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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
39/69

彼女が芽吹いて2h⑦

 一つ、鍵を無駄にした。

 ゲームに慣れすぎた思考の弊害である。鍵というアイテムは対になるドアを開ける事で消耗する物だ。という漠然な思い込みがあったのである。

 もう少し、何故死体となった冒険者が、都合良く城のドアを開けられる鍵を持っていたか? そこまで考えれば多少は予測もできたのだろうと思える。

 が、全ては後の祭り。鍵を無駄にして初めてアイテムのヘルプを確認し、この『鍵』は単なる『合い鍵』の模造品でしかないと分かったのである。


 これもゲームでは定番の存在である。所謂『ほぼ万能の鍵』、ただし使い捨て。使用時にはドアを開ける判定があり、失敗すれば鍵のみ壊れるというヤツである。


 最初の使用ではトラブルが起きなかったのも、早めに気づかなかった原因だろう。さらに言うならば、室内にあった色臣が『マイナスドゥエーンキ』の部品(パーツ)だったのも、要因の一つかもしれない。『何故“ソコ”からヌンチャクが生えているのか?』その不思議に好奇心を発揮するマヤヤを誤魔化す労力が、実にハンパ無かったのである。

 マヤヤにしてみれば、幼少時から普通に、ドアップで眺める事もある部位なのであり、特にウスネ等が思うような理由での疑問では無い。

 無い故に、誤魔化すのにも会話が成立しない問題があったのであるが……。


 そして最後の、おそらくは『ジュウキ』が収められている部屋を前にして、メンバーは気まずい表情で待機しているのである。

 無駄に折れた鍵が光と消えて、次の解錠のチャレンジを待つ鍵穴を前に。


「これは、油断でゴザった」


『んー……、成功判定にステータスは反映するようだけど、“致命的失敗”(ファンブル)回避は無理っぽい構造(システム)だねぇ』


 ドアの前にマヤヤを座らせ、鍵の判定システムを使い魔越しに解析したらしいエヴァラの発言だ。


遊撃戦士(スカウト)君。試しに解錠スキルだけで開けてみなさいな』


「拙者、シノビにゴザル。盗賊紛いの技など持ち合わせておらんでゴザルよ」


 しばらくぶりに聞く戯れ言である。唖然とするのがエヴァラ操作の使い魔(スコーピット)だけ、というのがまた、業が深い。

 結果、『じゃあ、しょうがない』という事で鍵を使用。今度は無事解錠し、予想どおり『ジュウキ』の未完成品が収められた部屋の中から『鬼の赤心玉』を回収できたのであった。

 その合計は15個となり、呪いの解呪に手が届く状況になっていた。


 だが、そこで手詰まりともなったのである。


「少なくとも、もう二階に鍵を使う部屋が無いでゴザル……」


「ロスト前提の予備。ってとこか」


「上の階か、もしくは一階だとかにゃ?」


「可能性ありますよね」


「うー……ん」


 女子組の希望的発言は、確かに可能性はある。だが当のトキヤ自身が、その可能性を否定気味である。ここまでの状況で、例え外れの部屋でも鍵を使用する状況があれば希望も残せたのだが、膨大な部屋数に対して一つも無いとなると、“使う部屋”が決まってると思えてしまう。そうなると、必要な部屋に対して使用可能な鍵は一部屋あたり2~3本となり、如何にも失敗前提の余裕ありな本数と思えてしまうのだ。

 ついでに言えば、残りの鍵2本で、解錠失敗前提で用意されている部屋の想像がつかないというのもある。


『アンタ達。普通、迷宮探索で解錠担当が居ないって、“無い”んだからね』


 氷点下の氷柱のような、実に鋭い指摘である。


「い……いや、ふふ普段はもっと、役立つ“奴”が居るんだ」


原始的嘘発見器(ポリグラフィ)でも即断できる挙動っぷりをアリガトウ』


 余談であるが、この時代、VR技術の恩恵により犯罪供述の真偽判定は完全に近い。主に利権やプライドによって、未だ司法の世界は前時代な制度を無くしていないが、それでもVR技術による供述調書は証拠能力を認められている。

 それが司法機関の意識改革によるものではなく、多くの先進国で活用している故の“猿真似”判断なのが如何にも日本らしいのだが……。


「俺達なりの“裏技”もあるから……。試しに使ってみようか」


『裏技? 解錠で?』


 地図を入手したのでオートマップには描かれているが、一階未探査の辺りに移動して実演となる。合い鍵を使うドアなのかは判断できないが、試しにと来た辺りには結構な頻度で施錠された部屋があった。そしていざ実演だが、実は実演と呼ぶのも痴がましい(おこがましい)行為であった。


 単身離れたトキヤが無造作に“ドアを開けただけ”なのだから。


 何度か試し、7回目の時である。開けると同時に轟音が鳴り離れた者には一瞬の閃光が目に焼き付く。それはドアに罠があり、開閉行為で発動した事を示していた。


『……微妙な行動判定のズレで解錠と開閉を同時に強制実行。それでいて守護騎士スキルでダメージ無効化とか。どんだけ“漢探知”よ……』


 さすが解析専用の魔物なのか、トキヤの行動だけで正確な内容を知るエヴァラだった。

 迷宮エリアの探索時のドアには、様々な判定システムが付随している。開閉の判定、施錠の判定、罠の有無の判定、等々だ。これらの判定はプレイヤーが通常行動する動きの判定よりは下位に属していて、タイミングによっては上位の判定に塗り潰される事となる。

 今回を例に言えば、トキヤは腕を使いドアを開ける行為をした。だがわずか数ミリ秒先に脚は前方へ、つまり室内へ進む行為を実行し、判定上終えていた。状況的に踏み出した爪先が閉じられたドアと重なるものとなり、結果、“開けようとした”が“開けた”に誤判断されたのである。

 後は、“開けた”事による自動反応が作動し、何もなければドアは開いた状態へ。罠があれば作動した状態へとなる。この時、トキヤは発動させたスキル『アイアンガード』で物理ダメージ軽減。『マッドネッドガード』で魔法ダメージ軽減。さらに常時発動中(パッシブ)スキルの『リフレクター』効果でダメージは前方反射状態と判定され、多くの場合トキヤの身体より前で発現終了と処理される。

 今回の罠は爆裂ダメージだったので、それらは全て室内側に弾かれた形になったのである。


「いやぁ、俺がコレを体得してからは、うちでは普通の感じになっちゃってなあ……」


『岩騎……あんたが諸悪の根源か……』


 ジョブ能力を利用しての罠発動無力化はともかく、解錠判定無視行為はシステムの穴を使った不正行為ギリギリのものである。


「一応、サービス側には何年も前に報告してあるぞ。『公言せんでください』とマジ泣き返答されたんで『唐揚げ定食』秘伝の奥義扱いにしてるがな」


『鍵開けダイスキーの世のスカウト全員から闇討ちもんの技ダカラネ。下手すれば1ヶ月メンテナンスでプレイ中止とか全プレイヤーに闇討ちされるレベルダカラネ。当然、サービス側の何人か首跳ばされるレベルダカラネ!』


 迷宮探索を売りにしている『トリオン・オブ・ラビリンス』である。その根幹部分を破壊できるプレイヤースキルなどが流布常態化しようものなら、今まで通用する全てのシステム内行為の是非や新造化。つまり、別のシステムで新しく作り直さなければならない事態になる。

 何気なく使ってはいるが、実は全世界(ゲーム)の敵とも言える行動なのである。


「……」


「どうしたのマヤヤ?」


 トキヤの行為をエヴァラによって耳元で解説される形となったマヤヤが、何やら考え続けて固まっていた。


「イワオさん、ちょっと試したい事が……」


 マヤヤの中で何かが生まれたようである。

 トキヤに裏技を使わず、鍵がかかっているかどうか、だけの確認をさせる。開かないドアを見つけたらマヤヤのお試しをスタートだ。


「『生蔓の縛鎖』」


 最初はドアノブを中心に蔓が生え、瞬く間にドア全体に巻き付く形で広がっていく。そしてわずか数秒。“カチン”と金属音がしたかと思えば、ドアがあっさり開いたのである。


「やっぱり~。成功です♪」


「なっ?!」


「にゃ!?」


「どうやったんだ? マヤヤ」


 唖然とする中、イワオがマヤヤに説明を求める。


「内側から開けただけですよ」


 そしてマヤヤの説明は簡潔であった。


 マヤヤの魔法は対象に効果を発動する。効果対象の選択には意識的な注目という行為が基本であり、ゲーム的には『ターゲット選択』に近い。レベルが上がって遠距離への魔法の行使ができるようになり、注目の度合いが“触る”から“見る”にシフトした時、マヤヤの中には妙な感覚が生まれていた。対象を“見る事”が、“触る事”とダブるのである。

 そして、遠距離でも対象に“触る”事で、見ることのできない対象の背後までを擬似的に見ている気分になれたのである。


「後は蔓をちょっと“動かして”」


 ここのドアの施錠は中からのスライド型の閂構造である。解錠判定に成功すれば、その閂が動いて解錠状態となるのだ。

 マヤヤの魔法の蔓はドアという対象全体に発生する。当然、ドアの室内側も対象である。マヤヤには室内側も見れる感覚と蔓の操作感覚があるので、指の代わりとして閂を作動させたわけである。


「……すげー盲点だゼ」


『……岩騎よりはよっぽどマシな方法だわね』


 エヴァラの判断ではそうなるが、後日サービス側に報告したらやはり『公言せんでください』と泣きが入った。

 サービス側曰わく、魔法操作のみという単純なプレイヤースキルのために、他の人が同様の行為を行える可能性が高すぎるとの事であった。イワオの行為とは難易度が桁違いに簡単で、つまり、より質の悪い行為判定と取られたのである。

 が、この時点では、そんな事とになるとは微塵も思い至っていないマヤヤである。無邪気に『今度はシリンダーロックで試したい』と喜んでいた。


 因みに、ウスネもマヤヤを真似して試してみたが、何故かドアのオブジェクト自体が軋み歪んだ末に破壊された。『どうしてこうなった?』状態であり、報告されたサービス側でも別の意味で頭を抱える案件となっている。


 ともかく、これで探索においての鍵の重要性も減り、未探査箇所が虱潰しにされたのだが、『鬼の赤心玉』は発見できず。劣化状態の武器防具、毒薬化したポーションが多少見つかっただけに終わった。


 そして次は三階。外観からしてこの階がドウテツの居る場所と予想できる。三階の一部からはさらに塔の形で上へと伸びているが、野郎組の観察では広さ的に六畳間ほどしかない。何かクエストクリアの御褒美でレアなアイテムが置かれているくらいだろうとの予測である。

 夢を追うのがゲーマーなのに、実に夢の無い発言であった。


 ということで、一度城外に出て休憩という事になる。

 気づけば、城内で5時間余りを過ごしていたのであった。



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