔らかな笑みを浮かべていた。


「いえ、顧問をお願いしたいんです。今のところ主な事業は海外での貴金属売買で、その利益をこの会社へコンサル料や配当として還流させています。節税は二の次で構わないんです。税務署が踏み込んでくる余地のない、誠実で完璧な納税をお願いできませんか」


松田は名刺とサトシの顔を交互に見た後、ニヤリと笑った。


「特に違法なことをしてないなら引き受けよう。……でもなんだ、そんなに踏み込まれたくないなんて、悪いことでもしてるのか?」


「……まさか。ただ、事業のスキームが複雑なんで、説明に手間取りたくないだけですよ」


「はは、冗談だよ。お前のどがつくほどの真面目さは知ってるさ。いいさ、引き受けよう」


顧問契約と当面の納税業務について一通りの実務的な話を終えたところで、サトシはふと表情を緩めた。


「仕事の話はここまでにして。……松田さん、あの時はお世話になりました」


松田は冷えたコーヒーカップに口をつけながら聞き返す。


「ん、あの時?」


サトシが懐から、使い慣れたシガリロの箱を取り出すと、松田は「ああ」と声を上げて目を細めた。


「あの時か。非常階段でお前、放っておいたらそのまま死んじまいそうな顔をしてたぞ」


「本当に……ありがとうございました。あの短い一服の時間があったから、今の俺はあります。本当は仕事のことより、このお礼が言いたかったんです」


サトシは、錆びついた手すりと紫煙、そしてどこか冷たい風が吹いていたあの非常階段の光景を思い出していた。追い詰められ、自分の輪郭が消えかけていたあのとき、彼の差し出した一本の煙草と何気ない言葉が、サトシをこの世界に繋ぎ止めてくれたのだ。


「よせよ、照れるだろ。……まあ、お互いあそこを辞めて大正解だったってことだな」


二人は朗らかに笑い合った。その時、サトシは松田の左手の薬指に光るリングに気づいた。


「……ご結婚されたんですね」


「ああ、来年には子供が生まれるんだ。五十も近いこの歳で親になるなんて思ってもみなかったが……実感が湧いてくると、不思議と頑張ろうと思えるもんだな」


松田は幸せそうに目を細め、サトシの瞳をじっと見据えた。


「九条、お前もいい歳だろ。いい人がいたら絶対に逃すなよ。世間体なんて気にするな。最後に隣にいてくれる人間がいるかどうか、それだけが大事なんだからな」


松田の言葉に、サトシの脳裏には微笑むエレナの姿が浮かんだ。 彼女からの真っ直ぐな好意。


自分はそれを「年の差」や「立場の違い」という世間体のような言い訳で、無意識に遠ざけてはいなかっただろうか。もし、その理性の壁を取り払って正直に向き合えば、何かが変わるのだろうか。


サトシは静かに、しかし明確に決意した。落ち着いたら、一度彼女と向き合ってみてもいいのかもしれない。


そんなことを考えていると、サトシのわずかな表情の変化を見逃さず、松田はニヤリといたずらっぽく笑った。


「……その様子だと、誰かいるみたいだな。いいか、絶対に逃すんじゃないぞ」


「ええ……。わかりました。少し、考えてみます」


観念したように息を吐き、サトシも頬を緩めた。かつて絶望の淵で言葉を交わした恩人からの言葉は、異世界で「支配者」として振る舞う彼の鎧をたやすく剥ぎ取ったのだ。


「よし、ならお祝いだ。今日は俺が奢る。美味い酒を飲みに行こう」


二人は席を立ち喫茶店を出て、早めに赤提灯が灯り始めた居酒屋へと歩き出した。 サトシの足取りは、いつになく軽かった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


「続きが気になる!」「サトシの経済侵略を応援したい!」と思っていただけましたら、下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけると執筆の大きな励みになります!


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