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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第四章 現代編

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第38話 文句のつけようがない

現在、サトシが異世界で管理する資金は総額金貨二百五十万枚に及ぶ。 それは一国の経済を牛耳るに足る富であった。


だが、その桁違いの量を考慮すれば、現代社会においてそのまま使用することなど到底できるものではない。


出所不明の莫大な金の流通は、疑ってくれと言わんばかりに、たちまち警察や税務署の網にかかるだろう。そうなれば、犯罪者として捕まるか、異世界とのつながりが発覚して国家に利用される未来しか残されていない。


だからこそ、サトシは現代社会から異世界に『技術』を輸出するにあたって、確実かつ安全に金貨を処理する必要があったのだ。


サトシは頭の中で計画された手順を振り返りながら、タブレットの表示を確認し、単身現代へと「ログアウト」した。



「さて、始めようか。現代社会における『資本』の錬金術を」


サトシは異世界と現代を往復する数年の生活の中で、常に現代側における金貨の換金に頭を悩ませ、考え続けていた。いま、その悩み抜いた数年間の成果が表れようとしている。


まず、サトシは現代へ戻った際に必要になるだろうと、日本国内で事前に設立しておいた「サージョ・トレーディング」の代表として動き出した。


その目的は当然、彼が異世界で積み上げてきた莫大な富を、誰からも後ろ指を指されないクリーンな日本円へ変換すること。文字通り、世界を超えた資金洗浄(マネーロンダリング)である。


サトシが次に手配したのは、アフリカの某国にある、掘り尽くされて既に価値がなくなり放棄された廃鉱山の採掘権を持つ休眠企業についてだ。彼は現地にダミー会社を設立し、この休眠企業から「価値のない穴」を日本円にして数十万円で買い取っていた。


ここからがサトシの真骨頂だった。


彼はアフリカの廃鉱山からドバイへと、大量の「ただの石ころ」を「未精錬の金鉱石」として輸出した。これで国際的な輸送記録には、正規のコンテナに詰められた大量の鉱石が記録される。


ドバイの保税倉庫に運び込まれたその石は問題なく税関を通過し、彼が契約した港にある貸倉庫へ移送された。そこで保管されていた価値のないただの石ころを、インベントリ経由で異世界の「金貨五万枚」へとすり替えたのだ。


ドバイは金の都と呼ばれ、金の流通経路に対して国際的にも比較的寛容な土地柄である。サトシは持ち込んだ金貨を即座に現地の精錬所へと回す。


そこで金貨は何ごともなく溶解され、成型し、刻印を刻まれ、国際的な取引基準を満たす純度99.99%のインゴットへと生まれ変わることとなった。


物理的な確かな輸送記録と、実際に精錬所から現れた最高純度の金。 この二つを一致させることで、異世界の金貨は「アフリカから正規に運ばれた金鉱石を精錬した純金」という、国際的にも完璧な、誰も疑うことのない公的な出自を得たのである。


さらにサトシは、このドバイ製のインゴットを次に香港へ設立した「サージョ・マテリアルズ」へと送付した。そこから香港の貴金属ディーラーに持ち込み、金地金として売却する。


香港は金の取引において世界四大市場の一つであり、貴金属の売買において一切の税金がかからない。取引の結果金貨五万枚は現在の市場価格で売却され、実に約三十八億五千万円もの現金へと姿を変えるのだった。


最後の仕上げは、最も警戒しなければならない。 それは、日本への送金である。


香港のサージョ・マテリアルズから、日本国内のサージョ・トレーディングへ「貿易決済」および「海外投資利益の還流」として一切隠すことなく、合法的かつ透明性の高い形で送金を行った。


翌日、スマホに届いた銀行からの着信。それは都市銀行のアンチ・マネーロンダリング担当部署からの面談要請だった。


「まあ、そうなるだろうな」


電話を切ったサトシは溜息一つ吐かず、予測済みのタスクを片付けるように席を立った。この事態を想定して送金根拠書類は完璧に整備されていた。


準備を整えて向かった銀行の応接室。対面に座る若い行員は、使命感とマニュアルを武器に表情を硬くして切り出した。


「九条様、香港のサージョマテリアルズからの送金ですが、この規模ですと詳細な疎明資料が必要と……」


サトシは行員が話し終える前に切り返した。


「こちらにまとめてあります」


威圧感を見せず、ただ静かに机の上に一冊のファイルを置いた。行員が資料をめくり始めるが、瞬く間にその手が止まる。


英文の独占販売契約書、ドバイの公証、金の純度証明、さらには精錬所の稼働証明まで。あまりの情報の密度と精度に若手行員の脳は追いつかず、彼は自分の手に負えないと悟ると「……責任者を呼んでまいります、少々お待ちください」と足早に退室するのだった。


代わって現れたのは、数々の修羅場をくぐってきたであろうベテランと思われる中年の男性であった。彼は資料を一瞥し、ページをめくるごとに顔つきを変えていった。


彼が戦慄したのは、送金額の多寡ではない。通常初回の面談であればあれこれと不足する書類があることが当たり前だ。しかしサトシは周到に完璧なエビデンスを、最初から一点の曇りもなく揃えてきた。


「……九条様。失礼ながら、初回でこれほど完璧な資料を拝見したのは初めてです。これだけの『実績』があるのであれば、当行として疑う余地はありません。直ちに送金手続きに入らせていただきます」


責任者の降伏に近い言葉に対し、サトシは勝ち誇るでもなく、涼しい顔で答えた。


「ありがとうございます。前職で経験がありまして、こうした業務には慣れているのですよ。それでは手続きのほう、よろしくお願いします」


その淡白さに責任者の男はサトシの背後にある底知れない闇を見た気がして、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。


かつて、不条理なノルマと膨大な書類の山に殺されかけていた日々。皮肉にもあの地獄で叩き込まれた実務能力が、現代における最強の盾となっていた。


そして仕上げと言わんばかりにサトシがここで一切の節税を試みることなく納税業務を執行した。 法人税、所得税、事業税。


ブラック企業時代の伝手を利用し、国内で様々な意味で融通の利く税理士と顧問契約を締結。彼は最終的に発生する莫大なすべての税金を、躊躇なく「適正」かつ「迅速」に納税したのだ。


数億円単位の納税を二つ返事で行う謎の新興企業サージョ・トレーディングを、所轄の税務署がマークすることは決してなかった。税務署の担当者に聞けば、こう答えたであろう。


「文句のつけようがない優良納税者だ。これは実態の不明な新興企業ではない。これほどクリーンな納税を行う企業に現時点で調査を入れる必要性を感じない」


公的な監視機関はそのあまりの「誠実さ」ゆえに、この金の源泉が別世界にあるなどとは微塵も疑うことがなかった。


適正な納税こそが最強の防壁になる。 現代で無理に監視を避けようとすれば、どこかで必ず粗が出る。


法を完全に遵守することで、逆に法による保護を勝ち取る。 それが、サトシの出した答えだった。



数週間ののち、サトシの個人口座には配当および役員報酬として「十五億円」という数字が刻まれていた。


サトシは一人豪遊することもなく、自室であるワンルームマンションから星空を眺めていた。ふと、異世界でエレナやカイルが守り続けている青い盾の紋章を思い出す。


「即座に動かせるクリーンな資金が十五億。……これでようやく、サージョの未来を買い付ける準備が整ったな」


視線を室内に戻すと、デスクの上に置かれた使い古されたノートパソコンとボロボロの手帳が目に入る。かつて会社に命じられるがまま、他人の利益のために己の肉体と精神のすべてを注ぎ込んだ相棒たちだった。


一瞬、あのがむしゃらで、盲目で、苦しかった日々のことを思い出す。 だが、いまは違う。


「ようやく十五億だ。あの頃の俺じゃない。俺は自分の意志ですべてを注ぎ込むに足るものを見つけたんだ」


乾いた唇に薄い笑みが浮かぶ。 孤独な部屋で一人、サトシは異世界の風の匂いと、そこで自分を信じ待っている仲間たちの暖かさを思い出していた。


異世界の金貨が現代の資本主義というフィルターを通り、近代化のための圧倒的な資金へと精錬された。彼は二つの世界の理を掛け合わせ、歴史という名の巨大な歯車を回すための決定的な潤滑油を手に入れたのだ。


【第38話 収支概況】


異世界資産消費: 金貨 50,000枚


香港売却総額: 約 3,850,000,000円


サトシ個人所得: 1,500,000,000円(納税・諸経費精算後)


獲得した社会的信用: 日本国内における「超優良納税者」としての地位

最後までお読みいただきありがとうございます。


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