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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第三章 金融革命編

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ある新兵の教練

「おい、そこ。また眉間にシワが寄っているぞ。客を殺す気か?」


担当教官の鋭い指摘に、筋骨逞しいサージョの新兵、ロキは舌打ちしそうになるのを必死に堪えていた。


ロキはシーリンの裏路地で、通行人を脅しては酒場で喧嘩を売るだけの「チンピラ」として生きてきた男だった。そんな彼がサージョ・バンコの警備兵に志願したのは、半年前に結婚した控えめな妻ミナの存在があったからだ。


ミナはロキとは正反対に、争い事を嫌うおとなしい女性だった。彼女は毎日、傷を作って帰宅するロキの身を案じ、消え入りそうな声で訴えていた。


「……あなた。生まれてくる子の父親が、いつ刺されて死ぬかわからないような生き方は、もうやめましょう?」


生まれてこの方、暴力しか能のない男が真っ当な職に就くのは難しい。彼には金もなければコネもなく、つける仕事といえば命を切り売りする傭兵くらいのものだった。


だが、サージョ・バンコだけは違った。


ここは出自や前職などは問われない。登用試験に合格しさえすれば、ロキでも訓練部隊に仮入隊ができるのだ。そのうえ、もしもの時の負傷手当、死亡時の見舞金、さらには引退後の再雇用まで約束された、路地裏の生活とは雲泥の差の「保証」があった。



だが、染み付いた癖は抜けない。警備訓練中に少しでも挑発されれば、反射的に拳が出てしまう。


(クソ、やっぱり俺には向いてねえ。……いっそ、傭兵にでも志願して命を売り飛ばすか)


どうせ俺みたいなごろつきは戦場で使い潰されるのがお似合いだ。そうヤケになりかけていた時、背後から聞き慣れた低い声がした。


「悶々としているな、ロキ。……少し付き合え。模擬戦だ」


統括官のカイルだった。


訓練場の隅、二人は木剣を構えて対峙した。ロキは喧嘩仕込みの無茶な猛攻を繰り出すが、カイルは柳のようにそれを受け流す。ロキの木剣が空を切るたび、カイルの剣先がロキの喉元やこめかみに「コツン」と軽く触れる。


「もう一度だ。……腰が浮いているぞ、踏み込みも足りん。腕だけで振るんじゃない」


一時間が経過した頃、ロキは肩で息を切り、汗まみれで膝を突いた。一方のカイルは、呼吸一つ乱していない。


「……ゼェ、ハァ、……強すぎるだろ。あんた、化け物か」


「俺より強い奴など、王都に行けばいくらでもいる」


カイルは静かに剣を収め、へたり込んだロキを見下ろした。


「街のチンピラとしてはそこそこやれたのかもしれんが、ロキ、お前がその程度の腕で傭兵になれば無様に屍をさらすだけだ。ミナ殿とかいったか、妻と子にはなにも残らんぞ」


妻の名前を呼ばれ、ロキは何も言えず地面を睨みつけた。


「いいか。剣を振って動かない的を叩き斬るだけなら猿でもできる。だが、誰かの笑顔を守るために剣を収め、秩序を維持するのは、その百倍難しい。俺もここ数年で知ったことなんだがな。……お前を、ただのチンピラではなく『誰かを守れる人間』にしてやる。俺を信じろ」


カイルはそう言うと、手を差し出した。ロキはその大きな掌を握り、ゆっくりと立ち上がる。


「よし。まずはその人食い熊のようなツラをどうにかしろ。……笑顔の練習だ。口角を上げろ。次は挨拶だ。腹から声を出せ、だが怒鳴るな」


「えっ……ま、マジかよ。そんなのが警備の仕事なのか?」


「マジだ。お客様に安心感を与える。それがサージョの警備兵だ」



その日の暮れ、ロキは家で水の入った桶に顔を映しながら不器用な笑顔を作り、カイルの言葉を反芻していた。それを見守るミナが、不思議そうに、けれど嬉しそうに微笑む。


『剣は、銀行の信用を守る最後の盾だ』


これまでは、力は奪うための道具だった。だが、ここでは、力を振るわないことが家族の生活を守ることに繋がっている。


ロキは自分が守るべきものの正体を少しだけ理解し、再び桶に向かって、これまでで一番柔らかな(それでもまだかなり怖い)笑顔を作った。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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