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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
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彼女を思う先達達(つまり傍迷惑)

 都市国家モタルサ。砂漠一歩手前の乾燥地帯に点在するオアシスの一つを起点に興され、現在では巨大なサークル状の防壁を備えた城塞都市。城塞内には大小幾つかのオアシスを備えるようになり、モンモ地方の流通網の要所として栄えている。


 その国家機能は中央にある巨大オアシスを文字通り中心にしており、プレイヤーが集うロビーとしても機能する場所である。

 その一角、職人プレイヤーに解放された自由市場区画。武器や防具を扱う職人の店舗が集まるところに、少々“異様”な人集りができていた。


 その集まりのほとんどはプレイヤーではない。ゲームの世界に生きて死んでいく仮想の人格を備えたNPCと呼ばれる者達である。だが、普通のNPCであるならば異様とは称されない。称される理由も明らかで、どのNPCも煌びやかなのだ。全員男性、大半は美青年で次いで美少年。そして少数のナイスミドルという、美形揃いの大集団だ。彼等はそれぞれ優雅な微笑を湛えつつ、余人が迷い込まないよう、人垣を作って彼等の“主人公”を守っているのである。

 その主人公とは、『トリオン・オブ・ラビリンス』のサービス側から『邪悪厄隷嬢』という称号を贈られた廃人。ゲームの重要NPCを根刮ぎハーレム要因にかっ攫ったゲームの破壊者『エヴァラ』である。カラスの黒羽で彩られたゴスロリ少女というアバターであるが、中身は三十路をとうに越えた筋金入りのクサヤ姫(ニート)様である。


 エヴァラが居るのは、屋台と敷布に武具を並べて売るプレイヤーショップの片隅である。荒めの敷布の上に座りのいいクッションを自前で用意し、可愛らしい女の子座りで瞑想している。目は瞑っているものの、それは“使い魔”を通して遠方の情景を観ているためで、時折その情景にクスクスと反応していたりする。


 そのエヴァラの隣には、如何にも商人という定番な恰好をした男が同じように瞑想している。が、エヴァラと違い、その表情には喜びよりも苦味が強く浮かんでいた。


「……ちい。カッツェ(ゲロスケ)の野郎。とことんチャンスを逃してやがるなあ」


「ぬうっふふ♪ ジョージ君、何ならコッチの映像、分けてアゲましょうか?」


「“素人盗撮”的なのは趣味じゃねーんだよなあ。つか、こうもゲロスケがヘタレとは予想外だった。……あのリーダーのガキにも“仕込み”入れときゃあ良かったなあ」


 ゲーム内システムを最大限に悪用して盗撮していながら、何をホザくかという外道っぷりだが、得てして年配者にとっての他人事は最大級の娯楽である。

 NPCの中には少年から年配と感性に幅のある構成であるが、残念ながら愛しい主人公の下衆な趣味を諫める感性だけは欠落していて機能しない。

 故に、なかなか赤裸々な映像が共有で観られている状況でも、それが第三者に漏れ見えないよう人垣を維持するだけで、『唐揚げ定食』の惨状は記録され続けるのであった。


「いやあ、このリーダーの坊主。最初はまとめ上手なだけの朴念仁かと思ったが、結構遊び好きの暴れん坊だわなあ……」


「そりゃあ、私の可愛い甥っ子ですからあ」


 エヴァラが使い魔越しに送る映像には、風呂場から他の男達に見えないよう、コソコソと隠れて移動するイワオが映っている。イワオ当人は湯気をまとった湯上がり姿だが、キチンと装備を身に着けている。着用に手間のかかる全身鎧だろうと装備コマンドを選択するだけなので一瞬で着れるから問題は無いのだ。

 だが、そのゴツい腕で両脇に抱えられたマヤヤとウスネはというと、真っ赤に染まった肌も眩しく真っ裸な状態で目を回していた。実に露骨に“逆上せました”という恰好である。


 この状況が、単に湯中りした少女等を介抱するのならジョージとエヴァラの会話の中味は違ったろう。主にもっと、微笑ましいといった方向へと。

 だが実の処、少女等を逆上せたようにしたのはイワオ自身である。マヤヤのちょっとした言葉に反応し、悪戯心で“弄んでしまった”のである。ウスネは完全なトバッチリで、マヤヤ一人を対象にするのもバツが悪いとマヤヤと同じ悪戯をされたのであった。


「このての調教、普通はホイホイ他人にゃやれねーんだがなあ。モラル的に」


「あー、それは妹から相談受けてるからじゃないかなあ」


「へ?」


 エヴァラがウスネに聞いた範囲でマヤヤの感性的な問題を説明する。

 それを聞いて妙に納得するジョージであった。


「欧州辺りなら真っ裸でお散歩でもジョークで済む事もあるが、日本じゃ即犯罪で“馬鹿男”を誘う性悪女(ビッチ)扱いになっちまうなあ」


「最初は例えで言ってんのかと思ったけど、マジで危険だわあ。マヤヤちゃん」


「……んでもその……ウスネか。その子の計画だと大丈夫かい? 結局新人ちゃんの問題自体は治らんのだろう?」


「そーなのよねえ。ていうかさ、性方面で羞恥心の無い精神に、どうやったら“裸になるのが恥ずかしい”なんて感性を植え付けれるか、なんて全く分からないわよ。あんた分かる?」


「うーん。昔、未開の裸族オヤジに洋服着せて文明世界に連れて行ったなんて記録があったよなあ……。一応は社会の決まりと説明されて納得して服着るんだが、ちょっとした事で脱いじまうトラブルが多かったらしい。そうそう、服を着ないと手酷いトラブルが起きるとか学んで、で着るようになるんだったか」


「で、それをうら若い少女に当てはめると?」


「即効でレイプ騒ぎ。で、産婦人科直行」


「プラス、精神的障害(トラウマ)治療で心療内科に長々とリハビリよ。下手すれば一生」


「だわなあ……」


「最低でも、この世界でそんな状況に慣れれたならば、そのトラウマだけは予防できるんじゃないか? がウスネの考えね」


「まあ肉体的な被害はねーからなあ。つか、逆に言えば誰かに襲わせる気満々かよ」


「だから“滋養治士”なんでしょ。“合意でセクハラ”なジョブだし」


「うーん。友人を心身共に“ビッチ”にするしか解決策がねーってか。世の中変わったねえ」


「いっそのこと、我が愛しき甥っ子が彼女にでもしちゃえばいいんだけどねー」


 映像の中では隠れたつもりのイワオが、少女二人を二階の一室へと運び入れれたところである。エヴァラが使い魔越しに『姿隠し』(ハイド)の魔法で隠蔽しているなど微塵も気づいていない行動である。


「何プラトってんのか。どうせ仮想(モドキ)なんだから抱いちゃえはいいのに」


「まあ、そんだけ責任感は持ってるって事だろうよ」


「別の責任を取りたくないだけの“無責任”って見方もあんのよ」


「ガキ同士なら勢いで行くとこまで行けるんだがな」


「全くねえ。『HIV治療』問題も片がついて久しいってのに。なんでこう人の理性は自然の摂理を否定すんだか」


 21世紀初期からの社会的な避妊意識の向上活動は、複数の要因が重なって広められた。その内のひとつ。エイズ関連は人ゲノム治療の一環で無害化治療法が確立している。日本においては認可されていない治療であるが、一ヶ月ほどの外国旅行気分で治せるのが常識化して久しい。

 既に世界的な観点では、撲滅された第2の天然痘という意識なのである。


「にしても、今時嫁候補でないと抱かないなんて、古風な甥っ子だな」


「んー……、それはちょっと違うけど。まあ、ノーコメント」


 どれだけ過激に攻めたのか、上気し惚けた表情の少女二人を一つのベッドにまとめて寝かせ、タオルケットで微妙な証拠隠しを図っているイワオであった。あまり女に対する誠意が有る対応ではないが、岩騎としての過去を思えば、一応合格点と判断したエヴァラである。


 実妹に対する所業は置いておき。


「ところでエヴァラの嬢ちゃん」


「ん? 何、改まって」


「この映像の“コピー防止”、半端ねーんだがな」


「だから分けてあげるってのに。それなりの対価で♪」


 マジとボケと外道が入り混じる、本気でダメな大人達に見守られる哀れな『唐揚げ定食』のメンバーであった。



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