18話 模擬戦
さて、訓練場という所に連れてゆかれた俺達は、お嬢と呼ばれている女性と模擬戦をすることとなった。
訓練場は冒険者ギルドの裏手にあり、結構な広さの屋内訓練施設だった。
俺達とその女が訓練場に入ると、後ろからゾロゾロと沢山の冒険者も入ってきた。その中にはギルド長のハゲ頭も見える。
なんとも、あそこにいたほぼ全員がこの模擬戦を見にきている感じだ。
「おいおい、またお嬢が因縁つけたのか?」
「ああ、そうらしい」
「だがあいつ強そうには見えないな?」
「女みたいな男にしか見えん。だが、あの二人で例の一級手配の盗賊団を討伐したという話らしい」
「マジかよ! 信じられないな……だがそれが事実なら、お嬢が勝負を挑むのもわからんではない」
「お嬢が勝つか?」
「どうかな?」
そんなギャラリーの声も聞こえてくる。
「俺はお嬢に銀貨3枚!」「謎の挑戦者に銀貨5枚だ!」
「おうおう、ギャンブラーだな? 俺は無難にお嬢に銀貨20枚だ!」「それならあたしは美男子の挑戦者に銀貨3枚!」「銀貨10枚!」
「ほらほらちゃんと並べお前ら! 掛け金誤魔化すなよ?」
なんだこいつら? この模擬戦を賭け事にし始めやがった。
おいハゲ! なんでお前が胴元で仕切ってんだよ! 冒険者ギルドのギルド長がそれでいいのか!?
「ハハハ、盛況なようだな」
「盛況……なのか?」
お嬢と呼ばれている女性が楽しそうに言うが、俺は楽しくない。
どうも見世物になったようで嫌なんだが……帰りたくなってきたよ……。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。私はマチルダだ。冒険者ランクは金級。よろしく頼む」
訓練場の中央で、お嬢と呼ばれていた女性は、マチルダと礼儀正しく名乗った。
冒険者ランクは金級だと言うが、それがどれくらいのランクかは分からない。だがこれだけ自信満々で戦いを挑んでくると言うことは、それなりのランクと考えたほうがいいのだろう。
「俺はシーベルトだ、しがない旅人だ。連れはリディアという。こちらこそよろしく頼む」
「シーベルト……? はて、どこかで聞いたことがあるような名だが……まいいか、今は模擬戦を楽しもうではないか」
「ああ、了解した。で、俺とリディア、どっちらと戦いたい?」
「なに? その可愛いメイドも戦えるのか?」
「ああ、普通に戦えるぞ。盗賊を退治したのも俺とリディだからな。あんたが考えているよりも強いと思うぞ?」
「なに? そんなにか? だがシーベルトと言ったな、お前とそのメイドとではどちらが強いのだ? 私はできればか弱い女性とは戦いたくはないのだが」
「あー……」
どちらが強いと言われたら 、俺? と答えるしかないが、か弱い女性は俺と言うことになるしな……。
そもそもマチルダだって女性だ。しかしそれだけ自分の腕に自信があると言うことなのだろう。
でも勘違いしているようだが、リディアは男だからな。その言葉通りにすれば、リディアと対戦しなければならないのだが……。
そう俺が答えに迷っていると、リディアがずいっとマチルダの目の前に立ち挑戦的に口を開く。
「失礼な質問ですね、マチルダ様。シーベルト様はこの国で一番お強いお方です。わたしなどと比べるまでもないでしょう」
「ほう! このリーマン領ではなく国で一番か? 大きくでたものだな。気に入った! シーベルト、お前と対戦しよう」
「無理しなくとも良いのですよ? わたしでもマチルダ様となら対等以上に戦えるかもしれません。その傲慢な鼻っ面をへし折って差し上げても良いのですが?」
「ハハハ、主人想いの可愛いメイドではないか。なに、私は女性と好んで戦うことはしない。そう怒るな。ハハハ」
「……」
マチルダは女性のくせに、自分以外の女性を下に見ているようだ。残念だがそいつは男だ。
そして俺は女。少しカチンときた。
「よし俺とやろう! リディ、お前はおとなしく向こうで観ていろ」
「ですが、ご自分も女性なのに他の女性を蔑ろにしているこのような発言は……」
「いいのだ、マチルダ嬢もそう言っているのだ。ここはあえて俺が相手をしてやろうではないか」
「ハハハ、そう来なくてはな! ハハハ」
マチルダは楽しそうに笑っている。
他人を卑下しているような発言をしていて、まるで悪びれた様子もない。これがマチルダの素なのだろう。みんなにお嬢と呼ばれていることから見ても、どこぞの御令嬢と言った感じなのだろう。
そうこうしていると、一人の女性が訓練用の木剣や槍、棍棒等をたくさん抱えてこちらに駆けてくる。マチルダの仲間のようだ。
「お待たせしましたマチルダお嬢様」
「うむ、私は大剣を使うが、シーベルトはどの武器を使う?」
「ああ、普通の剣でも短剣でもなんでもいいぞ」
なんなら無手でもいいのだが、と言おうとしたがやめておいた。模擬戦用の木製の剣とはいえ、大剣を持つ者にそんなことを言ったらきっと気を悪くしてしまうかもしれない。
「リディ、剣を」
「ハイ……」
俺は腰に提げた長剣をリディアに預け、観戦しているようにと言い含めておく。
少し面白くなさそうな顔をしていたが、俺の剣を胸に大切に抱えて端の方に歩いて行った。
マチルダの仲間が俺の前で模擬専用の武器を抱えて待っているので、俺は手頃な木剣を手に取る。
「ふむ、それでいいのか? ミドルソードでは部が悪くないか?」
それを見たマチルダは、片眉を顰めそう言った。
俺が手にしたのはロングソードとーショートソードの間くらいの長さの木剣だ。大剣と比べても重量が軽く、リーチも短い。それでは力の差が歴然ではないのか? マチルダはそう訝しんでいる様子だ。
だが、扱い易さの面を見れば、大剣を凌駕するのだから、別に不利とはいえないだろう。
「ああ、これでいい」
「なるほど、面白い、自信家なようだな?」
「いや自信など関係ない。ただ扱い易すそうなモノを選んだだけだ」
俺から言わせればマチルダの方が自信家だ。自分は強いのだと言わんばかりの好戦的な物言いだからな。
「そうか、では始めるか。ギルド長! 審判を頼む」
「ああ、今行くー!」
マチルダがそう言うと、賭けの胴元をしていたハゲがにこやかに近づいてきた。
どうやら賭けの集計も済んだようだな。
「おう、挑戦者の兄ちゃん、頑張れよ! ここだけの話、お嬢の弱点はな……」
「こらハゲ! 余計なこと喋るな! 早く始めろ!」
「おっと、怖い怖い」
「……」
ギルド長が俺を応援し、マチルダの弱点を言おうとしたが、それに気付いたマチルダに怒られた。賭けは7対3でマチルダが優勢らしい。
このハゲ……対戦相手の弱点を教えようとするとは、おそらく俺に賭けたのだろう。なんてギルド長だ……。
だが心配するなギルド長。この模擬戦、俺が勝つ!
俺よりもおっぱいが小さな女などに負けられるか!
「両者準備はいいな? ──では、始め‼︎」
ギルド長の掛け声と同時に、ドン! という音をたたて床を蹴るマチルダ。
先手必勝とばかりに小麦色の肌が見る間に近づいてくる。意外と早い。そして、
「ムンっ!」
という掛け声と共に上段から振り下ろされる大剣。
荒削りな攻撃だが、速さといい力といい、やはり一種洗練された力強さが伺える。自信を持っているのも頷ける。
木の大剣だが、これでもまともに食らったら人間などイチコロだろう。下手をすれば胴体など金属の剣同様真っ二つにされるかもしれない。
「むっ、早い!」
俺はわざとそんな声を出し、その場からじっと動かない。
回避するなら簡単。だが俺はその場を一歩も動かず、真っ向から勝負することに決めたのだ。
「──貰った‼︎」
マチルダは、俺が反応できずにその場を動けないと判断したのだろう。
そんな声をあげ、ニヤリと口元を緩めて剣を振り下ろした。
──コン、
「──なに‼︎」
マチルダは振り下ろした剣は、間違いなく俺を捉えたと思ったことだろう。
しかし木を軽く打ち付けた音がした瞬間、剣筋が大きくブレ、剣先がまるで俺を避けるかのように逸れて行く。
大剣が空を切ったことで、マチルダは直進する勢いをすぐには殺せず、たたらを踏んで俺に突っ込んでくる。
「おっと、」
俺はそんなマチルダを受け止めた。
「……なっ!」
「これであんたは死んだな」
マチルダの肩の辺りを受け止めた左腕、そして俺が右手に持った木剣は、露出度の高い防具もなにもないお腹辺りに添えられている。本物の剣だったなら、今頃内臓をぶちまけていたところだ。
「……くぅ……参った……」
腹に添えられた俺の木剣を見るや、マチルダはガックリと床に膝をついた。
「勝負有り! 勝者、謎の挑戦者!」
ウォーーーーーーッ‼︎ と訓練場に歓声が響いた。
開始の合図からほんの数秒後、勝負は決してしまったのだった。
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