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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第2話【】
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萌香のアバターメイキング④

 『Trillion of Labyrinth』において、サービス初期からの基本ジョブの一つとして、また最初の回復ジョブとして創られた〈神術師〉(プリトン)は、その仕様が二転三転した挙げ句、現状ではすっかり初期の面影が亡くなってしまった不幸を公言できるジョブと言える。


 初期は決定的な戦闘能力は無くとも回復魔法による戦闘継続能力でもって生き残るという、まるで〈守護騎士〉(ガードナイト)のようなジョブであった。

 だからか、後に上位ジョブ陣に〈守護騎士〉が導入された事によって、〈神術師〉は比較される。その結果物理攻撃の能力が削られ、魔法特化のジョブへと仕様変更された。


 この変更によって〈神術師〉は、魔法詠唱のタイミングこそ難しいが、ある意味“神術師”という魔法ジョブのイメージとして固まった……ように思えた。


 が、それは錯覚であった。


 魔法特化のジョブならば既に別のジョブである〈魔術士〉(キャスター)が居る。更に〈守護騎士〉同様追加されたジョブに〈妖精使い〉や〈魔法剣士〉も居る。

 つまり、再調整をくらった時点で能力的に“何か”に似てしまう状況となったのである。


 そうして何度も何度も再調整を貰った結果、中期時代と呼べる時期の〈神術師〉は回復能力のみに秀でた、戦闘能力は皆無という歪なジョブへと変貌したのである。


 それで暫くは〈神術師〉周りは安定して見えた。ここまで歪にしたモノを“必要”とするために、他全てのジョブから自己回復手段を削いだ調整もあった、という微調整もあったからだ。

 が、やはり歪みは歪み。ただ回復だけでのプレイをしろという状況は中身のプレイヤー自体を選び、特種な性格を顕著化させた。


 『姫』の誕生である。


 この特種な人種の詳細は省くが、ゲーム内に余りカルトじみた集団が蔓延するのはサービス的に好ましくない。なので、回復ジョブの追加や〈神術師〉自体への再々調整も施される事となる。


 それが現在の〈神術師〉の状況を生むきっかけであった。


 戦闘能力をあまり追加せずに、しかし生存能力は高くする。つまりダメージを受けても死ななくするという、矛盾な状態を成り立たせるための調整。それが、現在は開き直って“肉盾”扱いされる事となるジョブスキル〈献身〉の導入である。


 この〈献身〉というスキルはかなり特殊な発動条件を持つもので、ログイン時に教会で“ある儀式”をする事でログアウトまで自動発動するという変わったものだ。

 だがこの地味な様式美のおかげで露骨な“姫”は激減。よほど根の深いモノ以外は消えた実績を持つ。反面、別の意味で困った状況を生んではいるが、それは〈神術師〉プレイヤー自身が公開禁忌扱いしているために広まってはいない。


 そして、そんな調整結果に信憑性や存在理由を与えるためか、最初は単なる記号扱いだった信仰や教会というものにも付加情報が色々と追加された。このチュートリアルもその一つである。

 如何に献身的な行動をして人の世のためと成るか。それを修行する流れでプレイヤーの根本的な疑問を封殺しているのである。


 ……という設定をモエは今更ながら確認していた。


「〈神術師〉……。別名〈女神トゥールエム教会、献身修道士〉ね……」


 〈献身〉スキル持ちは戦闘時において“不死”となる。どんなにダメージを受けても、最低HP1で生き残るという特殊なスキルである。これで単身での戦闘時において負ける事は無いし、パーティーにおいても回復手段を欠く事が無くなるという、強引な仕様である。

 とはいえ戦闘時にHPが10未満となると“瀕死”扱いで自力での移動が不可能となるため、防御力や守備力。総HPの限界までの増加などの成長が大事な要素となる仕様だ。


「で、HP増加の修行が、常に“ダメージを受ける”と……」


 現状の〈神術師〉の実態を確認した後のモエは、ステータス画面からログアウトの項目を探す。しかしあるにはあったが、『チュートリアル中のログアウトはできません』の拒絶であった。


「……ち!」


 些かはしたない舌打ちを一つして、湯の中に沈むモエである。

 今の時間、モエは午前の修行を終えての入浴中である。あの“腹パン”で一瞬視界を暗くしつつも、今度は気絶できずに直ぐに回復。更に何度か打撃攻撃を受け、また簡単な組み手を習い、午後は神術の訓練という事で汗落としをしているのである。


「まー、殴られるのには驚いたけど、痛みは全然無いのね~」


 身体が浮く程の打撃であっても、体感で言えば強い風に押されたような印象だ。これはVRゲーム特有の処理である。実際の痛みを緩和した状態で再現しているのである。

 ステータス画面から調整する事で現実に近く、または現実以上へと受ける感覚を変更はできるが、未成年仕様のために過渡に痛みを感じなく設定されているのだ。


 そんなヘルプが浮き上がり、つい反射的に調整しようとしたら警告文が別に出てきた。『未成年仕様のために上限値は設定されているが、最高値にした影響による責任は自己責任だ』という内容である。

 簡単な確認方法として、自分の手の甲を対象とした“しっぺ”による方法も提示される。

 試しに今の状態ならばと一発すれば、思いっきりしたのにも関わらず“つん”とつつかれた程度であった。


「これは~、逆に違和感?」


 何度か試して確認し、そして最高値にしても実際のしっぺよりは半分も無い感覚だと覚える。


「これで自分責任ってのも過保護すぎ?……」


 物を、それも不定形流動体である湯の感触を感じる触覚は普通なのに、それが強めの水流による打たせ湯となると痛覚範疇での別扱いとなるのか、途端に感触が鈍くなる。

 過剰な熱さや冷たさも同様で、熱湯や冷水に設定したシャワーも火傷や震えるほどの冷たさあたりで感覚自体は止まってしまった。因みに生活状態や非戦闘エリアなので、それらはダメージ発生行為というウィンドウ表示が出るものの、実際のダメージは算出されない。


「怪我に気づかないってのも危険だってパパが言ってたなあ」


 現実においても、余りに酷い怪我を負った場合は痛みを感じない状態となる場合がある。これは怪我通りの痛みを感じた結果、その怪我を負う原因となった現場から逃げられない状況となる事を避けるため、または過剰な痛みによるショック症状を誘発しないようにするため、などの生存本能的な行為となる。

 反面、その状態が長く続けてば怪我を治癒させる機能が働かず、延引的な致命傷になる可能性もある。

 人間という動物は生活習慣や環境によってこの機能に狂いが生じつつある種なのだが、やはりある程度の“痛み”とは、身体にとっては必要不可欠なものには違いない。モエの両親はそのあたりの知識を多少は有しており、生活知識として幼い頃から教えているのである。

 モエ自身も未だ実感のある知識にはなっていないが、そこは刷り込みのように怪我の自覚の大事は身に染み込ませているのであった。


「少し“強め”、くらいにはしとこうかな」


 そのまま痛覚の設定を弄り、80%程度で再設定をする。自分で脇腹を思いっきり抓ってみても“痒くてしかない”くらいの感触で終わる程だ。これなら万が一にも怪我に気づかないで終わる事にはならないだろう。そして痛みに辛くなるレベルでもないだろう。そういった判断である。


 だが、至極最もな対応なのではあるのだが、それはもう少しこのゲームの設定に慣れてからが良かったのだろう。後にそう、散々と後悔するモエである。


 ともあれ、今は周囲にいる“学友”扱いの修道女NPCの行動に合わせてチュートリアルを続ける状態である。入浴を終えて神術の実技に入り、〈ヒール〉などの魔法実践を覚えていく。

 これは魔法のレベルを上げる効果もあるが、最初のステータス画面から魔法を選択実行する行為から様々な発動形態のバリエーションを学ぶ意味もある。

 現状の仕様で行える魔法発動の方法は複数あり、一つはステータス画面からのコマンド入力。次に音声認識のワード入力。最後に特定の“身振り”で発動させるジェスチャー入力の三種類が推奨されている。

 音声認識とジェスチャー入力はプレイヤー自身が発動の設定をする必要があるのだが、その基本設定動作をチュートリアル授業として教えられるのだ。


 先ず音声認識はプレイヤーの発声形態の登録からとなる。基本は普段は使わない声音(こわね)、つまりは“裏声”での発動が推奨される。何故ならば日常に使う発声の場合、会話から魔法を発動させる事にもなるからだ。また発声の変化が苦手な者は魔法発動の名称自体の変更もできるので、〈ヒール〉の発動キーワードを別に変えるだけで済ませる事もできる。事実、それだけで終わらせるプレイヤーは多い。

 ジェスチャー入力の場合も声音や言葉の変え方と大差は無い。要はステータス画面を弄る流れを簡略化させるのだ。プレイヤー本人にしか確認できない“一筆書き”の模様作成画面で、各魔法を発動させる複数のポイントを順番通りになぞる模様を登録するのである。簡単な魔法なら2~3の点をなぞれば終わるし、高威力ならば10点近くをなぞる模様を登録しなければならない。なぞるポイントの設定は目の前での平面的な物から自分の周囲を覆うような三次元的な物までできるので、個性を出したいプレイヤーによっては魔法発動に派手に舞うような動きをする場合もある。

 この仕様は単純な作業プレイで飽きるのを避ける要素もあり、効率を求めるプレイヤーには不評なものの、全体的にはなかなか好まれる仕様である。


 がしかし、まだモエにはハードルの高い仕様でもあり、チュートリアルどおりの簡単な設定で済ませるのが限界だったりした。故に音声はやや高めのアニメ声で『ヒール』。ジェスチャー入力は簡単な正三芒星止まりである。


 尚、魔法発動の方法は推奨以外だと完全な思考発動などもある。ただし意識を日常思考とシステム操作に分けてできる者はあまり居らず、適性が無いとシステムに判断されれば操作方法の開示もされない。これは思考発動以外の方法でも同じであり、まだまだモエには未知の技能となっている。


 こうして神術全体の魔法レベルを一つ上げ、仮初めの生活を済ませて二日目。

 またも肉体鍛錬から始まる午前の習練である。


 今回は1日めの一方的に打撃を受ける授業の繰り返しではなく、隣り合う修道女同士での実践殺陣(たて)付きのものとなる。

 殺陣と言っても互いに技を連続して繰り出し合うものでは無く、一方が決まった攻撃を出したら受け、次は攻守交代して同じ型をという流れだ。だが最初は拳で。その次は棍棒でと、段々にグレードアップしていく。

 最終的には歯止めをした普通の両手剣という凶悪さであり、痛みを感じる事が無いとは分かっていても結構怖い。しかも避ける殺陣では無くワザと身体に当てる殺陣である。首の切断を狙う横凪ぎを腕を立てて防ぐのは、かなりの恐怖体験であった。


 その気後れが行動に出たのであろう、モエは腕の振り上げが遅れ、両手剣の勢いを殺せずに腕毎頭部に打撃を受けて飛ばされてしまう。


「こぅらっ! いくら献身行為でも不用意な体勢は怠慢だぞ!」


 教師役の助祭が〈ヒール〉をかけつつも、モエを叱る。そしてどこぞのブートキャンプじみた流れそのままに、体罰当然の罰則が発動である。


「いやいやっ、ケツバットは無いでしょう! ちょっとエッチ!捲んないでギャーっ!」


 わらわらと表れた複数の筋肉助祭に尻を突き出す恰好で固定され、素早く下半身を剥かれた挙げ句、生尻に直のスパンキングである。

 “バッチーーーン!”と派手な音が鳴り響き、この時初めて、モエは痛覚調整の詳細を身を持って知った。


 『Trillion of Labyrinth』の痛覚判定の方法とは、総ダメージから割り出されたものを段階的に感覚として再現するシステムとなっている。その段階は一桁毎に区切られており、未成年仕様の場合は総ダメージの上方半分をキャンセルした反応を返す仕様ともなっている。例えば、総ダメージが100の場合、モエには半分の50として最大痛覚が伝わる。更に基本調整では90%が削除されたものとなるので、最終的に伝わる痛覚は元の10%、ダメージ5相当の痛覚となる。

 これが、モエ自身は“痒い”としか感じれない体感に繋がったのである。


 がそれは、低レベルであるモエ自身の発生ダメージによる体感だ。


 助祭NPCの設定レベルは30。単純比較はできないが、最低でもモエの30倍のダメージを発生できるデータである。

 先の例を使い、モエの発生ダメージが100とするならば助祭の発生ダメージは3000となり、減算処置を終えても最終的なダメージは150前後となる。当然、痛覚はこの数値に準じたものとなるのである。

 しかもモエは、自己責任の再調整で痛覚を80%の再現にまで上げている。それは実感できるダメージが1200相当となる事となり、体感した痛みも正に桁違いとなる。


 ゴツい男からの腹パンという、実際の打撃ダメージよりも精神的なものが強かったのとは違い、“お尻を叩かれる”のは多少なり小さい頃からの経験もある。故に気絶の真似事に精神が逃げる事には繋がらず、頭の芯まで貫く“やや加減された”痛みを余す事無く体感するモエであった。


 これであっさりと仮想現実という余裕が消えたモエであり、それから数度、ケツバットの洗礼に泣かされるモエである。

 このチュートリアル的裏イベントの成果か、モエのステータスには〈頑強〉という現状の神術師には有利となるスキルが追加された。


 だが同時に〈感覚変換(痛覚→性感)〉というスキルを発生させたのは、本人的には不本意なものでしかなかった……と言えるかもしれない。


暗転。




喘息近い咳が止まりませんな。

その影響でか微熱発熱な体調も続き、物事を組み立てる思考も維持できませぬわあ……


以上、

夏風邪ひいた馬鹿ですた。


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