彼女が芽吹いて2h⑥
一階に戻った『唐揚げ定食』メンバーは、手に入れた地図を元に二階の『X』が記された場所へと移動していた。上り階段は一階ド真ん中にあるものを使用。正面入り口を真下にした上から見下ろす形の地図で、左側手前に当たる位置である。
「おそらく、地下の広間の、二番目の中ボスのとこの真上でゴザルな」
現場に到着した時点でテンマルの注釈が入る。二階は全体的に小部屋が多い造りであった。移動途中にドアが半開きの部屋だけを確認すると、約八畳のワンルーム、質素なベッドと箪笥のみというデザインの部屋ばかりである。他に有るものは、たまに壁にかけられた着替えの服であり、侍従やメイドをイメージさせるものだけだ。
このことから、二階は城の使用人区画なのだと推測できた。
だが、テンマルが指摘した辺りから部屋の配置に変化が生まれる。ドアの無い壁が続き、かなり離れた間隔でポツンと大きめの観音開きのドアが置かれているのである。
目的の『X』の部屋はそのドアで、より近寄れば、あの死体の冒険者によって探索された部屋と判別できる証拠があった。
「鍵穴に壊れた“鍵”が刺さったままでゴザル」
鍵穴には中ほどから折れた鍵の先端が残り。床には残った半分が無造作に捨ててあった。鍵の意匠はテンマルが入手した物と同じである。
「じゃあ入ってみるか」
ここまでヒントがあると言うことは、部屋に入れという“流れ”である。情緒は無いが、ここまで誘導する流れで実は罠でした、などという落ちならばシナリオを組むサービス側のセンスを本気で心配するレベルである。
まあ、日本独特の感性なので諸外国では普通にある場合も……いやそんな展開も多いので、イワオの行動はサービス側を信用した行動とも言える。
けっしてお約束の展開と解釈してはイケナイ。
閉じてはいるが施錠されてないドアを開け、中を見たメンバーが「うわっ」と狼狽える。それは室内に充満する悪臭、正確には“腐臭”のせいであり、臭いの源を認めてさらに「うわぁ……」と今度は呆れる。
「中ボスさん……ですよね。これ」
『ヒョウキ』。ムササビの印象を持つ中ボスが頭や胴、腕と脚と、パーツに別れた状態で部屋中央に転がっていた。倒した時は気づかなかったが、ヒョウキの部品はどれも細かい縫い目がビッシリと走り、“継ぎ接ぎ人形”のような状態である。
「これは……、下で倒したのとは別物か? ていうか、これ、完全に造り物だよなあ。ゾンビっていうより『フレッシュゴーレム』だな」
「“新鮮”なゴーレム? ですか」
「あ、いや直訳じゃなくてな──」
動物の肉や骨を素材にして造られたゴーレムのゲーム的俗称を“フレッシュゴーレム”と呼ぶ。ゲームによって細かい解釈は変わるが、素材が生物という事で、時間と共に腐敗する要素を取り入れた物は、長期的にみるとゾンビと大差無い外見となる。
改めて室内を見回すと、通常のオーガと思われる死体が部分的に解体されて転がっているところから、オーガを素材にした人造オーガとして創られているよう、推測できる。
「皆、“ここ”を見るでゴザル」
テンマルが指し示すのはヒョウキの頭部。その両の眼窟である。右の眼窟はポッカリと穴が空いているが、左の方は透明感のある赤い眼球が収まっていた。
「これは、例のアイテムでゴザろう?」
テンマルがダガーの先端を眼球に当てると、それが“くり抜く”判定となったのだろう。一瞬眼球が消えてテンマルの手の中に『鬼の赤心玉』が現れる。
「こっちにも有るようだゼ」
このての探索には野郎組の観察眼が発揮されていた。というより、少女組の観察力が致命的に無いと言うのが正しい。
ウスネはヒョウキの部品を叩き、返ってくる死肉の感触を確かめているし、マヤヤは血に汚れた手術用具の不気味さに目が固定されている。
逆にマヤヤの頭の上ではキョロキョロ忙しなく観察をしているスコーピットがいて、そちらの方がクエストを受けている者のような雰囲気である。
カッツェが手術台のような机から二つの『鬼の赤心玉』を見つけ、トキヤも部屋のスミに転がるのを一つ発見した。
イワオは残念ながら未発見である。だが変わりのモノは発見していた。『転生の器|(試作二型)』と書かれた、ヒョウキの設計図である。
「何か、ファンタジーというよりはSFになってきたか?」
色臣と称される中ボスだが、元は艶王を復活させるための肉の器として創造された。と設計図の説明に書かれている。いささか不自然だが、これもモンスターデザインの設定としてプレイヤーに知らせるためのシナリオと解釈する。
それによると、勇者によって倒され滅ぼされた艶王とルツボの都だが、しばらくはオーガに仕えていたドワーフによって機能していた。その間、ドワーフ達がオーガの死体を使っていろいろと研究したらしい。艶王復活の方法を。
『鬼の赤心玉』や『鬼の心玉』は研究によって得た街のオーガの残留思念の結晶であり、武具やゴーレムに使う事でオーガの性質や気質を転写できるのだと分かる。
だが死体を素体にしたのでは、艶王の復活に足りる物は造れない事が分かる。どうしても生きた者を、しかも艶王の適正を持つ動物を使わなければ、玉座に留まらせている艶王の肉体にはできないのだと研究の末に判明したのである。
その後のドワーフ等の行動は、トキヤが受けたクエストへと繋がる。
一般のドワーフや人の社会に交じり、艶王の適正が有りそうな者にオーガから『鬼の心玉』を抽出できる魔法を付与した上でクエストを与え、試す。もしトキヤが艶王の器に相応しければ、艶王の骨で造られた鬼魂の鎧を装備した時点で、艶王に乗っ取られる算段だったのである。
「だがそれは未遂に終わり、この探索クエストに繋がる流れだったわけだ」
「うーん。俺がこのエリアに来た理由は、本来は鎧を戻しに来たって事で、それは俺自身は死ねってのと同じなんだよね。多分、この流れじゃ」
「わからねぇよ。『呪い』をバンバン強化させりゃ、見事艶王の器にナレマシタ、かもしれナイ」
「ゲーム上なのかは分からんでゴザルが、結構、人の精神を変質させてるでゴザルからなあ。洒落にならん選択でゴザルよ」
「「…………」」
ある意味、その変質の影響を現在進行形で最も実感している少女等は無言である。
その変化がログアウト後に、現実の自分に影響するのは、当人にも分からない。だがそこ変化に戸惑いはあれ、忌避しているかというと、実はそうでもないのが本心である。
そんな内心を言葉にはしたくない故の、無言であった。
「まあっ、これで確実に『呪い』全部の解除の算段もついたんけだしな。残りの鍵分、探索を続けるぞ」
室内にはこの階の全容図が壁に貼られており、ここから地下の広間へと完成した中ボスを配置できるよう“落とせる”場所なのだと分かる。つまり、他の広間の上にあたる場所にも同様の部屋がある事となる。
そこには当然、『鬼の赤心玉』があるわけだ。
鍵の残りからして他に対象となる場所もあるのだろうが、先ずは分かる処からと、全員、再び移動を始めたのである。




