表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
43/69

彼女の陥落3h②

 戦闘開始である。だがドウテツはその場から動かない。と言うよりも、動けないと言った方が正しい。その理由は目まぐるしく動く『唐揚げ定食』全員が確認していた。

 柱の隙間から見通す肉体の方のドウテツは死体のままである。倒すべき対象は別で、戦闘開始と同時に現れ、その死体の上部に現れた“幽霊”状態のドウテツなのである。

 文字通り怒り狂った鬼の形相で『唐揚げ定食』メンバーを睨んでいるが、最初の恫喝以降、まだ何か行動を取るわけでもない。


 幽体のドウテツは生前を思わせる姿である。ボディビルダー的な人としての均整がとれた体型で、頭部の双角が無ければ“マッチョな人”で終わる印象だ。

 ただその幽体のサイズがそのまま生前どおりのサイズならば、軽く4メートル超えの身長であり、その点だけはオーガらしいのではあるが。


「っと!」


 “動けない”のを“攻撃できない”などと予測しかけた隙を狙ったか、半透明の幽霊ながら豪腕の見た目どおりの怪力を発揮し、手が届く範囲のピラミッドの石材を強引に引き抜いて投げて来た。

 1メートル四方はある巨大な石材が、ほぼ直線の弾道で投擲され、余裕で円柱を何本も薙ぎ倒し、エンタシス構造を再現された円柱が幾つものブロックに別れて倒壊してくる。まだ足場の構築もできない『唐揚げ定食』は迫る瓦礫を避け逃げるだけで精一杯の状態だ。


「うひーっ、近寄れねーヨッ!」


 遠隔攻撃の手段があるテンマルとカッツェは、避難をしつつの散発的な攻撃を放っている。だが、場所が未だに円柱を盾にするような状態だ。距離にして約150メートル先に当て続けるのは凄いのだが、さすがに威力としては、ゼロに等しい。


「マジに三階全体が攻撃範囲かあっ、今後絶対テンマルに予想はさせない!」


「「異議なぁーし!!」」


「冤罪でゴザール!」


 ドウテツの砲撃(?)が、全オブジェクトを対象とした無差別範囲攻撃となっているため気づき難いが、現状、特定の誰かを目標とした攻撃にはなっていない。

 むしろ、これからちゃんとした戦闘エリアを構築するための、イベント戦闘であると言える。


 それに気づいたのはイワオだ。階段に面した柱は半分近くが倒壊し、巨石の築山と化して床の結晶体を完全に埋め尽くしている。その頃にはドウテツも投げる石材が無くなり、しかも自らの死体を支える土台を削っていたのだから、しばらくグラついた様子を見せたかと思えば、ガラガラとピラミッドから滑落、床に石材を巻き込みつつ落ちて来た。坂を滑り落ちる勢いか、ドウテツの肉体はかなり派手に転がる形で、ピラミッドと柱の中間地点まで来て落ち着いたのである。

 そして当然、死体に付随する幽体も近づく事となる。これで彼我の距離は一気に縮まり、約60~70メートル。それならばアタッカー組には充分な攻撃を放てる位置となり、ようやく、『唐揚げ定食』側のターン。とでも言える状態になったのだ。


「反撃いくぞ! テンマルとカッツェは遊撃。ダメージ出るなら場所は任せる! つかカバーはしないから勝手に殺れ!」


「「ラジャー!」」


「俺とトキヤはボスに接敵。つか、マヤヤ達を“守るついで”で殴るぞ!」


「了解!」


 守護騎士組は、最初は背後に滋養治士を守りつつの移動を徹底していた。何故ならば、ドウテツ自体は無差別攻撃に徹っしていたが、ここは『廃都ルツボ』。エリア特性として女性プレイヤーへの攻撃を表面化していたのだ。さらに結晶体の効果もある。この結晶体もエリア特性に含まれるようで、結晶体に触れたり踏み割ったりしても野郎組には影響が出ていない。だが、マヤヤやウスネには微かに触れる程度でも、実に容赦ない攻撃を放っていたのである。


「うううっ、あのエロ鬼、絶対殴る。泣くまで殴る!」


「うっ……、ごめんなさい。走る力が足に入らなくて……」


 範囲攻撃からの回避で、マヤヤ等少女組は被害の少ない場所を選んで移動するしかなかった。それは足下に結晶体が残っていると同じ意味で、仕方がないとはいえ、結晶体の効果を受け続けるという意味にもなる。

 エゲツナイ事に、素足状態となって“火艶”の効果が直接行使できないとなると、何故か直接触れていない全身の装備へと効果を発揮し、数十歩も移動しないうちにマヤヤ等は完全に何も装備していない状態にされてしまった。

 インナー装備? 当然、非表示設定に切り替えられている。『呪い』の設計をしたサービス側の業の深さは半端無い証拠である。


 さらに駄目押しとばかりに、少女組へと付加された派生の呪い効果が異常に悪化もしている。レジスト補強のアクセサリー装備まで根刮ぎ破壊されたので、マヤヤはおろかウスネまでが強制的な発情状態に抗えない。

 仮に現実で同じ状態を見る事となったならば、直視はヤバいとしか言えない有り様である。まだマトモな意識を保ててるうちに破壊対象にならないカッツェ製マントを取り出し羽織れたのが奇跡に近いと言えた。


 腰が抜けた少女二人は、イワオがマヤヤを。トキヤがウスネをと分担し、マントと同じく破壊対象にならない道具扱いのアイテム。『捕縛ロープ』で強引に抱きかかえる形で固定していた。

 このアイテムはゲーム序盤に受けられるお使いクエストで支給される特殊アイテムであり、そのクエストでは逃げ出した家畜を捕縛するのに使う。クエスト達成後もアイテムは残留し、以降、自身に敵対するプレイヤーやNPCを殺さず拘束するためのアイテムとして使用可能となる。ゲームとはいえ、無闇に誰かを殺す行為はマイナス補正として記録される事もある。なのでそれを避けるために、地味に所持しているプレイヤーが多いアイテムなのだ。


 今回はそれを応急で“抱っこ紐”のように使い、大人と子供のような体格差を活用して身体の前面に固定しているのであった。


「意識飛び飛びですけど、できる限り回復します……ね」


「無理やり結わえてるだけだ。派手に動くと落としちまう可能性もある。先ずはシッカリ俺の何処かを掴んでろよ」


「はい。でも……『紬蟻の衣』です」


 前に暴走したように、マヤヤの瞳の中にはギラつく『♡』の刻印が輝いている。本来なら理性など消し飛んでおり、場所も何も関係無く手近な男、イワオを求めて来ておかしくないはずなのだが、魔法を選択発動する意識を辛うじて残していた。


「助かる!」


 イワオの身体に強化の魔法が発動し、僅かなから降りかかる瓦礫のダメージが減少する。その分だけ守護騎士の特性もより発揮され、懐にマヤヤを抱えるイワオの堅牢さが増す状態となる。

 その守護騎士がドウテツと対峙するよう陣取れれば、まさに壁役の本領である。ドウテツの攻撃行動のほとんどは、イワオの背後には欠片程度しか影響を与えない事になるのだから。


「む、珍しくイワオが燃えてるでゴザル」


「最近のモンスター攻略、ツマランとか公言してたもんナア」


 純粋にレベルを上げる事で攻略可能の条件を満たす『パワーゲーム』。特定の攻撃行為に対抗する行動やスキルの発動で対処する『テクニカルゲーム』。若しくはクエスト中にクリア条件を満たす事でしか攻略成功できない状態となる『ツリーパッチゲーム』。どれも意味を理解できずに試行錯誤する間は面白いと感じれるものだ。

 だが、“パワー”ならばレベルを上げきればお終い。“テクニカル”ならば敵の動きを見切ればお終い。“ツリーパッチ”も攻略の段取りを覚えてしまえばお終いと、単なる作業をしているだけ、の意識が強くなる。


 この作業感に陥るのは大概がサービス側からである。

 ベテラン相手にゲームを楽しませる。そんなニッチな状況に対応する内に、感性そのものがズレて行くのである。

 その結果は総じて悲惨だ。慣れた行動をとって来るプレイヤーに“大変”と感じさせるだけを目的に、手間の行為だけがインフレ化するクエストを導入するようになるからだ。

 最終的には、“クリア時間を長引かせる”を目的に、僅かな報酬で世界を三周するような移動だけを強要するクエストを送り出す。それが“プレイヤーをどんな気分にするか?”すら考えられない。

 そんな名ばかりの“クリエイター”に成り果てて行くのである。


 それに正面から向き合うプレイヤーも、当然、その毒に侵される。

 何をしても楽しさを感じなくなる。、クリエイター渾身の感動イベントにも“全ては作業”と割りきった感想しか持てなくなる。そして、それでも何故かゲームの世界からは離れて行けない。などの中毒のような状態だ。


 全てのプレイヤーは、多かれ少なかれその精神汚染に感染していると言っていい。

 これは古参と言える者ほど、その症状も出る。

 当然、イワオもその内の一人と言えるのだ。


 そのイワオが、“クエストのバランスが下手すぎる”とか“ボス戦祭り”とか冷めた感想を思う暇なく、無心に動く原動力は明確だ。

 マヤヤである。マヤヤの行動は総じて大人しいが、それが見かけだけなのをイワオは半分は無自覚ながら見抜いている。

 言わば、今のマヤヤはこの世界生まれたての赤ん坊なのだ。全身でこの仮想の世界を感じ、どう腕を伸ばせば良いのかすらを模索しているのである。

 模索が終われば、今度は逆に暴走といっていいほどに、活発に動くだろう。歩く事を覚えた幼児が、平気で車が爆走する車道へと飛び出すように。


 要は、すっかり保護者意識に捕らわれているのである。


 遊びとはいえ戦闘クエストは危険が当たり前。それを楽しもうとするマヤヤならば止めるのは論外。現状、少々遊びで済まない内容にもなっているが、そこはイワオの廃人感性でクエスト放棄も“有り得ない”。故に、全力でクリアをすると決めているのである。

 実のところ、この時点でイワオの中ではマヤヤの意思尊重という意識は欠片も無くなっているのだが、そこはそれ、人と人は永遠に分かり合えないとも言われる過去の名言的な結果である。


 床に滑落した事で、ドウテツの周囲には大量の瓦礫が散乱する事となる。それらはまたも砲弾として活用され、今度は近くに寄った『唐揚げ定食』へ向けた“ターゲット攻撃”へと変化する。

 目標はダメージヘイトの都合か、ややテンマルに集中していた。これは射られる矢は物理属性であるものの、所持する属性付加用のアイテムでほぼ全ての矢を『聖属性』へと変えているテンマルの機転からの弊害だ。

 が、テンマルに瓦礫の砲弾が飛ぶ事もほぼ無い。ドウテツの眼前に到着したイワオがガードを始め、投げられた瓦礫を余さず弾き落としているのだ。


「……『HP遊填』、『舞華……雪ぃ』」


 さすがラスボス。しかも回避ではなく直接の防御となると、スキルを全開にしてもイワオのHPは派手に削られていく。充分、とはいえないが、マヤヤの回復魔法が立て続けに唱えられ、イワオのHPが回復し、足りない分はポーションで補う。

 同様に攻撃にもポーションを使う。テンマルと同じ聖属性を付与する物を剣や盾に使い、攻撃や反撃の全てをダメージに繋げるイワオである。


「あっ……、ひんんっ」


 小さく鳴いては震えや痙攣を繰り返すマヤヤに、戦闘の興奮で多少はハイになっているイワオも感化されている。


(自分はロリコンじゃないつもりなんだがなあ……)


 それ以前に、最近はすっかり女性不信であったイワオだ。都合のいい男。便利な男。将来有望な男。現実の環境ではそういう臭いばかり出して近づく女が多すぎて、最近は女という存在自体に気持ちは膿んでいたと言っていい。

 どこのモテ男の戯れ言か? と、その場で正座させて問い詰めたい者も多いだろうが、実際そんな状況に置かれようものなら、同意せざるをえない気分にされるのは、確実である。


 ならば、イワオに頼りきるマヤヤもそういう存在なのでは? と考えれるのだが、ここまで全身全霊で縋られてしまうと、不思議とイワオに不快感が無いのだ。

 保護者意識が強まってるものあるのだが、好い意味か悪い意味か、余りにマヤヤが開けっぴろげに自分を曝し過ぎたせいもあり、女性をというより“愛玩動物”(ペット)を愛でる方向の感情が強いのだとは、まだ自覚しきれていない。


 ドウテツの攻撃を浴びるイワオ。

 防御のスキルを展開し、盾を掲げて背後全体へ攻撃判定がされないように位置どる。当然、盾と身体の間にマヤヤを守る姿勢となり、場合によってはマヤヤを強く抱きしめる恰好にもなる。


「ひうっ、んんっ、んーっ」


 今のマヤヤにとって、あらゆる刺激は快感に変換されて全身を襲う。意識が飛ぶ寸前には本能的なのかイワオにしがみついて震えを伝える。


「っ、んーっ! っあーーー!!」


 激しい戦闘音でかき消されただろうが、イワオの仮想の身体に響いたのは本気で叫ぶマヤヤの悲鳴だ。ドウテツの投げた瓦礫の破砕と重なるように、長々と吠えるように上げられた悲鳴は、途切れと同時に束の間、マヤヤの意識を途切れさせる。

 体勢の偶然でマヤヤの頭がポテンとイワオに寄りかかり、その刺激で覚醒したマヤヤが陶然の表情でイワオを見上げた。

 それからの変化に、イワオは確かに驚愕した。マヤヤの虚ろな瞳孔に意思の光が灯り、充血気味の顔面の頬がさらに赤らみ、眉はしかめられ目尻には涙が浮かび、と。


 明らかにマヤヤが“恥じらう仕草”をとったのである。


「やだ。イヤッ! 見ちゃダメです」


「おお、見てない!」


『ゴォッ、グガアアアァァァ!』


 実にレアなものを観た一瞬の油断を見逃してもらえず、ドウテツの連撃にて弾き飛ばされるイワオである。

 その中で、反射的にマヤヤを抱きしめる形で転がったイワオが、態勢を整えつつも、つい、マヤヤの身体を必要以上に強く、長く抱き続けたのは“どういう意味か”。


「んっ……ふぅ……ん♡」


 その答えは、マヤヤが新たにあげさせられた、この喘ぎにあったのかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ