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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第三章 金融革命編

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献身 ―すれ違う想いと、若すぎる光―

港湾都市シーリンの街がバブルの狂熱に浮かされ始めていた頃のことだった。 サトシは連日の過密スケジュールと心労が重なり、ついに激しい熱を出して寝込んでいた。


「サトシ様、少し失礼しますわ」


静かに扉を開けて入ってきたのは、総括執行責任者のエレナだった。 彼女は慣れない手つきで、ぬるくなった手拭いを冷たい水で絞り直す。


「……エレナか。済まない、滞っている案件はなかったか?」


熱に浮かされた声でサトシが呟くと、エレナは微かに唇を噛んだ。


「こんな時までご心配なさらないでください。実務のことなら、カイルや幹部会と連携して滞りなく進めております。……今は、ご自分のお体のことだけを考えて。サトシ様が倒れては、私たちの『青い盾』も、ただの鉄屑になってしまいますわ」


エレナはサトシの枕元に膝をつき、祈るように両手を組んで彼の手に重ねた。 その手は冷たい水に触れていたせいかひどく冷えていたが、握る力には必死さがこもっていた。


「ちょうど治癒術師が王都に参集されているときにお風邪を召すなんて。でも、この地方では……こうして信頼する女性が夜通し手を握り、枕元で語りかけ続ければ、病魔は退散すると言われているそうですわ」


本来であればすぐにでも治癒魔法を受けられる立場であったサトシだが、このときは運悪く、年に一度開かれる降誕祭によって、国中の教会関係者が王都に集まっていた。


「……ただの迷信だろう。お前まで倒れたら、それこそ損失だ。早く自分の部屋へ……」


「迷信でもなんでも構いません! 私は、こうしていることしかできないのですから。それともサトシ様は、お嫌……ですか?」


エレナはサトシの言葉を遮り、さらに身を乗り出した。 そして、熱を測るという名目で、自分の額をサトシの熱い額にそっと合わせた。


魔力などない。 ただの、年若い女性の必死な体温の共有。


だが、その至近距離で交わる視線には、副官としての忠誠をはるかに超えた剥き出しの情愛が混じっていた。


「……エレナ、近い。それに、その仕草は……」


「……今は、患者と看病人でございますわ。余計な計算はなさらないで」



数日後。 エレナの祈りが届いたのか、驚異的な回復力で復帰したサトシは商館のテラスでカイルと並んで茶を飲んでいた。 カイルがニヤニヤと笑いながら、サトシの肩を小突いてくる。


「旦那、聞いたぜ? 伏せってる間、エレナ嬢がつきっきりで『献身の儀』をやってたんだってな。手を握りしめて、額を合わせて……。あれ、ここらじゃ実質的な『私はこの人の妻になる』っていう宣誓らしいじゃねえか。旦那も罪な男だねぇ」


サトシはティーカップを口に運ぼうとした手を止めた。


「……あれは、ただの地方の風習だ。それに彼女はまだ若い。情熱と勘違いを混同しやすい多感な時期なんだ。俺のような、社会に揉まれて擦り切れてからここに来たおっさんが、彼女の輝かしい未来を独占していいはずがない」


サトシは人の行きかう港を見下ろしながら、自分に言い聞かせるように言葉を紡いだ。


「旦那……、またそうやって『年の差』を言い訳にするのかよ。あんなに尽くされて、気づかないフリか?」


その声には、呆れと、少しばかりの苛立ちが混じっていた。 サトシがいかに賢明で、冷徹な決断を下せる男かをカイルは知っていた。 だからこそ、自分の感情からだけは逃げ続けようとするその臆病さが歯痒いのだ。


「気づかないフリではない。……『適正な運用』を考えているだけだ。彼女にはこれから、もっと多くの可能性がある。俺という狭い世界に閉じ込めて、彼女の資産価値を固定していいわけがない」


サトシは、熱に浮かされる中で感じた、エレナの冷えた手の感触を思い出した。 胸の奥が痛む。


だがサトシは、それを「病み上がりの錯覚」として処理しようと、心の帳簿を無理やり閉じた。


サトシの理性は、彼女を「守るべき部下」の枠に留めようと必死だったが、エレナの想いはすでにサトシが引いた防衛線を軽々と飛び越えようとしていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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