萌香のアバターメイキング⑤
暗転から復帰すれば、またも2年の月日が流れていた。
その間の記憶もダイジェストとして収まっている。些細な違いは有れども、ほぼ初日の繰り返しで、2年間、神術師としての基礎能力を上げていくという内容である。
それは14歳になった時点でも変わらない。が、ある程度神術師としての実力をつけたという事で、習練に追加される内容ができた、というのが現状の流れであった。
それは冒険者見習いとしての実習。
ようやく、チュートリアルも終盤という設定である。
因みに現状のモエのアバター性能はと言えば──
【キャラネーム】モエ
【種族】ワラビット(小型有袋類系獣人)
【ジョブ】神術師:Lv3
【職能】総合測量士:Lv1
【アバタースキル】(一覧)
┣【アクティブ】
┃ ・尻尾無双(Lv1)
┣【パッシブ】
┃ ・複々武装装備可能
┗【オプション】
・人害補填(新人キャンペーン):Lv-MAX
【ジョブスキル】(一覧)
┣【アクティブ】
┃ ・神さま助けて(必殺技):Lv1(接・遠)
┃ ・ヒール(魔法):Lv8(接・遠)
┃ ・ディ-ポイズン(魔法):Lv4(接・遠)〈毒〉〈麻痺〉
┃ 〈視界剥奪〉〈衰弱〉
┃ ・ディ-モーブ(魔法):Lv4(接・遠)〈スロウ〉〈バインディ〉
┃ 〈混乱〉〈狂乱〉
┃ ・晶盾(魔法):Lv5(自)〈D減+15〉
┣【パッシブ】
┃ ・信仰:Lv3
┃ ・献身:Lv10
┃ ・影走り:Lv7
┃ ・軽業:Lv7
┃ ・晶肌:Lv5
┃ ・頑強:Lv4(D減+40)
┃ ・感覚変換(痛覚→性感):Lv4
┗【オプション】
・習得経験値5倍(グレード特典):Lv-50制限(1stジョブ)
【装備】(一覧)
┣【武器(主)】ブラスモール
┣【武器(副)】スケイルバックラー
┃
┣【防具】┳【頭】ウールのベール(防+5/MP+5)
┃ ┣【胴】ウールのローブ:ワラビット専用(防+7/MP+5)
┃ ┣【腕】ウールグローブ(防+1)
┃ ┣【腰】冒険者ツール
┃ ┣【脚】プレートサンダル(防+3/移+1)
┃ ┗【背】ウールのケープ(防+5/MP+5)
┃
┗【装飾】━【首】手作りのシンボル+1(信仰+2)
──となる。
能力は全体的に底上げされたもので、装備も冒険に出る事から多少は防御性能が高くなったものに変わっていた。全身の装備変更で外見のイメージ色も若草色に変わった。
実は、モエ自身は気づいていないがこの配色には色の濃淡がついている。少し離れてモエ達修道女を観れば、立派な森林迷彩柄の集団となったりするのだ。聖職者関係には無縁の配色にサービス側の正気を問い詰めたい者は多かろうが、この時点では好みの色合いに内心嬉しくなっているモエを見守るしかない。
が、反対に自分の種族に専用化した胴装備デザインには、モエ的には強く物申したい気分である。
全体的には修道女なのだ。配色を無視すれば、背後から観れる姿は誰もが疑わない“シスターっぽい”雰囲気だろう。だが正面に回って見るともう、そんな雰囲気は霧散する。
何せ、上半身前面がほぼ“何も無い”のである。ささやかな双丘の頂点、ギリ乳輪の桃色が見えないくらいの当たりから下っ腹の股間近くまで“Oの字”形に全開の素肌仕様である。一瞬観られたならばならば何も着てない? と思われても仕方がない姿である。
モエの率直な感想から言えば、『恥ずかしい』の一言である。着用感で言えば正直、この恰好でも寒くは無い。むしろ周囲のプレイヤーやNPCの区別無く注がれる男性視線で非常に熱いくらいだ。
これはワラビットや、その元種族となったカルフット特有の仕様である。有袋類種族の特徴、腹部のポケットを使い易くするためなので、決して特殊な露出癖がある種族仕様ではないのである。
せめてもの救いは頭部装備のベールの裾が長く、胸部全体を余裕で隠してくれることだろう。下乳完全放出とはいえ、素で谷間ができるサイズならともかく、膨らみよりも鳩尾の肋骨の線が目立とうという貧相なモノだ。余計に人の眼には晒したくない乙女心である。
加えて、この時点でモエはチュートリアル専用エリアからMMOの主舞台といえるオープンエリアに移動している。チュートリアルも終盤の流れから、段階的に環境に慣れて行こうというサービスの方針なのであるが、モエにとっては最悪の展開と言っていい傍迷惑仕様なのであった。
最も、モエが羞恥に悶えているのは単なる自意識過剰である。確かにモエは注目されてはいる。しかしそれは少女の生肌に萌える視線ではなく、見たことの無い種族の登場によるものだ。
気を付ければ『ウサギ系の子?』やら『カルフットにしちゃ小っちゃいよなあ』などの感想が聞こえるのだが、精神的にテンパっているモエには全く聞こえていないのだ。
「では僕のチームの人は集まってください」
モエや同僚の修道女が居るのは教会横の広場である。モエのチュートリアルなので同僚と言っても全員がNPCなのだが、一応は実習という流れのために複数の冒険者が集まり、モエ達は各チームに配されて行動する設定なのである。
モエが廃される冒険者チームは見た目金属鎧の前衛が2人。革鎧の中衛が1人。布装備でモエよりは攻撃的な印象の後衛が1人、である。
発言したのは金属鎧の内の1人で、如何にも冒険者の戦士、そしてリーダーといった印象である。
このチームに加わるのはモエともう一人の同僚となる。予習的なウィンドウが出ると、この同僚が新米神術師としての基本行動を取るので、それを真似て動きに慣れるか、または独創的な行動で新たなスキルを発現させて行くかになると説明される。ベテランとして参加している後衛は攻撃魔法と回復魔法の両方を使えるので、それを参考に変わった魔法を習得できるチャンスもあるのだ。
「じゃあチームの紹介をするぞ。先ずはボク。魔法剣士のファストという。魔法よりもスキルよりなので兼任盾役ってところだな──」
以下、もう一人の金属鎧は守護騎士のベラード。革鎧は遊撃戦士のサンジュ。後衛は賢者のシルベスタ、と名乗る。
モエにとって、この中でチュートリアル的な重要人物はシルベスタだけだ。他の物理戦闘メンバーは倒すモンスターに対する壁でしかなく、そのモンスターにモエがどう対処するかの時間を作る役割なのである。
だが、モエの内心には少し引っかかっるものが冒険者のリーダーにある。
ファストの装備している鎧の光沢に、何かの記憶が被るのだ。
その違和感が即座に記憶の再生を促す。
チュートリアル最初の、誘拐から救出された時の声の主と似ているのだと。
しかしそれはモエが10歳の時の記憶である。目の前のファストは、どう見てもまだ二十歳前。いや15~6歳にしかみえない。ぼやけた記憶ではあるものの、到底同一人物には見えない。
「えーと、ファストさん。その鎧は変わった色をしていますが、何か特別な物なのでしょうか?」
不確かならば聞くのが早い。取りあえず記憶に引っかかる物を手探りに聞いてみるモエである。
「これですか? これは『雷獣を倒せ!』というクエストをノーダメージで達成すると、特別報酬として貰える〈雷鋼の鎧〉ですよ」
いきなりメタな返答が帰ってきて困惑するしかないモエである。
「そ……そうですかあー。ゲットするのが大変そうな鎧……なんですねぇ……」
「ええ! 実はボク師匠にあたる人が取ったものでして、ボクが冒険者になる時の祝いにと譲ってくれたのです!」
そしてメタかと思えば、実は有力情報というオチであった。
「師匠さん、ですか?」
「はい! 現在は魔王討伐の任について此処には居ませんが、3年前までは街の衛視隊隊長をしておりまして、数々の武功を立てた街の英雄なんです!」
そのような立場ならば、モエを助けたのもその人物の可能性がある。そこに“ピコン!”と場違いな電子音が鳴りウィンドウが開く。
『モエのパーソナルミッション。〈想い人への道〉がスタートしました』
そして何やら意味不明の通達が成される。
これも実にメタな話であるが、その師匠なる人物がモエを助けた人物だろう、と確定した瞬間である。
「あのあのっ、じゃあ、その師匠さんという方の御名前を聞か──」
ミッション通達の内容の確認をして、慌てて肝心な事を聞こうとしたモエである。が、果たしてそれは叶わなかった。
「ファスト。師匠自慢で時間を潰すな。今の私達の仕事は将来の命の繋ぎ手を育てる事だ」
「……あっ、すみません。どうもこう、ボクは熱くなりやすくて。君は……確かモエさんか。この話は仕事が終わった後にでもしてあげるよ」
モエの言葉を押し潰す形で賢者シルベスタがファストを叱責する。それで我が帰ったファストは、照れ笑いを1つしてモエとの会話を打ち切ってしまう。
あまりに露骨な中断だ。つまり、このミッションでは“まだ情報を出さない”という事なのだろうとモエは諦めた。
加えて、何となく死亡フラグっぽい会話の中断に少々不安を感じたモエでもある。
そんな心情胸に秘めつつ、冒険者実習は始まった。
場所は街から北東側に歩いて1時間の、現在では使われていない廃坑である。この場所は金属を排出する物では無く、岩塩を採るために掘られた。まだまだ埋蔵量は尽きていないのだが、街には輸入という形で自力生産よりも安く塩が入るようになり、ならば緊急時の資源として保管される形となったのである。
しかし、塩を必要とするのは人族だけに限らない。人気が絶えた事で坑道内には魔物が侵入する事となり、冒険者はその魔物を定期的に排除するようになったのである。……という設定だ。
出る魔物は最下級扱いの雑魚中の雑魚。〈ポンポポ〉である。
ポンポポはソフトボール大の羽付き毬藻という外見で、フヨフヨと浮いているノンアクティブの魔物だ。『Trillion of Labyrinth』では初心者対応エリア全域におり、宙に浮く的として、プレイヤーの三次元行動の練習台扱いとなる魔物である。
各地方により多少の亜種扱いが成されており、モエが観るポンポポは毬藻というよりタンポポの綿毛といった姿だった。
坑道で現れるポンポポは2体から3体。正直、目の前の冒険者の外見からすれば一撃瞬殺でもおかしくないのだが、そこはやはりチュートリアル制限なのだろう。与えるダメージ、受けるダメージはそこそこ大きく変動する様子になっている。
そんな冒険者達に、行動見本となる同僚を真似て動いたり、たまにモエ自身に攻撃してくるポンポポへ対処したりと、現在進行形で増えていく経験値の流れを体験していくモエだ。
そして、体感時間で3時間。実際のゲーム時間では2時間にも満たない経験を積み、結構坑道の奥まで進んでの休憩時間にイベントが発生する。
「あ……。やっぱりフラグ立ってたのかなーぁ……」
実際の強さは分からない。だが、モエの身長など軽く飛び越し、ここに居る誰よりも高い大きさを誇る、巨大な魔物が現れたのだ。
壁に埋まるような状態から人型の窪みを残して現れる姿は、全高3メートル近く。オーガと呼ばれる鬼を素体にしたアンデッド系の魔物、〈ワンダラー〉である。
冒険者達に緊張が走る演出が入り、即座に戦闘体勢となって、おそらくは、モエにとってのチュートリアル最終戦闘が始まったのである。




