三匹娘のデコレーションタイム②
待ち合わせ場所からジョージ武具店までの短い移動ではあったが、すれ違うプレイヤー達の色々な装備には目を奪われがちであった。
そんな如何にも高レベルと思える物は、レベル1桁の自分には着れないだろうと諦めていたモエである。だが、前を歩く職人プレイヤーから『オーダーメイドで作る』と言われ、再び煌びやかな装備への期待を持ってしまったのである。
が、美味い話には裏があるのを早々に覚えた世間知らずの小娘、モエである。
「これはもうっ、セクハラなんて突破した状況だよね。児童虐待いや児童性愛者いやいやネクロフィリアとかとにかくヤバいやつだよねー!?」
「仕方ねーだろよ。プレイ開始して10分足らずなのに、早速“寄生虫”かまされてんだから!」
大人の汚い甘言ではないが、半分はジョージの口車に乗る形でモエ達3人は第三者によるステータス調整が可能になるよう自己設定を変更させた。
後はジョージの独壇場である。まるで身体を遠隔操作されるように勝手に動かされ、アイテムや装備類は一旦全て所有放棄させられた。そして、何も着てない恰好で立たされたまま、様々な検査機器にかけられているのである。
で、結果。ミュラのアバターに他のプレイヤーから〈寄生虫〉と呼ばれる物が設置されているのが判明したのである。
〈寄生虫〉とは、言わばジョブスキルを使用した“盗聴器”である。寄生させたアバターの詳細な情報を、全て余さず他のプレイヤーへ漏洩させる機能を持つのだ。
本来はPvP等で使う期間限定で簡単な情報しか取れない微妙なスキルだったのだが、特殊なアイテムや別スキルとの併用で、現在では洒落にならない高性能な物へと昇華していたのである。
ミュラが寄生されていたのは、簡単な話、無装備状態で街中を歩いたせいだ。初期装備でも欠片程度のプレイヤー強化能力はある。実は他に、アバターへの浸食行為への対応は最低レベルの装備でもそれなりの抵抗力を得るよう“裏機能”が付与されていたりする。街中ならばその程度でも耐えられたりはするのである。
が、それすら装備せず、しかも外見が可愛い少女という初心者プレイヤー。狙われない方がおかしいのだ。
一番最初の様子見チェックで早々に判明した状況に、さすがにジョージもヤバいと判断。スミからスミまで徹底的に調べようと、見た目的に外道で淫靡で退廃的な、猟奇スタイルでの“メディカルチェック”となったわけである。
そして最終結果。まっさら安全だったのは、初心者としては高性能の装備を着ていたモエのみ。マリアにはかなりバレ難い高機能の寄生虫が1つ。ミュラからは更に4つが確認され、ジョージの手によって無事に除去処理がなされた。
だが、まだまだ少女の苦難は続く。
「えーっと、マリー。お前達の“リーダー”は誰になる?」
「ん~。特にはね~ぇ。強いて言えば~萌香ちゃん?」
ジョージの質問に妙な回答をするマリアだ。モエ自身にはそんな自覚がいっさい無いのだから。だがミュラの反応はマリアの意見を肯定しているし、そんなモエを観察する視線で見ていたジョージも納得の表情であった。
「じゃあ萌香嬢ちゃん。これからお前のステータス上で“新砦結成”の手続きするから好きな名前を付けてくれや」
「えとえと、それは何?」
真っ正面から睨まれ……いや見つめられたモエは臆してしまう。人ではなくて物のように扱われる流れから、既に裸体を観られる羞恥は無い。が、異性に触れられるような近さで話されるのは、別の意味でモエには刺激の大きい状況なのである。
「嬢ちゃん達で“砦”を意味する〈フォート〉っちゅうチームを作る。仲良し同士で組むグループ申請とでも思えばいい。色々特典もあるんでな。趣味やボッチでソロをする気が無いんなら、取りあえず作って参加した方が便利なんだわ」
分かるような分からないような説明だが、流れから3人集まる上での利点と思う事はできる。『突然名前を考えろ』と言われたのは困るが、それでも磔で動けないままながら、3人で姦しく相談した上で〈テトラペッツ〉なる謎ネームに決定した。リーダーはモエ。ミュラとマリアはサブリーダーとして設定する。
そしてジョージが、〈テトラペッツ〉の設定を元に更に別の設定をしていく。
「──フォート〈テトラペッツ〉からフォート〈東日本魔王商工会〉へ従属申請。従属条件は取りあえずは“完全服従”で許可っと。んで階級は最下位階級の“家畜”……と」
設定する途中で漏れてきたジョージの不穏な発言に、モエだけでなくマリアも多少眉を顰める。この恰好でそんな扱いを呟かれると、本気で貞操の危機と思えてしまう。
珍しくミュラが静かなので、馬鹿なりに身の危険を感じてなのかとモエが気にかけたが、単にコクリコクリと居眠りしかけていただけである。
「ミュラ……」
「ミュラは~理解できない~話ぃ~とかで寝ちゃう体質だもの~」
フォローにならないフォローであった。
「ほい。じゃあ最後の選択だ。防衛用アイテムのデザインを見せるから好きなのを選べや。別に3人で揃える必要もねーからな。色も後から好きに変えれる。先ずはデザイン優先で装着まで決めろな」
そうジョージが言うと、少女等3人、それぞれの目の前に巨大なウィンドウが展開する。
見た目の基本はチョーカーらしき仕様の装飾系アイテム類である。首にピッタリ巻き付くリボン状やネックレスタイプ。トライバル系のタトゥーっぽい物もある。
実に多彩なデザインであった。
「アクセサリー?」
「かしらぁ?」
悩んだ結果、モエは2本の波線が互いに交差するデザインを選択。すると即座に首をピッタリ囲む形で実体化した。デフォルトは金属環だったようで、しかも金色だ。
余りに派手なので銀色にしてみたが、それでもイメージ的に違う。それをジョージに言うと材質変更もできると教えられ、クリスタル系で透明度の低いエメラルドタイプが気に入ったのでそれに決める。
マリアはタトゥータイプである。全体的に白色系統の姿なので配色を黒で選択。良いコントラストで首を覆うデザインはイラスティックな崩れ波の連続だ。モエのデザインと共通性があるが、その当たりはワザと統一させているとも思えた。
で、寝こけたと思っていたミュラは、しっかり起きていて、かなり豪快な選択をしていた。
どこから見ても『首輪』としか見えない物である。しかも“闘犬”等の大型犬がするような、スパイクがビッシリ取り付けれられた凶悪さである。色は首輪が鉄色。スパイク部は真鍮という地味に豪華に見える配色であった。
「ミュラ……似合ってるけど、凶悪だね」
「ですわ~ねぇ」
「だってアイテム名に合わせたデザインの方が恰好良さげだしさー!」
「「アイテム名?」」
「ほぅら!」
ミュラが視線だけでウィンドウの端を見ろと合図する。ほぼ視界いっぱいに展開された巨大なウィンドウだ。背の低いモエとマリアでは、かなり首に無理をしないと視界が通らない。と言うより、かなり気をつけないと見過ごすような位置にある。
視界の端を無理矢理見る感じでギリギリで確認できたアイテムの名は、〈贖罪の首枷〉と、本気で物騒な名前がついていたり……した。
その観念でデザインを見れば、共通性や統一性があったのも肯ける。
これらのデザインは、みな“鎖”を連想させるデザインなのだ。
モエ達は自ら、囚われの首輪を選んだ。という事になるのである。
さすがにモエは言葉も出ない。アイテム名に疑問を持った時点で解説用のウィンドウが立ち上がり。その機能が何であるかが細かく説明されて絶句状態だからだ。
その内容は、洒落でも何でも無く、本当に本気の“奴隷契約”な機能である。アバターの専有権はおろか、人としての意識すらステータスを弄られて強引に洗脳されかねない機能まで付いている。そもそも使用には“主人”と“奴隷”、両方の同意が必要という安全機能が付いてるが、装着した時点でもう同意したのと変わらない状況なので今回はちっともセーフティーにはなっていない。
「おじ様ぁ~。これはち~ょっと、非道い事かと~?」
一度関係が構築されれば、後は主人側の強権ぶりが半端無い。関係の契約内容まで自在に書き換えられるのだから、モラル無き者に使われれば正に人として壊されかねない危険がある。
さすがに親友をその状態に晒すのはマリアのノンビリ精神でも許容できない内容と言えた。
が、非難された当のジョージは、マリアの言葉など耳に入らない様子で、その最大の危険項目、〈贖罪の首枷〉の契約内容を書き換えている真っ最中。更新される膨大な内容は“契約書”として少女達の目の前にも表示され、その人権蹂躙など生易しい内容に三人三様の違いは有れ、みるみる表情を青ざめさせていった。
更にしばらくしてようやくジョージのタイピングも終わる。
「ふう」と仮想の指の強張りを解しつつ、何故か騒がしい強制された“気を付け”姿勢で真っ裸待機中の少女等へと視線を向ける。
「……何でお前ら、マジ泣きしてんだ?」
自分の外道ぶりで泣かせた自覚も無く、「「「うわあぁぁぁん!」」」と絶望に打ちひしがれる少女達を本気で不思議がるのであった。
だがその内容を要約すれば、実は『ジョージがモエ、マリア、ミュラのゲーム内での保護者としての権限を持つ』という宣言書でしかなかった。
「いいか、今現在の日本はおろか、先進国だ更新国だと言おうがいっさい関係無く、事実上“ガキに人権は存在しない”」
そう言葉をきって、ジョージがモエ達に説明する。
世間には様々な権利があるが、実はその権利が文字通りの効果を必ず発揮できるかは、また別の話となる。だから正確な言葉を当てはめるなら権利の実態の大半は“主張”に置き換えられる。
その主張を権利に昇華するのは、様々な形での『暴力という力』になる。
殴る。蹴る。または理路整然の論破する。異なる主張を発する相手に争う気を持たせなくするための暴力行為が必要不可欠なのだ。
後になれば『正当性』と言いきれる、強過ぎる主張の形として。
それを発揮できるのは、社会においては権力を現有する大人となる。
子供に認められる権利は、その大人が単に“有る”と決めているに過ぎない。大多数の大人の気が変われば、簡単に消滅する幻同然の借り物なのである。
そして社会全体を全ての大人が共有している事は無い。ある特定の、一部の大人が分割支配する物が混ざって巨大化した“集合体”が、社会と呼ばれるだけなのだから。
だから社会内では、どの主張が権利を名乗るか共食いのように争い続けているのだ。その主張に支えられる有象無象を一蓮托生にしながら。
「つまり、ガキは強い誰かが囲わなきゃあ人間として生きられねーんだよ。そりゃあ、この『Trillion of Labyrinth』の中でも変わらねー。特にこのゲームは自分の我を通すにゃ現実同然の苦労がある。寧ろ自己主張ができん奴など早々に世界から逃げて消えてるからな、ここじゃ獲物にされる奴は獲物でいる事が悪いって事になるんだよ」
だが、まだ安穏と養われるだけの中学生でしかないモエ達に、そんな現実の清濁を言ってもしょうがない。だから今は、問答無用ででも何処かの強者の庇護下に入れるしか無いわけである。
その方法が、ジョージ主催のフォート〈東日本魔王商工会〉の支配下に組してしまう事だ。
〈東日本魔王商工会〉はゲーム内四割の職人プレイヤーが参加する巨大組織である。総合的な戦闘能力ではゲーム内でトップとは言えないが、商人的な立場を兼任するので発言権や影響力はトップとも言える。何より、商人にとっての商品はアイテムや装備に限らない。“情報”も立派な商品なのである。
過去、どうしても敵対を解けない相手を社会的に殺して『Trillion of Labyrinth』から放逐しているし、その延長で現実からも数名をリタイアさせた実績すらある凶悪フォートとしても有名だ。
その傘下フォートとして登録する事で〈トライペッツ〉を、少女等のゲーム内の人権を、危険な奴等から保護する算段なのである。
ただまあ、そこまでドロドロの人間関係が横行しているのは、『Trillion of Labyrinth』でも極々一部に限られるのだが。
「でもでも、代わりに私達、オジサンの肉奴隷扱いじゃない!」
ジョージの説明に半泣きで物申すモエ。
それに何故か“心外な!”という表情で驚くジョージだが、やはり半泣きのマリアの指摘で契約内容を再確認。暫く読み進め直して、ひとつ、肯く。
「つい文言に趣味入れちまったか。穏便に書き直すからもうちょっと待ってろ」
外道な趣味持ちですと静かに宣言してマリアの好感度を下げつつ、文体を“ややマイルド”に直すジョージであった。
モエ達3人の零下の視線が刺さるものの、オッサン特有の鈍感スキルで無効化し、再びタイピングの音を奏で始める。
「それよりいい加減、この状態から解放されたい……」
「ちょ~っと~、火照ってきて~しまうもの~ねぇ♪」
「いやいや、違うからね」
「……ぐー……。つぴ~……」
この異常な、またちょっとモエの中に変な感性を生みつつある状態が終わる気配は……、今は未だ無い。




