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17話 変な女に絡まれる

 ハゲのおっさんに捕縛証明書を確認してもらった俺たちは、無事に懸賞金を受け取ることができた。


「ふむ、金貨200枚、確かに貰い受けた」

「ああ、ご苦労さん」


 このハゲ、捕縛証明書があるから嫌々支払ったって感じだな。顔が引き攣ってやがる。


「ところで、あんたら二人は本当に旅人なのか?」

「ああそうだが、旅人だと何か問題があるのか?」

「いや、そんな事はないのだが……」


 そんなこんなハゲと話していると、背後が騒がしくなって来た。

 ドカドカと大きな足音を響かせて、何者かが俺の前に姿を現す。


「おいギルド長! 例の盗賊団を討伐したのがこの二人だというのは本当か?」


 突然体格の良い女性がカウンターに割り込んで来て、ハゲに肉薄し詰問した。

 女性は露出度の高い装備を着用しており、上半身など胸ぐらいしか隠していない。ボン、ボンと二つの大きなふくらみを守るような金属製の防具は、見ているこちらが圧倒されるようなボリュームだ。引き締まった身体、健康そうな小麦色の肌、手に持つ大剣は、男でも扱いに苦労しそうな代物だった。だが顔は綺麗に整っている。綺麗なお姉さん、みたいな印象だ。


 ──強いなこいつ……。


 一目でそう感じた。

 だが残念だな、たぶんおっぱいは俺の方が大きいし、強さも俺が上だろう。勝った!

 我知らず布で締め付けた胸を張ってしまった。


 というより目の前のハゲは、冒険者ギルドのギルド長だったようだ。

 ハゲハゲと心の中で言っていてすいません。そう心の中でお詫びした。


「ん、お嬢なんだいきなり。この人達に失礼だろう」

「ああそうだな、すまない突然。君達が盗賊団を討伐したと聞いてな。いても立ってもいられず話に割って入ったのだ。申し訳ない」

「いや、特段気にしていない」


 どうも男勝りな女性のようだ。口調まで男勝りの乱暴な感じだ。


「で、その盗賊団とは俺達が退治した賊のことなのか? しかし、それがどうかしたのか?」

「私達はその盗賊団を討伐しにこれから発つところだったのだが、もし君達が討伐したのがその盗賊団ならば無駄足になるからな」


 どうやら依頼で、これから盗賊一味を討伐しに行く予定だったらしい。

 しかし、その盗賊団が俺達の倒した一味かどうかなど、俺に分かるわけがない。


「どうなのだ? ギルド長とやら」

「ああ、この捕縛証明書では、間違いなく一級手配されている盗賊団と記されている。賊のリーダー格の名前、人相、他の一味も手配書通りだ。衛士が書類を書き間違えるはずはないからな」


 衛士から受け取った捕縛証明書は本物だという。

 まあ証明書を偽造や改竄などしたら罪に問われてしまうのだから当たり前だろう。所属と確認者のサインまでしてあるのだ。個人は特定できるのだから、そんな馬鹿な真似はしないと思う。


「なに? では我々の依頼はキャンセルということになるのか?」

「まあそういうことだ。残念だったなお嬢」


 どうやら俺とリディアで退治した賊が、お嬢と呼ばれる彼女達が依頼を受けた盗賊団と一致したらしい。


「おいお前、盗賊団を討伐した本体はどこにいる? 一級手配の盗賊団を討伐するならそれなりの人数か、若しくは高ランクの冒険者、または騎士がいたのか?」


 お嬢と呼ばれている女は、俺の肩をガシッと掴み顔を近づけて来て詰問してくる。

 何を言っているのだ? 質問の意味が良く分からない。

 だが近い、近い! 顔が近すぎる!


「何を言っているのかはよく分からんが、その賊を退治したのは俺とここにいるリディだ、他には誰もいないぞ」

「な、なん、だ、と……二人で、だ、と?」

「ああ、そうだ」

「盗賊団は10人ぐらいといっていたぞ? それを二人で?」

「ああ、きっちり10人だった」


 女は目を剥きながらよろよろと後退る。

 まったくなんなのだ? あのくらいの賊ならリディア一人でも殲滅できる手合いだろうに。

 そう辟易していると、再度眉間にしわを寄せておれの肩に掴みかかって来る女。だから顔が近いって!


「お、お前達は名のある冒険者かなにかか? それとも騎士とかか?」

「何を言っている。どちらでもない。ただの旅人だ」

「旅人、だ、と?」

「ああ、そうだ」


 本当になんなのだ? なんか俺達は絡まれているのか?

 リディアもこの女の剣幕に引き気味だ。


「依頼も受けていない旅人が、一級手配の盗賊団を討伐だと? ……冗談も大概にしろ!」


 なぜかお嬢と呼ばれていた女は、いきなり怒り出してしまった。

 何故怒られなければならんのだ? いい加減勘弁してほしい。


「なにを憤っているのか知らないが、依頼を受けなければ、盗賊などは退治してはいけないのか?」

「当たり前ではないか! 何の為の依頼だと思っている。そういった危険な依頼は、冒険者か兵士に任せておくのが常識だ!」


 なんだ? 依頼を受けなければ討伐してはいけないのか?


「それはおかしな話ではないか?」

「なにがおかしい」

「ならば盗賊に襲われた一般人は、ただ奪われるだけで反撃してはいけないということか? 男は殺され、女は辱められて売られる、それを黙って受け入れろとお前は言うのか?」

「ち、違う、そんなことは言っていない……」

「ならば、なぜ依頼を受けた者だけが討伐できるというのだ? 矛盾しているのではないか?」

「そ、それは……」

「ならばお前達は依頼を受けなければそういった手合いの者と出会っても討伐しないのだな? 一般人が目の前で殺されようとも見て見ぬふりをするわけか? 自分達が襲われても手出しはしないと? 冒険者とはずいぶんと温い奴らなのだな」

「だからそれは違う!」

「なにが違うのだ? 俺達が依頼を受けていないといった時、それは依頼を受けた者に任せろと言っていたのは嘘か?」

「……う」


 お嬢と呼ばれていた女性は、自分が口にしてしまった事を想い出すかのように口を噤んでしまった。

 きっとそう言うつもりはなかったのだろう。自分達の依頼を見知らぬ俺達が横取りしたように感じ、つい口走ったのかもしれない。


「俺と連れは、行商人と一緒に移動していて盗賊に襲われたから反撃したまでだ。案外と弱かった賊なので退治できたというだけだ。それを否定するのか?」

「……弱かっただと……一級手配の盗賊団だぞ……」

「グハハハハッ、お嬢の負けだ」

「ぐむっ……」


 俺が再度確認すると、女性は渋い顔で俯いき、それを見たギルド長が笑いながら割って入った。


「そもそも依頼を受けなければ討伐していけないということはない。殺されると考えたら反撃もするだろう。冒険者も兵も関係ない。生き残ればそれでいい」

「まあそうだとは思ったがな」


 当たり前の話だ。被害が拡大するから賞金首として依頼が出されるのだろうし、そもそも一般人や行商人が護衛を付ける意味もなくなる。


「まあ、依頼を他人にとられたので気が立っていたって所だろう。普段はこんなこと言わんのだがな。まあ許してやってくれや。ほら、お嬢も謝罪しろ」

「す、すまない……」


 お嬢と呼ばれている女性は、シュンとして謝った。

 自分が見当違いの言動をしているとようやく気付いたみたいだ。

 結局は、俺とリディアの二人だけでその盗賊を退治したとは、どうしても考えられなかったと言ったところなのだろうか。依頼を受けたにも関わらず、俺たちに先を越された事が納得できなかったのかもしれない。


「いや、そう気にしてはいない」

「そうか、だがまだ信用できない。二人だけで一級手配の賊を倒す力量が君達にあるのかどうか、是非確認したい!」

「おい、こらお嬢‼︎」


 彼女は今度は瞳をギラリと光らせ、大剣を俺に向けながらそんなことを言うと、ハゲのギルド長が困った顔で止めに入る。

 どうやらまだ信用できないようだ。今度は俺達の力量を見せろと言っているのだろう。


「この二人は冒険者じゃないんだぞ?」

「それがどうした? 一般人だろうが一級手配の賊を倒した力量があるのだろ? 私はそれを確認したいのだ。私より強ければ認めよう。だが私より弱ければ正直に本当の事を言う事だ」

「かー、またお嬢の悪い癖が始まった……」


 こいつまたなんか変な事を言い出したな。

 要するに自分より弱い者があの盗賊を倒したとは認めないと言っているようだ。いや違うな。彼女の顔を見るとワクワクしたような顔付きになっている。きっと強い者と手合わせしたいだけなのかもしれない。ただ理由をこじつけて俺と手合わせをしたいだけ。そんな感じだ。

 ギルド長もハゲ頭を撫でながら苦い顔をしているのがその証拠だろう。


 面倒なことになったものだ……。


 だが、なぜか俺はこのお嬢と呼ばれる女性を意外と嫌いにはなれない。多少居丈高な面は別として、女性だが言葉使いや立ち居振る舞いに妙な親近感を覚えてしまう。なんかこいつとは仲良くなれそうな、そんな気さえしてくる。


「ああ、俺は構わないぞ」

「そうか! ギルド長、訓練場を借りるぞ!」

「ったく……またかよ……」


 ギルド長がまたかよ、と辟易として言いながら再度ハゲ頭を撫でた。しかし今度は、言葉とは裏腹にどこか楽しそうな顔だった。

 なるほどな。このお嬢と呼ばれている女性は、強そうな奴が現れたら、なにかしら理由(因縁とも言う)を付けて手合わせをしているのだろう。

 強い奴と戦い、自分の強さをより高める為に。

 俺も父のように、この国で一番強くなるのだ、と、その事だけを考えていただけあって、気持ちは十分すぎるほど理解できる。

 やはりこいつとは仲良くなれそうだ。


「では行こうか!」



 嬉々とした表情でそう言う女性に連れられ、俺達は訓練場とやらに向かうのだった。


お読み頂きありがとうございます。

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