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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
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彼女の陥落3h①

“ゴー、ノクタリオーン!”しかかっての書き直し多すぎ(・_・;)

 フォート『唐揚げ定食』は再び城内へと侵入し、さくっと最短距離を進んで三階への階段を上っている。

 そして、その長さに辟易していた。


 一階から二階へ上がる階段はデパートなどにある何人も横に並んで歩けるタイプで、20段ほど上げれば折り返してまた上る変形の螺旋階段である。なので高さを感じる事はあっても距離を感じる事は無かった。

 だが二階から三階への階段は全く逆のデザインと言ってよく、人間が三人並べる程度の幅で、傾斜の緩い坂のような階段が城の中心から真っ直ぐ正面の門へと戻るよう、延々と伸びていたのである。


「うにゃ~、長すぎるぅ」


「|ネチュミー王国に行く途中の、やたらと地下深くまで続くエスカレーターに乗ってる気分です」


「あー、マヤヤ行った事あるんにゃー」


「違うの。現実のじゃなくてVR版の方のなの~」


 VR環境の充実によって、某夢の王国を始め巨大施設型の遊園地は経営に大打撃を受けた。VR技術は現実のように感じれる現実以上の演出を、容易に可能とするものなのである。『現実を一時忘れ、夢の世界を体験する』というコンセプトでは、雲泥の演出効果を発揮するVR技術に、現実の中でしか対抗できないアミューズメントパークは完敗したのであった。

 とはいえ、淘汰され消えたのは一部のみ。拘りを持つ固定ファンに支えられ、収益率は下がっても業界的にはまだまだ元気に稼働中である。


 中にはその状況に敏感に対応し、早々に新たな立ち位置を確立した存在もいる。“ネチュミー王国”もそのひとつで、現実での毎日の活動状況とVR環境をリンクさせる営業形態を取ることで入場者数を増加させれた成功者である。

 特に入場前の特徴まで再現したVR環境での旅行気分は好評である。地元駅から舞浜駅までの退屈な部分はカットし、名所(?)的な特徴ある部分のみの再現を体験できるのは大いに喜ばれている。

 マヤヤの言う部分は、東京駅に在るとてもとても長い自走通路と、とてもとても長い地下ホームへと降りるエスカレーターをVR環境で再現した演出部分であった。



 女子組がその話題でハシャぐのを余所に、野郎組はラスボス戦への予想を立てあっていた。


「一階の流れを三階からやり直す……ってわけじゃ無いよなあ」


「至極簡単に、三階はワンフロアで、城の広さ全部使う戦場とか予想するでゴサル」


「なんかテンマルの予想が当たり続けてんだよなあ、このエリア」


「えーと、この城は一辺200メートルくらい。んでほぼ正方形か。……んなバトルエリア……1パーティーで賄えるカイ!」


「さすがにそれは無いわー」


 『バトルエリア』とは、特定のモンスターと限定的な空間で戦闘を行う時に生成される舞台の名称である。大概はクエストで移動する迷宮エリア自体が対象となるのだが、その場合、実際の戦闘に使える空間的広さは一辺15メートルも無い。ほとんど“通路”という舞台なので移動も前後のみとも言える。

 だが、それは地下迷宮という設定での事であり、通常の屋外的なデザインの場合、やたらと広い空間を使用するものも、実は無いわけでもないのである。


「中ボス部屋が50×50くらい、だったよね?」


「高さも三階層分の吹き抜けで、20メートル近くはあった感じでゴサル」


「だからってラスボス部屋が四倍ちょいは、無いゼ」


「広範囲攻撃メインだって言ってるようなもんだからなあ」


 何というか、如何にもフラグのような会話である。

 そうして城の中心から外苑近くまでの距離、約100メートルの長さの階段を進みきり、三階部分へと到達する。


 上り階段の終わりは本当に城の外壁スレスレである。中心を見るには背後へ振り向かなければならない。が、先ずはその外壁回りに唖然とする。5メートルほどの高さの壁自体は迷宮の基本とも言えるサイズなのだが、その壁で支える天井が無い。遥か上の溶岩デザインのドーム天井が見えるだけの吹き抜けになっていたのである。

 通路幅も約5メートル。180度折り返し、階段口の両脇の狭い隙間を抜けて中心方向へ数歩進めば、後は真っ直ぐ行くだけと通路が教えてくれた。

 その通路も10メートルも無い。そして歩き終われば、ようやく最後の戦闘舞台の全容が観てとれた。


 幸運なのか別のフラグなのか、三階丸々戦闘の舞台(バトルエリア)として走り回るような状況にはならないと全員が安心する。

 何故ならば、三階のほとんどが移動不可能ともいえる状態だったからである。


「……艶鬼王ドウテツ(ラスボス)って、“幽体”って書いてあったのになあ……」


「いやそれ以前に、これをオーガとは言いたくないゼー……」


「にゃー……」


「……“お爺ちゃん”がいっぱい。あでも、“おち──」


「マヤヤ、その“先”をお前が言っちゃ駄目だぞ」


「──……、はい?」


 有り得ないレベルの先読みを果たしたイワオのナイスプレイである。

 余りに早過ぎる突っ込みにイワオ、マヤヤ、そして盗聴中のジョージ以外には天然のボケとすら認知されないレベルである。そのために詳しい解説が必須なのだろうが、したらしたで別の危険を誘発するので割愛する。

 マヤヤがその言葉を発っしなかったため、下衆なオヤジが全身で残念がっている事から察してもらいたいものである。


 そういう事で、本筋へ。


 初見の印象は遺跡と化した古代ギリシャの神殿のような、とでも言えばいい印象だろう。高さ約10メートルのエンタシス型と呼ばれる円柱が立ち並び、奥行き三列に互い違いに立つデザインで、奥を透かし見えるようになっている。柱が支えるべき天井が無いので、奥の本当の三階部分も何とか確認ができる。

 本当にの三階部分は、全員が“塔”と勘違いしたものであった。


 三階は、マヤのピラミッドを連想させる雛壇型の基礎と、その分を込みで最上段から20メートルほど伸びた塔を融合した建築物で構成されていたのである。


「ま、なんだろう、『空中庭園』とか?」


「そのまんま『神殿』でも通じるカナ?」


 円柱地帯は並ぶ隙間も大きく感じるので、少しは中心部分を見通せる。だがラスボスの“蔓延りよう”(はびこりよう)では、到底プレイヤーに有利な遮蔽地帯には使えない。

 こうなると予想の一部は当たっていたようで、戦闘の舞台は塔内部では無さげだ。ほぼ三階全体に溢れかえったモノの本体。それっぽく見える如何にも禍々しい物体が、階段型のピラミッドに貼りつくように蠢いているのであるから。


「大まかな確認をしとく。三階の移動可能範囲っぽいのは柱の外苑までとして、約180×180メートルだ──」


 俯瞰視点で説明すると、180メートル四方の外苑は直径1.5メートル、高さ10メートルの円柱がドット模様に並び、奥行き幅10メートルの口の字型の囲いを構成して、中心部分を『唐揚げ定食』メンバーから隔てている。

 その中心部分。160メートル四方の空間に、階段型ピラミッドの基礎部分一辺50メートルほどで三階建物が造られている。円柱の囲いとは50メートルほどの“何も無い”空白地帯があり、“玉座”に崩れ積もった艶鬼王との対面には最高の開放空間とも言える。


 遮蔽物の多い囲い部分、逆に全く無い中部分。そして艶鬼王が鎮座する玉座らしき階段部分は10メートルは見上げる高さ。城を舞台とするにはフザケたデザインの割に、上方有利の守りに適した防衛地形を構成していた。


「さて問題は、そんな地形以前に“どうやって”ラスボスと対面するか、だよな」


 おそらくは艶鬼王ドウテツとも言える巨大な“物体”は、ピラミッドからこちら側へ固まりかけた溶岩のように、溶けて広がっているように見えた。濁ってはいるが透明感を残す赤い結晶が床一面に広がり、柱の間を完全に埋め尽くしている。

 固まっているようにも見えるが、それが見た目どおりなのかは触れてみなければ分からない。


 “バキン!”


「破壊可能ではゴサルな。あの割れようでは踏んだくらいなら平気でゴサろう」


 一番手前の結晶部分に矢が射られ、滑らかな表面に鋭角的な破砕痕を刻む。


「厚みは結構あるにゃー。“落とし穴”っぽい罠とかあるかも?」


「皆さん。何か最重要な部分を無視してません?」


「いやマヤヤ。余りにもトキヤが哀れでな。だから触れないようにしてやってんだ」


「俺の末路……、あんなんかよぅ」


 濁った溶岩のような結晶体。よく見れば結晶の中には異物がある。影のように見えるそれは、テンマルが破砕した部分ならば良く見える。艶が有る無しの差があるものの、本体部分白い地色の、所謂、白骨だ。

 プレイヤー的に限り無く正しい推測をするならば、溶岩のような、赤い結晶は“肉”のなれの果て。別の場所を見てみれば、結晶になりきれず、固まりかけた部分とミイラとなった別の部分などもある。もう、既に推測という言葉もバカバカしい状態だろう。

 トキヤが『俺の末路』と嘆いたように、この結晶を成す“代物”は、艶鬼王と融合する形でトキヤ同様の呪いを受けた多くの者の屍が姿を変えて曝されているのだ。


「えげつねぇ演出だなあ……」


「というか、コレって死んでにゃーよね?」


 敢えて野郎組が指摘しない部分を真っ直ぐ指差し確認するウスネ。骨格は人型を残していても、肉の大半は溶け合って泥のような状態で結晶状に固まる状態である。その結晶は、さらに部分的に不思議な状態を曝している。


「困りました。なんか視界のアチコチがモザイクになってて、酔いそうです……」


「おやン? そっち系(R18)フィルター外してたんジャ?」


「え、いや。ハラスメントパラメータの再設定に併せてオンにしといたぞ」


「にゃー、多分『VRハード』の設定でモザイク処理されてるにゃー」


「ああ、ハードの設定が生きてたか」


 VR機器にはゲームとは別に年齢設定を必要とする。これは装着者の生態管理を直接管理する事からの基本設計で、当然、使用者の年齢の登録も必要となる。

 その初期設定により、個人差による微調整を整えつつ生態情報を蓄積していくのだが、これも当然、未成年者には表現規制が普通に存在する。その表現は現在マヤヤとウスネが経験中であり、状況によっては装着者の視覚情報に暴力的な影響を与える不具合的な適性処理をかます事となる。


「ハード系のチェック外すの、凄い面倒なんだよねえ……」


 同じ未成年者組ながら、とうの昔に外し済みのトキヤが呟く。どうやらマヤヤ達の惨状で気が紛れたらしい。


「えーと、『プレイヤーコンフィグ』から『個人情報編集』。で、『国籍』を“無設定”に──」


 所謂、裏仕様というやつである。初期設定では未設定で済ませられない仕様だが、起動後二週間を経過すれば再編集が可能となる。これはVR環境を一切考慮しない未成年規制に燃えた勢力に対する、メーカー側の細やかな抵抗であった。その抵抗の正当性は、“見ちゃイケナイ物”を視神経が焼かれるレベルでモザイク処理する規制基準から分かるだろう。


 『なら規制されるようなモン出すな』という意見は聞き入れない。それがクリエイティブというものだ。


「……えーっと、ああ、ようやく普通に、おち──」


「だから言わないように!」


「──……が、蛇みたいにのたうってますよね……。と、何がです?」


 再びイワオのファインプレー。今度は大音量で危険な部分をかき消し技である。


 が、このまま艶鬼王の猥褻ぶりを未表現だと状況が動かない。故に過剰な毒にならないよう最低限の表現で表されならない。

 艶鬼王ドウテツは遥か太古に勇者によって討たれた。その場所は今、『唐揚げ定食』のメンバーが確認しているピラミッドの階段部分だ。巨人を思わせる首を捥がれたオーガの死体が見事に結晶化し、仰向けに横たわる姿から分かり過ぎるほど分かる。左腕と左脚は胴の根本から欠落しており、『鬼魂の鎧』の素材として使われたのだと、何故かトキヤには分かっている。当然仲間には説明済みだ。

 艶鬼王の下半身部からは延々、鎧の犠牲となったであろう者達の屍が続いていた。何百の、の言葉で足りるならいい数の屍が結晶の川のように連なり、しかし一部は“生”の名残を残す異様さを持って、艶鬼王とプレイヤーを隔てる結界と化しているのである。


「ま、“硬い”か“フニャ”ってるか、確認でゴザル」


 再びテンマルが矢を放つ。ユラユラと鎌首をもたげる平均的な長さ約30センチのソレは、矢が当たると同時に“パキン”と軽い音をたてて割れ散った。根本より断たれたソレは手前の床に落ちると跡形も無く砕け散り、生物的な動きとは裏腹に硬く脆いのだと分かった。


「よし、壊せるな。再生みたいな事もないか。じゃ、“害”が有る無し関係なく、移動ルートのヤツは凪払って進むぞ」


 ようやく前進の再開である。


 最も手前は念入りにと、範囲的な物理攻撃ができる守護騎士2人が横凪に剣を振り、結界表面を地均ししていく。たちまち周囲に結晶の欠片が散る事となり、運悪く、ウスネがその小さな欠片を足の裏に刺しかけた。滋養治士の脚装備はタトゥー的な紋様なので、見た目は裸足同然である。実際には刺す事も無く、素足状の足裏は怪我などしないのだが、踏み痛む感覚だけは律儀に再現された。

 その反射的な行動でヨロケたウスネは飛び跳ねる形で後退み、つい、地均し済みの結界表面へと降り立ってしまう。そして。


「ぎにゃあ!」


 ウスネの両足が燃え上がる。突然のショックに硬直する事数秒、炎はあっさりと消え、残ったのは脚装備として脚全体に施された紋様を消した本当に“素足”のウスネ、である。


「なんだ?!」


 全員の視界端にダメージを知らせるインフォメーションが現れる。


『ウスネへのトラップダメージ。“火艶”の効果によりジョブ装備“桃脈紋の蹴紋(武具/脚)”は破壊状態になります──』


 『火艶』とはトキヤが受けている呪い効果、修羅の波動の効果の一つである。トキヤの攻撃時に自動発動し、レジストされなければ30分間装備を破壊状態にする。要はエステルスライムの能力の火属性版である。ただ、エステルスライムの能力が武具限定であったのに対し、火艶の能力効果は全ての装備が対象となる。つまり。


『──同じく装飾装備“飛瞬の紋(装飾/脚)”、“滋泉の紋(装飾/足)”は破壊状態になります』


 本当にウスネは脚部位を未装備状態にされてしまったのだ。


「根刮ぎ壊されたにゃーー!!」


「まさか、この屍全部、トキヤと同じ呪い持ちってカ?!」


 これがきっかけか、三階全体が僅かに振動し、エリア全体に轟くような、大音声が鳴り響く。


『またも……、我の眠りを妨げる愚者かっ! 死の眠りすら安らげさせぬか、我欲強き勇者の同胞っ! この地はうぬ等の爛れの捨て場所では無いと、いい加減知るが良かろう!』


 トラップ発動が戦闘の合図か、まだ艶鬼王に接敵すらできない状態でラスボス戦へと突入する事となった『唐揚げ定食』である。

 とにかく全員が武器を抜き、ウスネとマヤヤがサポートの魔法を展開し、急展開への対応を何とか成そうと行動する事となった。




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